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魔王物語  作者: ragana
23/40

第二十三話 -変態の親は変態かもしれない-

100000PV突破しました。

有難うございます。

完結まで頑張りたいとは思っていますのでこれからも宜しく御願します。

-light line side-

 魔族も人と同じく良い者と悪い者がいるのでしょう。

 目の前にいる彼らがどちらであるかは、私には判断できはしない。

「ガ――ア――」

 子供――人ののそれの形状を留めていないですが――は、最近目撃証言が増えている魔族と同形状へと変化していきました。

 一概に魔族、と表していますが、魔族は魔物とは違い、同じ形状の者は一卵性双生児でも無い限り酷似しているということは滅多にありません。

 人と同じ、ということです。

 それに、知性もあるのです。

 にも関わらず、最近目撃のあった魔族は、寧ろ魔物に近い存在でした。

 中には会話が成立する者もいたそうですが、その本質は本能に従うばかりで友好的には進められないとの事でした。

 それを聞いて私だけでなく、様々な人間が不審に思っていたのですが、要約判りました。

 あれは、魔族でも魔物でもないのです。

 分類的には元々人間でしたので、人間なのでしょうか。

 尤も、社会的に彼らが人間と認められる事は無いのでしょう。

 魔族の魔力の質にもかかわらず、実際の魔族よりも魔力容量が少なかったのは、元々の素体が人間であったからなのでしょう。

「グ――ウウ」

 ギラリ、と怪しく光を反射する爪を構えこちらへと臨戦態勢を強いて来ました。

 やはり、穏便に済ますわけにはいかないようです。

 漏れ出る魔力も増大されています。

 後ろに控える魔族は、ニヤニヤと笑みを浮かべていました。

「――――ッ!」

 突如、寒気――いえ、そんな生やさしいものじゃないです。

 死、そのもの――自身の死が確定してしまった後というような感覚に襲われ飲まれそうになりました。

 ガーゴイルの様になってしまった彼らに目を向けましたが、彼らも何かに怯えているようです。

 恐らく、これは殺気。

 それも尋常ではないのです。

 人や魔族――いえ、生物に発する事ができるのかと疑問に思わざるをえない程の殺気です。

 殺気が濃密すぎて、広範囲すぎてどこから発せられているのか理解出来ないほどです。

 殺気中毒――

 そう表現して差し支えない程度に気分がかき乱されてしまいました。

 冷や汗が身体から噴き出るのがわかるようです。

 全身の震えを抑えることが出来ません。

 魔族の方にも目を向けますが、彼らも同じみたいです――――

 彼らはどこかに目を向けています。

 それは――




-unknown side-

 ひっさしぶりにアタシ的に弟とも言えるなー君に会おうと思ったのよ。

 いざ、行ってみようとすれば、入島拒否されちゃったので何の迷いもなくカレンダーを確認した。

「ああー、そういう訳ねぇ~」

 今日は月末。

 例外なく、漫画やゲームが発売される時期でもあるのだ。

 なー君はめぼしい物をゲットする為にいざゆかん!

 牢獄島の監視なんてなんのその、その後の追跡もしったこっちゃないと買い物に出かけたんだろうなぁ。

 この時期は確実に居ないことは知っていたはずなのにここに来ちゃうなんて不覚だわ。

 周囲の看守やら捜索隊の反応や同行、漏れ聞こえる会話からまだまだ発見される事はないみたい。

 流石、アタシ達が鍛えただけはあるけど、面倒には違いないわ。

 サザミー――小波と言わなきゃ怒るけど気にしない。サザビーみたいで格好イイのに――が居ればすぐに居場所がわかるだろうけど、今彼の居場所知らないからなぁ。

 携帯電話はこの前海ではしゃいだ時にアタシが浸水させて壊しちゃったから連絡取れないし。

 そもそも、まだ携帯を壊した上で弁償しなかったから怒ってるかもしれない。

 まあ、また今度謝ればいいかな。

 今なそれよりなー君!

