第二十二話 -根源を見ると同族嫌悪を催す-
「というか、何で急に戦いたがっているんだ」
やる気があると思われてしまったが、俺は絶賛やる気が出ていない。
なので、出来うる限りこの戦闘を避けてしまいたいと考えているのである。
ベヒス嬢は返答する代わりに手を付き出してきた。
その手には何やら摘まれている。
「あ」
それはエドルが俺に渡した紙であった。
ベヒス嬢に会えという文句が書かれていた筈である。
ただ、何故会えということが戦うに至るのだろうか。
俺は理解できないでいた。
頭も混乱を極めている。
「ここに、貴方を鍛えろと書いているのです」
――そういう訳か。
エドルは気を使ってくれたようだが、今はそれが裏目に出たという状況であるらしい。
しかし、ベヒス嬢に修行の協力要請自体はした方が効率がいいのは明白である。
「もしかして、ベヒスの師匠は実践派だった?」
過去の経験である。
俺の師匠の半数は実践派であった。
それならば、修行=試合(死合)という図式が形成されることも頷ける。
俺の意図を読み取ったのか黄金色の人形は消失した。
蒸発死の恐怖から解放された俺の気の抜け方は凄まじいものであっただろう。
そう思わざるをえないほどに安心感が訪れたのである。
「――迷惑だったみたいですね。申し訳ありません」
と、言うベヒス嬢はしょんぼりとして小さく見えた。
当然、すかさず俺はそれを否定する素振りを見せる。
ベヒス嬢を悲しませるような事は極力したくないし、ベヒス嬢に手伝ってもらえること自体は大いに良い事なのである。
こちらの世界の剣術というものも知っておきたくはあるのだ。
数が少ないようなのでそれの応用が出来る機会があるかは別であるが、あらゆる面での対策は練れるだけ練っておいたほうがいい。
万が一、という事もあるのである。
魔族も使わないとも限らない。
あの知能の無さから言うとそれは無さそうであるけれども。
ゲームとかでよくあるボスクラスだけ人語を解する程に知力があるなんて展開の可能性も捨てきれないのでここで学んでおいた方が良いかもしれないという考えも浮かんでくる。
「ベヒスが手伝ってくれるのならそれは有難いよ。ただ、今のはお互いの今までの修行の傾向が違っただけだ」
ベヒス嬢の表情の変わり様と言ったらそれはもう。
雨雲のバーゲンセールの様な空が快晴へと向かった様な感じといって差し支えない程度の変わり様である。
「では、どうすれば良いのですか?」
と、ベヒス嬢は首を傾げる。
どうも、俺とは違い、完全に実践のみでの修行ばかり行っていたらしい。
所謂、一般的な修行というものはベヒス嬢の辞書には存在しないらしい。
あの修行とは名ばかりの拷問を思い出すと、そんなベヒス嬢には涙せざるを得ない。
「あの、どうしました?」
と、顔に出ていたか。
まあ、仕方ないだろうよ。
トラウマに近いし。
寧ろ、泣き喚いたりショックのあまり失禁したりしなかっただけでも褒めてもらいたいものだ。
「いやいや、何でもない」
百面相宜しく、表情を問題ないパターンへと変化させる。
それは顔を取り替えたかのような変わりぶりであっただろう。
自分で自分の顔を見られないのが悔やまれるほどに手応えがあった。
「――そうだな、ベヒスは剣術を学んでるだろ?」
と、俺はベヒス嬢の携えるレイピアに近い形状の剣に目を向ける。
先の戦闘では疲労があったお陰かそれ程驚異になりえなかったが、あれは十分剣術よ呼べる域のモノであり、腕前もかなりのものであると感じたのである。
単純な技量だけで言うのなら、カタブキよりも腕前は確かなのではないだろうか。
「はい、学んでいます。私の師匠が開発したものらしく、名前は存在しません。師匠はどうもその辺りに無頓着なようなのです」
無頓着――だったのかもしれないが、他にも理由は浮かぶ。
そもそも、自身の為に創ったもので誰かに伝授するつもりは無かったか、それとも強力すぎるので自身の中でのみのモノにするつもりだったか。
結果から見ると、俺の挙げた二例は同一のものと感じるかもしれないが、その二つには絶対的な差がある。
