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388話 情報担当官ギリドバ

ゴロスネスに各諸侯兵、第1陣が集結しつつあった。

 2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日12時頃)


 ここは異世界、ゴロスネス市中央区域、統制本部8階。

 西地区統制担当官ベルニスがゴロスネス守備兵団長ゾリスから報告を受けていた。


「……ギリドバはどうした? 姿が見えないが」

 統制官執務室に情報担当官ギリドバの姿は無い。兵団長ゾリスが落ち込んでいるベルニスを見て答える。

「多分、到着した諸侯兵の確認をしているものと思われますが。全ての確認をギリドバ殿に任せられたのでは無いのですか?」


「……あゝ、そうだった!? 忘れていたな……。それで、兵力の集結は順調なのだな?」


 ベリアスが疲れた顔で兵団長ゾリスに尋ねる。

「はい、現在、2万を超えるものと、あと5日で10万の兵が集結する予定です。ですが、10万の兵站準備が整っていません」

 兵団長ゾリスが答えると、ベリアスはため息をついて言う。


「……食料物資は各諸侯が準備するから、とりあえずは大丈夫だ。ただ、長期戦の場合はこちらで、準備する必要はあるが、今の状況では5万分が精一杯だな。2年続きの凶作で食糧備蓄が減少している。臨時徴収などすれば民衆の不満をかうから出来れば避けたい。……だが、短期で戦は終わるまい……」


 兵団長ゾリスがベリアスの耳元に顔を寄せて小声で言う。

「皇帝陛下直属部隊が大惨敗したとのことですが、本当なのですか?」


 それを聞いてベリアスの顔色が一気に悪くなる。

「……そうか、そんな噂が……」


「ベリアス様、さすがにそれは無いですよね?」

 兵団長ゾリスがベリアスの顔色の悪さに驚いたように尋ねた。


「……あゝ、確かにデルン騎兵団、赤騎士隊は敗北はしたが、全滅などしていない……、再編成のため帝都に戻ったと……」

 ベリアスの返答に兵団長ゾリスは少し安心した顔する。

「……はい、承知致しました。敗北は公にはしてはならない秘匿情報ですね。諸侯達にも噂がデマであると否定しておきます。それでグリスダース皇帝陛下からはどのような指示が? いえ、秘密事項であれば結構ですが」


 ベリアスはソファへゆっくり座って改めて兵団長ゾリスの顔を見る。

「10万の兵を持って押し潰せとのことだ。そして追加増援として後方に30万の緊急招集が発せられた。予定では体制が整い進軍すまで10日ほど掛かるだろう」


 兵団長ゾリスはテーブルの上の地図を見て言う。

「……ベリアス様、大森林周囲の魔力結界が恐ろしいほど強化されております。魔法術師を派遣調査させましたが、とてもでない事になっていると報告を受けました。よって早急に対応しなければ、大軍勢を持ってしても困難な状況に陥ると判断致します」


 ベリアスは精力の無い顔をして言う。

「だが、小出しでは失敗の繰り返しだ……。皇帝直属デルン騎兵団、赤騎士隊が壊滅したのだぞ! それも小1時間も持たずに……、青騎士隊も酷い損害を受けて撤退した。そんな敵に数で勝るといえ1万や2万の並の兵では話にならん」


 動揺する兵団長ゾリス。

「……ベリアス様……今、何と……、全滅したと」


 ベリアスはしまったという顔をして言う。

「……そうだ、全滅した。デルン騎兵団、赤騎士隊、生還者無し。青騎士隊の半分が何とかこちらに戻って来ている。この事は皇帝陛下より漏らすなと厳命された。漏らせば命は無い。良いな。だから兵力を整えて攻撃をせよとの指示だ。陛下直属ファルタ魔法士隊が到着するまで待てとのことだ。ゾリスも言いたい事はわかる。だが、もはや、我々の手の負える相手では無い……」


