第五話 -恐怖は魔王をも襲う-
お蔭様でPv5000突破です。
投稿しています現在、ユニークも1000を突破しそうな勢いです。
ありがとうございます。
今回は3話よろしく文量が比較少ないです。申し訳ないです。
文章も書き方がよくわからず、文が右往左往しています。不安定ですが多めに見て頂けると幸いです。
「さて、とんだ邪魔が入ったがそろそろ殺ろうか」
エドルの担ぐ大剣が光を反射する。
俺からするとエドルは死神の様だった。
「……平和的に解決出来んかねこれ」
およそ無理だろう事を思わず呟く。
どうも、俺は恐怖とやらを感じているらしい。
よくよく考えてみると、この世界に来てから戦闘は一度のみ。それも背中を預けられる存在が居たからであった。
少なくとも、信頼度は兎も角実力面では優れたフィニーアがいたのである。
今はどうなろうと助けは来ない。殺される可能性も無くは無い。
「こんな戦場に足を踏み入れてるんだ。平和的なんて言葉は幻想でさえないな!」
エドルは笑みを絶やさない。
ユウトの笑みとはまた違う笑みである。
――巨大な恐怖。
彼のその二つ名の意味をひしひしと感じざるを得ない笑みであった。
出来れば今すぐ逃げ出したい。
だが、ユウト――このお人よしの国の維持に貢献するにはここで勝ち残ること以外現状はわからない。
何で――。
俺はそう思う。
ここに来てからの俺の行動を見れば誰もが思うのではないだろうか。
何でそこまで関係の無い国の為に動けるのか。
俺の目的は覇王の討伐であってこの国の守護では無いのだ。
だが、俺は守る為に動く。
理由は簡単だ。
――前の世界でこんなお人よしの国があればな、と。
ただ、ただそう思った。
そう思い、俺の胸には何か暖かいものが感じられたのだ。
子供の頃は持っていたかもしれない失くしたソレを。
「――負けられない」
そう、負けられないのだ。
負ければその暖かい何かをまた見失うかもしれない。
それでも問題は無い。問題は無いが、再び感じたそれを失くすことは非常に苦痛だろう、と。
「俺は、負けられない」
負けられない――その言葉は久しかった。
目標があったその時はよく口にしていたように思う。それが間違った目標であったとしても――だ。
エドルは大剣を構える。身体が大きいのだが大剣を持つと小さく見える。
だが、感じられる気配は凄まじい。
回避を続けてその武器が壊れるまで粘ろうかと思ったが、業物なのか耐久値は他の出場者の武器のソレではない。
「どうした! この場に立っているのだから実力はあるはずだ! ……俺から仕掛けよう」
ヤツは俺が格下であると悟ったのだろうか。
少なくとも双子と相対している時よりも警戒はしていない。
ならば、と思う自分が居ることに驚いた。
やはり、ここで負けられない。
「俺をがっかりさせてくれるな!」
エドルの言葉は尤もかもしれない。今の俺の体たらくは酷いものだ。
昔は――そう、昔はもっと――。
エドルの足が動き俺にとっての死は近づいてきた。
自身があの大剣の餌食になる光景を容易にイメージできる。
迫り来る死は、この腑抜けでは成すがままだろう。
だから俺はまた戦おう。抗おうと思う。
大剣が振るわれるが、その軌道の下を潜り抜け何とか回避に成功し、その勢いに乗ってエルドの胸へと天を突くように蹴りを入れる。
手ごたえがあったにも関わらず、エドルはそのまま距離を開けるだけであった。
その足つきはずっしりとしたもので、俺の蹴りなど無かったかのようだ。
俺は壊れかけのナイフを構え睨みつける。
エドルの息を呑む声が聞こえた。
「……そんな目が出来るなんてな。お前何者だ?」
そんな目といっても殺気はそれほど込められていないから目つきが悪いってだけなんだけれども。
「生憎と名乗れない。名はナークとなっている」
都合上、真実の名前は名乗れない。それが惜しいが仕方の無いことだ。
「そうか。まあ、事情があるんだろうよ。そんな目が出来るって事は訳ありだと語っているようなモンだしな!」
刹那、エドルが肉薄していた。
「っく!」
咄嗟に身体を捻るが俺の前髪の一部を大剣が持っていった。
「――」
エドルが何かをブツブツ呟いていることに気が付いた。
感じられる魔力が――気配が増大している。
双子のときでさえ本気ではなかったのか、と驚愕が思考を染めた。
そのせいで俺はヤツの呟き――詠唱を許してしまった。
「ウィンド・アーマー!」
エドルが叫び、風がエドルへと収束していく事が肌で感じられた。
気配は詠唱時と変わりない。だが、感じる死は増大した。
「はぁっ!」
出遅れたの内心顰め面をしつつエドルの顎を狙って蹴りを放つ。
ナイフでの攻撃を行いたかったが耐久値が芳しくないので却下。
エドルの顎まで後数cmという所で未だにエドルの目線は脚へと追いついていない。
当てた!