まあ、これは今は関係の無い話なので捨ておくとしよう。
「それに型、みたいなのはあるか?」
という俺の問にベヒス嬢は首をかしげ、型とは何かと問うてきた。
もしかすると、この世界の剣術は、剣術であるけれど、俺の元居た世界とはまた別のものなのかもしれない。
構成自身が違うのか、それとも名称が違うだけなのかはわからないけれども。
「うーん、なんて言えばいいんだろうか。 ――一連の動きのようなものなんだけど」
そう言うとベヒス嬢は頷いた。
それなら心あたりがあるらしい。
「んじゃあ、それを見せて欲しいんだけど――言っておくが試合形式じゃないからな」
剣を俺に向けたところでそれを阻止しておく。
危うく突き殺されるところであった。
……ちょっとした戦争よりも死亡確率高いんじゃないかと考えてしまう。
ベヒス嬢は少し残念そうに頷いて俺と距離を取る。
腰を少し低くし、剣を突き出すような構え。
一般的なレイピアのそれに近い構えである。
違う所は、空いた方の手を後ろに回すのではなく、柄の延長線上に構えている。
手の構えは槍のそれに近い。
見たこともない構えである。
――これは予想以上に収穫があるかもしれない。
「っふ!」
ベヒス嬢が息を吐き瞬間ブレた。
ブレた域は腰から首下辺りまでである。
恐らく、一般人だと視認さえ出来ないのではないだろうか。
それを切り口に流れるように様々な動きをしてみせる。
その殆が人間に成し得無い軌道をしていた。
どうも、お得意の風魔法を補助としてそれをなしているらしい。
身体にも強化の魔法でも施されているのか魔力が高まっているように視える。
ベヒス嬢が扱う剣術は槍術に近いものを感じる。
どうも、貫く事を主軸に置いたような動きが目立つ。
おそらく、身体強化の主な目的は身体の負荷の軽減なのではないだろうか。
かなり無茶な動きが多いのである。
関節系にダメージがかなり蓄積される動きじゃないかと感じた。
「これで、一通りですね」
数分後、構えを最初の状態に戻し息を付いた。
結果的に言うと似た様な動きを俺は知っていた。
あくまで似ているだけであって全く別物なのだけれど。
構えから攻撃に転じる部分までが俺の知る剣術の一つに近く、そこから攻撃の終了動作までが俺の知る槍術の一つに近かった。
剣術の攻撃初速に槍術の貫通力。
かなりの威力を期待できるのは明白で、隙も単体で使用するよりも若干少なくなっているように感じられた。
俺はレイピア状の武器の扱いに関して全く知らないのだが、こういうものだったのだろうか。
そうであるならば、以前の世界で使い手と相対する羽目にならなくてよかったと思う。
すべての攻撃が必殺に近い。
先のベヒス嬢との戦闘を思い返すと肝が冷える。
適当にやっていたが、一歩間違えれば身体にトンネルが開通していたのではないだろうか。
出来るだけベヒス嬢と戦わずに済むように選択を心がけるようにしよう。
「ありがとう。勉強になったよ」
この言葉に嘘はない。
今すぐ実践できるかわからないが、一つの可能性を――何故今まで気がつかなかったのかと問い詰めたくなるような事には気がついた。
「そうですか? では、次は本番ですね」
と、剣を構える。
どう考えても今から戦闘をやらかそうというアピールである。
無論俺は拒否をする。
「……どうしてですか?」
先ほど説明しただろうに。
そこまで俺と戦いたいというのだろうか。
ベヒス嬢に問うと頷かれそうなのでその質問は破棄して心の奥底へと幽閉することにした。
「ちょっと考えたいことあるからな。それがまとまったらね」
取り敢えず、回避方法がわからないので先延ばしにする。
よく見れば分かるだろう。
俺の身体は冷や汗で塗れている。
無駄な足掻きと言える延命処置な気がしてならない。
「……そうですか」
何だか納得行かないという顔である。
次迫られた時の対処法を考えて置かなければ。
「よしよし! 今日はもう遅いから寝るぞ!」
別段眠くないけど状況的に致し方なし!
