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385話 赤騎士隊隊長イオーネ

赤騎士隊イオーネはランディ、カルヤ2人に蹂躙される。

 2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日10時頃)


 ここは異世界、エルフ集落から東へ5キロほど離れた森の中。


 突然の周囲からの連続発砲攻撃、次々と倒れる騎士隊兵士達、赤騎士隊1番隊は森林の中で混乱状態となっている。

 赤騎士隊隊長イオーネは通信具で各隊に呼び掛けるが応答無く、今更ながら異常事態に気付いた。

(……これは、敵の術中にハマったとしか……)

 大木の影に身を潜め唇を噛み苦悶の表情をするイオーネ。当初の予定から損害はある程度出る予想はしていた。しかし、デルン騎兵団の応答が全く無く、赤騎士2番隊との連絡も取れない。陽動作戦自体が失敗しているとしか考えられなかった。イオーネも決して油断していた訳ではない。出来得る限りメルティア達エルフ集落の情報収集を行い、戦力分析をして作戦は8割方成功する見込みだった。だがこの状況、敵の戦力は明らかにこちらを上回り、情報も漏れていたとしか考えられない一方的な被害状況だった。


「……ここは、退く! 青騎士隊へ連絡! 退路の確保を要請!」


 隣りにいる魔法士へイオーネは指示を出した。

「はい、しかし、通信が出来ません。先程より全く通信具が何処にも繋がりません!」

 魔法士が答えるとイオーネは冷たい表情で言う。


「繋がるまで繰り返し行え! 移動する」

 そう言ってイオーネは周囲を警戒しながらゆっくり立ち上がる。そこに黒い影がふたつ現れた。


「……!?」

 驚き身構えるイオーネ、目の前の影を確認する。見慣れない服装の2人、1人は長身の男性、1人は小柄な女性? いや獣人の様な耳が見える。イオーネは長身男性を見上げて声を上げる。


「魔族が加担しているとは驚きです! 見たところ高位の魔族の様ですが? 獣人を配下に連れているとは!」


 長身の銀髪の男性はイオーネを見て呆れた顔をして言う。

「魔族!? まあ良い! カルヤをどうやら格下に見ている様だが、あんたより強いはずだぞ。あんたは赤騎士隊のイオーネだな」


 見知らぬ魔族男性に自分の名を呼ばれて驚くイオーネは、顔を強張らせて後ろに下がり細身の剣を慌てて抜いた。

「なぜ! 私の名を知っている!」


 長身の銀髪男性は笑って答える。

「最初からあんたらの行動はバレバレなんだよ。今頃、あんたの仲間の部隊も壊滅しているだろうな」


 イオーネは瞬時に火炎魔法を2人に向けて放ち、5mほど一気に退がる。

「おいおい、そりゃないぜ!」

 長身銀髪男性が呆れた様な雰囲気でイオーネに声を上げた。イオーネは前で倒れている魔法士を見て少し驚く。


「いつの間に……獣人ごときに遅れをとるとは」

 イオーネは倒れている魔法士の前に立つ獣人女性を見据える。そして一気に魔力量を上げ白い光を纏うイオーネ。

 イオーネを見て嬉しいそうな顔をする獣人女性は後ろを振り返り声を上げる。

「ランディさん! 私に任せてください! よろしいでしょうか!」


 長身銀髪男性は笑顔で答える。

「カルヤ、大丈夫だと思うが、油断するな! 全力でやれ!」


「はい、では!」

 獣人女性はそう答えると、一気に魔力量を全力解放する。。獣人女性が薄紫色の光に包まれた。それを見て驚愕の表情を浮かべるイオーネ。

「……なんだ! 獣人ごときが!? その魔力量はありえん」


 カルヤがショートソードを構え一気にイオーネに距離を詰めた。直ぐに火炎魔法を小刻みに放ち牽制するイオーネ。だが火炎弾は獣人女性の魔力を纏ったショートソードに難なく弾かれ消失する。


「……獣人が、私の火炎魔法を……伊達に魔族の従者では無いということか……」

 イオーネは直ぐに火炎弾を周りに展開させて周囲に撒き散らす。


「なんて事を! 火事になるだろうが!」

 獣人カルヤの後ろから長身銀髪男性ランディが怒りの声を上げた。同時にランディが全ての火炎弾に魔力障壁をぶつけて消失させた。


「……なんて、そんな!?」

 イオーネは声を漏らす。だがそんなイオーネにカルヤの猛烈な連続斬撃が襲い掛かる。

 イオーネは剣を巧みに操りカルヤの苛烈に打ち込んで来る斬撃を外へいなして行くが、徐々に余裕が無くなり対応が遅れ始める。


 カルヤの縦横無尽に動き何処から来るかわからないショートソードへの対応で、イオーネは精一杯になっていた。そこへカルヤの足蹴りが腹部へ入った。


「……げっふ!」

 イオーネの体が大木の幹に当たり倒れ込む。直ぐに起き上がり防御体勢を取ろうとするが、直ぐに間合いを詰めたカルヤのショートソードの柄が顔面に直撃する。


「ぐふぁっあ!」

 鼻血を噴き仰反るイオーネ、そこにカルヤの回し蹴りが脇腹に入る。鈍い音がして脇腹に劇痛が走るイオーネは痛みで顔歪める。もう最初の頃の余裕は全く無く。治癒、身体強化スキルも追いつかない。カルヤに一方的に殴られている。


(……意識が、魔法が発動しない!? あのランディとか言った魔族が干渉しているのか?)

