第十話 -最強を望む者は最強でないが世の常-
轟音が響き、結論から言うと俺は当然の様に下敷きになった。
岩の天井を殴り飛ばそうにもいかんせん物量作戦が決行されているので迎撃や脱出には時間が足りなかったのである。
岩が崩れ、上手い具合に空間を作成したので俺はなんとかそこに滑り込み骨やら肉やらの一切合財の圧縮による空間節約なんていう匠も驚きの収納方法を確立すみそうであった。
岩は、長い間降り注いだように感じる。
徐々に空間と外界を繋ぐ隙間は失われ、音が鳴り止んだ今では酸素の供給もままならない地獄空間へと成り下がっていた。
そこで俺は恐れていて回避に努めていた閉所恐怖症が発動したらしく、視界が暗転した。
閉所恐怖症は今までに数回は防ぎきれなかったが、それでも出来るだけ回避してきたのだ。
高所恐怖症は意識を失う。
閉所恐怖症もそれであれば別段被害も無く迷惑も無いのでここまで必死に回避に努めなかっただろう。
閉所恐怖症は、言ってしまえば某サ○ヤ人の子供時代の尻尾がある状態で月を見た状態である。
あの漫画を読んでいた際は、目が覚めて辺りが潰れていたら自分のせいだと気が付けと言いたかったが、閉所恐怖症が発病してからその考えは改めることにしたのだ。
目覚めたら辺りが崩壊していれば自分がやったという考えでなく自分は運がよく偶々生きていた。その中で寝ているなんて自分はなんて図太い性格なんだ、と考えてしまっていたのだ。
その出来事が大凡3回繰り返されてから異変に気が付いた。
いや、2度目からおかしくないか?とは思っていたけれど。
兎に角、閉所恐怖症は碌でもないのである。
意識の暗転を回避したかったが、既に俺の視界に光は無く、意識は闇を漂っている。
どれぐらいの時間が経過すればここから開放されるかはまちまちであるので見当はつかず、外界で何が起こっているかは完全にわからないのでこのまま漂うしかすることは無い。
非常に暇である。
ああ、そうだ。
一眠りしておこう。
どうせ目が覚めたら面倒が転がっているか、崩壊の犯人だという目撃が出る前に逃げおおせなければならないのだ。
体力の温存やら回復は視界が暗転した今では必須行動であるだろう。
-light line side-
叫び声が聞こえました。
その響きようと威圧から威嚇術の一つである魔力を乗せた咆哮『拍車声』かと疑いましたが、魔力が一切感じられないのでそうではないのでしょうか。
魔力も無しに持ち前の咆哮でこれ程までの威圧を込め憎悪を込めたモノを放てるものなのでしょうか。
そう考えている間に気配が近づいてきています。
直進していることから崖を破壊しているのではないのでしょうかと考えましたが音が全く聞こえませんので違うのでしょうか。
距離があるからなのかもしれませんけれど、崖の破壊の際に出る騒音を考えればそれは少なすぎるのです。
私にも同じ事をせよといわれると、出来るか凄く自信がありません。崖の破壊は容易いですが音が出てしまうでしょうね。
それに理由はそれだけではないのです。
何人でどうやっているかは不明ですが、魔力を一切感じないのです。
民間人でさえ少量の魔力は内包しています。様々な動作に微細な魔力はつきものなので、それが今は無いのです。
感知できない程隠蔽できる程に魔力の扱いに長けているのでしょうか。それとも逆に民間人以上に魔力の扱いに長けていないのでしょうか。
今は魔力社会となっているので後者は偏狭の人間でもありえないでしょうね。
故に相当の使い手であることになります。
気配の位置からもうすぐ崖を通過し終えます。
山賊の背丈3メートル程の巨人族の男がそれを感じたのか手元にある岩をそちらに向かって投げ始めました。
かなりの速度で飛翔するそれは崖の上部に激突していき、崖を崩し、数を増やして落下してきました。
それ以外に崖は崩れる事無く、ここからでは不確かであるが崖に穴が開き、何か動くものが出てきた事が辛うじて視認出来ました。
横の副長を見ると驚いた表情でそちらを眺めています。
対峙している山賊などそっちのけで。
遠見や先読みといった、視覚に関わる感覚に特化した能力を持つらしい彼ならば私に見えない何かが見えているのかもしれないですね。