 早くしないとアタシのなー君成分のストックが枯渇しちゃうのよ。

 すぐさま見つけてワキワキしないといけない。

 ふと、手に目を向けると、無意識で両手をワキワキさせてしまっていた。

 そして、周囲に視線をあげると、目をそらされた。

 近くにいた親子になんて、「ママー」「見ちゃいけません」的な視線を向けられていて痛いというか恥ずかしい。

 他の人の視線から察するに顔をどうやら緩んでいるらしい。

「えっへへー」

 と言いながらキリっと引き締める。

 えっへへー、というセリフをチョイスした事を悔やみそうになった。

 そもそもそのセリフ自体が恥ずかしかった。

 何とか、その羞恥心は抑えてそそくさと、足早にそこを後にすることにした。



「うーん。なー君は高い所ダメだから本州に入るルートは限られてるはずよね」

 と、一人漏らす。

 上陸するならなー君的に海岸が良いだろうけど、海があまり透き通っている場所は海の深さに圧倒されて意識を失うだろうし、大半の海岸は捜索隊に抑えられているので海岸は使えないはず。

 なら、普通にトンネルでも掘って徐々に登ってくるのかなぁ。

 実際に泳いで通りそうな場所を探してみたら良いんだろうけど、今日はなー君に会いに行くつもりだったから一張羅なのだ。

 なー君が喜んでくれるかなっと思って気合を入れて作ったのでーす。

 まだなー君に見せてないので出来るだけ汚したくない、という訳で普通に気配を探る事にした。

 気配感知はやっぱりサザミー程じゃないんだけど人並み程度には最低でも出来るしなんとかなるかな。

 最悪、牢獄島で待っていれば2~3日すれば帰ってくるだろうし待っていればいいかな。

 ――なー君は気配を抑えてるみたいで漠然としかわからないなぁ。

 取り敢えず、その辺りを徘徊してみることにしますか。

 捜索隊の捜索網を潜り抜けるとなると、通れる場所は限られてるし大体の場所もわかってる。

 その内会えるような気がする。

 案外普通にばったりあっちゃったり。

 それまでアタシも新刊とか欲しいし色々見てまわろうかな。

 ソッチの方がきっと会える。

 近くに来れば流石に感知できるしね。

 会ったら問答無用でワキワキしちゃる。

 むっふっふー、楽しみですなぁ。



「おおぅ!」

 思わず街中にもかかわらず声を上げてしまった。

 またまた変な人認定されちゃいそうな視線が刺さる。

 変な趣味に目覚めてしまったらどうしてくれる。

 なー君ならここで、もう手遅れです、なんて言っちゃいそうだね。

 なー君は手厳しいのです。

 アタシには比較的キツク当たるのよね。

 アタシにも優しくしてくれればいいのに。

 勿論、それに応えてハグしちゃうわよ。

 っと、いけないいけない。

 思考が暴走してたわ。

 思考が最早妄想に突入しそうだった。

 そんな事より、なー君が近くにいる。

 ビンビン感覚にキテる。

 間違いなく近くになー君がいる。

 立ち止まってる所をみると捜索隊に先越されちゃったかな。

 最低でも2日ぐらいは逃げきると思っていたんだけど。



 いざ気配の方へと進んでいたのだけど突如その気配が消失した。

 気絶等ではなく消失。

 つまり、死亡。

 タンパク質へと変貌を遂げたかもしれない瞬間であった。

「う……ううー、ショック死?」

 なー君の死因を考えると、高所へ移動したことによるショック死か何かぐらいしか思いつかない。

 捜索隊程度に遅れを取るなんて考えられないし。

 兎に角、その場に行ってみないことには何も判らない。

 アタシは涙目になりながら速度を早め、その場を目指できる位置まで移動した。

 辛うじて捉えられてのは光。

 街頭なんてある筈もない森林の中なので捜索隊のライトを疑ったけど、あれはライトの光量じゃない。

「何? あれ……」

 光の色も人工的なソレとは若干違うように感じられた。

 そして、消失。

 急いでその場に駆けつけてみたけど、それらしいものは何も無い。

 なー君の痕跡もここで途絶えていた。

 摩訶不思議とかまさにこの事かも。

 あんまりにもなー君が可愛いから神隠しに遭っちゃったんじゃないかしら。

 ひじょーに心配である。

 それに、なー君成分も残り少ない。

 神隠しなんて知ったこっちゃない。

 アタシは早くなー君に会いたいのです。

 でも、アタシにはこれ以上何も判らないし専門家に聞くべきよね。



「――それで、此処に来たのか。いやいや、問題ないよ」

 そう唐突の訪問で仕事が滞ってしまってもにこやかに応対してくれたのが専門家の衣玉ちゃんです。

 衣玉ちゃんは何時も巫女服を装着してるのでアタシとしては張りあってしまいそうになるのを抑えるのにかなりの気力が必要だけど数少ない親友と呼べる存在だと思っちゃってる。

 アタシ的にその巫女服を着崩すのは非常にえっちぃくていい感じなのです。

「最近、同じような事例を幾つか聞いてるのよ。まあ、捜索願や依頼としては来てないけど、気になったから調べてたわけ。片吹の異端児やらの武術関係が多数同じく消えたらしいし」