 イオーネはカルヤにかなりの蹴りを喰らい木の幹にもたれ掛かり辛うじて立っている状態、もうボロボロになっていた。


 カルヤが後ろで見ているランディに声を上げる。

「ランディさん! この者に治癒をお願いします! 死なれては困ります」


 ランディは不思議そうな顔をして尋ねる。

「どうしてだ? もう勝敗はついている。これ以上は必要ないだろう。拷問でもするつもりか?」


「この者に弱者の気持ち……いえ、獣人族の受けた報いを返すだけです。この者に蹂躙された側の気持ちを理解してもらいたいのです」

 カルヤの悲しそうな顔を見てランディは頷き弱りきったイオーネに近づき両手をかざす。白い光がイオーネを包み身体を癒して行く。


(……なんなのだ!? 一瞬で私の体が癒えて……)

 イオーネが驚きと恐怖でガタガタ体が震え始める。


「……お前達……本当にメルティアの仲間なのか?」

 イオーネは震える声でランディに尋ねる。


「メルティアさん? あゝ、そうだな。まあ俺はセレーナ様の配下だからそうなるな」


 ランディの言葉を聞いてイオーネはさらに恐怖を増した顔をする。

(……これほどの実力を持つ魔族が配下だと? 魔王か……それとも伝説の龍神か!? メルティアも配下になっているのか?)

 イオーネの頭の中は混乱していた、その混乱した思考の中で、この事を一刻も早くグリスダース皇帝へ知らせてばと思うのであった。

 だが、ここから逃れる術はもはやイオーネには無い。

 魔法スキルはなぜだかわからないが、使用出来ず、身体は先程、ランディにより治癒された。これがどう言う状況かイオーネには理解出来なかった。


「では、改めて! 赤騎士隊隊長イオーネ! 死ぬことは無いので安心してください!」

 獣人カルヤが声を上げた。


「あなたは、幾つもの獣人族、亜人族の集落を反逆の嫌疑を掛け虐殺しましたね。覚えていますか? 覚えている訳無いでしょうね。見下し蛮行を繰り返した赤騎士隊……、私はこの機会が巡って来たことに女神セレーナ様に感謝致します。そしてイオーネ、あなたに贖罪の気持ちが芽生えることを……」


 カルヤの悲しそうな顔をして言うと、再度魔力を全身に通して身体強化を図る。


「……、何を言っている。お前の実力は確かに桁外れだ。だが獣人は獣人に変わりは無い」

 イオーネの言葉を聞いてカルヤは右左と拳を交互に連続で顔に入れる。骨の砕ける音、歯は折れて口から飛び出した。イオーネの顔は元の美しい魔族女性の姿は無い、青く膨れ上がり血が滲んでいる。カルヤは次は蹴りを複数回繰り返し胸部腹部にダメージを与える。イオーネの口から血が噴き出し地面に倒れ込んだ。

 イオーネは何か言っている様だが聞き取れない。軽量鎧はすでにボロボロになって砕け、残骸が部分的残っているだけだった。慌ててランディが治癒を行う。


「カルヤ! どうするつもりだ! これ以上は……」

 さらにイオーネを殴ろうとするカルヤを抑えるランディ。


「……このイオーネにはまだ、足りません! まだ、何万人分の……」

 カルヤは瞳から涙を流しながら言った。そしてランディはカルヤを抑え抱き寄せて優しく耳元で言う。

「……カルヤ、もうコイツは抵抗する事もできない。心も壊れる寸前だ。エリー様は各リーダーは生かして捉えよとのことだ。もう限界だ。それに今後、恨みをはらすチャンスも有る。今回はこれで我慢しろ……、なあカルヤ」


 ボロボロになって地面に倒れているイオーネを見てカルヤは言葉を発する。

「イオーネ! これで済むと思うな! セレーネ様に頼んで私の元に置いてもらいます。今日はこの辺で勘弁してあげます」


 カルヤがそう言って倒れているイオーネに蹴りを1発入れた。ランディは不機嫌な顔をして言う。

「おい! カルヤ! 俺の治癒でももう限界だぞ! 大概にしろ」


「……はい、申し訳有りません! 自制が足りませんでした」

 カルヤは謝罪の言葉を発すると、ランディに一礼してその場からいなくなった。

「……!?」

 ランディは地面で倒れ呻いているイオーネを見て顔を顰め、屈むと治癒を行う。

(……こりゃあ、セレーナ様に頼まないと完全回復は無理だな……)


 ランディは襟の無線ボタンを押す。

「こちらフォックス2! 救護班をこちらへ至急頼む! 敵指揮官1名を捉えたが重症だ! とりあえず命には別状無いが、処置が必要! 以上!」


『フォートレスリーダー! 了解! ポイント確認! そちらへ救護医療班を向かわせる! その場で待機願う! 以上!』


「フォックス2! 了解! 現在ポイントで待機する! 以上!」

 ランディは本部へ応答すると、疲れた顔をしてイオーネの治癒を再開した。。治癒をしながら今回の戦闘について考える。

(セレーナ様の魔力結界内では、敵は魔法能力値が半減して、上手く発動出来なくなると言っていたが、その通りほとんど抵抗される事なく潰せた。本当、味方で良かった……。しかし、カルヤも……、? セレーナ様は知っていてワザとイオーネに? そうだな全てを見通しておられるお方だ。カルヤの今後のために)


 エルフ集落周辺での戦闘はデルン騎兵団、赤騎士隊壊滅により終結した。残るは後方に潜む青騎士隊のみである。



最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。

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