ベヒス嬢が頷くのを見て俺は歩を進めた。
灯台もと暗しという言葉があるが、敵もまた案外近くにいるようである。
「案外食えるな」
朝食にそこいらに生えていた怪しそうなキノコやら草を貪ってみたが毒の匂いも雰囲気もしないので朝食としたのだ。
ベヒス嬢も口にあったらしく黙々と頬張っている。
「今日も修行するのですか?」
YABEEEEEE!
昨日の続きが始まりそうな予感がしなくもない。
終わりの始まりとは正にこの事か……。
「そういえば、この森は魔力が溜まっていてそれで空間がおかしくなっているんだよな?」
「ええ、そうですが……どうかしましたか?」
此処に来たばかりの昨日は断定にまで至らなかったのだが――
「明らかに人の気配がする。――厳密には知的生命体としか思えない動きをしている気配があるといえばいいのか」
「――!」
ベヒス嬢も気がついたか。
俺の感覚が間違っていなければこの森はどうも捨て置けるものじゃない。
「――それが事実なら、見えるものがありますね。この森は、ウヌク国の所属になっていますが、あくまで形式的なモノです。実質は、無法地帯――どこの国にも所属していません。それに、この森は大凡半世紀ほど前、前触れ無くこの状態になったのです。それ以前は普通の森でした」
キナ臭いな。
と、いう風に真面目そうな事を考えている顔と格好をしてみせるが、その実俺の心は酷く安堵に包まれていた。
危なかった。
この話がなければ昨日の続きが始まっているところであった。
もれなく蒸発死していたことだろう。
黄金色のあの人形は、ただの人形じゃない。
少しだけしか見ていないが、あの動き――というか形の変化だが――はベヒス嬢と完全に同一であった。
重量が存在するのなら最早ドッペルゲンガーという表現も生やさしい存在になっていただろう。
つまり、あの恐怖の剣術を繰り出してくるし、もしかすると黄金色のあれ――烈火断層も繰り出してくるかもしれない。
となると、当然今の俺だと蒸発死しか選択肢は残されていない。
「っつー事は、もし人が居たとしたらそれは国の預かり知らぬ所でこそこそやってる後ろめたさがありそうな奴らって事だな」
ベヒス嬢が頷くのを認めて俺は食事も程々にして歩を進めた。
向かう先は魔力の溜まり場――気配のする方向である。
こういう隠密行動でも技術を使える部分は使っておいた方がいいだろう。
それによってもブランクを多少でも改善できるのではないだろうか。
と、俺は我武者羅と呼べる程度に乱用していた。
現状は反復練習あるのみである。
昨夜思いついたことはまだ実践に無理して導入しなくていいだろう。
そもそも、この世界の武芸者のレベルを見る限り、使用する機会があるのかと思わなくもないが、念には念を、である。
全員に会ったわけでないしここで判断するのは早計というものである。
以前いた世界でも達人という存在は極少数であったし、その全員が表の世界に出ていたわけでもなかったのである。
この世界でもそれは言えることかもしれない。
「明らかに何かあるなこりゃ」
魔力が溜まっている地点――
そこには、何らかの建造物が存在した。
見たところ、オッドがいた研究所に何処か似通っている。
形状が、では無く雰囲気が。
魔力遮断でも付加されているのだろうかと考えたが、この森自身がその効果を――もしや、この森をこの状態にしているのはあれが何か噛んでいるのではないだろうか。
まあ、全ては憶測だ。
判断するのは後でも遅くはあるまい。
その地点から大凡200m程離れた場所に俺達は潜んでいた。
「ここからちょいと隠密で行こうと思うけど、無理ならここで待機しといてくれ」
と一応聞いてみるが大丈夫だという顔が目にはいった。
やっぱ愚問だったかな。
ベヒス嬢のそれは歩法も少し組み込まれている。
それを応用すれば常人に気がつかれない程度の歩法なら可能だろう。
特に、ここは森の中である。
平地なら隠密行動も何もあったものじゃないので幸いであった。
周囲の木々も伐採されている訳ではない。
森の中に建造物があるというよりも、建造物の周囲に森があるというイメージである。
これ以上近づけばバレる可能性もあるが、違法の空気であるので俺は敢えて突き進もう。
