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魔王物語  作者: ragana
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第二十話 -目的は目的だけど結果ではないし経過でもない-

「なんで俺に付いてきたか――も気にはなるけれど、なんでエドルの行き先を知ってたんだ?」

 王や勇者に会わせてくれと言っていた際は不可能の様な素振りであったのだけれども。

「簡単な話です。エドルとは知り合いでしたし、それに、エドルが報告に来た際の護衛役が私でしたから」

 ああ、詰まりはあれか。

 ベヒス嬢は王と謁見する際に横とかに控えている騎士ポジションであったと。

 と、考えていると、エドルでしたから私が出ただけで、普段は護衛なんて必要ありませんから偶々ですよ、という台詞で会うのは難しい言う反応に納得した。

「っつー事は、エドルが警戒されていたか、それとも王が強いかどっちかか」

「ええ、後者の方ですね。強いて言えば前者も該当しますけれど」

 おそらく、王はそこいらの猟兵よりも強いのじゃないだろうか。

 そこいらの猟兵程度に負けるレベルであるなら暗殺も考慮して謁見の際には確実に護衛をつける。

 それが嫌いな性格かどうかは知らないが、少なくともエドルクラスが現れるまでその行為を他に止められる事の無い絶対的な戦闘力があるのかもしれない。

 とは言っても、もしかすると頑固の極みで言っても仕方が無いとみ限られている可能性も無くはないのだけれど。

「と言う事は、ベヒスはエドルと知り合いか何かだったのか?」

「ええ、友人と言う関係でしょうか。最初に会ったのが戦場でしたので断定はできませんけれど、少なくとも私はそう思ってますよ」

 初対面が戦場でエドルと、か。

 ベヒス嬢じゃなかったら死んでたんじゃねえか?

 いや、仲間として、だったら問題なく生きられるんだろうけれど口ぶりからして仲間としてではなく、戦場で殺し合いをする立ち位置だったんだろうな。

 多分、王は未知数だから分からないけれど、エドル辺りが攻め込んだらあの国は壊滅する気がしなくもない。

 ベヒス嬢クラスがそう何人もごろごろしているなんて考えたくも無いし、あの場所にいた限りで感じた気配からするとベヒス嬢の次がカタブキだったのでそうたいしたやつはいないんじゃないだろうか。

 一般的に見れば絶対的で、俺から見ても絶望的だけれど、ベヒス嬢クラスからしたらないようなものじゃないだろうか。

 先の戦闘でも、受験者という守るべき存在――足枷の様なモノがなければ十分カタブキに勝利できただろう。

 ベヒス嬢の本領は広域殲滅系統な気がするんだよな。

 動きを見ていたらそんな風な動きをしているし。

 対一のカタブキに対多のベヒス嬢の二柱であの国の戦力が成り立っていたんじゃあるまいな。

 二人の総合戦力を考えるとそんな馬鹿なと安易に一蹴する事が出来ない考えが思い浮かぶ。

 対峙した場合を想像すると強ち的を射てるんじゃないかと思えなくもない所が非常に怖い。

 現在、その片割れが真横にいる訳だし。

 感じた気配だけで言うなら、ベヒス嬢が10とすればカタブキは8程でその次は2ぐらいである。

 それ程に気配の差が凄まじい。

 ちなみに、俺は常時魔力放出が無い状態に慣れているのでこの世界的に言うと0とかいう最底辺の極みである。

 スカウターとかがあるなら、戦闘力たったの5か、ゴミだな、以上にゴミである。

 ゴミに失礼だろと言われんばかりに失礼である。

 そんな自分の考えに滅多打ちにされて一人で涙目になりそうになりつつ純粋な心配を投げかける。

「ベヒスが軍事力の結構なウェイトを占めていたのは明白だったろ? そんなのが急に辞職して逃走と言って差し支えない形でこんな所でゴミ以下の野郎の横にいても良いのか?」

