第十八話 -技術は力よりも面倒くさい-
PV60000、ユニーク10000突破しました。
これも皆さんがめげずに読んでくださったお陰です。
感謝です。
ベヒス嬢は動くや否や躊躇無く黄金色のアレを出現させ切りかかった。
その長さは上手く受験者に当たらないよう配慮され伸縮していた。
かなり器用だなぁと俺は感心するばかりである。
今ベヒス嬢が使用している鎧と剣は俺が作成したものだ。
多少、汎用性を高めたほうがいいだろうか幾つか改造した状態で作成したのだが、役に立つといいなあ、程度に眺めつつ、ベヒス嬢に降り注ぐ攻撃の幾つかを風圧によって弾いた
崖をも切り崩した黄金色のアレであるが、カタブキの斧は切り裂けないらしい。
全て受け止められている。
熱を受け流して切断を防いだりしている素振りは無いので純粋に切断できないのだろう。
そういえば、勇者の扱う武器って総じて神器とか呼ばれているあのカスみたいな神が授けたものだっけか。
ならば切断されないのも頷ける。
カスはカスでもすごいカスなのである。
他者がどう言おうと社会の神の評価が文字通り神であったとしても俺の中のこの評価はそうそう揺るがないだろう。
絶対と断言しない所がポイントである。
二人の攻防はかなり激しいものであった。
一般人が二人に触れるまでも無く、10mぐらいまで近づくだけで問答無用で消し飛ぶだろうという具合である。
もしかすると、それ以前に消し飛ぶかもしれないが。
俺は職業が文字通り空気にはなりたくはないので不用意には近づかず少し距離がある瓦礫に身を隠している。
臨機応変に移動して適切な位置を陣取るのが俺の役目であると言ってのけてしまいそうである。
当然、俺の役目はそれではないので泣く泣く危険を冒さざるを得ない。
俺の役目はカタブキの隙をついて奇襲をかける事だと勝手に考えている。
ベヒス嬢に宣言していないというか、そもそも宣言していないので、俺以外の全員は、俺の役目は自重してこっそりと瓦礫の隅を住処にする小動物宜しく隠れる事が役目であると言うのではないかと言う程に行動が伴っていない。
多少へっぴり腰であるので余計なのではないだろうか。
そのへっぴり腰により発生する背筋の具合が小動物のそれに似ているんじゃないかなぁと、無駄な思考に耽りつつ隙を待つばかりである。
徐々にこの戦闘中で一度も奇襲をかける隙など発生しないのではないかと不安になってくるが、ここで早まると奇襲は成功しないだろう。
下手をすれば奇襲どころか攻撃を仕掛ける前に流れ弾に当たって死亡なんて自体もまあ無くはないのである。
俺は未だに魔力を展開する事に慣れていない。
それ故に戦闘中の殆どというか、現状は数回を除いて魔力を使用していない。
というか、使用し忘れる。
最初に魔力を展開してから戦闘を開始したとしても何れ忘れて魔力の展開が無くなるだろう。
そんな俺の防御力は神ではなく紙なのである。
負の意味では神な防御力だけれども。
おそらく、この世界での一般人よりも防御力は低いだろう。
一般人でも多少の魔力を内包していて、常に少量は展開しているのである。
名称的に飛び跳ねないといけないのかと思える週刊雑誌にどういう訳か毎週ではなく適当に載せられている某ハンターの漫画で表現するのであれば、俺は常時"絶"の状態なのである。
その脆さが良く分かるというものだ。
それはもう涙が出そうなほどで、戦闘ならば血が出る程なのである。
度が過ぎれば肉体から魂が放出されて肉体の主導権を放棄する事態になりかねないものである。
そう考えると、エドルや魔族といった強者であると思われる――少なくとも魔族は一般人より強いし、エドルは人間で最強に位置する一人じゃないだろうか――と戦闘を行って良く生きていたものだと自身に賛美を送りたくなる思いであった。
そんな状態で、当然、瓦礫に身を隠し息を潜める今もそれである。
所謂、絶の状態である。
流れ弾で死に瀕する可能性を十分と秘めたその状態を回避しようと魔力を高めても良いだろうが、慣れない事をして隙を見逃すなんて事になってしまっては目も当てられないし、そもそも魔力を垂れ流しにすれば俺の肉体強度やら身体能力やらが上昇して生存率が上昇すると思いがちであるが、魔力を垂れ流しにすると魔力使いである者に存在を感知され易くなるのである。
つまり、感知されて発見されてフルボッコされてもう一度物理的にか精神的にかは分からないが、あのバカ神に対面する可能性が出るうえに、あの世と呼ばれる世界――俺の場合は地獄と呼ばれる場所だろう――に引っ越し、恐らく長期間滞在する事になるだろう。
それを鑑みると、物理的な面での生存率は上昇していそうであるが、総合的な生存力は低下するのは目に見えていた。
それ故に魔力を全く展開せずにいるのだが、恐慌状態に何故ならないのかと疑問に思う程度に恐怖に圧迫されて物理的には兎も角、精神的に死んでしまいそうであった。
ストレスで白髪とか増えてないよな?
