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第31話 女の子に囲まれたリュートは婚約者に睨まれる

 パーティーの本番を迎えた。

 パーティーでは、まずはじめに王女であるアリアが、婚約者となった隣国の王子と二人で登場し、最初のダンスを踊る。

 俺はその会場である王宮のホールにいた。

 会場では、立食形式のダンスパーティーが催されている。

 実行委員である俺の役割は他のクラスメイトが担当するような、来客への給仕や案内ではない。

 個々の業務を担当するクラスメイトたちへの指示、監督役だ。

 パーティーホールの片隅に立って状況を窺いつつ、何か問題があれば対応する。


「今のところは順調そうだな」


 事前にネリーに指導をしてもらった上で、適切な配置を決めていたおかげでクラスメイトたちは円滑に各々の役割を果たしている。


「これなら、俺が何もしなくても大丈夫そうだ」


 特選クラスに所属しているだけあって、基本的に何をやらせても優秀な人間が多い。

 初めてやることでも、しっかり準備をして臨めば卒なくこなすあたり、クラスメイトたちはさすがだと思う。


「よう、リュート。どうやら職場体験は大成功みたいだな」


 執事服を着たテレンスがやってきた。


「ああ、これもみんなが頑張ってくれたおかげだ。俺は途中で風邪をひいて何もできなかったから」

「謙遜するなよ。リュートとクレハが段取りを組んでくれて、指導役も用意してくれたからやりやすいってみんな言ってたぞ」

「だったらクレハの手柄だな。俺が寝込んでる間に色々働いてくれたみたいだし」

「相変わらず、お前はクレハにベタ惚れだな」


 テレンスに笑われた。


「別に、そういうつもりで言ったんじゃないだが……」

「ま、みんなお前たちに感謝してるってことだ」


 テレンスはそんなことを言って、仕事に戻っていった。

 弦楽器の音が奏でられるパーティーホールの片隅で一人になって、俺は思う。


(普段ならこの手のパーティーには客側として参加してるけど……正直こっちの方が楽だな)


 今世の俺は公爵家の後継ぎという立場なので、その権力や富にあやかりたい連中がやたらと寄ってくるのだ。

 その度にくだらない話をして、愛想笑いをして対応する必要がある。


(昔からその手の人付き合いは得意じゃなかったけど……前世が一般人だったことを思えば納得だ)


 何より、俺には既にクレハという婚約者がいるのに、色目を使ってくる貴族の令嬢たちがいるので厄介だ。

 男なら異性からモテることに喜ぶべきなのかもしれないけど、野心や下心が丸わかりだから嬉しさよりも煩わしさの方が勝る。


(今回は執事の格好をしているから、誰も声をかけてこないだろうな)


 そう思って安心していたら、俺から少し離れた場所で談笑していた三人組の令嬢たちがチラチラと俺の方を見てきた。

 程なくして、派手なドレスで着飾った三人が俺の方に近寄ってきた。


「リュート・アークライト様ですよね?」


 三人の中の一人、銀髪の令嬢が話しかけてくる。

 多分、俺より少し年上だ。


「はい、何かご用でしょうか」


 本来の身分で言ったら俺の方が上のはずだけど、今日は客をもてなす立場だ。

 ……なるべく丁寧な対応を心がけよう。


「私は――と申します」

「本日は学園の職場体験ですか? 私も昨年は――」

「いつもと違うお姿も素敵ですわ」


 令嬢たちは口々に話しかけてくるが、俺は半分も聞いていなかった。

 俺が普段パーティーに出席する時は、クレハと一緒のことが多い。

 そのため、他の女性が話しかける隙は少ない。

 しかし今回、クレハはアリアの近くにいる。

 婚約者という最大のライバルが不在であることを、この令嬢たちは好機だと思っているらしい。

 しかも、付近にいた他の令嬢まで、こちらの様子に気付き始めて話しかけようか相談している。


(そう言えば……クレハはアリアと一緒にホールから下がる頃だな)


 ホールの一番目立つ場所を見ると、アリアが来賓への応対を終えて移動を開始しているところだった。

 そろそろ、衣装直しをするために一旦控え室に下がる予定の時間だ。

 お世話役を担当しているクレハも、アリアの近くにいる。


(ああ、早くクレハと会って話したい……)


 話しかけてくる令嬢たちの声を聞き流しながら、俺が最愛の婚約者を遠目に眺めていたその時。

 その婚約者であるクレハが、こちらに振り向いた。

 目が合った瞬間、クレハの表情が和らいだ気がした……と思ったが、直後に不服そうな視線が向けられた。


(なんで睨まれてるんだ……って、あ)


 少し考えてから、俺はすぐに理由に気づいた。

 今、俺の周りには多くの令嬢たちがいる。

 最初よりも数が増えて、総勢7人の年頃の女性たちが、獲物を狙うような目で俺を囲んでいた。


(もしかして……仕事中なのに婚約者以外の令嬢たちを侍らせて楽しんでる、とか思われたのか?)


 確かに婚約者がそんな調子だったら、クレハとしても世間体や社交界での評判が低下しないか気になるだろう。

 もし、そうした理由ではなく、この状況を見て妬いている……とかなら、正直悪い気はしない。

 

(けど、そんなことで喜んでいる場合じゃないか……)


 ふいっと目を背けながら、アリアの後をついてホールを出ていくクレハを見送りながら、俺は別のことに意識を向ける。

 今日のパーティーは多くの来賓や隣国からの客を招いた大規模なものだ。

 この王宮内に普段見かけない顔の人間がいたとしても、違和感がない。

 おまけに、アリアが賑やかなホールから離れて、人のいない控え室に下がっていくこの時間帯。

 隣国の王族との婚約を発表した王女というこの国の超重要人物であるアリアを標的として何かを企むなら、またとない機会だ。


(何かが起きるなら、今からだろうな)


 俺もそろそろ、準備をする必要がある。 

 

「仕事があるので、そろそろ失礼します」


 俺は周囲の令嬢たちにそう言い切ると、有無を言わせる間も与えず囲いを抜けて、その場を離れた。


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