見てみると、山賊側もそちらを注目しているようです。
あれほどの声を出し、崖を無視して直進してくれば当然だと思いますよ。珍しく私もそちらに気を取られてしまっていましたし。
「お前らかああああああああ」
と、再びあの叫び声が聞こえました。
驚くことに叫び声をあげる人物は、只一人で崖を通過して来たらしくそれ以外に気配は感じられ、ません。
見る限り何かの機械を使った訳でも無さそうですし、本当に一人で、魔力も無しに素手で崖を通り抜けてきたとしか考えられません。
そうでないなら副長があれ程驚くはずが無い。副長のそんな態度は、信じられないという情報を信じられるほど信用に足るモノでした。
岩がその人物にもうすぐ接触するところまで落下していましたが、その方の安否や、山賊の事よりも、その方がどのように動くかの方を気にしている私がいました。
私は遠くてよく見えないにもかかわらず見入っていたらしいですね。
あれから固まったといっていいほど呆けていました。不覚ですね。
山賊も同じ様になっていなければ惨事になっていたでしょうね。
黄金色の断裂と呼ばれ恐れられている私がこのような失態を犯すとは修行不足ですね。
それ程その方が規格外という事もありますが、現時点では断定できないですね。
失態を犯した自分に零れそうになった苦笑の声は抑えられたが、口の端は不自然に釣りあがってしまっているのは自分でもわかりました。
そうしている間に岩はその人物を隠すように落下してしまいました。
ここにも振動が伝わるほどの凄まじい地響きを起こしながら岩の山が出来上がり、何か起こすかと思ったがその人物はそのまま岩の下敷きになったらしく見渡すも見当たりません。
「おおおおお! 今だー!!!!!」
私達が呆けている間に山賊側がこちらへと攻め込んできたようです。
先の人物ほど面白くないですね。
「……ローム。 ――今すぐ全員を後退させてください」
「は、はい!」
私の命令を聞いて慌てて下がるように命令を下すと、慌てた口調ながら迅速に他の方々に指示を出してくれました。
私の苦手なことは副長であるロームが全て代わりに行ってくれています。ロームがいなければ私は碌な指示も出来ず部隊は瓦解するでしょうね。
良い部下を持ったものです。
さて、私は敵をなぎ払うだけですね。
詠唱を手短く済ませ右手に握っていた剣を掲げると剣が黄金色に煌めいた。
剣の延長線上に黄金色の線の様なものが見えますが、それが私が黄金色の断裂と呼ばれる所以なのです。
山賊全員を屠るのに必要な行動は腕を一度振るうだけで事足ります。
腕を横になぐと山賊は全員黄金色の線に沿うように裂けていきました。
お子様には到底見せられない光景が繰り広げられ、到底聞かせられない断末魔が響きました。
最初は自分でやってなんですが、これを見た私の顔色は決して良いものではなかったでしょう。
油粘土で作った人形の方がまだ顔色が良かったのではないでしょうか。
今では顔色を変えないどころか、眉の1つも動かさずに直視できるようになりましたが、それは喜んでいい事なのか悲しむべき事なのかは私としては酷く微妙です。
どっちつかずもいい所ですね。
二つをふよふよと行き交っています。
切断面が焼かれ、出血が発生しませんので、出血死は無く、少しの時間だけなら半分になったその身で生存し続けるので断末魔が響くのです。
手ごたえが無さ過ぎて失敗したのではないかと思う腕を振るう動作は、気軽さや手軽さとは打って変わって重大で異常な状態を作り上げるのです。
こんな力を振るう私がよく英雄扱いに慣れたものだと不思議に思います。
化けもの扱いと紙一重だったのでしょうね。
奇跡が起きて今が有るのだと私は思いますよ。
ふ、と異常に気がつきました。
よく見てみると、腕は振り切られておらず、途中で何かに引っかかったかのように停止していました。
「……?」
こんな出来事は初めてです。
不思議に思いつつ原因を探りました。腕に何かが引っかかっているのかと思い、腕を調べてみますが、特に何も腕の動作を阻害するものは見当たりませんでした。
