384話 赤騎士隊
シエル隊と赤騎士2番隊が戦闘を開始した。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日10時頃)
ここは異世界、エルフ集落から東へ6キロほど離れた森の中。赤騎士隊1番隊が分散して森の中を集落方向へ進んでいる。先程、デルン騎兵団から魔法通信が入ってから15分ほど経っていた。
イオーネ隊長が懐中時計を見て各分隊リーダーへ通信具で指示を出す。
「あと10分ほどでデルン騎兵団の陽動攻撃が始まる。相手の兵力移動を確認して直ぐに2番隊が南から攻撃を開始。敵の陣形が崩れた頃合いを見計らって我々は集落へ突入する。それまでは敵を警戒しながら集落へ接近する。警戒を怠るな! 以上だ!」
10人単位で分散した赤騎士隊1番隊はゆっくり集落方向へ木々の間を移動して行く。そして別動赤騎士隊2番隊100人はすでに集落南側3キロ地点で待機している予定であった。
◆◇◆
10分ほど前、ここはエルフ集落南へ3キロ離れた大森林、鬱蒼とした森の中。
シエル率いる元黒騎士隊ダークエルフのドーキ、その配下5人、そしてエリー大隊特殊中隊第1小隊、第2小隊がここに100人ほどが配置展開している。
シエルの傍には派遣中隊の連絡兼務士官がフォロについている。シエルは同行しているグラン連邦国軍派遣隊の装備に少し驚いていた。さすがエリー様の将兵は練度も高かく屈強なのはもちろんだが、特殊部隊とはいえ至れり尽くせりの装備一式、アクセリアルでもこれだけの性能機器は揃えれないだろうと思った。
特にシエルを驚かせたのは、コンパクトながら各隊員が携帯している情報端末、ショートレンジの通信、及び中継機が有れば広域で情報共有、データー通信が出来る。しかも暗号信号でやりとりされ専用端末でなければ送受信出来ない代物だ。作戦域での連携が瞬時に確認出来る優れた機能を有している。
シエルは部隊共通無線域から司令通信音声が入った。
『こちらフォートレスリーダー! 各隊へ達する! これより作戦行動開始せよ!』
シエルは無線機の応答ボタンを直ぐに押して答える。
「こちらフォックスリーダー! 了解! これより南ターゲットに対して戦闘開始する! 以上!」
シエルは右手の腕時計を確認する。
「時間です! それでは皆さん始めます! ブレイク隊よろしくお願いします!」
『了解! 第1、第2小隊サイドから行きます』
シエルは新しく新調した軍刀の柄に手を添える。そしてシエルは念じる様に軍刀を抜き放つと、直ぐに見計らった様にダークエルフのドーキが隣についた。
「先ず中央を突破、敵を混乱させます。ドーキさんは出来るだけリーダー格を仕留めてください」
ダークエルフドーキは軍刀を構えて頷き答える。
「はっ! 承知! 実力的には赤騎士隊には私を超える者は居らぬはずです! が油断は致しませんので!」
そう言ってダークエルフドーキが飛び出すと配下3人が後を追い飛び出して行った。シエルも直ぐに隊長格の位置を確認して木々の間を猛烈なスピードで駆け抜けて行く。そして森の中であスナイパーライフルの銃弾が連続して森の木々の間から発射される。ブレイク隊の狙撃手が狙い撃ちを開始したのだ。先ずは初手で敵の戦闘能力を半減させる。
ダークエルフドーキは特殊軽量合金製の漆黒ボディプレートを装着している。通常レベルの魔導剣では通すことは無いS級レベルの防具ある。そして手に持つのはヒイズル製の魔導軍刀、エリーの持つ軍刀より2ランクほど落ちるがこの異世界では十分過ぎる性能である。細身の刀身はよく鍛えられ、ドーキの剣技を1段階上にする。
慌てふためく赤騎士隊をドーキは魔力の白い光を纏い次々と斬り倒して行く。赤騎士隊の弓使いが弓矢を放って来るが、それを難なく地面に叩き落とす。ドーキの目には弓矢がスローモーションで飛んで来る様にしか見えないのだ。ボリス達元黒騎士隊は全員、女神セレーナの洗礼を受け、魔力、剣技、格闘術全てが格段にランクアップしており、もはや赤騎士隊の平戦士など敵では無かった。
