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魔王物語  作者: ragana
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第九話 -岩は役に立つけど脅威にもなる-

 元は窪みと表現せざるを得なかった洞窟は既に洞窟にあらず拠点やら家と表現できる程までに昇華していた。

 横の倉庫的洞窟にはあらん限りの食料の貯蔵があるので狩りに出かける必要が無い。

 保存は冷却系の魔法で行っているので貯蔵はそうそう痛まない。

 俺が引き篭もりにしか見えない生活習慣へと堕落するまでそう時間はかからなかったというか、寧ろ時間など必要なく、気がつけば既に堕落していた。

 あの時の決意など無かったかのように堕落していく自身を認識してはいるのだがどうにも脱出できない。

 以前は、NEET何考えてるんだ本当に、なんて思っていたが今なら彼らの気持ちが非常に理解できるだろう。

 心の中で馬鹿にしていて申し訳ない気分だ。済まない、自宅警備員たちよ。

 そんな訳で修行という名の自堕落生活3日目であるのだが、修行という修行はそれほど進んでいる気がしない。

 そもそも、誰の師事も無く学ぶこと自体が愚かである技術なのにこの体たらくなのだ。進歩しなくて当然と言えよう。

 幾ら自堕落になっていようと流石に危機感を感じざるを得ない現実である。

 初日はこの快適空間作成するという事で多少修行になった訳だが、二日目である昨日はそれは酷いモノだ。

 描写の余地が無いというか、描写のしようが無いという程にごろごろと食っちゃ寝という自堕落ぶり満開である。

 自堕落歴初日であったが、その自堕落の貫録は歴戦の自宅警備員に匹敵するのではないかという貫録であったのではないだろうか。

 今回は何らかの奇跡が働いて我に返る事が出来たが、ネット環境が有ればどうなっていた事やら。

 そう考えると、エドルや魔族と相対した時とはまた別の意味で背中がゾクリとした。

「いい加減に起きないとな!」

 と声に出してみるも身体は動こうとしない。

 まるで首部分の脊髄が破損して全身不随になったかのように動かない。

 我に返る事で精神は何とか支配権を取り戻したけれど、どうも肉体の支配権はそれ程取り戻せていないらしい。

 排泄の際に動くからその時に支配権を取り戻せばいいだろうと楽観視していたのだが、身体はどういう訳か魔道書を展開して、転送魔法をもってして排泄の動作を省くという技術の無駄遣いをやってのけた。

 そうくるかぁッ!

 なんて恰好つけて言ってみても、葉っぱで出来たハンモックに体を預ける俺の現状を鑑みれば恰好悪いどころか阿呆の極みの様に見える。

 決して、強者故の余裕などと言う良い解釈には転じない格好である。

 一応、見る奴が見れば阿呆でないと分かるかもしれない。

 低高度でハンモックが揺れるように風魔法を、しかも搭乗者に不快感を与えないような微妙な風を起こさせているのである。

 魔法使いが見れば阿呆には見えないかもしれないのだ。


 服装は相変わらず迷彩服である。

 だけれどいい加減洗濯をしないと大変な事になる。病気になる。

 なんていう尤もらしい理由を提示すると、しぶしぶながら身体はハンモックから降りる動作をしてのけた。

 ハンモックは高所恐怖症対策としてかなり低い高度に設置されている。

 高度は分かりやすく言えば足首程度である。

 オカシク思えるかもしれないけれど、これが俺の最大の譲歩点なのである。なぜ譲歩しているのかは俺にさえ分からないが、強いて言うのであれば快適感に負けたのだと俺は言うだろう。

 身体の支配権が修業とは関係のない理由付けで一時的に一部戻ってきているが、億劫であるのかその足取りは非常に重い。

 快適空間の洞窟から出れば河原という位置付けである川まで2分程かかって到達する事になった。

 牛歩戦術を乱用する場面ではないけれど、現状ではこれが最速であるので身体の反抗期具合と身体が感じているであろう億劫の度合いが分かるというものだ。

 洗濯自体はそれほど時間はかからなかった。

 快適空間を作成する際や、保持する際にそこそこの魔法を使用していたのでそれらが扱えるようになっている現状だと洗濯は水を操作して汚れを落とし、風と水を操作して乾かすというふた手間だけでいいのだ。