あり得ないでしょうけれど念の為に、黄金色の線が何かに阻害されているのかと思い探りました。
「――……ッ!?」
黄金色の線は、崖から出てきた方が埋もれている筈の岩山で停止しています。
何だか、酷く寒いと感じます。
気温はそれ程寒くは無く、寧ろ丁度いいのですが。
その寒さは絶対的な寒さで本質的な寒さ――私が英雄と呼ばれる以前の修業時代に感じた懐かしい感覚です。
――死。
私は慌てて黄金色の線を消し、構えを幾久ぶりに取って警戒を敷きましたが寒さは拭えません。
横でロームが驚いた様な雰囲気で息を飲む音を出していましたが、今はそちらに注視している余裕はありません。
現実がそうであれそうでなかれ、どちらにせよ私に余裕はありません。
間違いなく、先の方は単純に岩の下敷きになってそのまま圧死したという訳ではなさそうです。
魔力が全く感じられませんので見落としがちですが、気配は未だ健在でした。
「――!?」
突如と言っていい程に不意打ちで魔力が増大しました。
先程まで魔力が全く感じられなかったのですが、全て隠蔽していたというのでしょうか。
ヌーダイセ王国の最上級魔法使いであるフィニーア殿程ではありませんが、恐らく、今感じられる魔力量は、彼女ぐらいしか凌駕出来ないでしょう。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
岩山の中――恐らく、埋もれている方でしょうが――の声が先程以上に響きました。
今聞こえた声は、先程と同じ人物が発している声なのか――本当に声なのかさえ疑問に思う程狂気にまみれた声の様に聞こえました。
声が響くと、声は響くだけでなく侵食し始めました。
信じられない事に――どういう訳か分からないので信じるも何も無い状態ですけれど――発信源を中心にあらゆるものが小刻みに揺れ、空気に溶ける様に消えていっています。
何ですかこれは?
岩山が消えるとすぐにその破壊を呼ぶ声と魔力はおさまりました。
残されたのは何も無かったかのように残されたさっきの方でした。
何か動いているようですがこの距離からでは確認できません。
ようやく私は周りを見る事が出来るまで落ち着きを取り戻し、部隊を見ると、半数以上が先の殺気というか覇気というか、死そのもの――エドルが放つあの忌々しくいやらしい何かに当てられて意識を失っているようです。
残ったものもロームを含めて足元がおぼついていません。
これが千鳥足というものなのでしょうか。
少しの間が与えられ余裕が出た所でまた声が聞こえました。
「お前かあああああああああああああ!!」
先程の様に絶対的な寒さを感じさせるものではありませんが凄まじい殺気が籠った声でした。
どうやらあの埋もれていた方はこちらに敵意が有るようです。
そうなら、私は迎撃しなければなりません。
私は部下を置いて逃げる事などしたくありません。
先程からの構えは崩さず、睨みつけ、何時でも応対できるように神経を張り詰める事しか私には選択肢は無いようです。
-main side-
意識が戻ると俺の棺になるんじゃないかと疑ってかかって問題の無かった岩達が消滅していた。
忌避していた閉所恐怖症が発動してしまったらしい。
今回は岩山が消滅した程度――どうやったのかはわからないが――であったので比較的被害は少なくほっと息をつく。
俺が暗黒を自由遊泳している間に決着はついたらしく、やたら巨大な奴がいた側の人間――デカイやつは人間なのか疑問に思うが――が全員上半身と下半身を分離させ、よくあるロボットもののようなものでも体現して見せている。
反対側の騎士団の様な恰好をした勢力は半数以上が地に伏しているものの気配は感じるので死んでいるものはいないようだ。
かなり接戦だったのだろうか。その割に大地が足で乱されていないようだけれど。
何はともあれ岩を投げてきた張本人は上半身と下半身との仲が悪くなっているようなのでもう少しすれば生命と肉体の仲が悪くなっていくだろう。
つまり、俺が手を出す必要は無くなったという事だ。
戦わずして勝利を得る。
まさに今を指すのではないだろうか。
俺はうきうきとし、さっさと埃をかぶった食料たちを救出しようと踵を返すが――
崖、無くね?