そう、思ったが、寸前で俺の脚は何らかに遮られ――いや、逸らされた。
だが、完全ではないらしく多少当てられたのだが掠っただけであった。それも、顎ではなく頬であった。
エドルが俺を引き離す為に大剣を振るう。
先程の様に軌道の下を通り抜けて回避するが、エドルはその隙に俺と間合いを取っていた。
今回の回避はかなりぎりぎりであり、文字通り紙一重であったので追撃が来ていたらやられていたかもしれない。
――瞬きひとつの瞬間
それだけでいろいろな事ができるらしい。
それの証明をエドルは行ってきた。
と、いうのも、瞬きの間程でエドルは肉薄し、更に大剣を振るい始めていた。
当然、ここまで肉薄している状況であの大剣のリーチと速度を考えると回避は絶望的であった。
「ぐぅぅ!」
咄嗟に手にあったナイフで防ぐも瞬間的に砕け俺へと大剣は襲い掛かってくる。
「っぐぅ!」
反射的に切断されない様逸らすが、衝撃を殺しきれず手が痺れる。
直ぐに反撃を行おうと拳を握る。
が、それは中断された。剣が再び同じ軌道で再来する。
俺としては永遠の別れとなって欲しい剣であったが戻す動作なく再び現れたのだ。
どれだけ俺と会いたいのだこの剣はと、悪態をつきたく思い、同時にそれどころでないと知る。
どうも、振りぬいたまま一回転して再び寸分狂わず剣を振るったらしい。
速度は一回転した分先よりもある。と、なると威力も相当である。
それ以上に、再び同じ軌道へと振るう技術に驚愕しつつ回避は不可能であると悟った。
もう既にナイフは砕けている。あるといえばあるが、刀身が砕けているのでナイフと呼べるか疑問である代物に変貌してしまっている。
「くっそ!」
今まで却下し続けた空中への回避を致し方なく選択することにした。
もしかすると、耐えられるかもしれないと一途の望みを胸に抱き――
――俺の意識は闇へと落ちた。
「っく、ここは……」
目を覚ました俺はすぐさま辺りを確認し、俺へと覆いかぶさっている布団と、背面に接触しているシーツを確認し、横たわっている事を認識した。
詰まる所、俺は寝込んでいる状態だった。
幸いにもあの後攻撃を加えられることはなかったらしく五体満足である。
「実践なら死んでたな……。ブランクで訛ったかなぁ」
と、あの状況へと陥った自分へと叱咤しつつ体を起こす。
某汎用決戦兵器の主人公の如く知らない天井を眺めて無駄な時間を過ごすつもりはない。
結果として俺が負けたのは明白であるのだ。
次の方法を考えねばなるまい。
当面は生きることを優先して避けたいところであったが猟兵所に登録して仕事をこなすべきだろう。しかも、当分は素手である。
ベッドの横にあった机の上にそれが置かれていたが、やはり刀身は粉砕して無くなっていた。
それを見て試合――死合という名の一方的なリンチを思い出し、非常に心配になり身体を確認してみると別段やばそうな怪我は無く、些細な擦り傷程度だけであり心から安堵した。
この傷とも呼べない傷だけであり安堵していた訳なのだが、問題はあった。
同時に、なぜこのようになったのかが分かった。いや、それ自体は問題じゃないんだ。
問題は十中八九、俺が醜態と失態を繰り広げてこの現状が有るのだろうというところだろう。
場面は民衆に公開されている場であった。つまりは、その醜態と失態が晒されてしまい、戸が緩いおばちゃんの口の餌食にでもなってしまえばそれは瞬く間に感染汚染してしまうだろうという事は容易に想像できるような事なのである。
あ、死んだな俺。主に精神的に社会的に羞恥心的に!
