第十六話 -集団には近づくと非常に巻き添えを食らう-
「何とか上手くいったなぁ」
個人的には傑作である。
能力に慣れているわけではないので絶対とは断言は出来ないが、今の俺に出来る最善を尽くせたように感じる。
オッドは友達になってくれたが、ベヒス嬢とも友達になれる気がしていた。
コレをあげるからどうこう、というのではなく、確執的なものは軽減できるよう配慮したといったところか。
どちらにせよ、弁償的なことはしたいとは思っていたけれど。
取り合えず、封印をしなおす。
「ナーク! 君、魔法陣を一瞬で書いてなかったか!?」
そういえばそうである。
ああ、もしかすると魔道書の副産物だと睨んでいる現象の恩恵かもしれない。
「ああ、俺って魔力に敏感らしくてな。だから微妙な調整ができるんだろ」
と、理由は定かではないが適当に言っておく。
追求されても答えられるはずが無いのである。
今はそれよりもこの傑作をベヒス嬢に渡したい。
何やら不思議な気持ちである。
これがワクワクドキドキと表記される気持ちであるのだろうか。
何にしても善は急げである。
武具を手渡すのが善であるかはさておきであるけれども。
オッドは何やら自分の世界に入ってブツブツ言いながら近くにあった紙に何やら数式らしきものやらを書いていた。
その速度は手に残像が見えるのではないかと思える程であった。
オッドは天才なのだろうかと少々驚くことになった。
元の場所に戻ろうか。
だけれど、予想以上に時間がかかってしまった。
ベヒス嬢は俺を探して何処かへ行ってしまったかもしれない。
そうであったなら非常に悪いことをしたと罪悪感に際悩まされることになるだろう。
とにかく急いだ方が良いかもしれない。
「オッド。俺は、急いで行かなきゃならん場所があるからもう行くから!」
と、若干足を動かし、座標移動こそしていないが走っている動作をして忙しない事を体現して見せた。
「ああ、じゃあな」
オッドは愛想無く手をひらひらさせて行くが良いよという意思を伝えようとしてきた。
良い事か悪いことかはわからないが、それが伝わったので俺は何か思うところがあるがその場を立ち去ることにしようとした。
ああ、そう言えばベヒス嬢にコレを渡す事でいっぱいになって失念していた。
元々俺がここに訪れた思惑はベヒス嬢にコレを渡す事でも素材を入手する事でもない。
「オッド。訓練場ってどこにあるんだ?」
俺がそう聞くと判っていましたというのを通り越して最早待っていましたよ、と言わんばかりの顔をしながら振り向いた。
「訓練場は――そうだな、丁度、君の関係者である黄金色の断裂が居る場所だよ」
――ベヒス嬢との関係がいつの間にかバレている。
俺は即行で警戒体制へと移行したが、相対するオッドはニヤニヤといやらしく不快感しか生成する事が出来ないであろう無駄の権化である表情を浮かべて自己主張していた。
「ナークは抜けている所があるね。その鎧と剣の形状を見ればここにいる全員は気がつく事だよ。黄金色の断裂の鎧の形状は少し他とは違うし、それにそこまで背丈が低い騎士はここにはいない」
ああ、そういえばそうだな。
そもそも女性用の鎧だと体形が違うから、女性騎士がベヒス嬢だけであるならバレるし。
迂闊であった。
バレたのがオッドであったから良かったものの、他の奴なら今すぐ問題が発生していただろう。
「そっか、ありがとう」
「ああ、気にするな。おっと、そうだそうだ。さっき運んでくれって言っていた荷物だが、あれも素材だから持っていってくれていい」
俺は頷いてすぐさま素材を保管し、今度こそその場を後にする。
来た道を辿りベヒス嬢と別れた場所らしき場所に出ると、そこは先程までとは異なっていた。
決して、よくあるゲームや漫画の様に、建造物の形状が変わったなどではない。
いや、一応、出入り口とかが見えるようになっているのでその辺りの変化はあるがあくまで視覚的な話である
人が異常に増えていた。
満員電車どころか、電車にさえ乗った事はなく、写真で見たぐらいでしか接点が無かったのだが、満員電車並みの混みようだと表現しておこう。
