↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王物語  作者: ragana
PR
33/40

第三十三話 -己を見失っても良いけれど知らないのは宜しくない-

「あああああああああああああああああああああああ!!」

 やたらと背の高い女性が叫んだ。

 髪の長さとその異様に扇情的な肉付きでようやく女性だと認識出来るほどに背が高い女性である。

 相対する存在は人ではなく獣に近いというかそのものである。

 破損した壁から差し込む光でライオンに近い何かだということは見て取ることができた。

 が、運動能力も行動もどれをとってもライオンのソレではない。

 運動能力は頑張れば天井と床の差なんて無いようなものとして扱って疾走できそうなレベルであり、行動は火炎魔法を放っていたことから明らかに別物である。

 そもそも人間を超越しているんじゃないかと疑念を抱かざるをえない。

 女性は手に持つというか担ぐというか中途半端に大きい太った棺のようなモノを振り回して火炎魔法を凌いでいた。

 その太った棺のようなものは異常に頑丈らしく、火炎魔法にぶち当たっても傷ひとつ付いていないようにここからは見えた。

「まだ、まだ死ねない! まだ死んでやる訳には――殺されてやる訳にはいかねーのよ!」

 と外見など気にした素振りもなく女性は叫ぶ。

 女性――特徴から言ってサイレン――は太った棺のようなモノを振り続ける。

 サイレンはスーツみたいなモノを身に纏っていて、その防御力は紙宜しくと言わんばかりではないだろうか。

 こんな明らかにボス級ソレも終盤のボス臭い形状と実力を持つ魔物を退治しに来てこれはないだろう。

 おそらくは、ホーネイはサイレンをブチ殺したいからまともな装備も与えなかったのだろう。

 魔族との決戦があるからとか適当な理由を述べて言いくるめていそうである。

 ああ――そういえば、俺も元の世界で政府の連中にそんな言い訳をされてキレて務所を一つ潰したことがあったっけな。

 あれは黒歴史で若気のいたりというヤツだな。

 とりあえず、魔物の数が多すぎるので気配が混濁しがちだ。

 襲ってきそうなのはあのふたりだけなのでソレ以外はシャットアウトしておくことにしよう。

「――まあ、オッドの願いを叶えてやるとするかな」

 個人的にホーネイ好きじゃないし、思い通りになるのは面白くないって理由もあるのだけれども。

「おわっ! 急がねえと!」

 ちょいと余計なことを考えている間にサイレン(仮)がライオンもどきの火炎魔法と言う名の火炎放射に押され漏れ無くロースト肉を生成しそうになっていたので慌てて動くことになった。