 下手したら国というか軍がぐちゃぐちゃになるんじゃないだろうか。

 どうせ、軍とかそういう国家機関的なモンに悪人は付きものだから権力やら財を得ようと出しゃばったりして掻き回すんだろうなぁ、と思う。

 よくある漫画とかだとそれのせいで戦争になったりとか国が退廃するとかのイベントが発生するとかだけれど、本当にそうなってしまわないだろうか。

 個人的に国が潰れてもこの世界の社会に未だに入り込めていない俺としてはどうでもいい。

 どっちにしろほぼ無一文だし。

 心配なのは、魔王――は、俺だから前魔王か――を倒すのに必要なメンバーである勇者達が戦闘前に死んでしまわないかである。

 多少数が足りなくても倒せるとか、勇者がいれば楽というだけでいなくても倒せるとかそんな事なら特に気にも留めないのだけれど判断材料が皆無であるので心配はしてしまう。

 あの未来を示す絵の通りならば前魔王以外に何らかの黒幕がいるっぽいからそれを探すのに苦労しそうだ。

 もしかすると、前魔王と利害一致で一時的に共闘しているだけという可能性もあるけれども。

 兎に角、あの黒いオーラっぽいのを纏った謎の存在を突き止めてどうにかして潰さないといけないんじゃないだろうか。

 個人的には正体と居場所を何とか勇者が知る形になってほしい。

 俺がどうこうするかどうかは又別である。

 結果的に世界が滅びなければ個人的に問題はないのだ。

 対するベヒス嬢は別段俺と同じ思想ではないようである。

 それは熟考している事と浮かべる表情の変化で読み取れるというものだ。

「確かに問題にはなるでしょうね。ただ、黄金色の断裂(ライトライン)がいなくならなければ問題ないのです。だから私は黄金色の断裂(ライトライン)になる為の材料は全ておいてきました」

 口ぶりからして黄金色のあれが使用できれば黄金色の断裂(ライトライン)になるのだろうか。

「ナークが黄金色のあれと呼ぶそれは、烈火断層という風と火の複合魔法なのです。それが使用できるものは黄金色の断裂(ライトライン)の称号を半ば強制で得る事になります。私もそうでしたし、私に烈火断層を教えた師も同様でした」

 と、ベヒス嬢は俺の心を気軽に見透かして返答をする。

 どうも俺は顔に出やすい性質なのだろうか。

 つまり、黄金色の断裂(ライトライン)は個人の別名ではなく、どちらかといえば流派のそれに近いのか。

 だが、常人にあの烈火断層だったか?――を短期間で会得する術は無い様に思えるがその辺りはどうなのだろうか。

「烈火断層はすぐには会得できません。しかし、それは独学であるならばという話です。軍にはまだ師が所属していますし、師が教導してくれるでしょう」

 早ければ数ヶ月で扱う程度には至れるでしょう、とベヒス嬢は付け加える。

 浮かべる表情を見る限り多少の罪悪感を抱いてはいるだろうが、技量があるからなのかそれとも人柄が良いからなのか知らないが師を信頼している事だけは感じ取れる。

 台詞を聞いて若干その師について興味を抱いた事を再び読心術紛いに悟られてしまったらしくベヒス嬢は言葉を続けた。

「師は文字通り一騎当千だったらしいです。全盛期の際は単騎にて昔起きた戦争を終戦へと導いたと風の噂で聞いたことがあります。それが事実である証拠はありませんし、人間に出来うるものなのかと疑問に思わざるを得ませんが、確かに師は強い。私なんて足元にも及びませんよ」

 ――それは化け物クラスじゃあるまいな。

 ベヒス嬢でもおそらく人間という枠組みの限界に近い存在のはずなのである。

 それをも軽く凌駕するとなるともはやそれは人と呼べるのか疑問に思う。

 ――魔か鬼か。

 師匠の一人である宇美音子さんが都合が悪くなったり理解できない事に直面していた際に呟いていた口癖とも取れるそれがふとよぎった。

 宇美音子さんはどうも物事を考えるということが得意ではなかったらしく、頻繁にその言葉を聞く機会があったのだが、その際は、何を言ってるんだと理解しかねる点が大半を占めていたけれど今ならば多少同調できる自信はある。

