第九章「雪と告白と、秘密の夜」
冬休みが近づく頃。季節はすっかり冬に変わり、吐く息は白く、手をつなぐには勇気のいる寒さになっていた。
「ねえ琴葉。冬休み、どこか行きたいところある?」
咲良が、校門の前でそう尋ねたのは、クリスマス前のことだった。
「行きたい……っていうか、一緒にいられたら、どこでも嬉しいです」
「……じゃあ、私の家、来る?」
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年末のある日。
咲良の家にお泊まりに行くことになった琴葉は、カバンの中に小さなプレゼントを忍ばせていた。
咲良のために選んだ、赤いマフラー。手触りが柔らかくて、あの人に似合いそうだと思った。
咲良の家に着くと、温かいストーブの前でふたりは並んでこたつに足を入れた。
「今日はさ……特別な日、にしたいの」
咲良がそう言って、少し照れたように微笑んだ。
「私、実は……琴葉と過ごす冬が、初めての“恋人との冬”なんだ」
琴葉はその言葉に、心の奥がふわっと温かくなるのを感じた。
「私も、です。先輩と出会えて、よかった」
夜。
ふたりは並んでベッドに入っていた。暖房は切っているのに、布団の中は不思議とあたたかかった。
「先輩……今日も近づいてもいいですか?」
「うん、琴葉からなら、何でも」
毛布の中で、ふたりの手が絡まり合う。
それは、これまで何度も重ねたキスよりも深く、
秘密の夜にだけ許される、ほんとうの想いの交差。
咲良の長い髪が琴葉の頬に触れるたび、くすぐったくて愛おしくて、
まるで、雪が降り積もる静かな夜に、ふたりだけの世界が広がっていた。
「好きだよ、琴葉」
「……もっと、好きになってください」
翌朝。
窓の外には雪が積もっていた。真っ白な世界が、ふたりの秘密をそっと包み込む。
咲良は、琴葉に赤いマフラーを巻いてあげた。
「似合うよ。まるで、私の色に染まってるみたい」
琴葉は真っ赤な顔で、マフラーの端をぎゅっと握った。
「先輩も……私の色に染まってくださいね……それとチューしてもいいですか?」
「だめ。……私から、するの」
小さな笑い声が風に溶けて、やさしいキスが交わされる。
世界は変わらない。けれど、ふたりにとっては、それでいい。
この恋はもう、隠し事じゃない。
光の下で咲く、ちゃんと名前をつけた愛情だ。