アンドレア戦域76 帝国近衛兵団8
北部戦線、エリー機動大隊現地配備、13日目午後。
エリー達が、バレット市を出てから8時間ほど経過している。
エランは3人の近衛士官を護衛に従え連邦国領内を移動していた。現在、墜落地点から東へ15キロほどの地点にいる。
エラン達4人は農村部に入り複数の民家から、服と少しのお金を手に入れた。
調達したのはムスタングとビアの2人が民家の洗濯物を適当に拝借して服を確保した。住民との遭遇は極力避けなければならないが、日中のため農作業に出ているのか、住民を見かける事はなかった。
「陛下、これにお召し替えをお願いします」ビア近衛士官がエランを見て言った。
「え・・・・・・、これですか」地味な茶色のシャツと紺色のロング丈スカートを手渡たされた。ムスタングとヒルは木の向こう側に行って背を向ける。
木の陰で周囲からは見えないのだが、一応ビア近衛士官がエランの前に立つ。エランはためらいながら、軍服のシャツとズボンを脱ぎインナーも脱いで下着姿になった。ビア近衛士官が調達した服をエランに素早く着せる。
「陛下・・・・・・、ミナさん、身分証はとりあえず持っておいて下さいね」
ビア近衛士官がエランを見て言った。
「ええ、これね持っておきます」
「こちらの軍服は処分致しますので」ビア近衛士官が言った。そしてスカーフをエランに渡す。
「これをつけておいてください。髪が目立ちますので」ビア近衛士官が少し遠慮して言った。
ビアも素早く着替える。田舎の村娘のスタイルだ。ムスタングとヒルも着替え終わっている。農村部の青年2人が立っているように見える。
エランが2人を見て微笑み言う。
「ムスタングさん、ヒルさん、とても似合っていますよ」それを聞いて2人は困った顔をして頭を下げる。ムスタングが照れながら言う。
「陛下・・・・・・、いえ、ミナさん、お褒め頂きありがとうございます」
エランが少し疲れた顔してビアに言う。
「これからの予定は?」
「はい、乗合馬車で近隣の町まで行く予定です」ビアがそう言ってエランの外れているシャツのボタンを止める。
「あゝ、ありがとう」
エランが礼を言うとビアが感動したような顔をして頭を下げる。
ヒルがリュックを背負って歩き出す。
「それでは参りましょう! 乗合馬車の停留所まで3キロほどです」
ビアがエランを見て言う。
「ミナさん、体に痛みとか無いですか?」
エランはビアを見て少し嫌な顔をして言う。「それは、どう言う意味ですか」
「いえ、お体に異常が無いかお聞きしただけです」ビアが直ぐに答えた。
「ですが、乗合馬車に乗って大丈夫なのですか?」エランが不安そうに言った。
ヒルが少し遠慮したように言う。
「町まで30キロほどありまして、日が落ちるまでに着くのは無理かと思います。それに、ミナさんを野宿させる訳にはいきませんので」
「安全なら良いのです・・・・・・」
エランが少し遠慮したように言った。
エラン達は人気のない道を選び馬車の停留所を目指して歩いて行く。
停留所に着くとムスタングが時刻表を確認する。
「予定通りならあと10分ほどで到着しますが、どうでしょうか? 戦闘で運休していなければ良いのですが」
エランがムスタングを見て質問する。
「町はどのくらいなのですか?」
「はい、この辺りでは一番の町ですが、帝都とは比べようはありませんが。イグラから軌道車両が発着していますので、それに乗れば楽に移動出来ます」
ムスタングが答える。エランはそれを聞いて首を傾げて言う。
「ムスタングさん、貴方、この辺りに詳しいのね。なぜなのかしら?」
ムスタングは頭を深く下げて言う。
「はい、私は特務機関員でしたので、この辺りの地理は詳しく把握しております」
エランは3人を見つめて言う。
「このメンバーは適当に選ばらた訳では無いのですね」
ヒルが少し遠慮したように言う。
「もちろんです。ガルシア近衛兵団長が残った人員の中で最適な人選をされております」
エランがビアを見つめて言う。
「貴女は、なぜ選ばれたのかしら?」
ビアは頭を下げて直ぐに答える。
「はい、まず女性である事。そして剣技、体術で優れております」
エランはヒルの顔見て微笑む。ヒルはそれを見て頭を下げて言う。
「はい、私は、魔道士で隠蔽能力に長けております」
エランは頷き嫌な顔をする。
「じゃあ、ひとりでも欠けたら、帝都には帰り着けない訳ね」
3人が顔を見合わせってから、ムスタングがエランの手を取って跪き言う。
