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第一話




 床に描かれた円陣の中心で、私、こと倉見くらみまいはポカーンと口を開けて突っ立っていた。

 暗色のローブを着た者達が、右往左往しながら何かを叫んでいる。


 「うわぁ!本当に現れたぞ!おい、どうするんだこれ!?」

 「と、とにかく魔導師長を呼ぶんだ!」


 ……これはなに!?舞台セット!?いや、私、帰宅途中だったし。


 何が何だか分からない。


 「だからやめておけと言ったんだ!」

 「そんなこと言ったって今更だろ!間違って呼び出してしまったものは仕方がない」


 んん?

 いま何か不穏なセリフが聞こえたような気が……。



 「あ、あの、ここはど……」

 「この馬鹿者どもがっ!!」


 地鳴りのような怒鳴り声に、誰もが石のように固まった。そして、一人の老人が怒りの形相で私たちの前に現れた。年の頃は六十代、黒のローブをまとている。おそらくこの人が、魔導士様で間違いないだろう。


 「無断で禁書を持ち出して、あまつさえ神聖なる秘儀を行うとは……っ!」

 「ひぃっ!も、申し訳ありません!!」





 後に聞いた話によると、彼らは新米魔術師で、こっそり持ち出した禁書を使って召喚の儀を行なったらしい。もちろん無断で。つまり正式なものではなく、遊び半分で私を呼んだわけだ。

 本人たちもまさか成功するとは思わなかったようで、この騒ぎとなったのだった。


 そもそも、異世界人の召喚法は古代の遺物と言われており、魔物たちが蔓延していた太古の昔に使われていたとの文献はあるが、勇者として召喚された者が魔物を殲滅したので、その後は不要の産物として廃れていき、やがて人々の記憶から消えていったのだという。


 それなのに!駆け出しの魔術師たちによって、私が呼び出されてしまった。


 事態を重くみた上層部の者たちは、当時の文献を読みあさった。そこで明らかになったのは、私はあっちの世界で死の間際に召喚されたこと。

 元の世界に戻っても、その直後に死んでしまうだろうとのことだった。


 つまり元の世界に戻った次の瞬間に、私は死ぬわけだ。うげげ……。


 退路を完全に絶たれた私は、突然別れることになってしまった友人や家族を思って落ち込んだ。だけど、ウジウジたところで事態は変わらない。こうなってしまったら、頭を切り替えて前に進む他ない。


 「私はこの国の王太子で、リチャード・レイ・グレータンドと申す。そなたには、多大な迷惑をかけてしまい心から申し訳ないと思っている。詫びとして、そなたの身の安全は我が国が保証し、グレータンド王国の民として暮らせるよう尽力すると約束しよう」


 王太子と名乗る金髪碧眼の青年が、謝罪の言葉を述べた。歳は私より少し若いか同じくらい。いろいろイケメンワードがそろっているけれど、残念なことにとんでもないブサメンだ。


 失礼を承知で言わせてもらうが、目は糸目でせっかくの碧眼はほとんど見えないし、鼻は横に大きく広がっている。そして唇は、ヒアルロン酸を大量投与したかのようなタラコ唇。


 とどめが彼の体形。まるで波に打ち上げられたトド。あるいは、トロールではないかと疑いたくなるような容姿をしている。こんなブサメンが王太子を名乗るとは、なんと罪深い。


 彼の隣には、くだんの事件を起こした者たちの上司である魔術師長が頭を下げている。国のトップたちに頭を下げられると、こっちまで落ち着かなくなるので止めて頂きたい。


 「わ、わかりました。そちらの謝罪を受け入れたいと思います。とりあえずは、住むところと仕事を探したいと思っているのですが」

 「そなたには、憂いなく過ごせるよう経済援助も含まれている。自ら働きに出る必要はない」

 「いやいや、自分の食い扶持くらい自分で何とかしますから。とは言っても、もと居たところではしがないOLだったので、こっちで何ができるか分かりませんけど……」


 電話の受け答えやパソコンのデータ入力のスキルなんて、ここでは何の役にも立たない。今の私にあるものと言えば、この健康な身体ぐらいだ。こんな事になるんだったら、もっと何か活かせるスキルを身につけておくんだった!


 こうして私は、仕事が見つかるまでお城でお世話になることになった。そして、まずは魔力テスト。そう、ここは剣と魔法の世界だったのだ!それを聞いて、年甲斐もなくワクワクしてしまった。


 「それではマイ様。こちらの水晶に手をかざしてください。魔力の属性と、潜在する魔力量を測ります」


 黒のローブを着た小太りな魔術師長さんと一緒に別室へ移った私たちは、大きな水晶が置かれている部屋に入った。この水晶を使って測定するようだ。


 「異世界から召喚された歴代の方々は、皆様大変強い魔力をお持ちでしたので、マイ様にも魔力をお持ちだと思われます」


 そんな風に期待さたらプレッシャーを感じてしまうではないか。でも、どんな魔法が使えるのかすごい楽しみだ。

 私はドキドキしながら水晶玉にそっと触れた。すると、ボンヤリと白く輝く。


 「うわぁ!光った!!」


 興奮冷め止ますに、叫んでしまった。


 「……光りましたな。マイ様には癒しの力が備わっているようです。しかし、光り具合からして力は微弱で、せいぜい擦り傷を治す程度でしょう」


 その言葉を聞いてガックリ。歴代の人たちの中でも、どうやら私は例外だったようだ。どうせ私は間違って召喚された人間だもんね。ふんだ。


 でも話を聞くと、魔力保持者は一割にも満たされない貴重な存在らしく、光魔法は聖女のみが使える魔法であるらしい。

 そこで私は魔力を活かした仕事を探すことにした。



 *



 こちらの世界に来て一週間が経った。まだ不慣れなこともあるけれど、みんな親切な人たちばかりなので、何とかやっていけそうだ。


 白亜の城からは、王都を一望することが出来る。石造りの建物が並ぶ城下町には、荷を積んだ馬車や行商人、そして多くの買い物客で賑わっている。


 そして日が暮れると映し出される夜の景色は、ちょっぴり日本の風景を思い出させた。その向こうには、一体どんな世界が存在するんだろう。いつか、見られたらいいな。そのためにも、まずは生活の基盤を整えないとね。