さてと、部屋に誰もいない訳だが勝手に出て行ったら問題になるだろうな。
あ、やべえ。金無いから参加したのに医療費なんて請求されたら終わりだぞ俺!
払えるかも怪しいどころか寧ろ払えなく首をつるしかない程度の金銭しかないのでどうしたものか。
「……逃げるか?」
国家権力から逃げ回る所業を繰り広げていたから逃げる事には自信があるぞ、と意気込んでいると扉の開ける音が聞こえた。
逃げるかどうかと判断に窮していた状態で既に本能は答えを出していたらしく窓に添えていた俺の自由意思満載な左手を急いでひっこめた。
入ってきた人物はコートとしか思えない白衣と肩ほどまでの緑と茶色が混ざった様な限りない黒色の髪を靡かせている女性であり、こちらへと歩を進めていた。
恰好から医者であり、おそらく俺が目覚めている事に気がつくと医者の様な言葉を吐くだろうことは予想できた。
「あら、目覚めたのね」
何とかバレないだろうかと願っていたがどうもバレてしまったらしい。
「……お陰さまで」
「身体の調子は――」
「大丈夫ですね。すこぶる爽快、快調、絶好調。――と、言う訳でもう立ち去っても良いですか?」
と、これでもかと上半身だけでもとポージングを決めてみせ希望を漏らしてみるが彼女の申し訳なさそうな表情を見ればよくわかる。
「ええ、出て行ってもらう分には問題ないけれど、ボランティアではないから代金払ってね?」
ビキリ、凍ったかの様に固まってしまった事が自分でもわかってしまった。
その不自然さは初対面の人間でも一見でわかってしまう程明白で、露見していたらしく彼女は苦笑していた。
いやはや、心苦しい限りである。そして、どうなる俺。
「貴方みたいな細い体つきの子があんな危険な大会に出るぐらいですもの。何となくわかってたわよ。そして当面の運命もね」
と、意味ありげな言葉をさらっと言いのけつつ紙を俺の頭の上に乗せた。
似非キョンシーみたいになってしまったが、俺にはコスプレの趣味は無く、そうなるので当然、コスプレにerを付けたレイヤーであるはずもなかった。
そういう訳なのですぐさま頭に設置された防御力皆無の頭装備を手に取り眺めた。
「――これが幸運か不運かはたまた悪運なのかは疑念を抱かざるをえないですね」
「貴方にとっては幸運かもしれないわよ? 給料が出る訳だし」
それに、関与できる。
当初の目的とは形が違うが、結果は同じと言っても問題ないだろう。
「どちらにしても貴方が彼に返答すべきだから待っていればいいわよ」
と、いつの間にかお茶を淹れてくれたらしく、コップが手渡される。独特の匂いであるが嫌いではない匂いだ。
兎に角、結果的には一部安心って所か。当面の収入は良いとしても、問題はここの医療費なのだ。
服も買えないから医療費なんて払える気もしないのだ。まあ、兎に角今はどうしようもないから――
「――どうも。――了解しました。んじゃエドルが来るまで茶でもシバいて――」
「おぅ! ナークは目覚めたか!?」
まさに噂をすれば、である。
試合というなの殺し合いをしている最中はそれはもう死神か死そのもののが服を着ている存在かと思えたし、そうとしか見えなかったけれど今はただのデカイお兄さんだった。
金の髪に混じる紅い髪は、対峙していれば血にしか見えなかったが今はそれも何だか愛嬌の1つに見える。いやー、不思議なことだ。
「おお! 起きてたか! で、申し出の紙は読んだか!?」
こいつは語尾がエクスクラメーションマークなのだろうか。
いや、まあそれは良いとしていやうるさいから良くないけれども。
「まあ、結論から言うと引き受けるよ。寧ろ願ったりかなったりだったりするんだよな」
「おお! それは良かった! 俺一人だと不安だったからな!」
いや、エドル一人でいけるだろう。無理だったら俺がいても変らんだろうよ。と思いつつ眺めているとそれをどう取ったのか笑みを深くし、封筒を渡してきた。
「……これは?」
「前金だよ。何せ危険度が未知数と来てるからな。これぐらい当然だろう」