現在、髪の色が黒から別の色――刀身に写ったものを丸々信用するならば恐らく金――になったのだが、それでも尚白髪になるのだろうか。
記憶によると、金髪の人々も何の問題も無く白髪になった覚えがあったが、何分幼少時代の記憶であったので定かでは無かった。
そう考えている間にもベヒス嬢とカタブキの殺し合いは続いており、打ち合う数は50合を超えている。
両者ともにその動作が準備運動の役割を果たしたのか一つ一つの動きが速くなっている。
ベヒス嬢は俺の出身世界で言うと達人の一歩手前の人間の平均の速度と同等である。
カタブキは最早それを超越して残像を見せている。
速度は明らかにカタブキが上であるが、戦況は均衡している。
速度面で負けているベヒス嬢が均衡に持ちこめているのはカタブキの武器の扱いの技術が無いに尽きる。
いや、厳密には年期に伴った技術は存在している。
召喚されて数年は経過しているらしいのでそれ相応の技術はあるのである。
場数も勇者と呼ばれているだけありそこそここなしているのだろう。
それ故にそこいらの兵士よりは扱いが上であるし、少なくとも受験者よりも格段に扱いは上手い。
だが、それをもってしてもベヒス嬢の技術と比較してしまうと些細なものとなってしまうのである。
ベヒス嬢のそれはかなりの腕前である。
達人と呼べる程であるかは首を傾げざるを得ないが、もしかすると首を傾げて考えた末に達人であると判断するかもしれない。
それ程なのである。
技術に差があり、それを武器に均衡に持っていっているベヒス嬢に驚嘆して以外にそれを表現する方法を思いつかなかった。
だが、均衡に持ち込んでいるだけでは勝敗は決さない。
おそらく、最終的に体力が先に無くなった者が敗者になると言った安直と言うか単純というかそういった結果になるだろう。
そうなると、女性であるベヒス嬢が不利であるのは明白である。
両者の自身の精錬がどれ程なのかにも左右されるだろうがいかがなものだろう。
どうもその辺りは魔力などがあるからか前の世界の様に肉体を見て察すると言うことが一概には行えないのである。
現に、ベヒス嬢はかなりの剣の使い手であるが、それらしい体つきはしていないように思える。
カタブキは斧の扱いについてはこの世界に来てからと読みとれ、何らかの武術を長期にわたって行っていた事が分かる程度である。
両者未知数な部分が拭いきれないので勝敗の予測を立てられない。
取り返しがつかなくなる前にベヒス嬢の援護を行った方が良いだろう。
「ハッハハハ! やるな! 黄金色の断裂!」
とそんな五分かどうかも負けるかも勝つかも何も予測が立てられない不安定な戦闘にも関わらず笑みを浮かべカタブキは叫ぶ様に言う。
この激戦でもなお俺の耳に届く声である。
「それは光栄ですね」
とベヒス嬢はベヒス嬢でこの激戦に対して苦渋の表情も何も浮かべずに相対している。
一見笑みを浮かべるより余裕が感じられないので普通に思いがちであるが、それは錯覚で気のせいである。
寧ろ、笑みを浮かべる方がマシである。
自身がその場に身を置けばその異常性が理解できるだろう。
――前の世界にも何人かの達人はそんなヤツだった。
「そろそろ出し惜しみしていたら負けちまうなぁ!」
――カタブキの移動方法に変化が生じた。
ベヒス嬢も気がついたらしく警戒を露わにしている。
「――分歩法」
俺や受験者からすれば何をゆっくり歩いているのだろうと、フルボッコしまくれるじゃないかと思えるだろうが、対象であるベヒス嬢にとってはそうではない。
ベヒス嬢にはよくある漫画の様に自身を中心に円形に移動し始めたかと思うと分身体が見えるようになっている事だろう。
あれは、特殊な歩法を用いて目の錯覚を利用した錯乱歩法の1つである。
――箕田月。
確か、そう名乗っていた流派であった。
その流派は古武術でありながら、攻撃的な技どころか、手技、足技、寝技、投げ技全て存在しない。
あるのは唯一つ、歩法だけである。
歩法だけで戦況を覆し相手を屈する歩法を追求した奇抜な流派なのである。
その不可思議な強さ故に、偏った技術の身でありながら古武術と称しても許されていたある意味の実践的な流派である。
