北部戦線65 アンドレア魔導師団18
北部戦線、エリー機動大隊現地配備、12日目夜。
エリー達が、バレット市北部域戦闘終了後、9時間ほど経過している。
ここは帝国領バーグア市、帝国軍第三軍司令本部近くのアンドレア魔導師団仮宿舎内。
ブライアン師団長がフレッド大佐を見て言う。
「時間だ! 郊外に出たら手筈通りに頼む」
「はい、帝国には気づかれぬよう細心の注意を払っております」
フレッド大佐はブライアン師団長に頭を下げて言った。
「マーク閣下は油断出来んぞ!」
「はい、動きは把握しております。何やらミリア中尉が生還して浮かれておりました」
フレッド大佐が笑みを浮かべブライアン師団長の顔を見て言った。
「あのお嬢さんか、生きていたのか?」
ブライアン師団長は黒のロングコートを着込みながら言った。
「はい、それでマーク閣下は嬉しくてたまらなかったようです」
「まあ、こちらの動きを読まれるようなことはないと思います」フレッド大佐がドアを開けて言った。
「くれぐれも油断するな!」
そう言ってブライアン師団長はドアの外に出ると直ぐに廊下を歩いて暗闇に消えた。
◆◇
ここは帝国領バーグア市、帝国軍第三軍司令本部に近い司令官居住区。
マーク司令官居住区の内線電話が鳴る。マーク中将は受話器をとる。
「マークだ! そうか通してくれ」
警護下士官からの電話にマーク中将が答えた。
しばらくして部屋のドアがノックされる。マーク中将はドアの前まで行くと、施錠を解除してドアをゆっくり開けた。そこにはミリアが強張った顔をして立っていた。
「入ってくれ」マーク中将が声を掛けると、ミリアは一瞬ためらったような素ぶりを見せたが、諦めたように部屋の中へ入って来る。
「このような時間に失礼致します」
ミリアの口調は気落ちしたように暗かった。
マーク中将はミリアの肩を軽く叩き言う。
「なにを落ち込んでいる。緊張しているのか?」
ミリアは顔を下げ暗い表情のまま部屋の奥に進んで言う。
「いいえ、大丈夫です」
マーク中将はドアを閉め施錠をする。
「バスルームにバスローブがある。シャワーを浴びたら着替えて奥の部屋に来てくれ」
ミリアはマーク中将を悲しそうな上目遣いで見て弱々しく言う。
「はい、わかりました・・・・・・」
そしてミリアはバスルームへと入って行った。洗面所でミリアは軍服を脱ぎ捨て、下着を取ると、バスルームに入りしばらく頭からシャワーを浴び続ける。
ミリアは思う。(帝国軍に戻ると決めたのは私であり、エリー様のためにと戻ったそのためには必要なことなのだけど・・・・・・)
シャワー浴びながら止まらない涙に、ミリアは戸惑っていた。そして体を洗いバスルームから出て鏡で自分を見てまた落ち込んだ。(なんて顔してるんだろ、私・・・・・・)そしてミリアは、魔力を少し解放して気力を上げようとするが上手くいかない。
ミリアは気持ちを抑えて、髪を乾かし体の水分を取るとバスローブを羽織る。
ミリアがバスルームから出るとリビングにマーク中将は見当たらない。ミリアはゆっくりと歩きリビングの奥のドアを開ける。奥の部屋はベットルームのようだが薄暗く室内がよく見えない。そしてマーク中将の声がする。
「早く入って、ドアを閉めてくれ」
ミリアはゆっくりドアを閉める。薄灯りの中ミリアは目が周囲に慣れて、マーク中将がベッドの横のソファーに座っているのが見えた。
ミリアはマーク中将のほうを向いて弱々しく言う。「私を・・・・・・閣下の自由に、どうぞ何なりと」そう言ってミリアはバスローブを肩から下に落とす。ミリアは胸を手で隠して顔を下に向け、しばらくしてベットのシーツに潜り込んだ。
マーク中将がミリアに言う。
「君の覚悟は理解した。君は男に簡単に体を預けるような女性では無いことも理解している。悪いが試させてもらった。ミリア中尉! 君は、お嬢様の洗礼を受けたのだろう? 最初は半信半疑だったがそのネックレスを見て確信したよ」