もしかすると、行った事が無いがコミマという同人誌等の即売会の如くであるのかもしれない。
どちらにしても、異様で異常な混みようである。
訳がわからない変貌を遂げた場所であるが、ここを通らなければ話にならないので致し方が無い。
とはいっても、人ごみは溢れる男達である。
それも兵士らしき剣や槍といった重そうな刃物を携えた男達が大半であるのでガタイが良く、正直この人口密度ならば決して歓迎は出来ない体型である。
ベヒス嬢がこの先におらず、コレ以前の部屋に居たならば眼も当てられない。
幸いにも、ここは廊下の突き当りである。
人込みと入ってもせいぜい廊下の一部に収まる程度であるので大した人数ではない。
これら全員を確認――ベヒス嬢が居るか居ないかを確認できれば問題ないので強ち全員とは言い切れないが――し、ベヒス嬢が確認されなければこの人込みを通る必要が無いどころか接触する必要も無い。
そうと分かれば即行で確認して立ち去りたい。
俺はすぐさま人込みへと眼を向けた。
この人数ならそう時間はかからないのではないだろうか。
唐突だが世の中そう上手くはいかないものである。
良い意味など思いつくはずも無く、掛け値なしで悪い意味で俺は背が低い。
平均的にどの程度であるかはこの場合は関係が無い。
問題は、この人込みを構成する人間の大半は俺より格段に背が高いのである。
その状態でこれだけの人々を確認できるだろうか。
それに良く考えてみると、ベヒス嬢と俺は同じぐらいの背丈であるのでそれも相まって更に見つけにくくなっているのではないだろうか。
そうであるならば絶望的である。
どれ程絶望的かというと、個人的に東京ドームいっぱいに人が居る状態で逸れたぐらいである。
とはいっても、探さないわけにはいかないので俺は眼を皿にすることにした。
結論から言うと、数分でベヒス嬢は見つかった。
遠目からであるが、周囲の男達が女性に気遣っているのか何かと女性が目立ったのでその中からベヒス嬢を見かけることが出来たのだ。
ベヒス嬢に声をかけようとするも、人込みという名の肉壁により近づくことが出来ない。
叫んで知らせるにしても男達の雑談という名の騒音により俺から発せられた音は、音を掻き消す音により空気の振動が円滑に行われずエア電話は伝達出来なかった。
それによりもどかしさが発生し、それにより派生して苛立ちが微かに募る。
一体全体何故こんなに人が集まらねばならぬというのだ。
そう考えている間にベヒス嬢は人口密度が特に酷い場所にある部屋へと入って行った。
俺も行こうと奮闘して見るがどうも上手くいかない。
この男どもはベヒス嬢と言った女性にしか道を開けないのか。
こう込み合っていては俺が抱える鎧と剣が非常に邪魔と言うか、剣が危ない。
特に俺は刀身が上を向く様に抱えていたので、背丈の関係から下手に接触すると相手の頭部を切ってしまいかねない配置である。
鞘を作ればよかったと少々後悔したが、肉壁なんて切り刻んでしまえという悪の誘いが聞こえてきてしまった。
囁きが危険なので一旦ここを離れて様子を見る事にしよう。
周囲の会話から何やら試験と言うかそういうモノが開催されるらしいのである。
ベヒス嬢もそれを受けに行ったのなら今これらを手渡しても荷物になるだけだろう。
ベヒス嬢の試験が終わるのを待つのは吝かでは無い。
肉壁を半ばまで突破したにも関わらず引き返すのは多少惜しいものはあるが惜しんでも仕方が無いので諦める事にした。
ベヒス嬢に迷惑をかけるのは今の所好ましくないのである。
いざ、離れようにも周囲の肉壁が邪魔をして思う様に動けない。
悪戦苦闘するも両手がふさがっていてそれ程悪戦苦闘ぶりはみせられない。
囁きが大きくなってきたので少々急ぎ気味に蠢いているが、あまり意味はないようである。
唐突に移動が円滑になった。
が、目的の方向とは魔逆である。
つまり、ベヒス嬢が向かった試験会場臭い部屋の方向へと、である。