「箕田月流――百歩先」

 間に合うか微妙だったので高速移動の歩法を使用しなんとか距離を誤魔化してみた。

 縮地とかだと間に合ってなかった臭いので選択は正しかったようだ。

「!?」

 サイレン(仮)は突如割り込んだ俺に驚きを隠せないようだ。

 割り込んだおかげで俺が変わりに又は漏れ無く共々ロースト肉になりそうであったのでその事に気を割いている暇はなかった。

 生憎と俺は人で、それにRPG的に言うと魔法使いなのである。

 武術はたしなみ程度である。

 達人クラスの実力があればこの状況さえ回避できたのだろうから悔しい。

 取り敢えず、武器を作成する猶予は無さそうで、現状手元に武器やソレに成り代わるモノは存在しない。

 無論、防具も同様である。

 となると、女性がいるので回避は却下されるので素手でこの火炎魔法と相対しなければならないことになる。

 魔道書を展開する暇も無さそうなのでかなり窮地と言ってもいい。

 俺の知る武術でこれに対抗できるモノの大半は武器が必要だったりと限定条件があるのである。

 そして、現状それらの全てを満たしていない。

 こんな状況に今までに何度か遭遇したことがある。

 主に修行で、だ。

 それもあのイカれた糞野郎――どういう訳か師匠の一人になった綿名 宗右衛門の修行でである。

 火炎魔法は、随分景気が良いらしく、人間一人では発生させられないだろうという程度の魔力を秘めていた。

 物理兵器で例えるなら小型ミサイル程度である。

「癪だけどしゃーねーか」

 頭の中で綿名がいやらしくニヤついている風景が浮かんだ。

 明らかに癪とか言う1文字で表せるものではない。

 多分、200文字ぐらい必要だと思う。

 もしかしたらもっとかもしれないので、控え目で200文字という事にしておこう。

 とにかく、死を回避するためには手段を選んでられないという事である。

「宗丹流刀剣術――生まれ刃」

 幾つか手刀を放つと、それの延長上が綺麗に断ち別れた。

 火炎魔法も例外ではない。

 が、消滅するわけではない。

 軌道が逸れる程度である。

 現状は、それで問題はないので気にしないのだけれども。

「あんた、何者なんだよー」

 と、台詞は気が抜ける極まりないが、真剣そうな声でそう聞いてきた。

 何者かと聞かれても一般ピーポーとしか言えないため返答に窮するのだが。

「オッドに救助を頼まれたものです」

 わかる言い方だとこうしかないだろうかね。

 そう言いながら振り向いてみると、サイレンは人形を大事そうに抱えていた。

 構図から言って、火炎魔法で死にそうだったから人形を庇ったってトコかな。

 すげえ変わりもんだな。

 俺なら間違いなく人形捨てるけどな。

 親の形見でも捨てるわ。

 っつか、太った棺みたいなヤツを捨てるなよな。

 それ、盾替わりにできるだろ。

 まあ、そうなると支えないとだから人形捨てることになるけども。

 まあ、このサイレン(仮)の人形フェチは放置するとしよう。

 今は関係ない。

 今関係するのは唸りながら第二波をチャージしているライオンもどきである。

「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

 明らかに先程より熱量を秘めているであろう火炎魔法が放たれた。

 魔道書を展開して知識を引き出す時間は無さそうだが、幸い、武器を作成する時間はありそうである。

 先よりも難度は低い為余裕だろう。


「形状実装(リード)――裂点破道」

 魔力を認識した今ならば、最初の師匠が使っていた奇っ怪にしか見えなかった技を使用することが出来る。

 と、いうのも、宇美音子さんも言っていたが、魔力が常駐するこの世界では気が際立てられる。

 それ故に気を少しでも知る者なら気を前以上に扱うことが出来るのである。

 俺は全く理解できていなかったためこの技は手順のみ把握していたのだがどうやら上手くいったらしい。

 結果は言うまでもないだろうか。

 火炎魔法は少しの熱気を残すだけで姿を消した。

 携えるは大剣。

 多分、背後にいるサイレン(仮)と同程度の刀身を持つありえないサイズの大剣である。

 こればっかりはイマイチ理解していないため、師匠が使っていた武器と同じ様なものを作成したのだがなんとかいけたらしい。

 ライオンもどきをみると、怯まず再装填しようとしている。

 どうも、魔力はかなり膨大であるようだ。

 それに、それを除外しても強靭そうな肉体と人を余裕で切り刻めそうな爪やら生物らしからぬ運動能力も驚異となる。

「――形状実装(リード)」

 大剣は姿を崩し鉄脚へと変化した。

 俺が何やらやらかす事に気がついたのか再装填をしつつライオンもどきの腕が振り下ろされた。

 その衝撃で俺の足元がもれなく破砕された。

 当然、このまま身をまかせると精神的に死に至る為、全力で回避することになる。

「――地滑り!」

 かなりギリギリである。

 視界が赤く明滅するのは仕方がない。

 ブラックアウトしないだけ自分を褒め讃えてやりたい思いである。

 この地滑りは足場が不安定な場合のみ使用することが出来る直線高速移動歩法である。

 瓦斑流古武術の一つだったかな?