 衣玉ちゃんは眉間にシワを寄せて、集中して消失して、あれから音沙汰ないからもう無いかなと思ってたんだけど、と付け加えた。

「ふんふん。それでそれで? 衣玉ちゃんの事だからもう大体わかってるんでしょー? このっこのっイイよーカッコいいよー」

 衣玉ちゃんの眉間のシワは解消されない。

「判っている、というよりも、目星がついた、程度だけどね。そして、その相手が厄介なのよ」

 と、意味ありげに濁す。

 アタシとしてはすぐさまなー君に会いたいし続きを促すというか急かす。

「……はいはい、わかったよ話すよ。というか、本当にアンタはアイツに溺愛だね」

「なー君への愛は海より深くて空より澄み渡ってるのよ! 衣玉ちゃんの巫女服にもビビっとクルでしょ」

 と、胸を張る。

 ふんぞりが得る勢いだ。

「お前のそのアタシの触覚が巫女服だと思っているような言動には何時も突っ込んでるがもうそろそろ疲れたから諦めるよ」

 ふっふん。

 愛が負けるものはないのでーす。

「そして、アンタのその服装にもね」

 あれれ?

 この服を衣玉ちゃんに見せるのは初めてのはずなんだけどなぁ。

「――いや、良い。気にするな。本気でそのセリフを言ってるところを見ると改善の余地が糊代より無い事がわかった」

 まあ、衣玉ちゃんが良いなら良いけど、気になるなぁ。

 ワキワキしちゃうぞ。

 いやいや、そんな身体を手で守らなくても大丈夫。

 そんな二本の手の防御ぐらいなんのその。

 アタシは縮地を使って衣玉ちゃんの背後に回り込み思いつく限り高速でワキワキを開始した。

「うっへへー、良い感触ですなー」

「うるせえっ!」

 ……殴られた。

 そこまで恥ずかしがらなくても良いのに。

「お前が何で牢獄の中に居ないでそこらを闊歩してるのか疑問になってきたよ」

 酷いなぁ。

 アタシはいい人で健全者なのに。

「お前が健全者なら他の人間は全員、悟りを開いた聖人か何かだよ!」

 全く、照れちゃって。

 そんな反応してくれたらアタシも照れちゃうじゃない。

「駄目だこいつ早く何とかしないと――いや、その余地無いんだったか」

 何故か衣玉ちゃんは項垂れた。

 そんな衣玉ちゃんも可愛い。

 お持ち帰り?

「ったく、ンな事は良いからさっさと本題に戻るぞ。で、その相手ってのは――」

 衣玉ちゃんが無理やり話を軌道修正し、それを補強するように真面目な顔をした。

 アタシも釣られて真面目な顔になる。

 なってる保証はないけど。

 目線は間違いなく真面目じゃないのは保証できる。

 着崩された巫女服から覗く太ももやら胸部に目がいっちゃってるし。

 衣玉ちゃんは、その視線に気がついているのかいないのか。

 そんな事はお構いなしに真面目な雰囲気を続けた。

 これ程真面目になってるのだからアタシもそろそろ真面目になった方がいいらしい。

 と言ってもコレ以上の改善は無理だけどね。

「――神だ」

 そのセリフは、衣玉ちゃんを信頼しているアタシ以外が聞けば厨二病だと間違いなく突っ込むセリフだった。



「ねーねー、本当にこんな事でいけるの?」

 アタシの頭には草葉の陰で覗いている幽霊が頭に装着している三角形の布と同じ形状のモノが装着されていた。

「うるさいね。それは丹分清家に伝わる霊装束の一つだよ。まあ、形はふざけてると私も思うけどね」

 あ、そこは認めるんだ。

 それに、霊装束っていう割に服はそのままで良いみたいだし。

「あー、まあ結構いい加減でもいけるよ。ちゃんとした手順さえ知ってれば、な」

 そういうものなのね。

 じゃーさっさと行きますか。

 レッツゴー!

