387話 青騎士隊バッカルス
青騎士隊はセレーナに降伏投降した。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日11時頃)
ここは異世界、エルフ集落から東へ20キロほど離れた大森林。ここに拡散していた青騎士隊が隊長バッカルスの指示により集められた。
集まった青騎士隊騎士達の前で隊長バッカルスが声を上げる。
「……我々は降伏を受け入れた! 殲滅されるところ……、リナの尽力により、我々の命を取らぬと女神セレーナ様がお約束してくださったのだ! すでに赤騎士隊! デルン騎兵団は全滅したのだ。我々の任務は失敗した! 皆! 我が無力ですまん! 皆の命無駄に出来ん! 降伏を受け入れてくれ! 頼む……」
そう言ってバッカルスは深く頭を下げた。一瞬、騎兵達はざわついたが、直ぐに収まり副長が声を上げる。
「バッカルス様! 謝らないでください! 常にご判断に従い生き残って来たのです! 今回も従います!」
そうして各騎兵達が次々と同意の声を上げる。そしてタイミングを見計らい隠蔽スキルで隠れていたセレーナ、アオイが青騎士隊騎兵の前に姿を現す、一気に皆の視線がセレーナの荘厳で美しい姿に集中する。
「……!?」
息を呑む各騎兵達、そしてセレーナが青騎士隊騎兵達を見渡して美しい通る声で言葉を発する。
「無駄な血を流さずに済んだこと! 皆さんの意に感謝致します! ただ、代償は払ってもらいます! それは私達と従属の契約を結ぶことです! 契約を結ぶことが嫌なら拒否しても結構です! ですが、私の領域に土足で踏み入ったのですからタダで済む訳も有りませんが!」
そう言ってセレーナは一気に魔力を解放、濃い紫色の光を纏う。そうしてセレーナに見惚れていた騎兵達が緊張と恐怖の表情へと変わった。セレーナは魔力闘気で周辺へプレッシャーを掛けたのだ。そして瞬時に魔力を少し弱めて微笑み騎兵達に言う。
「これより青騎士隊の皆さんは、横に控えるアオイの配下となって頂きます! 異議のある方は申し出てください!」
セレーナは騎兵達を見渡す。そしてセレーナは魔力を周囲に放ちながらアオイの顔を見て微笑む。
「ありがとうございます! 異議は無いと、では、これより契約術式を行います」
セレーナが頷くとアオイが前に出る。
「私は、アオイ・アオバと申します! 今後、皆さまの面倒を見ることになります。よろしくお願いしますね。まず、強い拒否感情があると従属の契約術式が上手く行きませんので、楽に感情を穏やかにお願いします。何回もやり直すことは出来ませんので!」
アオイは微笑み愛想の良い顔で言った。だがそれが返って不気味な雰囲気を醸し出す。
青騎士隊長バッカルスはまじかでアオイの顔を見て戸惑う。
(……魔族!? 高位魔族ではないのか? メルティアは一体どんな相手と手を組んだのだ。女神にレッドドラゴン、高位魔族、なんでも有りなのか……、規格外の圧倒的な力を持っていることは間違いないが……。このまま従属の契約を結んでも良いのか……? いや、もはや選択肢は無いな……、女神セレーナ様に従えば、より良い未来が待っているような気がする。間違いなく……)
バッカルスはふっと息を吐き、アオイの前に跪いた。
「……アオイ様に従います! 今後、主としてお導きくださいませ! そして我らに加護をお与えください! 我らはアオイ様のために全身全霊を尽くすことを誓います」
そしてバッカルスの姿を見た青騎士騎兵達が一斉に跪き声を上げた。
「アオイ様! 忠誠を誓います!」
アオイは青騎士騎兵達を見渡して声を上げる。
「私の配下となったことを後悔はさせません! 今後、お互いにセレーナ様のために尽力致しましょう!」
アオイは直ぐに従属の術式を発動させる。そして、それぞれの騎兵達の頭上に魔法術式が形成される。アオイは魔力量を段階的に上昇させて形成展開させた無数の術式へ魔力を注入していく。
バッカルスは魔法の大規模な術式展開に少し驚く。
(……全員を一斉に!? やはり只者ではないのか……。このようなレベルの高い相手など、無謀な事だった……。だが、不思議と悲壮感も敗北感が無い、むしろ心が喜ばしいと高揚している)
セレーナは後ろでアオイの魔力の流れを視感する。
(問題無い。青騎士隊は皇帝に絶対的忠誠を誓っている訳でなく、隊長バッカルスに信頼を寄せて集まった組織、ボリスの予想通りです)
アオイの展開した無数の術式は魔力量を満たし一瞬は激しく発光し各騎兵達の中に吸収され消えた。
「改めて、皆さんよろしくお願いします」
そう言ってアオイは深く頭を下げた。青騎士騎兵達は再度跪き一斉にアオイとセレーナに一礼した。
隊長バッカルスが立ち上がり近づくとセレーナ、アオイにそれぞれ一礼する身長はランディくらいはある、ガタイが良いのでランディより大きく逞しく見えた。
アオイがバッカルスを見上げて少し機嫌の悪い顔をする。アオイとバッカルスの身長差は40cmくらい有り見下ろされているのが気に入らないのだ。
