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魔王物語  作者: ragana
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第一話 -選ばれた救世主は犯罪者-

小説処女作と言える作品です。

小一時間問い詰めたくなるような出来の可能性が高いですが、心を広く、穏やかにもち、穏便に済ませていただけると幸いです。

一応、完結までの概要は考えていますが、外的要因により随時変化していくモノだと思います。

誤字脱字は余裕であります。

気が付き次第修正していますが恐らく全てではないでしょう。

それでは皆様、宜しくお願いします。

「早く探せ!」

と、最初の頃は全員がそう叫び慌てた。同僚も、普段は偉そうにしている太った上司も、信頼の置けるポーカーフェイスの上司も例外なくだ。

 その時は幸いにも被害は少なかった。

 が、被害が無かったわけではないので上としては黙認することは出来ず、俺たちとしても不安にかられ

るだけでしかないので普段は不満に思う上の判断に歓喜した。

 数日後、その対応は甘かったと思い知らされる羽目になった。そして、それを補った対応もまた意味はなかった。

 次は一ヶ月後であったので更なる対応を施された時はもう次は無いか随分先の話になるだろうと皆安したが、警戒は怠らなかった。安心はしたが嫌な予感はしたのだ。

 他と比較しなくても異常と思われる施錠と24時間体制での見張りを行ったにも関わらず何時の間にかそれはまた姿を消した。これは先の事件からまた数日後である。

 今度こそ、と上は今までに考えられないほどの資金を使って警備を強化した。

 もうヤツに食事を運ぶことさえ困難になってしまった。

 だが、そんな事など無かったかのように一ヵ月後にまたヤツは姿を消した。もう俺たちは慣れたもので不安には思わないし、最初のように焦る事も無い。「またか」、と誰かが呟くと、それに呼応するように俺の口からため息がこぼれた。見てみると、上司や同僚も同じであった。

 この出来事の循環はそれから何度も行われることになった。職務怠慢に聞こえるだろうが、今では俺も慣れたものだ。








「ったく、毎回警備をきつくしやがって。今じゃ刑務所よりも危険なダンジョンの方が表現としてあってるんじゃないか?」

 と、誰にという訳でもなく愚痴をこぼすが、どうも自業自得であるためこれ以上は何ともいえない。

 足元にある隠された罠を跨いで回避しつつ目の前に広がる光に目を細めた。

 前回脱走して以来なのでおおよそ一ヶ月ぶりの日光なので日光浴でもして堪能しつくしたいが、生憎と目的があるし時間も無い。

 ここまできて連れ戻されたらしゃれにならないからな。

 幾多の罠はこれにて打ち止め。次に俺の障害となるのは視界いっぱいに広がる青。

 嵐でもないのに酷く荒れたそれは潮の流れによるものだろうか、見る度に荒れている。

「いたぞ!」

 刑務所内部から聞きなれた声が聞こえた。

 どうやら、時間は本当に無いらしい。背後から感じなれた気配を感じると俺は躊躇無く荒れ狂う青へと飛び込んだ。

 最初はこのまま飲み込まれてしまうのではないかと思えた荒波も、何度目かの挑戦となれば慣れたものだった。

「人間やっぱり慣れだよなぁ」

 荒波にクロールで抗う事およそ3時間。慣れない最初の頃は飛び込んで数秒で意識を失い漂流することになったが、今は海を制せると思えてしまうほどだ。大航海時代なら海賊王になれる気分という事だ。

 抗ったかいあってようやく陸地へと到達した。

 当然、陸へは連絡が行った後なので安直に海岸から進入すれば国家権力で正義の味方と自称する野郎どもに捕縛されるか、少なくとも対峙する事になる。

 二回目の脱走の際に対峙した時は、戦時中隊並みの武装集団と格闘したときはそれはもう本当に死ぬかと思った。

 やつ等はどういう訳か俺を捕縛するというよりブチ殺すつもりで襲い掛かってきているとしか思えない装備と行動であきれ果てそうになった、とは言っても呆れている余裕など微塵もなかったのだけれど。