 服を着たまま洗濯を行えるという万能ぶりである。

 時間も大凡20秒。

 最初の水を操り服を洗う工程の際は水に体温を持っていかれるという代価が存在するが、冬で無い現状だと風邪をひく可能性はそれ程高くないので慌てる程でもない。

 冬であれば間違いなく死んでいる事は明白であるので冬までに対策を講じる必要が有りそうだけれど。

「お、治ってるな」

 命名自堕落病。

 洗濯という作業を行った御蔭かは知らないが、おそらく快適空間から脱出したからだろうが、身体を自由に動かせるようになっていた。

 危うくあの中で一生を過ごす羽目になる所であった。

 そうなればエドルに向ける顔が無い。

「んじゃ、しゃーねーけどやりますかな」

 魔力流動は自堕落病の最中でも出来ない事は無かったから多少初日よりかは錬度が上がっているだろう。知れているけれど。

 とりあえず、エドルがやれといっていた練習をやる事にする。

 正直、それ以外の練習方法を知らないというだけなのだが。

 これが終わったら早くもする事が無くなるのはそういう事から仕様である。

 こういうことを教えてる場所に忍び込んで練習方法だけでも盗んでこようかと思わない事も無いどころか、解決方法はこれしか思いつかない。

 一応、普通に通うという方法が有るが、有料の方は金を払いたくないし、無料の方は受かる気がしないので受ける気もしない。

 こんな考えだから自堕落になるし、すぐに意志を曲げる事になるんだろうなってことぐらいは薄々気が付いているさ。

 さて、そういう訳だから今日こそは動こうと思う。

 流動の練習も終えたので今から行こう。

 と、俺が決意し荷物も無いので足を動かそうとした所で轟音が響いた。

「な、なんだなんだ!?」

 地面が揺れているので地震かと思ったが、起こる轟音が断続的であり、揺れもそれに合わせて起こっているのでそうでないと判断を下したが原因は判らずじまいである。

 耳を澄ませてみると崖の向こう側から喧騒が聞こえてくるようであった。

 声からして数は多い。足音からして平和的なそれではない事がわかる。

「うんうん、巻き込まれない内にさっさと移動しようか」

 これを人は戦略的撤退という。

 聞こえる音やら感じる振動やらを統合する限り碌でもない事なのであるから誰も戦略的撤退を行う俺を責めないであろうと信じている。

 一際大きい轟音――もはや爆音と呼べるそれが聞こえた。

 危うく鼓膜が御臨終になられる所である。

 俺は鼓膜に走る痛みに思わずしゃがみこんで蓋をするように耳を覆った。

 すぐに上方から風を切る音が聞こえ、咄嗟にその音から距離を取る。

 見ると倉庫用の洞窟が有った場所に何故だか岩の塊が一つ置かれていた。

 よくよく見ると岩の塊が倉庫用の洞窟入り口にはまり込んだらしい。

 仕組みは理解した。だが、原因はさっぱり見当がつかない。

 どこかで山が噴火でもしたのだろうか。

 何にしても、どう考えてもミラクルな現象であるように感じる。

 どこからとも無く空襲警報発令してもおかしくない勢いと格好で飛翔・自由落下を行って偶々作成した、又は存在した穴にすっぽりと入り込むとが起こる事は相当確率が低い筈である。