その中でも分歩法は基礎の基礎と言われる技であるが相手を十分に撹乱できる。
特にカタブキはかなりの使い手であった。
全身の筋肉の付き方が素人のそれとあまり変わりが無いと思ったが、これが原因だったか。
分歩法というか箕田月流は特殊故にかなり疲れるハズなのだが、カタブキは慣れているのか余裕の表情である。
ベヒス嬢は冷静を努めようとしているが、驚きを多少隠しきれないようであった。
短い期間とはいえ幾らか武芸者を見てきた俺だが、全員魔力などを使用した戦闘方法になっているので力や魔法にものを言わせがちで、カタブキの箕田月流の様に特殊な技術は確立されていないのだろう。
初見で達人程ではないが片足を突っ込んだような奴の分歩法を見せられたら相当焦るだろう。
しかも、今回はそれが対戦相手なのである。
魔力を使用しない為、魔法の様に解析してどうこうなるというものではないので、魔力や魔法に慣れたこの世界の住人は一際混乱するだろう。
何せ比較するものも参考にするものも存在しない完全な未知の存在で、しかも、知っている者からしてもかなり特殊なものなのである。
混乱しないはずが無く、カタブキの錯乱歩法は十分役割を果たしていると言えるだろう。
――これはベヒス嬢が不利か。
俺もそろそろ姿を見られないとか言ってる場合じゃないかもしれない。
何せ、分歩法は対象以外にはただゆっくりぐるぐる回っているだけに見えるのだが、そこを攻撃したとしても他の歩法と合わせて反撃を十分に行えるのである。
受験者がこの機に突っ込んでやられてしまっていないかと一瞬心配になったが、どうもベヒス嬢が何やら察知したのか受験者に来るなと言ったので受験者はやられていなかった。
ところで、これって次代の黄金色の断裂を選定するものだったはずなんだけど、なんだろうこれは。
完全にカタブキの暴走により当初の目的など全く関係ない事態になってしまっていた。
この施設にいるであろう受験者で無い兵士が止めないし見にも来ない。
カタブキは位が高いようだったので職権乱用というものを行ってこの場を作り上げたんじゃないだろうな。
寧ろそんな気がする。
ベヒス嬢的には黄金色のあれをカタブキを巻き込む程度に伸ばし、地面と平行に構え、一回転するといった所謂回転切りの様な方法を取れば攻撃が届くと思うだろうが、カタブキは当然回避するだろうし、回転している隙に攻撃を貰いそうなので躊躇しているのだろう。
俺がベヒス嬢ならやりたくないしなぁ。
「――しゃーねー」
俺は瓦礫から飛び出す。
厳密には走り出した。
端からラストスパート的な最高速に近い全速力での疾走である。
受験者は俺の動きに気が付いていないのかこちらを見てもいな――一人忍者らしいやつがこっちに気がついたな。
俺に気がついたというよりも何やらが高速で移動した程度の認識だろうけれど。
カタブキは現在俺に背を向けた位置関係であった。
俺が走り出したのは、この位置関係なら奇襲が成功するのではないかという淡い願いに賭けたのである。
よくある漫画の様に攻撃の瞬間に「うおおおおおお!」とか「はあああああ!」なんて掛け声らしい掛け声はおろか、声さえ出さずに息を潜め、ただし全速力と言って過言でない程度に首へと向かって拳を放った。
この状況なら勢いに任せて飛び蹴りをしたかったが、飛翔すると俺の意識が消滅してしまいそうであったので断念した。
本当にこの俺の特徴とも言える無駄な特性は邪魔である。
役に立った事があるのか疑問である負の特徴である。
こいつのせいで相当戦術が狭められている。
と、ぐだぐだ思っても仕方が無いので思考を開始しよう。
結果を言うと、俺の奇襲は失敗した。
普通にしゃがんで回避されてしまった。
ったく、ありきたりな言葉で悪いが、後ろに目がついているのかこいつは。
反撃の斧の一閃が俺へと襲いかかったが身をよじる事で回避できたので行幸だろう。
奇襲の成功への期待はそれ程ではなかったからそれ程落胆はしない。
ベヒス嬢も俺の奇襲の回避を行った隙に攻撃を仕掛けたが、それも反撃に使用する前の斧で弾かれて終わっていた。
「なんだお前はよ。俺は愉快に殺し合いをやってるってのに」
と、カタブキは物騒な発言をしつつ俺を睨みつける。