 俺は海岸からそれてどう見ても90度を超えている傾斜の崖に手をかけた。






 人間は大昔の頃から何事にもルールを制定してきていた。

「難しいものだなぁ」

そのルールの一つである、商品の対価にお金を支払うというルールを守る為にお金を入手したのだがその為にルールを破らなければ俺にはどうしようもないとは困ったものだ。

 これには最初の脱走の際から行ってきて、成功し続けている素晴らしい方法があるのだ。

 銀行という施設はお金を大量に保管している。それを奪うことは難しいとされ、成功例もあるのか怪しいほどだと聞いていたのだが、欲張らずに目的の金額のみを奪って全力疾走すれば国家権力と鉢合わせする前にその場を後に出来る。

 国家権力の到着を円滑にする為に、職員には幾つかの連絡手段が設けられ、更に手がかりとする為に防犯カメラが複数設置されている。通常はこれでどうにかなってしまうらしい。

 そこで俺は単純に対策を行うことにしたのだ。

 防犯カメラに写される前に全て死角から破壊し、連絡を行うのを防止するために全ての職員と客に気づかれる前に意識を奪う。

 俺はそうする事で目的の金額を迅速に入手することに成功し続けていた。

 単純故に対策を打たれにくいらしく、この方法はまだまだ使えそうだ。

 心なしか防犯カメラは徐々に頑丈になっていっている気がするし、職員もどう考えても動きが違う――戦いを知るものが混ざり始めている気がする。気のせいかもしれないが。

 今回も例外無く数枚の福沢さんのプロマイドを手に持ち鼻歌を奏でつつ町へと向かって闊歩している。

 もちろん、なるべく隠れられるように森やビル街を選んで進んでいる。

 こういう場所も国家権力が見回りに来ているが、死角に上手く入ることが出来事なきを得ていた。危うい事であるけれど一時の安心は許されるだろう。

 今回も何の問題もなさそうだ。俺の目的を果たせる。

「確か、今日は待ちに待った漫画だったな。ゲームは無かったよな?」

 と、記憶を確認する。万が一買い損ないがあれば目も当てられない。

 そう、俺の目的は俺にとっての嗜好品の域を超えた存在に位置するこの世界以外を連想できる為の必須となる物品であるゲームや漫画といった物を入手すべくここまで脱走してきたのだ。

 流石に今捕まってまたあの島に入れられてまたここまで来るのは御免だ。

 いや、ここまで泳ぎ着いて銀行からお金を拝借する事は何の問題でもないのだ。

 何が問題かといえば、高所恐怖症故に崖を登れないので緩やかなトンネルを素手で掘るのは両手が大変なことになるのであまりやりたくないのだ。

 トンネルを通り抜けるのも閉所恐怖症が発動しかけて発狂しかねないのだ。

 俺としては自我を失って生きる屍やら狂人の様になりたくはない。つまりはゲーム中毒で無い方の廃人。




 ――閑話休題。




 俺としては目当てのゲームやら漫画の入手さえ出来れば特に問題ない。強いて挙げれば新たな対策が出てきたらそれの確認が出来れば問題ない。

 今回は今までに無いぐらいに上手く国家権力を撒けたので比較的焦りは無い。寧ろ無駄な余裕があるぐらいだ。

 そうだ。その無駄な余裕が俺の運命を変えることになったのだ。

 所謂、フラグを立てた、ということなのだろう。

 どう考えても普段の精神状況なら宙で座標を維持し、何の補助も無く出現し続ける光など見かけた瞬間逃げ去っただろう。決して見つめたり呆けたり触ったりなんてするはずが無い。それはもう天変地異が起きても、防ぐためにそれをしなくてはならない状況であっても例外ではないだろう。

 そんな偶然と呼べるのか良くわからない条件が重なって今がある。非現実――まあ、今居る世界外という非日常であればなんだって良いのだが、それに関与できたことは好ましいが感謝できることではなかった。