奇襲するつもりが敵の奇襲を受け、大混乱に陥る赤騎士別働2番隊、自分達がいる場所が特定され、なす術無く3分ほどで半数が戦闘不能となり脱落した。今回ブレイク隊が使用した銃弾は電撃パルス銃弾、魔力防御障壁に命中すると障壁に穴を開け内部へ電撃を放電する。連射モードで使用するので1発目は防げても2弾3弾と命中すると確実に魔法士に電撃ダメージを与えることが出来るのである。障害物が多い森林内で使用するのに最適な武器であり、致命傷にならなくても1日は体を自由に動かすことが困難になる痺れと麻痺状態、激しい痛みを伴う銃弾なのである。それを今回はブレイク隊全員が所持使用している。
森の中では至る所で呻き声と悲鳴が上がっていた。
シエルは森に潜んでいる赤騎士2番隊隊長である者の前に立っていた。たじろぐ2番隊隊長ヨゼフ、すでに周りにいた護衛の剣士はシエルの圧倒的な剣技で斬り倒されている。
「お前達は……何者だ! 我らを誰だと」
「赤騎士隊ヨゼフ殿ですね。赤騎士隊2番隊隊長、そして赤騎士隊副長ですね。どうしますか? 大人しく投降しますか? もう大勢は決していますよ」
隊長ヨゼフは大剣を前に構えて魔力を纏い戦闘体勢を取って声を上げる。
「……投降!? ふざけたことを! まあ、名を聞いておこう! 墓標に刻んでやる」
シエルは軍刀を上段に構え柄を両手で絞り握り直す。
「……墓標に?」
シエルは笑って答える。
「あゝ、そうですか。誰に倒されるかわからないのも可哀想ですね。では名乗っておきましょう。女神セレーナ様配下、シエル•スタリオンです。出来れば隊長イオーネ殿と交えたかったのですが……」
「……女神セレーナ!? 新手の魔法士か? イオーネ様の名を知っているとは、全て情報は筒抜けなのだな」
30代後半に見える2番隊隊長ヨゼフは怪訝な顔でシエルの顔を見つめる。
「……全力を出せ無い相手とは、残念ですが」
シエルは大剣を構え一向に前に出てこないヨゼフを見つめて口元を緩める。
「何がおかしい!?」
2番隊隊長ヨゼフが声を上げた。
「ではお望み通りに」
シエルは軍刀に魔力を全力注入すると青白い光が周囲に迸り始める。それを見てヨゼフは目を見開き恐怖の表情を浮かべた。ヨゼフの両腕と両足が小刻みに震え腰当てと肘の防蟻が接触してカタカタと音がする。
「……では遠慮なく、全力を持って」
そう言ってシエルが踏み出すと瞬時にヨゼフの間合いに入り込み上段から軍刀を振り下ろした。轟音が響き一瞬の静寂。
「……やはりただの大剣ではなかった様ですね」
シエルは笑みを浮かべた。ヨゼフは大剣を上に振りシエルの斬撃を受け止めていた。
そしてヨゼフの大剣からミッシと音がすると、亀裂が入り粉々に砕け散った。青ざめるヨゼフ。
「……この剣は、ただの剣ではない……多くの魔法スキルが付与された大剣S級相当!」
思わず声を漏らし退がるヨゼフ、腰の2連装銃に手を掛けとするがもう遅い。シエルの鋭い突きが胴防具を貫き軍刀の剣先がヨゼフの背中から突き出た。
「……ぐっふ!」
ヨゼフは口から血を吹き絶命した。ゆっくり軍刀を引き抜きヨゼフの亡骸を木の根元に倒し込む。
「こちらフォックスリーダー! 任務完了! ブレイク隊! 負傷者等の報告をお願いします」
『こちらブレイク! 軽微な負傷5名! 念の為後方へ退げました! 尚、ターゲット総勢100名討ち漏らしは無いものと判断! 以上!』
「了解です! 予定以上の完勝ですね」
シエルは笑みを浮かべ答えると、共通無線が入った。
『こちらフォートレスリーダー! 敵ワイバーン2個飛行隊撃破確認! 予定通り残敵殲滅行動へ移行願います! 以上!』
シエルは直ぐに応答ボタンを押して答える。
「フォックスリーダー! 了解! こちらはターゲット無力化完了です! 敵残敵掃討へ向かいます! 以上!」
『フォートレスリーダー! 了解!』
司令本部応答を確認すると、シエルは木々の間から出て来たダークエルフドーキを見て言う。
「これよりランディ達と合流します。ドーキさん問題は有りませんでしたか?」
ダークエルフドーキは余裕の笑みを浮かべる。
「はい、予定通りです。手強い相手も特には」
「……それでは、移動しましょう!」
シエルは直ぐに次なる標的、赤騎士隊1番隊を目指して移動を開始した。
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