 人の域を越えた人はもはや人と呼称して差し支えの無い存在であるのか危うくその境界は朧であるのだ。

 しかも、聞く限りでベヒス嬢の師は狂人になっているわけでなく、何かが壊れているわけでもないようである。

 羨ましいものだ。

 俺の師――いや、以前の世界で関わりのあった達人は三人を除いて漏れなく狂人であった。

 その質や方向性は様々であるが狂人であることに変わりはなく、個人的には酷く迷惑だった。

 彼らが狂人であったから今の俺があるわけだけれど、職業が犯罪者である今の俺を鑑みるとそれは良くないことであったのは明白である。

 経過的にも結果的にも事実的にも客観的にも。

 俺はそれに対して喚く事も――当時は疑問に思う事さえしなかったがそれ以外の事実を知ってしまった今となっては彼らを師事した自分を殴り飛ばしたい気分である。

 などと無駄な回想は切断(カット)しよう。

 閑話休題というヤツである。

 話は逸れてしまっていたが烈火断裂自体は基礎の魔法の複合であるのでベヒス嬢の師がいるのであれば教導は出来るだろう。

 問題は、常人に扱えるか甚だ疑問である魔力制御の精密さを要求されるわけだけれども。

 通常、魔力の流れを視ると、木の根のように端まで魔力の筋が行渡っている。

 が、烈火断裂は筋ではなく塊と思える程度に枝分かれしている。

 それだけでも何やら別の次元であることが見て取れる。

 一般レベルなら仕組みの理解は出来るかもしれないが把握はできないだろうな。

 どちらにしても迷走しそうな予感がしなくも無い。

 そこはベヒス嬢の師次第だろうな。

 まあそれこそ、魔か鬼か疑わしい実力であろうからいい方向に進むのではないだろうか。

 そう考えると、案外ベヒス嬢が席を空けても何とかなりそうな気がしてくる。

 ううむ、あまり気にすることじゃあなかったのだろうか。

 何だか錯覚である気もしなくもないのだけれども。

 俺がそう言うとベヒス嬢は、そうですそうです、と何やら急いた様に頷く。

 若干それに引っかかりを覚えるもその引っ掛かりが何やらあまり認識できないので後ろ髪を引かれつつも突っ込まないことにした。

 まあ、懸念は消えなくは無いが意識しないことが出来る程度に緩和されたというか誤魔化されたというかそういう扱いになっている為やっとこさ事実確認を終了することが出来る。