投げ渡されたそれはかなりの分厚さである事はすぐにわかった。
これで医療費の心配が消えた。問題はもう無いから心が解放された気分だ。今なら空も飛べそうだ。いや、冗談だけれど、試す気も出ないけれど。
「大した怪我もないだろうしすぐに出られるだろう?」
「まあ、いけるかな」
怪我は皆無と言って問題無い程度だしね。俺は病院の様な薬品のに酔いはあまり好きではないのですぐさま退院する様手続きを急いだ。
およそ10分。
たったそれだけの手続きで俺は退院する事が出来た。
目立った怪我も無く、入院トータルおよそ3時間であったらしく、予想よりもお金はかからなかった。
エドルは俺の様にあの双子も誘っていたそうだが断られたらしく、男二人のムサ苦しい旅の始まりである。が、よく考えてみると双子の両方が男であっただろうからどちらにしてもムサ苦しい旅で更にあった事に気が付き誰に気づかれる事無く身震いした。
ちなみに、今回の俺に課せられた任務は使者であるエドルの補助となる。まあ、基本的には襲撃者とかがいたら一緒に、もしくは単独で迎撃するということだろう。
使者のエドルの仕事は各国にこの国へと勇者を、もし居るのであれば付き人――まあフィニーアみたいなやつだな。未来の絵的に居ないだろうけれど――を向かわせろという事を伝える事だ。
この世界には電話みたいなものが無いらしく、徒歩での伝達になる。
軍備はこの国でのみ行うらしいので他の国はその様な準備が無いらしく期限はおおよそ軍備が整うまで。
と、言われてもそれが何時なのか俺には判らないのでエドルに聞いてみたが、「あ、そういやわからんな。ま、なんとかなるだろ! 出来るだけ急げばいいだけだろう!」と、熱気が押し寄せそうな笑顔でそして、鼓膜が流浪しても仕方が無いと諦めてしまいそうな音量の返事という名の騒音が響いた。俺は耳を押さえつつ、そうか、と返事をし話を終えた。そのまま話し続ける元気は今の俺には無かったのだ。
そのまま脈略も無くはっはっは、と笑いながらエドルは肩にちょっとした食料を担いで町の外へと向かって行ったので俺はそれについていった。
そして、今、俺は暗くなってきた空を眺めながら歩を進めている。
「そういえば、大会でナイフを壊してしまったが新しい物は買ったか?」
と、声がかかったのは月が出て心地よい虫の声が聞こえる中で道の端で火を起こしている最中だった。
「あ、そういえば買ってないな。今、素手――どころか、荷物さえないな」
食料も買ってない俺は阿呆かと。
「おい、大丈夫なのか!?」
うるせえやい。俺としては自分がこんなにうっかりさんだとは微塵も思ってなかったんだよ!
ま、問題は無いんだけれど。
「食料はそこら辺で調達するわ。魔物とかよく出るし、それ食えばいいだろ。武器は無くても素手で戦うよ」
というか、俺、ここに来てからの戦闘でまともに武器を使った事って無いかもしれないな。大会でも基本的に受け流しとかに使っていたし。
それよりも、神の野郎がくれたんだからすごい良いナイフなんじゃね?とか思っていた俺の期待を返せよな本当に。
どう見ても普通のナイフ、どころか寧ろ粗悪品だったぞあれ。
これは能力の恩恵によるものだ。多少程度というか、まあ、ある意味での品質鑑定ができる。あくまである意味だから鑑定団にはなれない。
ま、刑務所で生活し始めてからは専ら素手だったから問題ないかな、と思いたいけれど、この世界には魔力とかいう不確定要素があるから心配なんだよな。
普通に考えて、有名所というか、国が信頼できる程度の猟兵はあの国にいないという話だったから、真の意味での一流はあの国にいない事になる。つまり、エドルはその真の一流ではないということだ。エドルでさえ、だ。
俺の元いた世界であれば間違いなく達人と呼ばれて然るべき人物でその実力は十分以上であったのだがその程度の位置付け。
そうなれば、元いた世界で達人とさえ呼ばれていなかった俺はそれ以下であるのが必然である。