どういう訳か俺の体で言うと腰から肩辺りの範囲で誤差はあるが、その位置から上が無かった。
いや、崩れている。
となると必然として残された下はその崩壊に巻き込まれている。
結論から言うと、崖が岩山というか、瓦礫になっていた。
それで見当がつくと思うが、俺の快適すぎる拠点は目も当てられない状態になっているだろう。
無事な下部分の崖を見てみると、断面が焼けている。
岩が焼けているので相当な熱量の何かの影響なのだろう。
誰がやらかしたのだろうか。俺の快適空間は明らかに影も形も無いだろう。
食料に至っては埃まみれを超えて瓦礫まみれとなっているはずだ。
やたらデカイやつがいた側にはこれ程の規模の攻撃を行えそうな者はいないし、見てみると、崖の断面の状態と彼らの上半身と下半身の断面の状態とで酷似しているものがみられた。
それは、焼けているという事である。
断面は酷く焼けているにもかかわらず他の部位が焼けていない事からゆっくり焼いたか熱が拡散しない何かで焼いたかである。
俺が意識を失ったのはそれ程長い時間ではないと腹と太陽の位置が伝えていたので残す可能性は後者のみである。
と、なると犯人は一人だ。
騎士側に一人、それを行える魔力量を持った人物がいる。
寧ろ、他の人物は意識を失っていたり足元がおぼつかなかったり、魔力量が少なかったりと理由は満載である。
理由が無さそうなのがただ一人であっただけであるので犯人と確定できるものではない。
だが、俺の怒りは相当なもので、そんなもの知ったこっちゃないと理不尽さ満載で事に取りかからざるをえない。
あの青が主軸の上着と黒に近い茶のズボンとブーツを着込み、その上に鎧を装備したどう考えてもあの部隊で上位、それもかなり上の方の位の人物がその疑わしい人物である。
もし、間違っていてもごめんなさいである。
「うぇぇ」
よく見ると、あれは酒場で悪目立ちをしていた女性ではないか。
金の髪に、腰辺りまでの三つ編みという髪型である。
酒場の際とは服装は違うが、あの関わってはいけないよ!という雰囲気は間違いなく酒場のあの女性である。
酒場で見かけた時にも思ったが、今の彼女の立ち位置を憶測するに、やっぱりとんでもない人だったんだな。
ふぅむ。関わらなくて良かったなぁ。
今からそれは言えなくなる言葉であるので取り敢えず言っておいた。これで堪能したので後悔はしないだろう。
いやいやしかし。
違ってたら悪いかなぁなんて気持ちが無きにしも非ずだからなぁ。
気が引けるといえば気が引ける。
だけれど理不尽さ満載で事に取り掛かると決めたばかりであるので、このまま気が引けたまま引けすぎて引いてしまうなんて事にはなってはならない。
見てみると彼女は明らかに構えていた。
取り敢えず、間違えていたら弁明したいだろうし一応、犯人だと思い込むことにしていますよと伝えがてら宣戦布告でもしようかな。
「お前かあああああああああああああ!!」
と、叫んでみた。
勘違いであるなら困惑を浮かべてみたり弁明しようとしてみたりなど何らかのアクションがあるだろうと思ってのことである。
台詞のチョイスは聊か間違えた気がしなくも無いけれど。
周囲に居る気絶したお邪魔キャラが文字通り非常に邪魔で戦いにくそうであるが致し方なくこの場を戦場としよう。
感じられる魔力やらを総合してエドルクラスの威圧を感じるので手を抜いてしまえばあの世への片道切符は優先して配布されてしまいそうである。
いや、決して手を抜かなければ相手にあの世への片道切符を提供できるというわけでもない。
どちらかといえば、手を抜かなくても彼女より俺の方があの世への片道切符は入手できてしまうのではないだろうか。
彼女の周囲に居る他の鎧を着込んだ人々がまともに動ける状態でないのは幸いであった。
彼らを気にして彼女と戦うことになればもれなく俺はあの世へと引越しできていただろう。
それ程に彼女から感じる気配は強力なものである。
更に幸いな事がある。
彼女との距離はかなりある。