完全にカタギの目ではなくその筋の人の目つきであった。
言ってしまえば怖くて膀胱から液体をバーゲンセールかと思えるぐらいにぽんぽん放出しかねない目つきである。
俺の怖い顔耐性がマスターの御蔭で強化されていなければもれなくそれを実現していたかもしれない。
顔を見られたら絡まれる可能性があるのでカタブキが睨む寸前に布を取り出し顔にまきつける事によって対策を講じた。
俺の顔見られ耐性は絶賛低下中なのである。
受験者はようやく俺を視認出来たらしい。
今頃ざわめいている。
「だんまりか? まあ、良い。どっちにしてもぶち殺すだけだ」
非常に物騒で出来れば関わり合いたくないと思わざるを得ない台詞を吐いて斧を肩に担いだ。
個人的にはこいつをぶち殺してしまうか、全力でここからの脱出を講じて闘争するのが最も簡単そうではあるのだけれども。
前者は、勇者を殺してしまったら敵側と戦うことになったら頭数が足りない事がどう影響するかわからないので却下。
後者はベヒス嬢を連れて行こうと思えばおそらく逃げ切れないだろうし、ベヒス嬢に迷惑がかかるだろう。
そもそも、ここは扉が閉ざされた閉鎖空間である。
おそらく鋼鉄で作られたであろう何やら他よりも妙に頑丈で、魔法陣でも刻まれているのかなにやら不穏な魔力を感じるそれを破壊するのは手間取りそうなのである。
普通に窓から出るという選択肢もあるが、意識を放棄して逃げ切れるとは思えないので断念せざるを得ない。
ベヒス嬢は別段息を切らせて疲れを見せるなんて事は行っていないのでまだ余力があるのだろう。
ならば、多少自衛してもらうとして早々にカタブキにはご退場願うのが賢明なんじゃないだろうか。
問題は、すでに手遅れ気味だが俺がこの戦闘に介入し、目をつけられてエドルの行き先を聞けないだろうという事である。
顔は隠しているとはいえ、急に近づいてくるものを警戒する程度には介入してしまっているだろう。
生憎と、それらを緩和するように存在する記憶消去の技などは俺は知らないので外部刺激による解決は諦めなければならないだろう。
となると、残された手段は当然意識を刈り取る形での生捕りという事になる。
相手を生かして勝つという結果を出す事は最も難しいものなんだが、やむを得ないか。
こいつ自体は別に殺しても――いや、ダメか。
ここでも殺してしまったら何らかの形で同じようになってしまうだろう。
決して俺は以前の世界での事に良い思いを抱いてはいないのだ。
寧ろ嫌悪するぐらいである。
自身のやらかした事なので嫌悪する資格等ないのかもしれないけれど。
そういう訳であるのでベヒス嬢の攻撃はカタブキが死にかねないようなものばかりであるので俺がやらざるを得ない。
受験者にやらすという方法もあることにはあるが、実力差的に現実的ではない。
そこまで負担を背負って勝てると断言できるほど俺は強いとは思わないし自惚れるつもりも無い。
「――分歩法」
カタブキがそう呟き俺とベヒス嬢の周囲を円状に回ろうとし始めた。
「……ベヒス、下がっとけ」
ベヒス嬢に迂闊に攻撃して貰うと目的が達成できない可能性があるのでやむを得ない。
個人的には心細いことこの上ないのだが。
何せ、箕田月流を見た事などはあっても実際に戦った経験が無いのである。
未知数に等しい。
実際に見たりやったりするのとは違って相対するとなると印象は相当変わる。
特に、この箕田月流の様に、主に対象にのみ影響を与える対一の武術は。
「貴方だけに戦わせるわけには行きません」
とは言われても今ここで戦闘が始まるとおそらく周囲を守る余裕がなくなるんじゃないだろうか。
ベヒス嬢が怪我をしたり死亡したりするのは望むところではないのである。
「ベヒスの攻撃は致死的なモノだから今回の戦闘には向かない」
というと、理解していたのか唇を強くかんでいた。
どことなくベヒスが握る剣が軋みをあげたように思えた。
「――わかりました。負けても良いですから決して死なないでください。」
どこまで出来るかはわからないけれどね。
「ああ、何せ俺はベヒスに一度勝ってるんだからな」
そういうとベヒスは頷いて後方に下がる。
受験者に何か言ったらしく、受験者の下がれる範囲まで下がって行った。