ミリアは驚きの表情をしてシーツを体に巻きつける。
「閣下・・・・・・、一体?」
マーク中将はミリアのほうを見て言う。
「君から、ユーリと同じ匂いというか、微弱な魔力波動を感じたのだよ。それはお嬢様のものだと私は感じた。君はエリー様と交流して魔力波動を浴びたのだろう」
「はい、その通りです」ミリアはシーツから顔を出して頷き答えた。
「そうか、ではミリア中尉、これからどうする」
マーク中将はミリア見て言う。
「私は、帝国からもアンドレアからも監視されていてね。盗聴や尾行、その他監視を受けているのだよ。この部屋は対策を取っているから心配は無いが、君は選択してくれ。今すぐここから出て行くか、それとも朝まで残るか」
ミリアは表情が緩み安心した顔になる。
「はい、おっしゃることは理解出来ます。朝までこの部屋に居ます」
マーク中将は少し間を置いて優しく言う。
「それで良いのか? 君の評判は下がるぞ、特に女性士官達からはな、君は中央軍から来たエリート士官で彼女達の期待の星らしいからな」
ミリアはマーク中将を見て言う。
「大丈夫です。怪しまれず閣下に会えるのはこの方法が一番です。閣下は奥さんを亡くされていますし、不倫では無いです。恋人として接してもらえれば良いと思います」
マーク中将は頷き言う。
「多分この噂が広まれば、中央軍情報統括官が君に接触して来るはずだ。注意しておいてくれ。それと君の大尉昇進が決まっているのだが・・・・・・まあ良い」
ミリアは微笑みマーク中将の顔見る。
「マークと呼んでもよろしいでしょうか?」
マーク中将は少し微笑み言う。
「別に無理はしなくてよい、偽装すれば問題ないからな」
ミリアはマーク中将に微笑む。
「マーク中将は優しいお方です。そしてエリー様の協力者・・・・・・なのですね」
マーク中将はソファーから立ち上がり言う。「では私は、リビングで眠るから、ここで休んでくれ」
ミリアはベットから起き上がりマーク中将の肩に両手を回し抱き寄せる。
「私は誤解していた事を謝罪します。ですから・・・・・・」
ミリアはマーク中将の耳元に口を近づけて優しく呟く。
「マークさえ良ければ私は構いません。それに別の部屋で眠るのは恋人同士とは言えませんよ」
マークは困ったように言う。
「まあ、そう言われても娘と同い年だからな、気分が乗らないのだ。別に女が嫌いとかそう言う訳では無いが・・・・・・」
ミリアが顔を寄せてマークの唇に唇を重ねる。マークはミリアの肩に手を回してベットに押し倒した。そしてマークはミリアの両手を優しく振り解いて唇を離すと言う。
「ミリア! 私を弄ぶのはやめろ! 本気になったらどうする」
ミリアはマークの瞳を見つめて言う。
「私は・・・・・・、構いません!」
マークはミリアの瞳を見て言う。
「ミリア、君は、エリー様の魔力でおかしくなっている。冷静になれ! こんなおじさんとどうこうなるもんじゃない」
ミリアは顔を困惑させて、戸惑ったように言う。
「申し訳ありません、はしたない真似を致しました」そう言ってミリアは顔を背けた。
マーク中将はミリアにシーツを掛け直して言う。
「表面を取り繕えば良い、気持ちを入れる必要はないんだ。ミリアは真面目過ぎるのだよ」
そう言ってマーク中将はソファーに横になった。マーク中将は思った。(ふーーっ! この娘に危うく乗せられそうになった。私もヤキが回ったものだ!)
ミリアはベットの上でマーク中将のほうを振り返り眺めながら思う。(私は、マーク中将に身を委ねようとした。気のせいなのか? 魔力を解放してから精神的に不安定なのか? まあ、マーク閣下がエリー様のお仲間であることがわかって良かった)
そうしてミリアは、緊張から解放され、今日の疲れから直ぐに睡魔に襲われ深い眠りに落ちた。
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