何とか回避できないものかと肉の奔流に逆らおうとするも、様々な方向から押し押されるのでどうしようもなかった。
「……くっそ」
結局奔流に翻弄され、試験会場臭い部屋へと押しこまれてしまった。
幸い、部屋は広い。
肉壁は分散し、肉壁の機能を果たさなくなった。
人口密度の緩和である。
これ幸と出口へと向かう。
全員部屋の奥の方へと向かっているので出入り口付近は特に混んでいないのである。
今回の移動は奔流と表現せざるを得ない様な先の流れ程ではなく、そこいらの街と変わらない程度につき進める。
俺は思わず唖然としてしまった。
呆然と言っても良いかもしれない。
もしかすると両方を説明に用いなければ表しきれないかもしれない。
簡単に言うと、出入り口に到着する寸前でどういう訳か扉が閉ざされたのである。
ご丁寧に魔法式の鍵を掛けてあるようだし、扉や壁は他の部屋と比較すると異常と言える程頑丈なのですぐさま破壊して脱出するという戦法は取れない。
おそらく、受験者全員が入場したので閉められたのだろう。
どこかに係員は居ないのだろうか。
すぐさま誤ってここにいるのだと告げなければならない。
もしくは、脱出方法の考案である。
窓らしきものは見当たらない部屋であったので窓を脱出口代わりにして外へと移動するという方法もとる事は出来ないのである。
こういう逃げられないパターン多い気がするなぁ、と思いつつ思考を再開する。
「今から選抜試験を開始する!」
声の方を見ると、なにやら劇などで使用されそうな舞台があった。
いや、舞台というのは俺の個人的な感想であるので実際に舞台なのかと聞かれると断言はしかねる程度である。
もしかすると、ただの段差かもしれない。
問題はそこでは無かった。
閑話休題だな。
問題は、そこに乗っている二人の人物であった。
一人は、開始宣言を行ったであろう黒髪の青年。
カタブキ――そうオッドに呼ばれていた彼であった。
彼とは知り合いと言える程知り合ってはおらず、寧ろすれ違った程度の認識で問題ない程度の付き合いであるので、彼がどうしようと俺には関係が無い。
問題はもう一人である。
そこにはどういう訳かベヒス嬢が立っていた。
惚けるのはやめておこう。
立ち位置から考えると、試験管的な役割でありそうなカタブキと同じ位置に居る為、ベヒス嬢も試験管的な何かなのだろう。
そして、選抜試験と言っていた。
何の選抜かは現状わからないが、少なくとも四方に居る兵士らしき男達はこれの受験者で間違いないだろう。
机などが無い為、筆記試験では無いので面接か何かなのだろうか。
正直、過去のパターンから考えると実技な気がしてならないが、一縷の望みに賭けてみるのも悪くはない。
ただ単に諦めきれずにウジウジしているだけの選択なのだけれども。
現状で言える事は、ここからの脱出方法が思いつかないので、それまではこの選抜試験とやらに巻き込まれるという事である。
不法侵入に近いと思われる俺が目立つとベヒス嬢に迷惑がかかりそうであるので、早々に脱落確定になってここから脱出するとか、思いつくまで目立たないようこそこそ隠れ続けるかをすべきだろう。
いつの間にかカタブキと呼ばれる青年は巨大な斧を肩に担いでいた。
刹那ほど前までは斧が見当たらない所か、それらしいものも、それを隠す場所も存在しなかった。
俺の保存と似たような性質の魔法でも使えるのかと思ったが、カタブキからは全く魔力を感じる事が出来ない。
全くなのである。
一般市民でも多少の魔力があるにも関わらず、だ。
何やら引っかかる。
ずっと前に似たような気配を感じた覚えがあるのだ。
その時はそいつの気配なのだと気にも留めていなかったが――ああ、そうだ。
これは魔力の無い者の気配――勇者の気配なのだ。
カタブキは、斧の勇者なのだろう。
「試験内容は簡単だ。ただ、俺――カタブキ ジュンヤの攻撃に耐えれば良い。それだけだ。数がある程度減るまでは続けるから、まあがんばれや」
ユウトとはまた偉く違う印象を受ける。
っと、ちょっと待てよ。
カタブキ ジュンヤ?
カタブキという性は別段どうでもいい。
ジュンヤ?