「あいあい、んじゃ、後はこっちでやるから適当に坐禅でも組むなりして精神統一しといてくれ」

 了解でーす、衣玉隊長。

 御巫山戯はいらねえから、と手を払う。

 その払い方はまるで、犬や鳥を追い払うかのようなものである。

 少しの間お経のような意味の分からない呪文っぽいものが聞こえ、後頭部に衝撃が走りアタシの視界は暗転した。



 白――

 そうとしか言い表せない。

 白以外存在しない。

 天も地も何も無い。

 空気の流れさえ感じることが出来ない。

 そんな場所だった。

 よく見ると地平線の様なものが遠くに見え、それが段々と上に上がってきている。

 風を感知できないのかそもそも存在しないからなのか、アタシが落ちていることを理解するまで時間がかかってしまった。

 地面らしき場所へと着地する。

 地面はあったらしい。

 全て真っ白で、地平線が辛うじて見える程度の境目があるぐらいだけど。

 辺りを見回してなー君を探してみたけど、なー君の気配はしなかった。

 以前に消えたという他の人達も見当たらない。

「なんじゃ? 今回はもう間違いなくここに人は来ないはずじゃが」

 振り向くと、白いローブを来て白い髭を靡かせたお爺ちゃんが立っていた。

 感じられる気配は人間のソレではない。

 アタシは間違いなく神に会えたって事かしらね。

 衣玉ちゃんに感謝しなきゃ。

「少し前になー君来なかった? こういう身体のラインの」

 と、両手を駆使してなー君のラインをなぞるように動かしてみる。

 ワキワキの熟練者であるアタシにとっては造作も無いことなのです。

「ん? ああ、さっきまでここにおったぞ。で、概ね丹分清の家の知り合いって所かのう」

「そうそう。なー君を連れ戻しに来たのよ」

 ふむ、と神は唸る。

「残念じゃが、手違いとは言えワシ達神がここに呼んじゃったからのう。丹分清とかそういう神との繋がりがあったり世界に穴をあけたり繋げられたりする者の協力なしには無理じゃよ」

 なら、衣玉ちゃんに手伝ってもらおうかしら。

「ソレも無理じゃ。もう別の世界に送ってしもうたからの。送った先の世界で協力者を見つけなければ無理じゃ。まあ、諦めることじゃ」

 だったらアタシもその世界に行って協力者を見つけ出せば――

「お前さんは丹分清に協力してもらってここにいる。神が手違いとは言え呼んだ彼とは訳が違うのじゃ。諦めて帰るが良い」

「そこをなんとかっ」

 間髪入れず神は首を横に振る。

 その佇まいから決して縦に振らないであろうことが理解できた。

「っふ」

 瞬間で最高速まで達し、神へと接近し人体の急所を幾つか突く。

「おぎっ!」

 と、変な悲鳴を上げたが見た感じそれ程ダメージは与えられていないみたい。

 流石神って所ね。

 なー君とアタシを離れ離れにしたから天罰ならぬ人罰を落としてあげるけどね。

 スカートの裾に手を突っ込みナイフを取り出す。

 そして、同じように人体の急所を突く。

「ひ、ひぎゃああああ」

 神とは思えない悲鳴をあげる。

 痛みに悶えている間に両手足を上手く使って身体の幾つかを同時に極めてみた。

「ひ、ひぎゃああ、ギ、ギブギブ!」

「なー君を元に戻すかアタシをそっちの世界に送ってくれる?」

「そ、それはできな――」

 手が滑ってもう少し手足が移動した。

 神って結構身体柔らかいんだ。

 ヨガでもやってるのかなぁ。

「わ、わかった! お前さんを送る! だから――」

 このお爺ちゃん、話わかるわねぇ。



 お爺ちゃんの説明によると、時間の進み方が世界毎に違うらしい。

 だから、元居た世界や神の世界からすると、なー君が移動してからそう時間は経過していないけど、向こうではそこそこ時間が経過してしまっているらしい。

 故に、なー君が訪れて数日後のその世界にアタシは降り立った。

 アタシ、大地に立つの巻って感じかしらね。

 見渡すと緑が多かった。

 圧倒的に違うのは、何らかの力をあらゆるモノから感じられるって事かしら。

 さっそくなー君の気配を探してみたけど見つからない。

 かなり距離があるのかもしれない。

 こんな事ならサザミーを連れてくればよかった。

 取り敢えず、手に握ったままだったナイフを元に戻し、歩を進めることにした。

 歩き回っていたら何れなー君と会える気がしたのだ。

 アタシの勘は妙に当たることに定評があるからなんとかなるに違いないわ。

 早くなー君をワキワキしないとねっ。

「ん?」

 なー君の気配は感じられないけど、なー君に似た気配を感じられた。

 似た気配を持つ人が居ないことは無いけど、この気配は似ているというか、どこか差し替えられたような気配なので気になった。

「ストーキングは趣味じゃないんだけど仕方ないかなぁ」

 なー君の気配が感じられるまでその気配を追跡してようかな。

 幸い、その気配は森の方へと進んでいるから隠れる場所に困ることはないだろうし、動物もいるみたいだからそれらに気配を混ぜて誤魔化しちゃえば気配でもバレにくくなるしね。