「で、どうするんじゃ?」

 白い世界。地面、地平線は辛うじて認識できるが空も全て白い。

 ただの白ではなく、仄かに蛍光的な白である。その世界は端が見えず、どこまでも続いていそうだった。

 その中の唯一の住人――尤も確認はとったわけではない――が目の前でそう問いかけてきていた。

 この白い世界に合わせたかの様な白いローブの様なものを羽織って白い髭を手で撫でている。

 一見して爺さんであだ名が仙人とかになりそうな外見である。

「そんなに唐突に言われてもわからんだろ。一応、聞く耳はあるから説明してくれないか?」

 非現実に見舞われたのだが、俺は何とか慌てふためくことは無かった。

 そのお陰で今の様に現状把握しようと話を聞くという試みを行うことに成功した。

 この成功は、この不幸かどうかわからない現象に遭遇するよりも奇跡のように思えて仕方なかったが触れることなく耳を傾けた。

「とある世界がある一人の人物のせいで終りそうでな。そいつは魔王、と呼ばれておる。お前さんにはそいつを倒してほしいのじゃ」

 よくありそうな話だ。テンプレというやつだろう。

 その内容としては良くあるので先がおおよそ見当が付きそうなので問題は無い。

 引き受けるか否か、ということに関しても一見問題は無い。俺はこの世界に未練はないし愛着も無い。寧ろ飽き飽きし嫌いと思える。

「現状としては全く問題ないどころか願ったりかなったりだが、俺がその魔王とかいう大層な呼び名を持っている野郎に勝てる気がしないぞ。ファンタジー的に言うなら俺は魔法が使えるわけでも特殊な能力があるわけでもない。凡人が訓練さえすれば扱える事でその域でしか出来ることは出来ないぞ? それに、俺は誰か知らないヤツからの頼み事を即答で承る様なお人よしじゃない。どうやってかは知らないが、俺の事をここに連れてきたのが偶然かどうか知らないから言っておくが、俺は善人やら正義の味方どころか、真逆の存在である犯罪者だ。人違いなら俺を元に戻せ」

 後で希望に沿わないから戻ってね、何て事は御免だからな。

 それに、こう言っておけば何らかの恩恵を得られるんじゃないだろうかと下心が満載である。

 爺は少し考えたそぶりを見せて話し始めた。

「ワシは所謂、神という存在じゃ。それではお前さんの質問に答えるとするかの」

 そういうと、神は何処からとも無く現れた椅子に腰掛けた。

 神という発言もだが何処からとも無く椅子が現れた事に対して突っ込みを入れたい所だが、瞬間移動的にこの場所へと誘われた身としてはある程度予想は出来ていることであったので声を荒げて問い詰めることを思い留まれた。

 神は何処からとも無く緑茶を取り出し啜り初対面の人間と話しているとは思えないほどの寛ぎ具合だ。

「ふぅ~、まずお前さんがここに居ることは偶然じゃないのじゃ。ワシはお前さんが犯罪者であること所か何でも知ろうとすれば知ることができる。面倒くさいからその辺は調べておらんがアカシックレコードとか言う便利なモノがあるからの。……無数にある世界の中からある程度の知能があり、自身の居る世界が嫌いで消えても世界に行う修正が少ない人物がお前さんだったという訳じゃがな」

 それは偶然というものじゃあないのだろうか。

 というか、その異論で行くと、少なくとも俺はあの世界でどうでもいい存在だったって訳か。いや、確かに偉業を成し遂げたわけでもないから仕方ないのだけれど少し落ち込みそうだ。

「そういう訳じゃからお前さんの力を期待しとる訳じゃない。それにこの世界には魔法が無いからの。幾ら強くとも敵いっこないじゃろ。じゃからその辺りはワシがお前さんにくれてやろうと思っておるよ。間違いなくその世界で最大の魔、それとお前さんが望む固有の能力をな。先ほど聞いた事はこの能力をどうするかという事じゃよ。何、それ程悩まなくても慣れさえすれば魔力だけで力負けはしないはずじゃ」