ユウトとフィニーアの会話でジュンヤという名を聞いた様な気がする。
会話に参加していた訳ではないので確実ではないし、そもそもうろ覚えなのでどうとも言えないのが実際なのだろうが、嫌な予感は拭えない。
俺の記憶によると、ジュンヤという人物は俺と戦いたがるという話である。
聞いた情報を統合すると、所謂戦闘ジャンキーなのではないだろうか。
別の理由で戦うのかもしれないが、俺からすれば戦闘ジャンキーであってもそうでなくても、戦闘を挑んでくるのならそう差はなく、危険である。
舞台の上で斧を携えているあいつがそのジュンヤであるのか断定する材料はないが、俺の勘がアイツであると告げている。
そして、面倒くさい、と。
そんな事を回想宜しく思考しているとカタブキが斧を一度大きく振るい、その後に二度振るった。
最初の一振りで前方にいた集団が一斉に飛翔し自由落下をする事になった。
一部の運の悪い奴らは自由落下する事なく天井に突き刺さる。
かなりの腕力があるのだろうか。
自身の背丈並みの大斧を軽々と振るう事でもわかるが、それ以上に数十人が一度で舞うその光景は圧巻である。
俺は幸いにも後方にいたのでその餌食になる事はなく、傍観を徹することを可能としていた。
斧ならば遠距離攻撃が出来ないと踏んだのである。
離れていたのは出入り口付近で脱出方法を考えていたからだが。
そんな考えは甘かったとすぐに思い知る事になった。
次の二振りによってなのかはわからないが、俺の居る集団を挟むように居た両隣の集団が最初の集団の様に飛翔した。
その飛翔は、集団の中心で爆発があったかのような飛翔ぶりである。
いや、彼らが爆風を体現しているかという様な四方八方へと無差別的に行われる飛翔であるので、爆発が中心で起こったというよりも、爆発が彼ら、そんな表現が脳裏を走った。
実際は、爆発と言うか、原因が集団の中心で巻き起こっているみたいである。
と、よそ見をしていると前方にいた人々が飛翔した。
慌ててカタブキを見ると、既に斧を構え、振るう寸前であった。
振るうと大気が乱れた。
やはり、である。
これは、風圧とやらなのではないか。
剣圧とでもういうのか、斧だけれど。
よくよく見てみると、大気に浮遊している細かなゴミがそれの形をあらわしていた。
その形状は、振り子ギロチンの先端のギロチン部分のみを取り出したかのような形状である。
が、実際の刃物より丸みを帯びているので実際に切断されたりは無いだろうが例に倣って飛翔する事になるだろう。
御免である。
カタブキはそれ程早く斧を振るっていないのだが、これが発生している。
魔力も無いので当たり前だが使用していない。
俺にも出来るかもしれない。
どうせ、今から回避しようと思っても周囲の兵士が邪魔で叶わないだろう。
賭けてみるのも悪くはない。
飛翔は俺にすれば絶対的な致命傷なのである。
下手に飛翔して俺が廃人になってしまったらどうする、と心の中で叫びながらカタブキの動きの一部を真似て生拳突きを行ってみた。
「結構誰でもできることなのかもしれんなぁ」
俺は飛翔する事は無かった。
運よくなのか、当然なのかは知らないが、兎に角風の何かの相殺に成功した。
カタブキの様に風圧と表現すれば良いのかわからないが――ややこしいので、風圧と表現しておこう――を放つことが出来たのである。
その形状は、カタブキのそれとは違い、球体であった。
尤も、速度が凄まじく、楕円に見えるほどであったが。
今まで出来ずに何故急に出来たか。
それも荷物――ベヒス嬢への贈り物――を抱えたままでである。
理由として、おそらく、手が長いというイメージで身体を動かしたからだ。
錬金の際に、今の所100%の確率で裾と袖が短かったのでイメージに齟齬があると判断し、その分長くイメージしたのである。
すると、予想以上に効果があったようで、拳は早くなった――というより、効率が良くなったと言えば良いだろうか。
何にせよ、以前出来なかった事が少なくとも一つは出来るようになったという事である。
何故イメージに齟齬が発生したかは理解しかねたのだが、おそらく、俺が把握しきれていなかっただけなのだろう。