 ――確立が何であれ、俺の大事な洞窟の一つ。

 それも重要で手間のかかった食糧貯蔵側の洞窟が封鎖されたのである。

 忌々しき自体だ。

 洞窟自体は兎も角、中に貯蔵された食料を収集しなおすのが非常に億劫なのである。

「ったくよー、ふざけるなよなぁ」

 と、漏れるダレた様な台詞とは違い迅速に洞窟の蓋となっている岩の除去を行おうと岩に接近し手をかけた。

 この洞窟から出る際とは凄い違いである。

「やれやれ。もし食料に砂やらがかかって駄目になったら俺はどうすれば良いんだよ本当に」

 そうなれば、原因が火山噴火であるならその山の噴火を止めるか山を消滅させて蓋をする。

 これが人の成す諸行であるならそいつを粛清するか居なかったことにする。

 それぐらい内部の食料は重要なのである。

 岩に指を突き刺して持ち上げて内部を覗き込むと無事である食料が目に入った。

 どうやら、本当にジャストフィットしていたらしく、内部に被害はないようだった。

 俺が胸を撫で下ろしていると、再び轟音が響いた。

 先の轟音から今までの間は大凡4秒ぐらいである。

 この頻度で同じ様な轟音が響くとは何やら作為的な何かを感じる。

 いや、二度であるなら火山の噴火という可能性は拭いきれないかもしれない。

 だけれど、飛んできた岩が別段高熱になっている訳ではなかったので火山の可能性は無いのかもしれないと思い直すことにした。

 それに、爆音でなく轟音であるのだ。

 これがまだあの二度目とは限らない。

 ところで、岩の温度を確かめずに指を突き刺したが、もしこれが高温であれば俺は右手の指四本とおさらばしていた事になる。

 顔が真っ青になってしまいそうな話である。

 高温であった場合の想像をすると、全身の筋肉、主に骨盤周りの筋肉が緩んであらゆる宜しくないものが漏れそうな錯覚に陥った。

 なんて事を考えつつ、思考を発展させ、そろそろ持ち上げた岩をどこかへ移動させようと考え付いた所であの爆音が響いた。

 再び岩の飛翔が発生したであろうあの音の勃発である。

 先のように思わずしゃがみこんで耳を塞ぎそうになったがそれは右手の岩によって阻まれてしまった。

 未だに洞窟入り口辺りで数センチ浮かした程度の位置であったのでしゃがみこむ事さえかなわなかった。

 飛んできた岩はお世辞にも頑丈とは呼べない岩なのである。

 下手にしゃがんで洞窟入り口付近と衝突させてばらばらになって食料にその残骸がふりかけよろしくふりかけられたら目も当てられない。

 鼓膜が訴える激痛に耐えながら慎重に岩を除去しようと手を動かし始めた所で岩が消滅した。

「え?」

 突飛な出来事に俺は思わず戦場で突っ立つような阿呆の様な声を上げてしまった。

 台詞自体はそれほど阿呆ではないのだけれどイントネーションが阿呆なのである。

 どの様なイントネーションであるかはご想像に任せる。

 大凡、想像できうる中で最も阿呆だと感じるイントネーションを想定してそれで阿呆度合いが同等か、聊か不足しているという認識でかまわないだろう。

 そんな事を考えつつ呆然としていると、思考がそろそろ動けや、と突っ込んできたので、従うことにした。

 俺の思考に従順になる事は吝かではないのだ。

 まず、自身の確認である。

 右手がどういう訳かロケットパンチ仕様を実装して肘から先が消え去って、それに装着されていた岩も一緒に消え去ったという考えに至ったが、それは未だにロケットになっていない俺の右手を見て却下された。