 よく憶えてないけど教えてもらっていたのが幸いした。

 根性で気絶を抑えられたのも大きい。

 完全には宙に浮いていなかったため成せた奇跡である。

 ライオンもどきの腕を回避して安心しきっていては話にならない。

 腕はまだあるのである。

 鬱陶しい限りだ。

「……天空繋ぎ」

 鉄脚を有効活用せんとばかりに特殊な蹴りを複数回放つ。

「なんとか上手くいったかぁ。これ、異常にムズイから若干心配だったんだよな」

 ライオンもどきが崩れる。

 おそらく、もう立ち上がれないだろう。

 いや、数カ月生きられたら生きられるのだけれども。

 問題は、おそらく全身の関節が砕けて使いものにならないということだろうか。

 天空繋ぎとは、瓦斑流古武術の奥義の一つにあたる技であるらしい。

 師匠が言っていたのでその情報は鵜呑みには出来ないどころか信憑性マイナスなので気にしてはならないだろうか。

 ライオンもどきは痛みのあまりか声もあげずに意識を放り投げた。

「おーう、もう大丈夫だぞ。んじゃ、さっさとここから出るか。意味分からん任務はおそらくやらんでも問題ないだろ。どうせ内情は理解してんだろ?」

 俺に警戒心をあまり抱いていないらしい事を見る限りは理解してくれていると信じたい。

 どちらかというと、警戒する以前に唖然としてしまっているだけかもしれないけれども。

「危ない!」

 というサイレン(仮)の叫びと言える声を聞いてサイレン(仮)の視線の先を追うと火炎が目に入った。

 どうやら、関節を潰して意識を失ったものの、その衝撃による激痛により再起動したらしい。

 それだけならまだしも、そのまま恨みに身を任せたのか俺に向かって火炎魔法を放とうとしているらしい。

 それにしても、やっぱ魔物は魔物だな。

 魔族みたいに高度な知能がある訳ではないから一つ覚えみたいに魔法を扱っている。

 算数で言うと、こいつは掛け算できるけどそれしかできない、という状態である。

 それも、一桁のかけ算が限界ってとこかな。

 取り敢えず、そんな訳だから俺は油断しきっていたというか見くびりきっていたというか。

 何はともあれ、普段ではあり得ないであろう窮地に立たされることになった訳である。

 既に火炎は放たれた後である。

 形状実装(リード)によりその火炎そのものを武器に込めてしまうという方法が浮かんだが、確か、他者が放ったものはすぐには込められなかったのではないかと魔道書を扱っていた経験が訴える。