感じる気配やら配置されているものやら多少漏れる魔力やらでそこが研究所とか観測所といったそういう施設ではないかと感じた。
もしそうであるなら、中にいるのは学者的役割の人であるはずだ。
それなら結構一方通行な平和的解決を円滑に行えるかもしれない。
この世界には魔法があるので断定するに至れないのが悲しいところだけど。
ベヒス嬢も足音をほぼ立てずについてきている。
今の所視線を感じないし、気配も気がついた素振りも見せていない。
このままいけばバレずに建造物まで辿りつけるだろう。
建造物まで数十という所。
現状、何の問題もなく近づけている。
この距離で気がつかないとなると一定以上の実力を持つ武芸者はいないのだろうか。
敢えてこちらを無視している可能性もある訳だけれども。
それならば、寧ろその武芸者は気にせず、建造物内で実行可能な何らかの対策に意識を裂けば良い。
幸いこちらの世界には地雷とかそういうモノは存在しない。
少なくとも、現状見かけていない。
まあその程度なので安心し切るわけにはいかないが、急に足元が爆発して脚を持って行かれるなんて面白くない出来事に多少恐怖しなくて良い。
これはかなり大きい。
地雷原を突破する等まともな精神で出来るはずがない。
と、何やらトラウマ的なものの影響で喚き叫びそうであったが自重することにした。
もう下手に声を出せば見つかる距離にある。
「!?」
唐突に甲高い音が響いた。
それは牢獄島で慣れ親しんだ警報を思わせる甲高い音である。
それと同時に気配が近づいてきた。
どうやら何やらヘマをしてバレたらしい。
「これですね」
と聞こえたので振り返ると、ベヒス嬢の手には手榴弾の信管に似た形状のモノが握られていた。
「これは気配察知の魔法道具です。これで伝達して警報を鳴らしたのでしょう」
監視カメラみたいなものも配置されていたのだろう。
異様に統率が取れた動きで近づいてきている。
迷いがないといえばいいのだろうか。
まるでこちらの居場所が、動きが判っているかのように。
「あー、俺達に敵意は――」
人影が見えたところでそう言いかけたが、火炎球が飛来してきた。
慌てて回避したが、直撃していたら丸焦げになっている所である。
どうやら、平和的解決を相手は望んでいないらしい。
出てきた彼らが浮かべるそれはこちらにひしひしと殺気を伝えてくる。
ってあれは――
「人、か?」
異様な形状といえばいいのだろうか。
主に人を基準にすれば、だけれど。
耳が尖っていたり角があったり羽があったりである。
先のガーゴイルの様な魔族を思い浮かべることになったが、あの時の彼らとはその異質の傾向は似ているが、根本は違ったものであるように感じた。
「お前たち人と同類に扱うとは屈辱だな。俺達はお前ら人とは違い、崇高な魔族だ!」
怒鳴るように返答してきた男は正しく鬼の様な姿であった。
いや、トラ柄パンツを履いているわけじゃなく、それっぽい角が生えているということだ。
やはり、か。
だが、先のガーゴイルの様な魔族と違い理性やら知性を感じられる。
とは言っても俺からすればどちらにせよ問答無用で攻撃してきているので変わりはないのだけれど。
「おい、ガーク。そいつの魔力の波長――報告にあったものと一致する」
と、鬼っぽいヤツ――ガークの背後で書類らしきものを睨んでいた耳が蝶の羽のような形をした男がそう言った。
報告――とは。
心当たりがない。
この世界では別段特筆されるほどの犯罪は犯していないし問題も以前の世界ほどは無いはずである。
つまりは心当たりが無い。
いや、待て待てよ。
「弱そうだがそうでもないのか? だが、感じる魔力は少ないぞ」
と、ガークは返す。
「まあ、そうだな。だから、今は捨ておいていいだろう。問題は後ろに控えている女だ」
俺だけが木陰に出てベヒス嬢はひっそりとしていたのだが、バレていたらしい。
「ふむ? ああ、見たことがある。あのハーフ、あいつは末梢しておいた方がいいな。確実に後で響くことになる」
と言うや否や、気配が増大した。
増大という言葉で片付けられない。
それに、絶大である。
ガーゴイルの様な魔物など一撃で葬れそうな魔力が辺りに響く。
それは水に意思を落とした時に生じる波紋の如く。
「はああああああああああああ!」