 右手を振るうがロケットパンチは出来なかった。只のパンチである。

 次に実は岩なんて無かった、という考えであったが、よく見てみると洞窟とは反対側に岩が落ちていたので却下された。

 第三案としてこの転がっている岩がそれか、という考えに至る。

 それで概ね正解であるのではないのかと考えたが、どういう現象が発生して岩が勝手に、それも目で追えぬ速度で移動してのけたのだろうか。

 それほど移動したかったのか俺に触れられたくなかったのか。

 後者であれば素手で洞窟を作成することは岩に嫌われるので嫌われたくないならやるなと肝に銘じておきたいし後世にも伝えていきたい。

 俺は岩に嫌われたくない所か、普段からお世話になっているので寧ろ、嫌いという感情を抱いてさえ欲しくない。

 後者である可能性を捨てきれないので俺は岩に謝罪しようと岩を手に取るがこれは先ほど俺が持っていた岩でないことに気がついた。

 人違いならぬ岩違いである。

 その岩のどこを探してもボーリングの玉よろしく、指を差し込むための穴が見当たらなかったのである。

 それに、大きさも少し大きい気がする。

 小さいなら削れたと頷けるが、大きいとなるとなにやら砂と結合でも果たしたことになる。

 岩が合体して大きくなったりするなんて話は聞いた事が無かったのでやはり岩違いなのだろう。

 俺の装備していたアタッチメント的な岩を探すも見当たらなかった。

 数秒、周囲を見回すと、努力が報われてそれらしいものを発見した。

「ああああああああああああああああああああ!!!」

 食料に降りかかっているふりかけが目に入ったのだ。

 主成分岩。それ以外の使用素材皆無である。

 岩百パーセントの天然素材である。

 俺は岩には嫌われたくは無いが、岩に私を食べてと言われるほどに好かれたくも無い。

 残念ながら岩を俺の腹部、主に胃という臓器に輸出すると胃が瓦解するだけでなく、腹の健康という概念が一切合財消滅し、排泄されるものが固形物で無くなる現象が発生しかねないのだ。

 それに、腹の虫が一時的に騙されるが、あくまで一時的であるので、少し時間がたつと一揆を起こしてきかねない。

 その一揆は誰の事も考慮されず配慮されず、強いて言うなら腹の虫自身の保身と満足感のみに左右されて他の意見は一切受け付けないと言わんばかりの拒絶を悠々と見せ付けて行ってくれる。

 俺の予想が正しいならば、その一揆が勃発する時期は、腸や大腸といった胃以外の、消化に関連する臓器達が非常に不調である時である。

 たまったものではないし、下手をすれば最悪の重ねがけである。精神的に死んでしまいかねない。

 俺は目をこすりつつも現実を認識することになる。

 何度目をこすっても、何度水で目を洗っても俺の食料に無断で振りかけられて天然岩百パーセントのふりかけは消え無かった。

 好き嫌いはいけないけれど、だけれど人間には限界があるのだ。

 腹に岩を収めて平然としていられるのは赤い頭巾を装備した少女を食したオオカミだけで良いのである。

「うむうむ」

 どうやら、そこに転がっている岩が俺の装着していた岩に激突した故にこのふりかけトッピングが強制注文されたらしい。

 凄まじいミラクルで、友達がキリストの転生体とかそういう事が発生するぐらい奇跡ではないだろうかと思える。

 これが火山の噴火による原因ならば、やはり岩に嫌われていたのだろうと考えるけれど、先ほどから聞こえる多数の人の声と足音を聞く限りは火山でないと至ってもおかしくないだろう。