「大丈夫です! 任務を果たすまでは絶対に欠けることはございません」
エランはムスタングに微笑み言う。
「大した自信ね。まあ信じるわ」
エランは切り株に座り周りを見渡す。
「連邦国も端の方だと、こんな感じなのね」
それを聞いてムスタングが答える。
「はい、田舎は帝国も連邦国も変わりありません」
そうして、街道の西側から馬車が近寄って来るのが見える。4頭引きの馬車だ。
「あれでしょうか?」ビアがムスタングを見て言った。
「そうです。あれですね」
しばらくして馬車が停留所に停まる。馬車の御者が4人を確認して言う。
「何処まで行くんだ!」
ムスタングが答える。
「イグラまでです。4人ですが、大丈夫ですか」
「あゝ、乗れるよ! 前金だからな4人分だな。料金表はこれだ」御者が料金表を見せると、ムスタングが料金表を確認して料金を御者に手渡した。
「あゝ、確かに!」御者は料金を数えてから料金箱に放り込んだ。
「ドアは自分で開けてくれ」
ムスタングがドアを開けると乗客が5人いた。そしてムスタングの動きが一瞬止まる。奥の席に連邦国軍の制服を着た兵士が2人いたのだ。ムスタングは後ろの3人に視線を向けて言う。「足元に気をつけて下さい」
ヒル、エラン、ビアの順番で乗り込む。
エランとビアが隣り合わせに座り、反対側にヒルとムスタングが座った。
エランは奥の席から視線を感じる。そして馬車が動き出してしばらくして、奥にいた連邦国軍兵士のひとりがビアの前にやって来る。
「お姉さん方は何処に行くんだい」
ビアは少し嫌な顔をして答える。
「イグラまでですが。何か御用でしょうか?」
「そんなに機嫌悪そうに言わなくても、ちょっと話がしたいだけだよ」
ビアが目線を上げて連邦国軍兵士を見る。「私達には連れがいますので、勘弁願いますか」そう言ってヒルのほうを見ると、ムスタングとヒルは少し困った顔をしている。
連邦国軍兵士は後ろの2人を見てニヤついて言う。
「俺にビビってるぜ! 頼りにならない連れだな」そして連邦国軍兵士は薄笑いを浮かべる。
エランは連邦国軍兵士を見て思った。(コイツごとき、ビアの実力なら瞬殺だろうが。ここは敵地しかも相手は連邦国軍兵士。穏便に済ませれば良いのだが、何かないものか?)
そうしていると連邦国軍兵士がエランのほうを見て言う。
「そちらのお嬢さんはどんな顔をしてるんだい」そう言ってスカーフを引っ張った。
ビアが直ぐに声を上げる。
「無礼者! キサマ何をするか!」
エランは連邦国軍兵士の顔を朱色の瞳で睨んでいる。兵士はエランの顔を見て強張った顔をして直ぐに顔面蒼白になる。額から汗がとめどなく流れ出した。
そして連邦国軍兵士は直ぐに姿勢を正し敬礼する。
「第80師団所属ドメス伍長です! 大変な無礼を働き申し訳ありません!」
そして連邦国軍兵士は土下座した。
エランは状況が分からず戸惑った顔をしていると奥にいたもう1人の兵士が駆け寄って来て敬礼する。
「エリー少佐! 任務ご苦労様です! 第80師団所属スミス軍曹です! 知らぬ事とは言え、大変失礼しました!」
そして土下座した。
「どうか上官への報告は・・・・・・勘弁してください!」そして2人は馬車の客車の床に額を擦りつける。
客車の他の客がエランを見てコソコソ話している。
「わかりました。もう良いので席に戻ってください」エランは2人に面倒くさそうに言った。
「お許しくださると・・・・・・、噂通りの寛大なお方で良かったです」
軍曹がほっとしたように言った。1人の伍長は涙目で言葉が出ない。
エランは2人に言う。
「ここであったことは、一切他言無用に願いますね」
「はっ! もちろんです」
2人はエランに深く頭を下げて奥の席に戻って行く。伍長のほうはよろめきながら辿々しい足取りで何とか席に着く。そして顔を伏せたままエランのほうは見なくなった。
ビアが直ぐに耳元で呟く。
「エリー少佐とか言っていましたが、よほど似ておられるのですね。ですがあの兵士の怯え方を見ると、とんでもない人物なのでしょうか?」
エランは微笑みビアの耳元で呟く。
「でも、そのエリー少佐のお陰で助かりました。感謝しなければなりませんね」
そしてビアは反対側に座っている。ムスタングとヒルを見てガッカリした顔をする。それを見て2人は申し訳無さそうに頭を深く下げた。
その間にも馬車はイグラを目指して順調に進んでいる。
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