第9話 婚約者と待ち合わせ(※クレハ視点)
お昼前。
私、クレハ・フラウレンは待ち合わせ場所である学園の正門前に来ていました……が。
「張り切りすぎました!」
どうやら私だけ先に来てしまったようです。
待ち合わせの相手である友人たちや婚約者は、誰も来ていません。
「こんなことなら、リュートくんと一緒に来た方がよかったでしょうか……」
彼と二人だとデートの時間まで間が持たない気がしたので、つい逃げるように別行動を取ってしまいました。
どうせまた、この場所で再集合するというのに。
……とりあえず、リュートくんが来るまでに万全を期すため、身だしなみを整えておきましょう。
私は手鏡を取り出して、少し乱れた髪を手櫛で直します。
「……」
ふと、視線を感じました。
なんだか注目を浴びているようです。
まあ、無理もありません。
紅羽としての前世を思い出した時から感じていましたが、今世の私の見た目はかわいすぎます。
(前世の私もそれなりに見た目には気を使っていましたけど……これはちょっと次元が違いますね)
まさに異世界のお姫様というか。
この容姿で15年間も生きてきたのに、改めて鏡を見ると浮世離れしているように感じるので不思議です。
これほどの美少女が婚約者だったら、リュートくんも好きになってくれるはずです……多分。
「やあ、クレハ」
考え事をしていたら、リュートくんが来ました。
私がここに来てから、数分しか経っていません。
まだ、集合時間には早すぎるんじゃないでしょうか。
「やけに早いな」
「私はたまたま偶然ちょうど今来たところです。リュートくんこそ、もう来るなんて早すぎませんか?」
「今、君の頭に特大ブーメランが刺さってるぞ」
……呆れたような目で見ないでください、リュートくん。
わくわくしていたら思ったより早くリュートくんが来てくれたので張り切っているだけなんです……と口に出す勇気は、私にはありません。
「クレハがこんな場所にいたら、変に目立たないか?」
更にからかわれるかと思ったら、リュートくんは別の話題を出してきました。
「私が変な顔をしているとでも言いたいのですか」
「いや、そうじゃない。ただ……」
なんでしょう。
リュートくんの態度がはっきりしません。
「……クレハは人を惹き付けるような見た目をしていると言うか、男が見たら放っておかないと言うか。例え学校の前だとしても、君みたいな女の子が一人でいたら危ないだろ」
「そう、ですか……?」
君みたいな、とはどんな女の子のことを指しているのでしょう。
間抜けとか、警戒心が薄いとか、小馬鹿にしているのでしょうか。
それとも、もっと好意的に解釈しても、いいのでしょうか。
「リュートくんは、私のこと――」
「お、二人とも早いな!」
「ああ。俺たちも今来たところだ」
私が言い終わる前に、別の大きな声が遮りました。
リュートくんの視線が、声の先に向きます。
テレンスさんとフレデリカさんがやってきました。
危ない危ない。いがみ合っている相手に、弱みを見せるところ……ではありません!
素直になってリュートくんと仲良くなりたいのだったら、ここは続きを口にしなくては。
「今、何か言おうとしてたか?」
「……なんでもありません」
間が空いた後で改めて言い直すなんて、私には無理でした。
せっかくリュートくんが聞いてくれたのに、答えることができません。
「先ほどぶりですね、お二人とも」
「はい。今日はよろしくお願いします。フレデリカさん、テレンスさん」
「はは、今更かしこまるような仲でもないだろ。俺たち四人は親友だからな」
挨拶をしたら、テレンスさんとフレデリカさんはにこやかに答えてくれました。
二人も婚約者同士で、円満な関係を築いていて……私としては、羨ましい限りです。
「それにしても、お二人とも。仲が良いのは分かりますが、随分と早い到着ですね?」
「そ、そうでしょうか?」
「俺も思った。二人とも、張り切りすぎだよな」
そんなことを言って、テレンスさんは豪快に笑いますが。
「「張り切ってません(ない)!」」
私とリュートくんは、同時に否定しました。
……こうもピッタリ被るなんて。
息が合っていて嬉しいような、拒絶されて寂しいような。
複雑な思いを抱える私をよそに、テレンスさんとフレデリカさんは微笑ましげに私とリュートくんを見ていました。