 他者の魔力という不純物ゆえだったかな。

 オッドから引き継いだ記憶はこういう小ネタがあって非常に役立つ。

 オッドの記憶という事で、魔法陣を思い浮かべたが、間に合いそうにない。

 魔法陣は筆記であるので最低限必要な発動時間があるのである。

 魔力効率が良い半面であるといえる。

 今回はそれが露骨に問題となった訳だ。

 この間に合わないという展開は先程味わったばかりである。

 懲りないな、俺も。

 まだ先の影響で視界が赤く明滅している為、本調子ではない様である。

 もしかすると、俺が本調子でなくダメージによって視界が赤く明滅しているのではなく、ただ単に炎にあてられて赤く明滅しているだけかもしれないけれども。

 個人的には身体は前の世界の様では無いので本調子ではない――

 ――ああ――そういえば、俺の身体は以前とは違う身体に変化(なって)しまったのだったか。

 なら、この状態はもしかすると絶好調かもしれないという訳である。

 個人的には量りかねるのだけれど。

 いやいや、方法はあった。

 どうせ本調子でなければ今あがいてもどうしようもないし、本調子ならもう少し猶予が無くても何とかなる。

 となれば、普段滅多に使わない方――とは言っても形状実装(リード)もあまり使わないのだけれども。

「本質探索(ロード)」

 これは主に走査術である。

 形状実装(リード)の補助的役回りになりがちなのである。

 が、その効果はかなり汎用性がある。

 対象の採寸や、計量等を瞬時に行われ数値を知ることが出来るというものなのである。

 前の世界ではこういうものは実験に実験を重ねた末に導き出す数値であるが、この世界ではこれ一発で把握できるのである。

 ただ、問題点が二つある。

 尤も、片方は問題点という程のモノではないのだけれど。

 そう考えると問題点は一つなのかもしれない。

 問題点とは、あらゆる数値は把握できると思われるが、それはそこまでで、用途等は全くわからないのである。

 数値だけである。

 だから名称不明であるなら名称不明のままなのである。

 次に、耐久値が存在するモノのみ対象として指定する事が出来る。

 まあ、こっちは事実上問題じゃない。

 耐久値とは、崩壊――死が存在するという事である。

 耐久値が存在しないという事は無生物であるなら永久にその形状を保ち劣化しない事を指し、生物ならば不死であるならば対象とできる。

 後者はそうとう気持ちが悪い。

 粉々に切り刻んでも死なないというのだから。

 あと、強いてあげたら前者の数値計測には欠陥がある。

 計測は自動(オート)ではないのだ。

 つまり、先に俺は自身の身体を走査した訳だが、それは手足を量ろうと使用した訳である。

 だから手足の長さなど、手足の情報しか提供されなかった。

 もし、漠然と身体の数値が知りたいと思って使用すると失敗に終わる。

 何のどの数値を計測するのかと指定しなければならないのである。

 だからこそ、あまり多様出来ず戦闘などでは補助的役割になるのである。

 その主な役割は地形の把握なのであるが、これはまた機会がある時に考えよう。

 今は目前の炎に対抗する為の手段を講じなければならないのである。

 最悪、俺だけ燃えてサイレン(仮)を外に投げ出せば後は宇美音子さんが何とかしてくれるだろう。

 何とかしてくれなかったら確実に柘榴へと変貌するだろうけれども。

 取り敢えず、今は俺の身体の状態を知りたいので、バイタルを計測すれば良いかな。

 後は各所の耐久値とかかな。

「本質探索(ロード)」

 各所計測開始――

 ――完了

 各部計量開始――

 ――完了

 総合計量開始――

 ――完了

 記録出力開始――

 ――完了

 ――計測が完了して要求した数値が頭に叩き込まれる。

 それを見る限りこれは酷い。

 身体の耐久値が鉄よりも高い。

 人間って鉄より頑丈だっけ?

 もしそうなら剣とか鉄で作らないよな。

 よし、俺の変化後の身体が異常だと思っておくとしよう。

 筋肉なども各所問題が無さそうである。

 寧ろ、以前より良い方向に改良されていると考えていい。

 やはり、この違和感は体調が悪いのではなく、寧ろ逆であったらしい。

 身体に意識が付いていっていない、そう断言して問題はなさそうだ。

 個人的に、身体を使う程に違和感が薄れていっていたので薄々気が付いていたと言えば気が付いていたのだけれど。

 視界の明滅はただ単に興奮状態による脳内薬物過剰分泌によるものらしい。

 なら、寧ろ今の状態は非常に戦闘向きという訳だ。

 GJ(グッジョブ)俺の身体。

 この状態にしたであろう神には感謝はしない。

 無許可だし。

 聞いてきてたら多少感謝はしたのだろうけれど、あの神のいい加減さ具合を考える限りどう転んでも聞いてくるなんて似合わない事はしないだろう。

 神は神でも腐れ神なのである。

 文字通り腐って死んでしまえば良いのに。

 他にも神はいるような口ぶりだったから好感を持てる神だけが居残れば良いのである。

 さて、閑話休題――。

 そろそろ炎が迫ってきているし、真面目に事に取り組んだ方がよさそうである。

「ここで見た事は俺の仲間以外には他言無用で頼みたいわ。無理なら止めないけども」

 後ろにいるであろうサイレン(仮)に一応口止めをする。

 俺の戦闘向きの能力(ちから)の一端を仲間以外に使う訳だし。

 万が一、魔王だけでなく将来的に敵に回る存在がいるならそいつも一切合財含めて知られてロクな事はないだろうし。

 まあ、俺が対策されてもベヒス嬢や宇美音子さんがなんとかするだろうし、あんまり問題じゃないのだけれど。

 正直、俺はそんなに活躍してる存在じゃないからそもそも気にも止められない気がしなくもない。

「ついでにあの火炎発生原もぶっ潰すかな。ま、大船とは言わねえけど少なくともお前は生かすから安心しろや」

 生かすと言ってもその手段は外に放り投げるの一択だけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。