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第20話 婚約者たちの出来レース

 翌日の昼休み。

 私、クレハ・フラウレンはさっそくリュートくんに対する作戦を実行に移すことにしました。

 今日は中庭ではなく、校舎の屋上でお弁当を食べています。

 学園は少し小高い丘の上にあり、景色が良いのでこの場所を選びました。

 決して、アリア様に知られていない場所に移動したかったからではありません。


「リュートくんに話があります」

「急にどうした?」


 レジャーシート代わりに用意した布の上に、私とリュートくんは座っています。


「もうすぐテストがありますよね。そこで勝負をしましょう」

「勝負?」

「テストの合計点数で、どちらが高いかを競うんです」

「勝ったら何かあるのか?」

「もちろんです。合計点数が高かった方が、低かった方になんでも一つお願いを聞いてもらえるというルールはどうでしょう?」

「なんでも一つ……」


 私の説明に、リュートくんは考え込んでいます。

 あれ。

 この作戦ならリュートくんと恋人になっていちゃいちゃできると思っていましたが。

 負けたら最悪の場合、婚約解消を切り出されるかもしれません。

 もし、前世の記憶を思い出したリュートくんが私のことを嫌っていたら、の話ですが。


「よし、分かった」


 リュートくんはあっさり了承しました。


「けど、片方しか取っていない授業もあるから、ここは基礎科目の点数だけで勝負しよう」

「は、はい」

 

 すっかり乗り気なリュートくんを前に、私はうなずきます。

 今更、後に引けなくなってしまいました。

 リュートくんは勝ったらどんなお願いをするつもりなんでしょうか。

 もしかしたら、私との婚約を解消するいい機会だと思われているかもしれません……!

 こうなったら、絶対に勝ってみせます。

 私のお願いは、リュートくんとデートをすること。

 普通にお願いするのは、照れ臭くてとても無理です。

 断られたら悲しい気持ちにもなります。

 しかし今回は勝負の罰ゲーム的なものという建前があるので、リュートくんも受け入れるしかありません。

 いざデートをすることになったら。

 最善を尽くして、別れる気なんて消え失せるくらい好きになってもらいます。

 デートの終わりにはリュートくんから告白してもらえるよう誘導して、晴れて恋人に……!

 その時のことを想像したら今から緊張してきました。

 ちなみに自分から告白する度胸は、私にはありません。



 翌日の放課後。

 どういうわけか、リュートくんからテスト勉強に誘われました。


「一人で勉強するより二人の方が捗るだろ?」

「確かに、昔からテスト勉強は一緒にしていましたね」


 前世の時から、私たちはいがみ合いながらも二人で勉強していました。

 なんだかんだでいつも一緒にいたのと、成績が同じくらいだったからです。

 私とリュートくんは、前世でも今世でも学年1位と2位を交互に取り合っていました。


「勝負の相手に勉強の進捗を把握されるのはよくない気もしますが……まあいいでしょう」


 リュートくんのことが大好きな私としては、一緒に過ごす機会を逃すわけにはいきません。

 受け入れることにしました。

 

 そんなわけで、私たちは学園内にある図書館にやってきました。

 館内にある自習スペースで、私たちは向かい合って教科書やノートを広げます。

 私はリュートくんが勉強している姿を見て、小声で話しかけました。


「リュートくん、今回はやけに張り切っているんですね?」


 今世のリュートくんは、公爵家の後継ぎとして英才教育を受けています。

 さらに前世の知識も持っているので、今までテスト勉強をしている姿を見たことはありませんでした。


「まあ、俺にもクレハに聞いてほしい願い事があるから」

「ちなみにどんなお願いなんですか?」


 やはり、リュートくんは私と別れるつもりなんでしょうか……?


「それは……俺が勝ってからのお楽しみだ」

「何か、ヒントだけでも」

「ヒントか……強いて言うなら行きたい場所がある」

「行きたい場所、ですか」


 もしかして、私の実家に婚約解消の申し入れをするから、その付き添いをしろという話でしょうか!?


「そ、それは困ります!」

「……? じゃあ、クレハが勝てばいいんじゃないか?」

「確かに! 私、絶対勝ちます!」


 私は周囲に気を使いながら、小声で張り切ります。


「ちなみに、クレハは勝ったら俺に何をお願いするつもりなんだ?」

「それは私が勝ってから教えてあげます!」


 胸を張る私を見て、リュートくんはくすりと笑います。

 ふん、余裕でいられるのも今の内です。


「そうだ、これ過去問」

「え?」


 リュートくんが、テストの過去問を渡してきました。


「いいんですか、敵に塩を送って」

「まあ、その方が平等だろ」

「勝負なんですから、平等さは必要ないのでは?」

「俺にとっては、出来レースみたいなものだから」


 リュートくんは何食わぬ顔でそんなことを言い放ちました。

 私に勝つのは簡単だという意味でしょうか……?


「余裕でいられるのも今のうちです……!」


 私は闘志を燃やしながら、ペンを手に取ってテスト勉強を再開するのでした。

 

 この時の私は、まだ知る由もありません。

 リュートくんが、私と同じような願い事を考えていたなんて。


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