目立つことは避けたいので、当然、受験者を翻弄していたというか喰らっていた風圧を相殺したとバレたくはない。
すぐさま移動し別の集団へと移った。
幸いにも俺が移動した事はここにいる全員にバレていないらしい。
バレていたならば多少なりとこちらへと視線があるはずなのである。
カタブキは俺が先ほどまでいた集団へと睨みを利かせていた。
睨まれている集団は何が起こったのかわからずに、というか何故睨まれているか分かっていないらしく、困惑の表情で震えるばかりであった。
申し訳ないことをしたと思うが、俺は自分を優先するのである。
適当に人気のない場所で寝転がって死んだフリでもしておけば案外バレないかもしれない。
運がよければそのまま不合格者扱いとして処理されるだろう。
そう楽観視しつつ若干余裕を出していた。
無闇な余裕である。
カタブキはまたもや斧を振るい先ほどまで俺がいた集団を吹き飛ばした。
その後に動きを止め眉間に皺を寄せ、何やら考えている素振りをしてみせていた。
その素振りが無くなったかと思うと、不意にぞくり、とする笑みを浮かべ、腰が捻じ切れるんじゃないかと絞った雑巾ばりに捻り斧を構えた。
いやな予感がする。
それはエドルと相対したときのようであり、その笑みはエドルのそれを思い出す。
「があああああああああああああああ!」
と、叫びながら常人では近く出来ない程の速度で斧を振るった。ベヒス嬢以外を吹き飛ばすほどの――ほぼ360°と表現して差し支えのない範囲で風圧を放った。
範囲が広がることで威力が緩和されるのではないかと考えたいところであったが、速度が上がっていたり、触れた部分の抉れ具合から先以上の威力であることが見て取れた。
当然、俺の方にも風圧はやってきた。
あれをモロに喰らえば、他の兵士のように鎧など着込まず、寧ろ学生服で言う学ランの様な形状の、只の布を纏っただけの俺の胴体所か全身が粉微塵になること請け合いであった。
生憎と、俺は露出癖がないため内臓を露出して快感を得られるとも得たいとも思わないし考えていないのでモロ喰らいという提案は脳内会議にて即刻却下された。
回避してみたかったが、この位置からだとベヒス嬢の辺りまでの移動は間に合いそうにない。
飛び上がるという選択肢は諸所の事情により却下というか、そもそも選択肢に入れるつもりさえない。
コレほどの風圧になると相殺できる自信は無かった。
仕方がないと最後の手段というほどではないが、切りたくない手札を一枚切ることにする。
風圧に背を向ける。
ベヒス嬢への贈り物に傷がついたら眼も当てられない。
背後から着々と風圧が迫っているのが空気の流れで理解できた。
「南無三!」
異常ではない程度で出来るだけ多く、身体に――特に背面を重点的に――魔力を込めた。
魔力は、魔法や能力等を使用する際に用いる生命エネルギーの様なものであるが、それを身体に循環させる形で解き放てば身体強化が出来る。
この身体強化、身体能力等の向上は勿論であるが、それだけではなく、本質的な耐久値までもをある程度引き上げてしまうのである。
魔力を込めた俺の身体は襲い掛かってくる衝撃に耐え形を保っていた。
一瞬遅れたり、込める魔力が少なくても粉微塵になっていた所であったので非常に危険であった。
一命を取り留めた。
いろんな意味で、である。
下手に上空へと打ち上げられていたら意識を手放すことになっていたので、ほぼ地面と平行に飛んだ俺の軌道は奇跡の賜物だろう。
俺は背を上に向け、抱える鎧と剣を先ほどの配置で抱え、それを覆う格好になっていた。
眼前に刀身の腹があった。
もしコレが横向きであったなら俺の顔は真っ二つになっていただろう。
刀身は良く磨かれていて、その腹は鏡のように物を反射していた。
「ん?」
そこに写るものに違和感を感じた。
俺がどこにも写っていないのである。
いや、待てよ――
もしかして、もしかしなくても――
異世界移動物でよくあるネタなんじゃあないか?
刀身の腹に写る人物は見たことも無い顔の人物であった。