 あれから全く本来の機能を発揮していなかった両足が稼動し、移動することが出来るようになった。

「とりあえず、エドルの後を追おうと思う」

「わかりました」

 とりあえず、エドルが向かったというスニントという国へと向かうとしよう。

 今回は位置的にこのウヌク国から出るのにさえ時間がかかるだろう。

 エドル曰くこのウヌク国は先のヌーダイセ王国の1.6倍程の土地であるらしい。

 そして、このウヌク国の首都になっている街、ウヌクはヌーダイセ王国に近い位置に存在する。

 国境までのそれぞれの距離はかなり違ってきている。

 今回はそれがよろしくない方向に作用している。

 現在地は、ウヌク国の中でも目的地であるスニント国から最も遠い部類に位置するのである。

 国境に行くまででも今まで以上にかかってしまうかもれない。

 ここに来るまででも事件に遭遇したというのに、それだけの距離を移動すれば単純計算それ以上の回数問題に遭遇することになるのである。

 エドルには恩があるため会いに行かなければならない。

 面倒だが仕方が無い。

 仕方が無いのでその辺りの不平不満は切り捨てて無かったかのように振舞う積もりであるがどうしても拭いきれない懸念点がある。

 俺と共にいた際のペースでエドルは進んでいるのだろうか。

 結論から言うと、もしエドルが尋常ではないペースで進んでいれば追いつけないだろう。

 それに、今回はベヒス嬢が行き先を偶々知っていたから良かったものの、次の国でも同じように解るとは限らない。

 寧ろ、今回を鑑みると解らない可能性のほうが高いと考えざるを得ない。

 不安でしかなく不安しかない。

 ただ、エドルも浅はかではない。

 俺は追いかけると言っておいた。

 エドルのお人よし具合から考えてペースを落とす――というのは、任務が任務であるのでないかもしれない。

 少なくとも俺でも知ることが出来理解できる道標のようなものは設置してくれているのではないだろうか。

 ここぞとばかりにポカ的に失念してその辺りの配慮が無い場合も無くは無いだろうし、面倒だからと敢えて配慮していない場合も無くは無いのである。

 急ぐことに越した事はなく急がない事は寧ろデメリットであると感じる。

 と、言ってもベヒス嬢が共に来るのでそこまで早くは進めないけれども。

 ベヒス嬢は平均的な兵士以上の体力はあるがあくまでそれまでなのである。

 戦闘ではなるべく体力を消耗しないような動きをしている節がある。

 それは達人クラスと比較して体力が低いことを補うためのものではないだろうか。

 それに対してエドルは並々ならぬ体力がある。

 それはもう叩き売りしても尚在庫が残りそうなほどである。

 追いかけるのが無謀であるという意見が脳内会議で存在感を肥大化させてくる。

 俺の信念というか性質というかよくはわからないが、その辺りが諦めることを妨害するので出来るところまではやっておこう。

 と、ぐだぐだ思考したが、少なくともスニント国までは行ってみることにする。

 そこで足跡が途絶えたら途絶えたで別の方法を探すとしようか。

 どちらにしてもこの国からは早めに脱出した方が良いだろう。

 下手すると指名手配になりかねない。

 指名手配されると本当に笑い事じゃあ済まない。

 どこに行っても誰かが俺を捕縛しようと血眼で追いかけてくるし、相対すると話し合いではなく武力を持ってして相手側にとってのみの平和的解決を率先して選択する。

 この世界ではその様な事が無いように願いたいところだがこの願いはそう上手く叶うものなのかと心配せざるを得ない。

「んで、こっちだったな? んじゃあ行くか」

「はい、行きましょう」

 俺の考えをまたまた理解したのか多少歩調を速めてベヒス嬢は歩み始めた。

 本当によく心を読む。

 決して魔法を使用しての読心術ではないので勘に近い何かだろう。

 その精度を見る限り勘という言葉一つで片付けていいものかと疑問に思うし、片付けられるほど気に留めていないわけではないのだけれど。

 それはもはや特技の域を超え一つの技術に感じられるほどのものである。

 現在のところ的中率100%であるのだ。

 そう考えて不自然な所はあるまい。

 幸い追っ手の気配は無い。

 未だにあの惨状の目撃者が現れていないだけかもしれないので安心するには至らないが、当面捕獲される恐怖を感じる必要は無いだろう。

 一応、付近の木々の間を縫うように、木々に姿を隠すようにというか隠しているのだけれど――先へと急いだ。

 日数がかかりそうであるので全速力とは行かないけれど、一般人ならば走っていると言っても差し支えない程度の速度で歩いている。

 気に塗れて闇に塗れて。

 俺は一応神によってここにやってきたのだから立ち位置的には勇者のはずなのだけれど、と何やら言葉で表せない不満感が溢れてきたが言葉で表せないので一蹴することにする。

 ふむ。

 もしかすると、神の性能が最悪であったのかもしれない。

 よく考えてみると、ユウトやカタブキと言った三年前に召喚された勇者は俺に干渉した神とはまた別の神の干渉によってこの世界に現れたのではないかという考えに至った。

 幾らなんでも自分が召喚した勇者の人数を数え間違えるなどやらかしはしないだろう――しないと、していないと信じたい所だ。

 兎に角、順当に考えて彼らと俺の担当神は違う。

 もしかすると、担当神が同じヤツなんていないかもしれない。

