表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/17

第十章「告白の嵐と、私たちの選択」

冬休みが明けて、新学期の始まり。

校庭の雪はまだ残っていたけれど、生徒たちの声は元気に響いていた。

琴葉は咲良の姿を探して、少し早めに登校した。

――だけど、その朝、教室で不穏な空気が流れていた。

「ねえ……聞いた? 咲良先輩と一年の琴葉さん、冬休みに一緒に……」

「え、まじ? あのふたり、もしかして付き合ってるの?」

クラスメイトたちの会話が、琴葉の耳に入る。

背中が凍りついた。どうして、ばれてるの? どうして今?


その頃、咲良もまた――

「咲良……ちょっといい?」

声をかけてきたのは、咲良の女友達、みおだった。

同じクラスで、いつも咲良に絡んでくる少しボーイッシュな子だ。

「咲良、最近さ、琴葉さんと仲良くしてるじゃん。……もしかして、本気なの?」

咲良は、短くうなずいた。

「うん。本気。琴葉のことが、大切で、大好き」

その言葉に、澪は一瞬だけ目を伏せた。


「そっか……そっかぁ……」

寂しそうに笑って、でもすぐにいつもの調子で背中を叩いた。

「なら、ちゃんと守ってあげなよ。あんた、誰にでも優しいから、勘違いされるんだよ」


放課後。

琴葉と咲良は、校舎裏でふたりきりになった。

「ごめんなさい……私、誰かに話した覚えはないんです……」

琴葉は不安そうにうつむく。咲良は、その肩に手を添えて、優しく笑った。

「ううん、いいんだ。もう隠し通すの、やめようと思ってた」

「え……?」

「好きな人を、好きって言えないまま隠すのって、すごく苦しいじゃん。私は……堂々と、琴葉の隣にいたい」

咲良の言葉は、風のようにまっすぐで、でもあたたかかった。

「……私も。隠れるより、先輩と手をつないで歩きたいです」

ふたりは、そっと手を握り合った。

その手の温度だけで、もう迷いなんてなかった。


翌朝。

ふたりは並んで登校した。

クラスの視線が集まっているのを感じたけれど、咲良は笑って言った。

「おはよう、琴葉。今日は一緒にお昼、食べようね」

「……はいっ」

その瞬間、教室の空気が一変した。

誰かが口を開いて、ふたりの関係について何かを言いかけた――その時。

「私は、ふたりのこと、素敵だと思う」

澪の声が、教室に響いた。

「誰かを本気で好きになれるって、すごくかっこいいじゃん」

一瞬の静寂のあと、ぽつぽつと、肯定の声が続いた。

「なんか、咲良先輩らしいな〜」「琴葉ちゃん、かわいいしね」「うらやましいなあ、恋人いるって」

気がつけば、空気は和らいでいた。

午後の廊下。すれ違う生徒たちの視線は、少し気になった。でも。

「なんか、すごくいいカップルじゃん」

「ふたりとも美人で絵になる~」

そんな声も、ちらほら聞こえるようになっていた。

それでも、全員が賛成ではなかった。

「気持ち悪い」「女同士で、ふざけんなよ」

――そんなひそやかな悪意も、後ろから聞こえた。

けれど咲良は、琴葉の手をしっかり握り返す。



放課後、人気のない図書室で。

ふたりは手をつなぎ、そっと唇を重ねた。

「先輩……もう、隠さなくていいんですね」

「うん。これからは、堂々とキスもできる」

「そ、それは、放課後だけにしてください……!」

ふたりは小さく笑って、指を絡め合った。

まるで、長い冬を越えて、ようやく春が来たように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