 そういうことか。なんとなくはわかったが、魔王の事が全くわからない。いや、魔王自体は目的じゃないのだ。神の口ぶりからして世界が終らなければ手段は問わないといったところだろう。

 神を見てみると、心を読んだのかうんうん、とうなずいている。

 俺としては全く問題が無いどころか願ったりかなったりの申し出と言っても良い。

 俺としては魔法を使ってみたい誘惑に非常に駆られたりしているのだ。断ることの方が難しく感じられる。

「魔王を殺すことが目的で無く、世界の終わりを回避する事が俺への依頼か?」

「そうじゃ。回避したならそれを引き起こさない程度であればお前さんはその後何をしてもかまわん。例えば再び犯罪者になろうとワシはお前に関与はせんよ」

 よくあるゲームの様に魔王は絶対悪という訳ではないのか。言ってしまえば、世界さえ何とかすれば魔王を仲間にしようと問題はない、と。

 ならば、行幸。

 これで答えは定まった。いや、最初からほぼ選択肢は一つと言っても問題ない様な具合の比率だったけれど。割合的には、引き受けるが9で断るが1ぐらいだ。

「その依頼、引き受けた」

「ふむ、そうか。ならお前さんに魔力を授けようかの」

 神が俺に向かって何かを呟きながら指をかざすと異変は起きた。

「これ、が?」

 おぼろげにオーラのようなものが見えるようになったが、それ以上に感じられる。

 視認出来るのはおまけ程度としか思えないぐらいにはっきりと感じる。

 俺の内部、体内とかいう物理的なものじゃない。魂とか精神とか言った様な漠然とした認識しづらいものから何かが溢れている事が感じられる。

 それが膨大な量だという事は感覚的に理解できたが、それでさえちっぽけと思えるほどの魔力という力を目の前の神から感じ取れる。

 それだけで目の前の存在が神であると裏付けられそうなほどである。

 力を得て力の差を知る。元いた世界で薄々気が付いていたがあるもんなんだなそういうの。

「そうじゃ。その今、見て感じているものが魔力じゃ。お前さんの世界には無いものじゃからな。ここで少し慣れてから行くが良い。何せ、全開すればこれから行って貰う世界の許容量ギリギリじゃからな。下手をすればお前さんが世界を終らせかねないからのう」

 それってすごく危なくないか?

 まあ、制御さえ何とかすれば問題なさそうだし構わないが。全開にさえしない程度であれば出来そうな気がする。

 不思議なことに魔力はある程度俺の思うように動いてくれる。

 最初は気のせいかと思ったが徐々に動かせるようになってきていた。

「魔法はその魔力を対価に発動するものじゃ。魔力には体内魔力であるオドと、空間に保有されているマナが存在するのじゃ。通常の魔法はオドを対価として行使するのじゃが、マナを対価とするものもある。お前さんに向ってもらう世界は、お前さんの出身世界で言う科学ぐらいに古くから存在するから色々派生や派閥等が存在するんじゃよ。普通は固体に保有されるオドよりも世界の空間に保有されるマナの方が膨大で強力なのじゃが、お前さんはお前さんという個体でマナに匹敵、もしくはそれ以上のオドじゃから注意するんじゃよ。行き成り言われてもわからんじゃろうから補助程度のものはサービスしてやろうかのう」

 神は何が面白いのか笑みを浮かべながらそう言った。

 神が俺の掌を掴むと光が溢れ、俺の手には携帯のキーホルダーにありそうな大きさの黒一色の本があった。

「その本は魔道書の様なもんじゃ。その魔力だけで十分じゃが、それ有効活用をしたいと思ったときに役立つぞい。それを手の平の上に置いて大きくなる様イメージすればよい。それで当分は魔力のコントロールだけで何とかなるじゃろう」