一般人であれば認識さえ出来ない程度の距離であるだろう。お互いを豆粒の形なのかと誤認してしまいそうな距離なのである。
彼女が構えた剣に魔力を込め始め、気がついた時既に俺は黄金色の何かに襲われていた。
「おっひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
リンボーダンスマスターという称号があるなら間違いなく俺のものだ。
仰け反る形になって辛うじての回避。
前髪が少し焦げてしまった。
「洒落にならんなコレ」
明らかに触らぬ神に触った弊害ですな。
ううむ。俺の勘は冴えていたらしい。
それにしても厄介である。
彼女の行使してきた攻撃方法は見たところ熱を拡散しないように凝縮した何かであるようだ。
イメージとしてはビームサーベルが適当なのではないだろうか。
兎に角よく切れる。
コレを見る限り、崖を切断したのは彼女なのだろう。
前髪の断面が崖と同じ様にこげているわけだし。
これで勘違いかもと疑い始めるのならお人よしにも程があるし、そんな考えを抱くつもりなら犯人探しなど初めからするなと説教したくなる。
それで、問題は切れ味でないところがミソである。
明らかに射程がおかしい。
彼女のあの位置から少なくとも俺の背後の崖を両断できるほどの射程である。
最早無限と称してもあまり差し支えない程度である。
「厄介すぎるよなぁ」
っつか、最早チートだろうと思うよ。
射程が相手以上であるということはやりたい放題がリスク無しで文字通りやりたい放題にやりたい放題な事が出来るのである。
射程が広いのは相当デカイな。
この様な場面になってしまうと、先ほどは喜んでいた彼女との距離は、忌々しい死の宣告にしか見えない。
俺は神の恩恵を受けているはずなのだが等と嘆いて悪態をつこうと思ったが、よく考えてみると、俺は神の恩恵である魔力は使い慣れていないので戦闘時になると自然と魔力を抑えてしまっているし、魔道書は使う気さらさら無いし、能力は現状役に立たないし直接的な攻撃系であるかは頷きかねる。
ううむ。
これは持ち前の力で何とかしなくてはならない空気なのだろうか。
そんな空気欲しくないのだけれど。
同じ空気でもこんな空気でなく自然にあふれた山の頂上で採集した空気とかの方が身体にも良さそうだし欲しいな。
現時点で彼女に戦いを挑んだ事は間違いであることは悟っている。だが、もうどうしようもないのだ。
やっぱりやめよう、なんて切り出したいが、彼女の目は狩る者の目だ……。
ああ、正直に言おう。俺は非常に後悔しているよ。
だが、俺が引き起こしたことだといってまあ間違いでないし、仕方が無いか。やるだけはやっておきたい。
死ぬ際に悔いがあっては溜まったものじゃない。
彼女の振り切った手を見ると、再び構え、魔力がそれに握られる剣に込められていっている。
いや、剣自体に込めているのではなく、剣に――というか、その辺りの空間に魔法をかけているのではないだろうか。
ここで、思いついた今となってはもっと早く思いつけや!と小1時間ほど問い詰めたくなる事なのであるが、もしかして、彼女が黄金色の断裂なのではないだろうか。
彼女の扱うビームサーベル的な火と風の複合魔法は黄金色に輝いており、少なくとも先の攻撃は黄金色の線が走ったかと思うと断裂されていた。
つまりはそういう事なのではないだろうか。
関わってはいけない人物の筆頭、アリアリナ・ベヒス。
彼女のうわさを聞く限り、おしっこちびりそうである。
触れられた部分は本当に吹き飛ぶのだろうか。
そうであるなら、彼女が異常に頑丈なのかそれとも異常に攻撃力が高いかの何れかなのではないだろうか。
どちらにせよ人外判定間違い無しの戦闘能力であるだろう。
アリアリナ・ベヒスとはそういう人物なのであるのだと思う。
出来ることなら俺の勘違いであって欲しい。
だが、油断は大敵なので、彼女がアリアリナ・ベヒスであるという前提で戦うことにしよう。
がちり、と頭の中でスイッチを入れた音が聞こえた。