 兵団長ゾリスはベリアスの顔を見て一礼する。

「ベリアス様、各物資状況を確認して参ります。ありがとうございます。事実を知って納得致しました。それでは」


 そう言って兵団長ゾリスは執務室から出て行った。


◆◇◆


 ここはゴロスネス市統制本部から南東へ10キロほど離れた第1城壁と第2城壁の間の貧民街、古びた家屋が無造作に並び異臭も漂う。

 黒いローブフードを深く被り小走りに家々の間の路地を進む者、その前にガラの悪そうな獣人男性3人が立ち塞がる。

「お前、ここをどこだと思っている! お前のような者が立ち入るところじゃない! 金目のものを置いて立ち去れ! 命は取らないでやるよ」


 ローブフードを深く被った者は瞬時に距離を詰めると獣人達3人が倒れ込む。そして乱れたローブを整え直すと直ぐに狭い路地を進んで行く。


「……」

 ローブフードを深く被った者は立ち止まり、荒屋のドアを軽く規則的に叩く。そしてドアがゆっくり開くと中へ直ぐに直ぐに入りドアが締まった。


 光の入らない部屋の中で若い女性の声がする。

「ギリドバ、よく来てくださいました」


 ローブフードを深く被った者ははフードを取り答える。

「はい、メルティア様、ご無事でなによりです」

 部屋の中には気配がメルティア以外にもう1人あるが無言で立っている。

「こちらへ」

 メルティアが部屋のドアを開け、奥の部屋へ案内する。ドアが閉められると部屋の中に燈が灯り部屋が薄暗く照らされる。


 部屋の中にはメルティアの他に3人の女性がいた。メルティアが直ぐに紫色の髪の少女に頭を下げる。

「エリー様、この者がギリドバです」


 ギリドバは少し驚いた表情をして深く一礼する。

「お初にお目に掛かります。ゴロスネス情報担当官をしておりますギリドバと申します」


「ギリドバさん、私は、メルティアさんの支援をしているエリー•ブラウンです。協力を得られればよろしいのですが……。あまり良い印象は持たれていないように感じますね」

 エリーは朱色の瞳を細めて言うとメルティアが動揺して言う。


「エリー様、そのような事はありません」


「……」

 ギリドバがエリーを見据えると、後ろにいた黒髪の魔族女性が前に出てギリドバを見つめて笑顔で言う。

「あなた、その不遜な態度は何ですか? エリー様になぜそのような……、もう頭、おかしいですよ」


 黒髪の美しい女性は笑っているが赤い瞳は冷たくギリドバを見つめている。ギリドバは口を開く。


「……どうやってメルティア様を洗脳したのかと」

 エリーはふっと息を吐いて答える。


「洗脳? なぜ? メルティアさんは別に操られている訳ではないですよ」


 ギリドバは周りを見渡して言う。

「エリー様……あなたは一見普通の人族に見えます。魔力も感じない……だが、周囲の者を見ればとんでもない者達を従えている。そこの魔族の女性2人は、とても私では太刀打ち出来ないほどの実力を持っていることが確認出来ます。エリー様はメルティア様を利用して何を成されるつもりかお伺いしたいのです」


 エリーは笑みを浮かべる。

「ギリドバさん……、メルティアさんのことを心底心配しているのですね。私達の実力を把握した時点で聞かなくても良い事をあえて聞くのですね。それに気が立っていますね。でも半分は嘘、あなたは本当に頭も切れるし対応力も極めて高い……、メルティアさんのこともちゃんと考えて、かつ己の身も安全と確信している。ちょっと嫌な感じです……」


 ギリドバは直ぐに神妙な顔をして一歩退がりゆっくりと頭を下げる。

「失礼致しました!」


 エリーは直ぐに白い光に包まれ、紫色の髪が輝く銀髪へ変わり、少女の顔が精悍な美しい女性の顔になり、体の各部が隆起する。


 エリーはセレーナの容姿に変わって、赤い瞳は冷たくギリドバを見つめる。

「……ギリドバ、あなたは優れています。ですが、単独で目的を達せらるほどまでにない。私は、あなたの生い立ちも、やろうとしていることも知っている。巧妙に精神体を保護偽装しているが、私の神眼は欺けませんよ。今回は結構です。お帰りください」

 セレーナはギリドバから視線を外し、黒髪の美女ボリスを見て言う。

「ボリス、帰投しましょう」


 それを聞いて慌てるメルティアがセレーナに懇願する。

「申し訳有りません! セレーナ様! ギリドバに悪意はございません! どうか、ご容赦をお願い致します」


 メルティアはギリドバのそばに寄ると偽装スキルを解くように言う。ギリドバはメルティアに従い偽装スキルを解き20代後半のハイエルフの青年の姿に戻った。

「……セレーナ様、反意があった訳では有りません! お許しください」


 セレーナはギリドバに顔を向けず言葉を掛ける。

「ギリドバ、あなたは、エリーを侮った」


「……いえ、そんな事は……」

 ギリドバが膝をつき頭を下げる。


 セレーナはメルティアに言う。

「残念です。このような者では、今後、メルティアの足を引っ張るでしょう」


 ギリドバが跪いたまま顔を上げて瞳を大きく開いて言う。ギリドバは動揺していた。

「セレーナ様、私に挽回の機会をお与えください……、どうか、お願い致します」


「……いいでしょう。許しましょう。ですが、今回だけです。今後そのような態度を取るなら、あなたは永遠に深淵の底に沈む事になるでしょう」


 セレーナはそう答えてボリスに頷く、セレーナの後ろにいた金髪女性シエルが前に出てギリドバに呟く。


「身の程知らずにも程がある。セレーナ様が止めなければ、いくらメルティア様の知り合いでも一撃を入れていた」

 シエルはそう言うとギリドバから離れる。ギリドバは混乱した状態でメルティアに言う。


「……申し訳有りません。メルティア様、ご迷惑をお掛けしました」


 メルティアは悲しそうな顔をしてギリドバの背中に手を回して言う。

「……ギリドバ、尽力しなさい。セレーナ様は普段は寛容なお方です。あなたに問題があった事は間違い有りません」


「……はい、尽力致します」

 ギリドバが答えるとメルティアは頷き離れる。


 そして転移魔法が瞬時に発動され眩しい光が部屋を満たすとセレーナ達が消失、部屋が真っ黒になった。ひとり取り残されたギリドバ、崩れ落ち両手を床につく。




 


最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。

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