俺は言われるがままに本が大きくなる様イメージすると、大判の書籍程度の大きさに入れ替えたかのように瞬時に変化した。

同時に、様々な魔法についての情報が頭を巡った。どうやらこれは魔法についての辞書の様な物らしい。

「それを使えばあらゆる魔法の構築方法と対策がわかるようになっておる。頭がパンクせんように魔道書を展開しておるだけの知識じゃがな。魔力はワシが最大級にしておいたから後は操作技術じゃが、幸いにもお前さんはそれに優れておる。通常なら先にお前さんがやった様に魔力を自在に移動させる事でさえ住民のエリートでも数ヶ月かかるからのう。天才の域を超えておる。魔法はイメージが重要じゃからのう。お前さんの出身世界での行動が良い結果になったのう」

 確かに、もう身体の一部のように自在に移動させられるようになっていることがわかる。

 神が手を前に突き出すと、手のひらから球体状の魔力の塊が射出された。それは俺からしても消えそうなほどで、神からすれば無いような程度の魔力量だった。 だが、それについて褒められても素直に喜べない。厨二病と言われている気になるというか、そのまま厨二病だからなぁ。

「向こうの住民の平均的な魔力量はこのぐらいじゃな。普段はこれぐらいにしておくが良い。魔力量が異常に多い者でもこれぐらいじゃな」

 と、言うと神は込める魔力を増やす。すると、光は淡く光りだした。

 だが、それでもそれは些細な量だ。異常に魔力が多い者でさえ微かな量に感じられる。

 言い終えると神はまた込める魔力を変化させる。

「これが向こうでの国の軍のエース級の魔力じゃ」

 だが、それも極僅かな魔力量。しかし、住民よりも遥かに多い魔力――大凡、数十倍程度だろうか――である。 というか、チートすぎるだろ俺の魔力量。エース級でも片手所か小指で飛ばせそうな魔力量を俺は得ている。

 まあ、実践は魔力量で決まるものではないが、それでも圧倒的過ぎる。

 俺がそう考えている間に魔力球の魔力量はまた変化していた。

「魔物の大半はおおよそ住民半分じゃな。中には強いものがおるがそれでもエース級の二十倍程度じゃ。お前さんからすれば無いようなもんじゃろ。それで、この魔力量じゃがな、これはお前さんに倒してもらおうと思っておるヤツの魔力量じゃ」

 それは圧倒的に巨大な魔力量だった。

 とはいっても、その世界の生物からすれば、である。

 魔力量は、おおよそエース級の三百倍。エース級で平均的な住民の数十倍であるからその強大さがわかる。

 確かにそれだけの差があれば倒せない。神が俺のような外部の人間に頼みたくなる気持ちが理解できるというものだ。

 住民やらを強化すれば良いのではないかと思わなくも無かったが、世界に干渉できないやらのルールがあったりその世界に関与しているものなら自身の利益のためだけに力を使いそうで信用にならないなどがありそうであるからそれに対しての質問は自重することにする。


 閑話休題。


 何にしても俺は選ばれ、膨大な魔力量を誇ることになった。

 思わず漏らした程度の魔力量で常人所か魔王さえも吹き飛ばしてしまえそうだ。

「魔王についてじゃがな、お前さんがその世界に行った瞬間からお前さんが魔王になるぞい。その世界での魔王の定義は『最大の魔力量を誇るもの』じゃからな。当然お前さんが魔王になる。元魔王は、世界を貶める者として『覇王』と呼ばれることになる。何、その事は住民もとある方法で知っておるから万が一魔王だと知られても迫害されたりはせんよ。気になるのなら練習がてら魔道書を使って封印系の装飾品でも作れば良いじゃろう。ああ、それと魔力量はあくまで平均を教えたにすぎんからな。例外はあるだろうし例外に成れる方法も能力もあるじゃろうよ」