「あれ、なー君に似てるなぁ」

 彼には同行者が一人いるようだったが、夜になって離れたので木陰から覗くと、それは非常になー君に似ていた。

 だけれど、なー君という訳ではない。

 あれがなー君なら金髪の不良ちゃんになっちゃってるって事だし。

 あ、でも足が長くてキュートになってるね。

 足の長さやらの身体改造は確かなー君は出来ないはずだし、似た誰かって所かしらね。

 ワキワキしたいけどここは我慢しないとダメな所よねぇ。

 彼が何処からか刀を取り出し、瞑想を始めた。

 その格好はなー君と重なるものだった。

「……どう考えても似すぎだよねぇ。何か外的要因で姿が変化したとかじゃないよね?」

 と、考えが出たが確認するすべはないので放置しか無い。

 一番濃厚なのは神が何やらよけいなことをした可能性ね。

「あ、やばいやばい」

 同行者の気配が近づいてきていた。

 まだ姿は見てないけど、気配からしてそこそこの使い手である事は明白だから近づいたら見つかっちゃうかも。

 二人が会話を始めたので、その隙に乗じて徐々に距離を置き始めたのだけど、なー君似が刀を構えた。

「うーん、やっぱりなー君なのかなぁ」

 その構えは見た事があるものだった。

 なー君の師匠の一人を務めていた綿名がよく使っていた構えの一つ。

 初式とか綿名は言っていた。

 命名は適当につけたらしい。

 どうも、教えるにあたって名前があったほうがやりやすかったからつけたそうだ。

 アタシはそんなものどうでもいいので、名前なんてつけなかったけど、やっぱり男の子ってそういう技名みたいなのあった方が良かったのかも。

 そこは少しなー君に悪かったかなぁって思う。

 アタシがする一連の動きは名前があった筈なんだけど、聞いた時点で、右の耳から入って左の耳から出て行くという感じだったからなぁ。

 その時ハマってたアニメの事を思考するのに没頭していた覚えがある。

 話がそれ過ぎちゃったな。

 こういうのをええと――閑話休題っていうんだっけ。

 最初読み方判らなかったっていうのは黒歴史だわ。

「ねーむーいー」

 世界移動っていうのを神にやってもらったけどやってもらう方は結構疲れるものみたい。

 体力の消耗が激しい。

 取り敢えず、近くの街でこの辺の動物の毛皮とか売れないかなぁ。

 前いた世界の主な収入源がそういう感じだったし、これが封じられちゃうとアタシは行き倒れ確定なのです。



「ここってやっぱり前の世界と違うのねぇ」

 ビビっと来た動物を狩って狩って狩りに狩ってその死骸を街に運びこむと、そこそこの額になるらしい貨幣と交換してもらった。

 この世界の人ってあんまり戦う人居ないのかしらね。

 なんだか、弱い動物ばかりだったのだけど、それを持っていくだけで驚かれていたし。

 全体的に武芸者の質は低いのだろう。

「なら、尚更なー君は大丈夫かな」

 気になるのはこの世界に馴染めているかって所かな。

 気がついてなかったから神を脅迫して作らすことが出来なかったのだけど、身分証みたいなものが無いので出来ないことが幾つかあったの。

 幸い、動物の死骸やらの買取はソレ無しで出来たけどね。

 宿も先払いなら身分証はいらなかったし何とかなってる。

 今は後がどうなるかよく判らないし、一番安いらしい宿で部屋を借りた。

 ああ、そういえばなー君って服がそのままなら囚人服って事よね。

 あの服は――というか、前の世界の一般的な服はこの世界に馴染めないと思う。

 アタシは幸い、一張羅だったから馴染めたけど、なー君はコスプレイヤーを眺めることはあっても実際にコスプレしないからなぁ。

 なー君としては非常に不便な差異だろうけど、アタシにとってはインスピレーションが湧きそうな差異だわ。

「まあなー君にはサバイバルも出来るように仕込んでるしなんとかなるかな」

 死ぬって事はないと思う。

 また明日にでも期待をして寝ようかな。

 おやすみなさい。しーゆー。

 ふかふかのベッドに身を任せて、輝く星空を眺めてアタシは意識を心地良く手放した。

 なー君ワキワキフェスティバル的な夢見れないかなぁ。

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