 八百万とは事実であったのかもしれない。

 本当に八百万人の神がいるかと問われると首を傾げる程度の認識であるけれど、複数人いるだろうという質問に頷いて返すのは問題が無い程度には認識している。

 それなら既に席が埋まった状態で召喚されるのも頷ける。

 頷けるが、納得は出来ない所が辛いのだけれど。

 それに、どちらにせよ俺ははずれの神を引いたのかもしれない。

 連絡は頻繁に取り合えと殴り飛ばした後に豪語したい気分である。

 思い浮かべるだけで苛立ちが現れるので、この件に関して自身の認識以上に腹に据えかねているのだろう。

 この変化に俺は我ながら驚かざるを得ないだろう。

 尤も、この世界に来た事事態は後悔していない。

 あの神に関わった事は後悔しているけれど。

 それに勇者でないことも個人的には嬉しいことではある。

 頂けないのは、下手すると犯罪者であるということだ。

 犯罪者であること自身は慣れのせいか何も感じないが、いかんせん動きにくくなる。

 大よそそんな事を考えながら足を動かし続け一時間ほどでベヒス嬢に疲れが見えたので休憩することにした。

 未だに森は抜けない。

 相当広大であるようだ。

 木々は生い茂り、相当の背丈がある。

 樹齢数百年らしき大樹などごろごろ、といった具合だ。

 生い茂りすぎて葉等の緑は、通常よりも濃く感じる。

 黄緑と深緑ほどに差がある。

 いや、それ以上かもしれない。

 閑話休題。

 兎に角、ベヒス嬢共々良い具合に穴の開いた樹木があったためその中で腰掛けていた。

 腰掛けると入っても場所は所詮樹木の横穴であるので形としては地面に直接座っているような形なのだけれど。

 地面と遜色ない程度に風雨にさらされ土が敷き詰められているそれであるが、座れるだけで随分疲労蓄積が緩和される。

 疲労の蓄積もある。

 そろそろ寝床を探し始めてもいいかもしれない。

 ベヒス嬢は女性であるので野宿はさせたくないのだが生憎付近に村はないし、人も街を出てから一度も見かけていないという過疎っぷりである。

 寧ろ人がいないので安全ではないだろうかという考えが過ぎったが一応宿を探すために視線を走らせ続けた。

 そういえば、洞窟の件で食料が全て破棄せざるを得ない状態まで品質劣化というか低下が発生したのであった。

 せめて今日の分程度の食料は確保しておきたい。

 食事が出来ず力が出ずペースが落ち、最終的には餓死する等というB級映画にも無いような展開にはなりたくは無い。

 ベヒス嬢はまだ体力が完全に回復しないらしいので少し散歩に出るとしよう。

 ベヒス嬢にその散歩に出る旨を伝えそこいらを散策することにした。

 木々のように草も同じように生い茂っている。

 その生い茂り具合からどこに崖があるなどという判断が出来ない為慎重に進むことにした。

 そのへっぴり腰はぎっくり腰かと問われそうなまでに曲がり、歩を進める速度は先ほどまでとは打って変わって牛歩戦術の方が幾分かマシではないかと疑問に思う程度にゆっくりである。

 俺の場合は崖だけでなく、ちょっとした段差でも取り返しの付かない程度に意識を失う可能性がある。

 そう考えると仕方が無く、寧ろ当然の装備である。

 周囲を散策してみると、存外木の実が生っていたりウサギ程度の動物からちょっとした犬程度まで様々な動物が生息していた。

 すかさず数匹の動物を捕らえ木の実を両手に収まる程度に収穫してきた。

 動物は腸処理とかを施した後に食すとしよう。

 反応を見る限りベヒス嬢も慣れたものなのだろう。

 寧ろ捌くのを率先して手伝ってくれ、焼くのは火属性魔法を器用に扱って行ってくれる次第である。

 軍に所属していればこのような出来事はザラで、寧ろ順応できていなかったらこの場にいなかったであろう。

 まあ、国の意向により変わるだろうが、兵士はそこそここういう事態に遭遇するのである。

 尤も、俺のこの薀蓄もどきはまた聞きであるので正確ではないかもしれないのだけれど。

 いやしかし、強ち間違っているという訳ではないだろう。

 以前の世界にいた際に師匠の一人であった兵士から聞いたことであるので事実である可能性が高い。

 懸念点はその師匠は相当に嘘吐きであるという事だろうか。

 ただの嘘であるなら嘘だと切り捨ててしまえばいいのだろうけれど、時たま事実を言うためそうやすやすと切り捨てられない。

 調味料が無いため味気ないが、そこいらで採取した食べられそうな木の実やらきのことコラボレーションして口へと入場させることで多少改善されたように感じた。

 尤も、それらのアクセント無しの状態で肉を頬張ったのはただの一度であるので本当に改善されたかは判らない。

 詰まる所、ちゃんと味わっていないならば気のせいと片付ける場合も無くは無い程度に効果が無かった。

 捕獲した動物も採取した木の実やきのこはあまり良い味ではないのだ。

 判りやすく言うなら吐いても咎められない程度に不味い。

 ――食うけれどね。

 ベヒス嬢は表情を変えずに黙々と腹へと流し込んでいた。

 明日こそ――

 明日こそまともな食事が食べられますように――

 ――そう、あまりの不味さに当初の目的を失念し信じてもいない寧ろ喧嘩を売りたい程度の信仰度で神へと祈った。

 食事を終えてすぐに俺は何をしていたのだろうとその事に関して後悔することになった。

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