 魔力は、個々によって微細に量が違うということか。

 封印――大きすぎる力の制限は良いと思う。行き成り得ても扱いきれないだろうし。

 頭を巡る知識の中に封印系の魔法があり、魔法道具作成の知識もあった。精錬や生成、錬金等を駆使すれば作成できるであろう事もはじき出される。俺が頭の中で念じ、知識どおりに魔力を動かすと魔法が発動したことがわかった。

 手には5つの腕輪。腕輪といっても針金のようなものが螺旋状になった形状である。それらをDNAの様に絡ませ装着すると大幅に魔力が封印――蓄積された事が感覚的にわかった。

 これで最大開放量が大幅に制限された為、異常な魔力量の放出は防がれた。魔力量はバレても問題ないとはいえ、バレたら十中八九注目されてしまうだろう。生憎と俺はアイドル思考ではないため注目されたくは無い。注目されれば必然と厄介ごとに見舞われる。

 出来れば次の世界――次の人生では穏便に、平和に生きたいものだ。魔力量などを考えるとそれは難しいだろうが。

「おし、まあ魔法については現状問題無いな。後は、その世界の言語や金があるならその辺りについてだな。無一文で始めろというならある程度の稼ぎ方を教えてくれ」

「言語は問題ない。転送する時に頭の中に送っておくわい。金銭は、合金貨、白銀貨、金貨、銀貨、銅貨の順に価値がある。銅貨はお前さんの出身世界で言えば千円程度の価値じゃろう。尤も、この世界と出身

世界では物の価値は異なるじゃろうがな。銅貨100枚で銀貨一枚、銀貨100枚で金貨1枚となる。残りの二種も言わずもがなじゃ。住民の平均月収はおおよそ銀貨数十枚。お前さんには無一文で行ってもらうことになるが、猟兵所と呼ばれる――実質は何でも屋じゃが――その様な役割の集団がある。お前さんならそこで登録して魔物でも狩れば金銭などすぐに手に入るじゃろうよ」

 よくある異世界系と考えて問題ないか。なら、なんとかこの魔力量で押していけるだろう。

「んじゃ、最後に。魔王――覇王って言ったほうが良いか? そいつは何処にいる? それともソイツの目の前に転移したりするのか?」

 最後になってしまったが、これが本題である。俺としては放置したいが、生憎と放置しておけば世界が滅びる。どうやら世界移動の魔法なんてものは存在しないらしいので何とかしなければならないのだ。

「覇王は数年はブリゴラという大陸の北の方にある国を統治しておるよ。何、放っておいても数年後には色々な国と戦争するじゃろうからわかるじゃろう。戦争前に倒せば楽じゃろうが、戦争が始まってからでも良い。じゃが、戦争が終って二年以内になんとかしてくれ」

 それぐらいに覇王は何かやらかすって事か。未来的なモノがわかるとは流石アカシックレコードを閲覧できるだけはある。

 それにしても穏やかじゃない。口ぶりからして神としてはブチ殺してほしい様だし。まあ、その辺りは俺に選択権が有る訳だから適当に俺が判断するけどね。

「さて、そろそろ見たい番組が始まるからさっさと送ってしまうぞい」

 コイツ、ふざけてるのか? というか、この世界にもテレビとかあったのだろうか。見当たらないどころか何もないけれど。

 俺の一生がかかってるってのに。俺の状況よりも番組が気になるなら、良くある小説の様に向こうの世界に飛んだらどうせコイツは現実的にも俺的にも空気になるんだろうな。呼んでもめんどいとか言って協力してくれないに違いない。下手すれば返事さえしないと思う。

 そんな事を正しいかは兎に角、悟った俺は転送に対して抵抗もせず、異議も唱えなかった。どうせ無意味だろうし。

 神が両手を俺に突き出して踏ん張り顔を真っ赤にしていると、俺の視界は白に覆われた。

 いや、元々背景は白かったけれどね。

「能力については後で適当に決めるがいい。それでそれをイメージすれば後はこっちでやるからの」

 そうして俺は新たな世界で新たな人生を謳歌することになったのだった。

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