 後で原因が火山の噴火であったと知っても知らぬ振りをしようと心に決めた。

 ならばやる事は一つである。

「うーむ」

 どうやら多数の人は、洞窟側の崖とは反対側の崖の向こう側にいるらしい。

 早く向かわなければ人々は逃げ去ってしまうかもしれない。

 崖を上り下りすることを考えるだけで眩暈がしたので岩に嫌われることを覚悟で崖に手をかけた。








-Unknown side-



 今回の戦闘も黄金色の断裂(ライトライン)一人だけで片がつきそうだった。

 一介の兵士として黄金色の断裂(ライトライン)は憧れの対象であるだろう。

 同じ様な存在になれるように日々鍛錬を行っているけれど到底及ばない。

 入隊して数年になるが、未だに黄金色の断裂(ライトライン)の攻撃方法が分からないのだ。

 黄金色の線が走ったかと思うとその線が走った場所を縫うように切断されている。

 今回もそうだろうと悠長に構えていたが、相手側にも同じ様な存在がいたらしい。

 ただの山賊であるということを聞いて舐め切っていたのだ。

 山賊の中で一人。

 ありえないぐらいに巨大な奴がいた。

 背丈は3メートルはあるんじゃないかと思えるほどである。

 見たくなくても見えてしまうほど強調された発達して膨張しているとしか思えない筋肉を持ったその男は人とは呼べない容姿をしている。

 種族は人ではなく巨人族なのかもしれない。

 特徴は巨人族そのものであるのだ。

 だけれど、巨人族が山賊なんて聞いたことも無かった。

 巨人族は、持ち前の巨体に比例するかのような腕力を誇っているのだ。赤子の巨人族でも大の大人である人間の男以上の腕力を持っているのではないだろうか。

 そんな彼ら巨人族は、当然その腕力を人に重宝される。

 それに知能も悪くは無く、下手な人よりも優れている。

 建築などは彼らに頼むと地震が起きても微動だにしないという触れ込みなのだ。

 そんな彼らには仕事が殺到するので山賊なんて事はせずとも収入はあるはずなのである。

 同期の奴らも同じ事を考えているのか、攻撃を躊躇している。

 巨人族は善き仲間であったはずなのだ。

 人間よりも信用されている。

 これがエルフであるならそういうこともあるだろうな、と考えたのだろうけれど。

 戦況はいつもの逆であった。

 今回は黄金色の断裂(ライトライン)は後方待機であったのでその巨人らしき男の独壇場であったのだ。

 二撃――

 たった二撃の攻撃でこちらの陣形は崩れる所か崩壊の一途であった。

 拳を振るう際の踏み込みで地を揺らし、続く拳で地面がえぐれ幾つかの岩となって滑空していった。

 横にあるかなり高い崖を越えて飛んでいったのでかなりの腕力であることが見て取れたし、拳に直撃すれば消し飛ぶし、飛翔する岩に衝突すれば体のあちこちは拉げる事が理解できる。