一応、多少の武術やらは学んだつもりだったがエドルとの戦闘を思い返す限りでは俺ではどうしようもないと思うばかりで自分の弱さにがっかりせざるを得ない。
――そうだな。良い機会かもしれないからまた鍛えなおすとでもするか。もちろん、エドルに見つかると煩いから見つからないようにこっそりと。
それに、折角の魔力だ。使い方を学んでも悪くは無いだろう。エドルのウィンド・アーマーみたいな極悪的な魔法が使えるようになれれば良いなと思う。もちろん魔道書なしで。
毎日の食料となる魔物を狩るときにでも魔力練習がてら魔力で戦ってみると良いかもしれない。
と、思っていた時期が俺にもありましたよ。
いや、本当に侮っていたわ。魔物強い! 普通に魔物の夕食になっちまうかと思ったよ。
世の中甘くないよね。結局エドルに屠ってもらわなかったらマジで死んでたよ。
「ナークは普段魔力を使わないのか?」
と、大剣についた魔物の血痕を布で拭きつつそう問うてきた。
お、魔物の肉結構うまいな。何かラム肉みたいな味だ。
「使うようにしてるけど……なんでだ?」
「いや、魔力を一定量拳と足に込めているだけだったからな。並みの猟兵でももう少し魔力の扱いは巧いぞ?」
おうふ。そうか、そうか。
まあ、魔力で言えば初心者だからな。うん。正直自分でも思ってたよ。攻撃力上がるだけだなコレって。一応防御力もあがるけれども。
「攻撃をする時はそれで良いが、防御の際はもう少し皮膚表面上に停滞させるように――鎧みたいな感じだな――そんな感じに魔力を留めないとダメージを食うぞ。まるで魔力を使った事が無い様な感じだった」
元いた世界で言う、気、みたいな感じかな? 思い返してみれば魔力込め馬鹿にしか思えんごり押しだったな。よく考えてみれば俺は力が無いから受け流しとかの技術面で何とか補おうと画策していた口だからな。どう考えても真逆の戦いだ。それに、魔物も魔力を扱うのだからその増大した力はプラマイゼロに近いだろうし。
よく考えてみれば俺がこの世界で弱いのは必然の様に思える。
何せ、端から大きな差が有るんだからなぁ。
「そっか、助言ありがとよ。わからんかったら聞いても良いか?」
これでも俺は才能が無いからな。あるならとっくに達人と呼ばれる存在になれていただろうよ。寧ろ、達人ならもう少し上手く巧くやれていた気がする。
いや、本当に今日はがっかりする日だ。一番痛いのは、負けられないとか言ってたくせに即行意識を失って負けた事かな。黒歴史ランキングのベスト10に入りかねん勢いである。
「ああ、良いぞ。所で、俺から聞きてい事が有るんだが良いか?」
「ん? 応えられる範囲なら問題ないぞ」
本名とかじゃなければな。
「今日の試合で、なんでお前は唐突に意識を失ったんだ? 俺の攻撃は当たっていなかっただろう?」
GYAAAAAAAA! ある意味本名聞いてくれた方がよかったよ!
それは俺が弱いから!
「俺、重度の高所恐怖症なんだよね。おまけに閉所恐怖症。あの時回避の為にジャンプしただろ? いけるかなってやってみたけど無理だったみたいだわ」
と、俺が涙目で笑みを繕いながら返答すると、エドルはにっこりと笑みを見せた。
「本当か!? 俺はそんなヤツ見たこと無いぞ! 跳躍をして意識を飛ばすなんて想像できないな」
ジャンプした瞬間に極度の恐怖が訪れるのです。それはもう魔物に囲まれるよりも酷い。エドルと対峙している時程じゃ無い気が――いや、それ以上か。
と、考えている間に俺はエドルの太い両手で腰辺りを掴まれた。
おい、まさか、もしかしてもしかしなくても!
やってはいけない事をするつもりか!
「あの、エドル? それ以上の行いは自重してくれないか?」
と、俺はひきつった笑みを浮かべつつ必死にエドルの手を引き剥がそうと暴れてみるが、エドルの手どころか、指さえびくともしていない。
あっはっはー。俺、死んだかな精神的に!
「どっせーい!」
それがその日の夜に聞いた最後の音だった。