これで、周囲に気を使わなくていい。
強いて言えばこのマスクの役割を果たす布は死守しなければならないけれど。
そうこうしている間にカタブキは俺の周囲をぐるぐる回り分歩法を発動してきた。
足音は単一でありながら複数のカタブキが目に映る。
只の幻影であるので何とかなる。
俺には神から授かった素晴らしい能力があるのだ。
何、単純な話である。
耐久値を視ればいい。
本体以外は目の錯覚によるものだ。
つまりは、幻影やら蜃気楼やらそういったものなのである。
虚空の存在。
で、あるなら耐久値があるはずがないのだ。
あったとしても本体とは歴然とした差があるだろう。
それ故に、耐久値が視える存在、又は耐久値が他よりも高い存在が本体なのである。
それにさえ注意すれば、分歩法は普通に走るよりも遅い歩法であるので避けるのはいとも簡単にこなせてしまう。
それだけでなく、反撃という名のカウンターを図ることも可能なのだ。
「――お前、見えてるのか」
とカタブキが話しかけてくる。
俺の反則故の成功が見破られたらしい。
一瞬カタブキは視界同調の様な反則的技が使用できるのかと思ったがそうではないようである。
目線から俺の目を見ている。
ああ――視線を読まれたか。
確かに、本体を注視していたので目線は本体に注がれることになる。
それからバレたらしい。
良い作戦だと思ったのだがどうも俺は考えが足りないらしい。
本体がバレていることを知ったカタブキは歩き方を変化させた。
分歩法での戦闘は諦めてくれたらしい。
「ったく、何モンだお前はよぉ。分歩法以降の発展やら派生技は疲れるんだがな。まあ、その分きっちり殺してやるよ」
どうやら、分歩法よりも難度の高い技をやらかしてくれるらしい。
俺としてはこのまま諦めてもらうのが一番良かったのだけれどその提案は飲まれそうに無い雰囲気であったので口に出す労力を負担する事を破棄して次の攻撃に備えることにした。
いや、攻撃というより歩法に備えたのだけれども。
カタブキが歩法を変化させると分身は消失した。
どうやら分身が出るというややこしい技ではなくなったらしい。
俺は内心喜び叫びテンションがこの上なく上昇したのだが、それは滝壺に落ちるが如く急激に下がることになる。
分身がいなくなるのは問題ない。
本体であるカタブキ本人も見えないのはどういう冗談だろう。
瓦礫にでも身を隠しているのかと思い、耐久値を視る事で調べたがどうも見当たらない。
耐久値が視えなくなる例外は幾つかあるが、一つ、この場で該当しそうなモノがあった。
厳密には二つだが、片方は個人的な考察により却下。
おそらく、カタブキは先ほどよりも高速で移動しているだろう。
だが、高速すぎる速度で移動しているから見えないなんてしょうもないタネではない。
おそらく、箕田月流古武術。
先の分歩法と、足音を消したりする効果のある隠密歩法である遮軌痕の混合発展技、識歩湾でも扱ってるんじゃないだろうか。
カタブキの見た感じの技量だと、奥義の一、百歩先を会得しているとは思えないので、姿が見えないとなると削除法である。
他の武術を齧っていてその技であるならまた考えを改めなければならないが、箕田月流は特殊故に会得が難しい為、他も齧るなんて阿呆な事は出来ないだろう。
一応は、百歩先やら別の武術の可能性も考えておくけれど。
「楽しく無残に殺してやるよ!」
なんて、愉快そうに叫んでくれているが、それでも居場所は掴めない。
先ほどの様にゆったりとした速度の歩法ではないのである。
台詞を放っている間に別の場所へと移動しているだろう。
それに、コレは先の分歩法の様に一定のルートを取らなければならないわけではないのだ。
その分、会得が凄まじく困難なのであるが。
それを気軽に使用するカタブキには驚嘆を隠せない。
どうやら今までのエドルや魔族といった今までの戦闘より目的達成は遥かに困難であるらしい。
今までの様に楽観視した思考では敗北の一途である。
そろそろ手札の出し惜しみをして勝てる相手ではなくなってきたということだ。
とはいっても、手札はベヒス嬢戦辺りから切り始めるという情けなさがあるのだけれども。