「アオイ様、何か気に入らない事でも?」
バッカルスが神妙な顔で尋ねた。
「……いえ、特に有りません」
アオイは直ぐに答え微笑み表情を取り繕った。バッカルスは間を置いてアオイに尋ねる。
「アオイ様、お聞きしてよろしいでしょうか? リナには従属の契約がなされていないようなのですが……なぜでしょうか?」
アオイは気づいたかという様な顔して答える。アオイはセレーナからリナが前もって洗礼を受け、従者になっている事を聞いていなかった。だが、リナの体から女神因子を感じ、間違いなくアオイの従属術式を弾かれるので行わなかったのである。あれだけの数の魔法術式を展開していても気づくのかとアオイは改めてバッカルスに感心した。アオイはもっともらしいことを言う。
「……リナさんは、献身的な方です。あなた方のために自らを犠牲にしたのです。反意が無いことを証明するために、セレーナ様に真っ先に身を差し出して従者となり、あなた方を守ったのです。なかなか出来ることでは無いと思いますが」
「では、リナはセレーナ様と従属契約したと」
「はい、そうです。……あなた、一瞬羨ましいと思ったでしょう。ですが、それは違いますよ。どうなるかわからない状況で、仲間のために自分の身を犠牲にするなど」
アオイは流れで適当に誤魔化した。そしてバッカルスはアオイに深く一礼する。
「……そうですな! リナが我が隊にいた事に感謝致します」
「そうですよ。リナさん感謝しなければなりませんよ」
アオイの言葉を聞いてバッカルスは直ぐにリナに近づき手を取って言う。
「リナ、今回はすまなかった! お前はよくやってくれた」
リナは少し戸惑った顔をする。
「……いえ、バッカルス様の人徳です。日頃の行いが招いた結果です。私はただ青騎士隊のために……」
そう言ってリナはバッカルスの顔を見て微笑んだ。
(実際、バッカルス様が部下思いであったから降伏投降を受け入れた。私は、ただ誘導しただけです。もうすでにセレーナ様はどの隊を引き入れるか決めておられましたから、皇帝付きで有りながら、どちらかと言えば民寄りの思考を持っていたから良かったのです)
リナはしばらくバッカルスの顔を無言で見つめて離れて行った。そしてバッカルスはアオイの方へ戻り言う。
「……任務をお聞かせください」
アオイはバッカルスを見上げて少し離れるて言う。
「ゴロスネスへ戻ってもらいます。当然、少し手傷を負ってもらいます。セレーナ様がゴロスネスを制圧する準備のためです」
「……ゴロスネスをですか……、破壊壊滅でなく、制圧ですか? それで偽装潜入ですか? 現在2万ほど諸侯兵が集まっておるはずです。内部から支援を行うと言うことですな」
バッカルスが答えるとアオイは頷き言う。
「私も青騎士隊に紛れて同行します」
「……しかし、我が隊にはアオイ様のような小柄な者はおりません」
バッカルスが平然と答えると、アオイは笑って言う。
「私はこれでも女神です。隠蔽偽装スキルを使うので問題ありません」
バッカルスが驚いた顔をしてアオイをマジマジと見つめる。
「……女神……様、いえ、申し訳ありません。我々と同族の高位の方かと。あゝ、確かに光系の魔法をお使いでした。私は見た目で判断してしまいました」
アオイはバッカルスの言葉を聞き流し言う。
「では青騎士隊3番隊を残し、1番、2番隊は私の攻撃魔法で手傷を負った偽装を行います。そのあとは全力でゴロスネスへ逃げ帰る振りをします。細かい説明は共有スキルで送るのでよろしくお願いします」
「はい、承知致しました」
バッカルスは直ぐに3番隊を除いた青騎士隊騎兵を集合させる。
「アオイ様! 1、2番隊集合致しました!」
バッカルスが声を上げると35名が敬意を示す姿勢をとった。
アオイは騎兵達を見渡して声を上げる。
「これよりゴロスネスへ帰還します! 申し訳ありませんが! みなさんには怪我を負ってもらわなければなりません! 軽傷程度です、まあ、見た目はある程度やった感を出しますが、勘弁してくださいね」
そう言ってアオイは瞬時に白い光を纏い、魔法を発動、無数の火炎と鋭利な金属片を生成展開する。そして一気に騎兵達に向かって放つのであった。騎兵達は悲鳴と唸り声を一斉に上げた。たまらず地面に伏せる騎兵達、アオイはそれを見て魔法発動を中止した。
「これで、見た目は戦闘をしたように見えるでしょう!」
次々立ち上がる騎兵達、鎧についた焼けこげ痕、刃で傷ついた顔、酷い傷は無いがまずまずの戦闘をしたように見える。騎兵達は見た目の派手な状況の割に痛みがほとんど無いことに驚いていた。
「ことが済んだら、治癒するので心配しないでください!」
アオイが全員を見渡して声を掛ける。
「これで準備完了です! さあ! ゴロスネスへ全力で敗走致しましょう?」
そして騎兵達が妙な声を上げて軍馬に騎乗する。そしてバッカルスを先頭に隊列を組むと一斉に軍馬が走り出した。
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