第24話 お泊まり会でクレハの成長を覗き見る
俺はクレハとアリアを寮の部屋に密かに連れ込み、今夜は3人で寝泊りすることになった。
そんな言い方をするとやましいことをしているように聞こえるけど、実際は違う。
悩める従妹の家出に一晩だけ付き合ってやっているだけだ。
「へー、私も高等部に入ったらこういう部屋で生活するんだね!」
当のアリアは、はしゃいでいた。
二段ベッドの二階にある俺の寝床に上がって、楽しげに部屋を見渡している。
「ベッドはふかふかじゃないし、部屋も狭いし、兄様はよくこんな部屋で平気だね?」
「まあ、その辺りは慣れだ。なあ、クレハ?」
「へ? は、はい。そうですね」
クレハに話を振ったらぎこちない反応が返ってきた。
この部屋に泊まることが決まってから、クレハはどこか緊張しているように見える。
「とりあえず一晩この部屋に閉じこもっていれば、誰かにバレることはないだろう。部屋には風呂とトイレくらいはあるし」
「この世界は中世ヨーロッパ風の雰囲気の割に、水回りの設備は妙に整っているので快適ですよね」
「ちゅうせいよーろっぱ?」
クレハが俺の話に同調すると、アリアが不思議そうにした。
「あ、えっと。なんでもありません。この部屋は狭くても便利ですよという話です」
「そっか。確かに、秘密基地みたいな感じがして良いかも!」
この部屋は、アリアからしたら生活空間というよりはちょっとした遊び場だ。
「アリア。あまり大きな声を出しすぎないでくれ。この部屋に君がいることを知られると、色々と困るんだ」
「確かに、家出してるのに居場所がバレたら困るよね……!」
アリアはうんうんと大きくうなずいた。
当たり前だけど、男子寮は本来女人禁制だ。
二人がこの部屋にいることは、誰にも知られないようにする必要がある。
発覚した場合、連れ込んだ女子が誰であれ校則的にも世間体的にも問題だ。
その上、相手が婚約者と王女となると、重大性が変わってくる。
日が沈み、夜になってきた。
腹が空いたので、まずは夕食を取った。
クレハとアリアは出歩くわけにはいかないので、食事は俺が寮の厨房から調達してきた。
現在は、クレハとアリアが入浴中だ。
寮の部屋は六畳の生活スペースに加えて風呂とトイレ、洗面台が完備されている。
寮暮らしと言えど、ある程度のプライベートは管理されているわけだ。
貴族出身の学生からしたら、一人で入るにも少し手狭だと感じる程度の風呂ではあるけど。
では、なぜクレハとアリアが一緒に入浴しているのか。
王女様であるアリアは、一人で体を洗ったり髪を洗ったりできないからだ。
なので、クレハが洗ってあげることになった。
「さすがは王女様って感じだよなあ」
そういう俺も、実家では身の回りの世話はほとんどメイドがやってくれていた。
前世の記憶があるおかげである程度の生活力は保持していたが、生粋の貴族として育った学生ならアリアと似たような状況になっていたかもしれない。
「……そう言えば、アリアとクレハは今どんな感じなんだろうな」
クレハとしては、アリアのことをあまりよく思っていない可能性がある。
今日にしろ以前にしろ、アリアは肝心な場面でいきなり現れて、状況を引っ掻き回しているのは事実だ。
もちろん、その責任の一端はつい甘やかしてしまう俺にあるのは自覚しているけど。
クレハはもしかしたら、そんな俺の態度も気に入っていないかもしれない。
その上、メイドの真似事のようなことまでさせられたら、内心では結構怒っているかもな……。
(二人きりの時に、ちゃんと謝ろう……)
俺はそう心に誓いながら、二人の着替えを持っていくことにした。
ここは男子寮なので、当然女子用の寝間着はない。
仕方がないので、俺の寝間着を使ってもらうことにした。
クローゼットから二着用意して、浴室の方へ向かう。
近くまで来たら、何やら楽しそうな声が聞こえてきた。
「や、やめてくださいアリア様。くすぐったいです」
「クレハ姉様の肌、白くてすべすべだね! それに胸も私と違って大きいね?」
「ちょ、どこを触ろうとしているんですか……!?」
「おお、柔らかい」
「だ、だから、駄目ですってば」
いつの間にかアリアがクレハを親しげに呼んでいる。
一体二人は何をしているんだ……胸がどうとか聞こえてきたけど。
俺は脳内で想像を働かせたくなる気持ちを抑えながら、寝間着を置いておこうと脱衣所の扉を開ける。
「あ」
脱衣所に広がっていたのは、やたらと肌色が多めの光景。
クレハとアリアが、ちょうど浴室から出てきた場面に鉢合わせてしまった。
当然、二人とも何も着ていない。
一糸纏わぬ姿だ。
アリアがクレハの後ろから手を回して、両胸を鷲掴みにしている。
「あ、リュート兄様だ」
「な、なななっ……!?」
抱きつかれる度に思っていたけど、やはりクレハの成長は著しい。
小さい頃、恥じらいなんて概念がお互いになかった頃に、裸を見たことがある。
その時のことはあまり覚えていないが、ぺったんこだった気がする。
けど今は、こう……随分と女性的な体つきになったように思う。
クレハの体は湯上りのせいか、顔だけでなく全身火照っているように見える。
「何をじろじろ見ているんですかっ!」
しばらく動揺していたクレハだったが、我に返ると近くにあったバスタオルを俺の顔に投げつけてきた。
視界が、バスタオルの白で覆われる。
「わ、悪い! まさかもう出てたとは思わなくて!」
俺は慌てて寝間着を置いて、脱衣所から立ち去った。
勉強机の前に座って待っていると、しばらくしてクレハとアリアが戻ってきた。
「ふー……気持ちよかった。アリア姉様とも、少し仲良くなれた気がするし!」
王女様が座るにしては狭い風呂のはずだが、アリアは満足そうだ。
「まったく、信じられません……油断も隙もないですね」
クレハはぶつぶつと呟きながら、咎めるような視線を俺に向けてくる。
ご立腹の様子だ。
まあ、偶発的とは言え裸を覗いてしまったのだから当然だ。
「……改めて、すみませんでした」
「まあ……リュートくんのことですから、わざとではないのでしょう」
誠意を込めて謝ったら、許してもらえたようだ。
「それに、着替えを用意してくれたことには感謝します。少し、サイズが合っていませんけど」
クレハはそう言って、寝間着の襟元を指でつまむ。
クレハの着ている寝間着は男性用の上に、彼女よりも背の高い俺のものだ。
当然、サイズが合っておらずかなり大きめだ。
「悪いな。俺のしか用意できなかった」
「まあ、その辺り考慮せずにお風呂に入っていた私も悪いですし……これはこれで落ち着くので構いません」
「落ち着くって何が?」
「匂いとかでしょうか」
「匂い?」
「あ、今のは聞かなかったことにしてください」
クレハはぶかぶかの襟で、顔の半分を覆って隠した。
恥ずかしそうに、目を逸らす。
なんだこの生き物、かわいすぎる。
「リュートくんもお風呂に入ってきたらどうですか」
恥ずかしさから逃れたかったのか、クレハは俺にそう促してきた。
「ああ、そうするよ」
俺は思わず笑みをこぼしながら、二人と入れ替わりになる形で浴室へと向かった。
正直少し心配していたが、クレハとアリアの仲が良さそうで何よりだ。
これなら、俺がのんびり風呂に入る余裕もあるだろう。