 こちら側の兵士は俺を含め顔を青くして慌てふためくだけであった。

 一応、攻撃を仕掛けようとするが、飛び交う岩と拳でままならないのだ。

 その拳と岩の攻撃が二撃。

 どれだけの恐怖が訪れたか想像することは憚られるし語る事も言語化が難しいので叶わない。

 そんな異常があった。

 俺たちを哀れに思ったのか、頼りないと思ったのか。

 後方から黄金色の断裂(ライトライン)が歩んできた。

 黄金の線が走ると、俺たちに降り注ぎそうだった岩々が粉々になった。

 巨人らしき男の動きもそれを見て止まる。

 目に見える恐怖が止まり俺たちも落ち着きを取り戻す。

 たった腕を一振りするだけで戦況を変える黄金色の断裂(ライトライン)を見て更に尊敬を深める俺であった。

 周りを見ると、皆が皆同じなのだろう事が分かった。

 通常は畏怖の念を抱く人間もいるのだろうが、持ち前のカリスマかそれを抱く人間はいなかった。

「ああああああああああああああああああああ!!!」

 一瞬訪れた静寂を狙ったかのように何かの叫び声が聞こえた。

 その声は先の巨人らしき男の踏み込みや拳以上に地に響いた。

 地震の様なあの響きとは違うが絶対的な響きである。

 皆が異常に気がつきそちらの方へ目を向けた。

 黄金色の断裂(ライトライン)も目を向けている。

 普段は何の興味も見せず、ただ淡々と敵を撃破して帰還していくその姿に無い注目である。

 俺はその姿に驚いたが、それ以上に黄金色の断裂(ライトライン)に注目される存在に驚いた。

 巨人らしき男は何かを感じたのか声の方向へと岩を投げつけ始めた。

 辺りの岩が無くなった所でやっと動きを止める。

 数秒で周囲の岩を投げ尽くす男にも驚きであったが、音も無く崖に穴を開けて出現した男に更に驚きであった。

「お前らかああああああああ」

 凄まじい形相で、再びあの響く声を発している男――いや、男なのだろうか。

 声からして男であるだろうということは見当がつくが、その体つきは、変わった柄で少しぶかぶかの奇妙な服装越しでも細い事がわかる。

 そんな少年を襲撃するように岩が殺到していた。

 しかも、崖の上の方に幾つか衝突し、それで崖の一部が崩れ数を増やして少年に殺到していた。

 視力を非常に強化する事に特化しているという微妙な俺の能力を行使してようやく少年と認識できる程度であったので、他の奴らからしたら米粒のようにしか見えない少年であるが、米粒どころか崖以上の存在感を放つ少年に全員の動きは完全に止まり、時が止まったかのようであった。

 黄金色の断裂(ライトライン)を見ると、口の端を吊り上げている。

 黄金色の断裂(ライトライン)が表情を浮かべているのは初めて見るかもしれない。

 いつも無表情であるのだ。

 そんな黄金色の断裂(ライトライン)に表情を浮かべさせた少年はあの岩に対して何をしでかすのか非常に興味がわいた。

 岩が少年に激突する寸前でようやく少年は岩の存在に気がついたのか上を向いた。

 それから少年が何かをした動作など見て取れず岩は地面に触れて、山を形作った。





-main side-


 

 崖の上り下りは慎重に慎重を重ねて、更に心構えを行って命綱を幾重か張れば何とかなるかもしれないが、それどころではない。 

 仕方が無いので、岩に嫌われることを覚悟でいつも通り直進するトンネルを掘った。

 よく考えてみれば岩に嫌われる云々は俺が勝手に思い始めたことで、岩で辞書を引いてもインターネットを酷使してもその情報は出てこないように思えたので安心しつつ、崖を通り抜けた。

 通り抜けた先には相当数の数の人間がいた。

 一人、ありえない背丈の奴がいたので、人間かと疑問に抱いたが、人の形をしていた。

 魔族だとあのガーゴイルみたいな奴だろうから違うとして、魔族がいるならそれ以外の種族がいてもおかしくないと取り敢えずは頷くことにした。

 人々は大きくいうと二つに分かれていた。

 彼らが手に持つ武具を見る限りは戦争のように思えるが、数の多い方は鎧を着込んでいるのに対し、反対勢力は、無骨な皮鎧が精一杯で、普段着じゃないだろうかという服装の奴までいる。

 戦争ではなく、何らかの戦闘だろう。

 規模は戦争だけれど。

 それら全員がこちらを見ていることに気がついた。

 普段なら何だ何だと気にしていただろうが、今回俺は憤慨しているのである。

 今、優先すべきことは誰が俺の食料を駄目にした原因なのかということだ。

 周囲を見渡すも別段火山が噴火していなかったので人々を探ることにした。

 結論から言うと犯人らしき人物はすぐに見当がついた。

 あり得ないほど大きな男である。

 彼が犯人なのではないだろうか。

 彼から敵対勢力側に向いて幾つか地面が抉れていて反対勢力は埃を被っている。

 これだけで犯人確定としても良いんじゃないだろうか。

 極めつけは、拳についた多数の砂のかけらである。

 見える範囲で彼以外に作為的な配置で砂を装着している人物は存在しない。

 良くて残骸を被っている位である。

 ならば、粛清すべきは彼一人であろうか。

 俺としては憂さ晴らしが出来れば問題ないので彼一人で留めて置こう。

 と、結論に至った所でトンネルから出たにも関わらず未だに暗い事に気がついた。

 それに上方で何やら空を切る音が聞こえるし、何やら岩と岩が接触したかの様な音が聞こえる。

「あん?」

 上を見ると多数の岩が降り注いできていて、俺からすれば岩の天井が迫ってきている様に見えた。

 目視した時点で岩と俺の後頭部との距離は一メートルも無く、岩の降り注ぐ範囲は半径数十メートルにも及ぶようであった。

 辺りに岩が地面に衝突する轟音が響いた。

20000PV突破致しました。

これも皆様の御蔭です。ありがとうございます。

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