 グレータンド王国が平和な国で本当に良かった。安全な国で育った身としては、戦争とか魔物討伐とか血生臭いのは絶対に無理だもん。


 それにしても、こっちの人たちは独特な価値観を持ち合わせていると思う。特に、彼らの美醜の感性は私のそれと大きく違っていた。


 この国の王子様と会った時もその容姿に驚いたけれど、この世界では彼は絶世の美丈夫らしい。密かに『華麗なる金の王子』と呼ばれているって……冗談だよね?理解の範疇を超えている。


 だからと言うべきか、城内で働く人たちも個人差はあれど皆コロコロと太った人ばかり。


 実は城での仕事は一つのステータスなようで、容姿に優れた貴族の子女などが積極的に採用さた結果らしい。


 奥二重の目と日本人特有の低い鼻の私は、可も無く不可も無く。これでもうちょっとぽっちゃりしていれば可愛い部類に入るらしいけど冗談じゃない。安定の『どこにでもいる、アラサー女子』で充分です。魔力が微弱な時点で、あまり期待していなかったし。


 彼らにとって細い目と存在感のある鼻、そして大きな口が美しいとされ、ふくよかなボディが理想的らしい。太り過ぎは健康に良くないと思うんだけどね。


 「マイ様の黒髪はツヤツヤで綺麗ですね。夜色の瞳も初めて見ました」


 黒髪黒目の人はほとんどいないようで、会う人からよく珍しがられた。確かにこっちの人たちは、目や髪の色が様々だ。


 打ち上げられたトド……もとい、王太子殿下のご両親ーー国王陛下と王妃様も、陛下は金髪碧眼。王妃様は、銀髪に紫色の瞳をしていた。そして、やっぱりトロールな見た目のお二人。


 いや待てよ?彼らが美の象徴ならば、こっちの世界の不細工は、私からすると美女・美男なのでは!?そう思い至った私は、鼻息を荒くして探してみたけれど、どこを見てもメタボな人たちばっかりでいなかった。そう簡単に見つかるわけないか。


 そんな事よりも、今は仕事だ!働かなる者、食うべからず。いつまでもプー太郎でいるわけにはいかない。でも、この世界で私は何ができるんだろう……。


 そんなある日、リチャード殿下から私にお声がかかった。案内された部屋には殿下が一人掛けのソファに座っていて、その後ろには国王の側近である宰相が私を出迎えた。


 二人とはテーブルを挟んだ向かいのソファに座った私に、殿下は細い目をさらに細めて話しかけた。


 「やあ、マイ殿。こちらでの生活に少しは慣れただろうか。何か不自由があれば、遠慮なく言ってくれ」

 「お気遣いありがとうございます、殿下。皆さんとても良くして下さるので、大きな問題もなく過ごせています」


 殿下は「そうか」と言うと、上体を前屈みにして私を見つめた。


 「……実はマイ殿に折り入って相談したいことがあってな。ここにいる宰相の息子で、私の幼馴染でもあるのだが……」


 宰相の息子さんは殿下と同じ二十歳で、かれこれ十年以上前から屋敷に引きこもっているらしい。宰相さんが沈鬱な表情で話してくれた。


 「息子は容姿に恵まれなかったせいで、今までたくさん辛い思いをしてきました。一人息子なので、いずれは私の後を継いでもらいたいのですが、しかしそれ以前の問題でして。私も妻もいろいろと手を尽くして来ましたが、いかんせん息子の容姿に耐えられる者がおらず手を焼いているのです。そこで、藁にもすがる思いでマイ様にお話をした次第でして」


 なるほど、宰相の息子さんはブサメンなのね……。つまり、私の推測が間違っていなければ、彼はイケメンってことになる……のかな?


 「そこでマイ殿。専属のメイドになって、友人でもある奴の橋渡し役になってもらえないだろうか」


 「もちろんマイ様には、それに見合った賃金をお支払いします。住む部屋や食事なども、全て我が家で提供いたしますのでご心配いには及びません」


 おお、かなりの高待遇!ゼロから出発する私にとっては、願ったりな話だ。でもだからと言って即決するのも不安である。ここは一度本人と会ってから決めた方が良いだろう。


 「……そちらの事情はわかりました。まずはご子息様とお会いしてみて、それから決めてもよろしいでしょうか」

 「もちろんそれで構いません。早速ですが、明日お迎えに上がりますので、どうぞよろしくお願いします」

 「私からも礼を言う。マイ殿、どうか私の友人を救ってやってくれ」


 なんだ、このプレッシャーは。でもまぁ、世界を救ってくれと言われるよりかはマシか。……それにしても、引きこかぁ……。さて、どうするかな。日本でもこの手の問題はあったけど、個人的に直接関わったことないしなぁ。


 「まぁ、手探りでやっていきますか」


 ということで、ちょっと変わった仕事の依頼が私のところに舞い込んで来たのだった。




明日更新します。

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