背後からベヒス嬢が飛び出し、烈火断層を放つ。
おいおい、いきなり必殺か。
戦隊物で言うと、いきなり、全員の武器を合体させて放つ必殺技とかいきなり巨大ロボに乗り、全員で掛け声を合わせて出さなきゃならない未知のルールに囚われた必殺技をぶっ放すようなものである。
どう考えてもオーバーキルで相手の活躍なんて無いし、立場なんて頭に入っていない行動である。
「いきなりご挨拶だな」
――それが人間であればである。
魔族は、名前通り魔法に長けているのだろうか。
魔族側は誰一人欠けていないどころか、先と違うのはガークが右手を突き出しているだけである。
つまり、どうやったか知らないが、彼は片手でベヒス嬢の蒸発死の死者を防ぎきったのである。
それも、表情から察するに余裕で、でだ。
「だが、温いし甘い。魔族である俺達にたかが人間が編み出した魔法が通用するとでも思っているのか?」
――魔法メインのベヒス嬢には分が悪いかもしれない。
あれをどうやって防いだのかわかればまた話は別かもしれないが、今はどうしようも無い。
「隙があったら攻撃を繰り出してくれ」
「……わかりました」
ニヤニヤとガークは笑っている。
ガークしか動いていない所を見ると、人間をなめているらしい。
となると、今のうちに全員を仕留められると万々歳である。
と、思い俺が脚を動かそうとした――
「雑魚すぎだな。その女でその程度――更に魔力の低いこいつはもっと駄目だな。おい! フェン! あれを試用してよう!」
フェンと呼ばれた、先程書類とにらめっこしていた男はああ、と今気がついたというような素振りでポケットから何やら取り出し操作し始めた。
「ガアアアアアアア!」
操作と同時に建造物の壁部分が幾らか解き放たれ、そこから叫び声を上げてガーゴイルの様な魔物と酷似した現れた。
「ちょいとさっき殺りすぎちまったかな。数が少ないな」
と、ガーク。
確かに数は3体だけである。
とはいっても一般人相手なら1体でも間違いなくオーバーキルである。
「補充するか」
と言い、突如空間に穴を作成した。
あれは空間魔法か?
穴の奥にうっすらどこかの一室が見えるのでどこかの空間と空間を一時的につないでいるのだろうか。
「よっと。おし、いたいた」
ずるり、とやけに生々しい音が聞こえた。
ガークの手には何やら握られている。
「――嫌な予感がする。ベヒス、さっさと行く、ぞ――」
あの握られている物体――
何か音を発している。
いや、あれは音じゃない。
言葉、だ。
待て待て待て待て。
まさかあれは――
「タ――ケ――」
何か聞こえる。
いや、それどころじゃない。
耳を傾けずあれなんて無かったと思い気にせずあいつらを消してしまえば良い。
そうだそれがいい。
「タス――――ケ、テ」
握られたもの。
どこか人の形をしていないか。
いや、人の形とは言えないか?
手や足がなければそれは人ではないのだろうか。
皮がなければそれは人じゃないのだろうか。
赤い液体が滴るそれは人じゃないのだろうか。
それを握るあいつらは人の形をしているが――
「やれやれ、この作業も面倒だな。自動でなんとかならんかね」
と、言いナニカはソレに棒状のものを突き刺した。
「ガ――ア――ア――アーーーーーーーー!?」
悲鳴とも呼べない。
甲高すぎてガラスが割れているかのような、ガラスを割り続けているかのような叫びが、音が聞こえる。
「っく! なんて酷い事を!」
まだ、子供では?というベヒス嬢の呟き。
子供?
もしかして、あの段々とガーゴイルの様になっている赤い液体が滴るアレの事か?
あれは子供なのか。
子供なら人間か。
なら、やはりそれを握るあれは人の形をしているが――
――ヒトジャナインダナ
どこか、懐かしい感覚を感じる。
それは――そうだ。
俺が俺であったが毒であった時の感覚だ。
あの時の自分は嫌いだった。
あのタンパク質製造機であった俺を思い出したくなかったのに。
変貌してしまった子供の肉親が思うであろう事を変わりにしてやらなければ。
あの時の俺もそれと同じことを抱いてそれに突き動かされていた。
だからこそ今があり、俺は犯罪者なのである。
あれは人間じゃない、だから――
――■シテモ良インダ




