383話 デルン騎兵団
デルン騎兵団に対して異世界派遣部隊からミサイル攻撃が行われた。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日10時頃)
ここは異世界、エルフ集落から南へ35キロほど離れた上空1000m付近。上空は青空でわずかに雲が浮遊している。騎兵団長ファイアス自ら率いるワイバーン騎兵、デルン騎兵団本隊。根拠のない自信に満ちたファイアス、これまでガーダ帝国の空を圧倒的な武で支配していた。
本隊隊長の焦った声が魔法無線機から響く。
『正面上空より飛行体接近! かなりの速度です!』
ファイアス団長がゆっくりと見上げると轟音が聞こえる。今までに聞いたことのない種類の音だ。デルン騎兵団の練度は極めて高い、編隊を組んでいたワイバーン騎兵達が瞬時に散開、上空の異変に対応した。10数騎の騎兵達がすぐさま上昇した。だが、次の瞬間、辺りが鼓膜が裂けるほどの轟音と視界を失う猛烈な光に包まれる。
しばらく意識が飛んだ様な感覚、ハットして周囲を見渡そうとするが視力が戻らない。焦る団長ファイアス。
「ファイアス様! ご無事ですか!」
本隊副隊長の声が微かに聞こえた。現在大森林上空高度300mほどを時速30キロほどで飛行しているワイバーンが3騎。
団長ファイアスは魔力感知で周囲の状況を確認する。
(周囲にワイバーン騎兵達がいない!? 副隊長ともう1騎がかろうじて飛んでいる状態……、一体何が……)
団長ファイアスの頭は混乱して現状把握が出来ない。そして本隊副隊長がまた叫ぶ。
「正面より飛行体が複数接近中! 真っ直ぐこちらへ来ます!」
団長ファイアスの視力は徐々に戻り、朧げに周囲が見える様になった。騎乗のワイバーンはダメージを受けやっと飛んでいる状態、そしてファイアス自身も身体中から痛みを感じる。団長ファイアスの騎乗のワイバーンアースは瞬間的に防御魔法結界を展開した。それが功を奏してファイアス共々致命傷を辛うじて免れたのである。
だが、団長ファイアスを含め今飛行しているワイバーン騎兵3騎で無傷のものは皆無。今下方で飛行しているワイバーン騎兵はかろうじて飛んでいる状態だった。
「回復魔法士は……残っておらんか?」
団長ファイアスがか細く独り言の様に言った。意を察して隣りで飛行しいる本隊副隊長が首を振り声を上げる。
「残念ながら、生き残ったのは……我らのみと」
「魔法通信具は、どうだ? 使えるか?」
首元のスイッチを回して操作するが反応は無い。耳も目も十分にはまだ回復していない。焦る団長ファイアスだったが、副隊長の叫び声で再び我に返る。
「敵、飛行体接近! 目視! ワイバーンでは有りません!」
団長ファイアスは魔力を全身に通して治癒を図るがダメージが大き過ぎた。痛みを堪えるのがやっとの状態だった。
「高度を下げる……いや、森に降りる! このままでは無理だ。先程の攻撃を受ければ……」
そう言って団長ファイアスは手綱を引きワイバーンアースの高度を下げようとするが指示通り高度を下げない。
「……どうした!」
痛みと焦りで声を上げる団長ファイアス。そして団長ファイアスの前に副隊長のワイバーンが出る。次の瞬間、聞き慣れない連続音と閃光が走る。周囲に飛び散るワイバーンの肉片。「……うーーわっ!」
堪らず声を上げる団長ファイアス。
目前200mに灰色の攻撃型垂直離着陸機ベルーダが先ほど30mm機関砲を1連射しのである。バラバラになり副隊長とワイバーンが森へ残骸となって落下していく。灰色の機体はワイバーンアースの3倍くらい大きさはあるだろう。団長ファイアスは、もはや逃げることすら出来ない。抵抗する力さえ残っていない、空中に残っているのは団長ファイアスのワイバーンアースのみ。状況さえ把握出来ないまま一方的にやられ、今まさに攻撃を受けようとした時、大きな影が割って入る。
「こちらレッドリーダー! ホーク1! 攻撃中止せよ!」
若い女性の美しい声が戦場に響いた。
団長ファイアスは目の前の褐色の巨大なものに目を疑う。
「……レッドドラゴン!?」
団長ファイアスは声を漏らし、さらにこちらに近づく巨大なドラゴンを見て絶望感に身動きすら出来ない。騎乗ワイバーンアースも明らかに萎縮して抵抗することを諦めていた。
褐色の巨大なドラゴンは速度を合わせ団長ファイアスのワイバーンアースの横に並んだ。巨大なドラゴンの背中に騎乗しているうちの1人が立ち上がり手で合図を送って来る。
「……地上に降りろと」
団長ファイアスは合図を理解するとそれに従いワイバーンアースを降下させた。ワイバーンアースは今度はファイアスの指示通り下降して木々の無い空地へとなんとか着地する。続いて巨大な褐色のドラゴンが隣りに羽をバタつかせ舞降りた。圧倒的な褐色のドラゴン強者そのもの姿に団長ファイアスは無力感で体に力が入らない。団長ファイアスは必死の思いで両手を使い接続ベルトを外すと、ワイバーンアースから転げるように地面に落下した。
「デルン騎兵団、団長ファイアスさんですね」
横に倒れ込んでいた団長ファイアスは驚き頭を上げて声の方へ向けると、見慣れない服装の若い女性がこちらに視線を向けている。
「……なぜ、私の名前を知っている?」
思わず尋ねる団長ファイアス。
「……ファイアスさんで、間違いない様ですね」
そう言って若い女性は団長ファイアスに近づくと抱えて起こす。
「ローラ・ベーカーです。ここの作戦の指揮官です。ファイアスさんにはお聞きしたいことがあるので、私達と同行願います」
驚く団長ファイアス。そして軽々と抱えて少し移動すると仰向けに寝かされる団長ファイアス。
「このままではダメなので少し治癒します」
ローラと名乗った若い女性は白い光に包まれると団長ファイアスの胸部に手を当てる。そして白い光がファイアスを包み込む。
「……!?」
身動き出来ない団長ファイアスはされるがままに魔力を全身に通される。暖かいなんとも言えない感情が芽生えて、体の痛みが消えていく。
(かなりの傷が……この一瞬で……、なんなのだ、この女は)
団長ファイアスは驚きの顔でその女性を見つめる。その若い女性は紫色の髪をかきあげ朱色の瞳でファイアスの顔を見て言う。
「ファイアスさん、これで死ぬことは有りません。骨折と内臓ダメージ、火傷が酷かったですが、とりあえずは生死に問題無いレベルまでは治癒しました」
「……治癒!? 我を助けたと? なぜ?」
団長ファイアスは戸惑いの表情を浮かべる。
若い女性は立ち上がると地面に置いていたヘルメットを手に取り冷たい表情で答える。
「あなたが、持っている情報が欲しいからです。ただそれだけです。知っていますよ、ファイアスさんデルン騎兵団が今まで多くの都市を焼き払い、多くの罪の無い一般人の命を奪ってきたことを。まあ、降伏したものを問答無用で殺戮するのはどうかと思います。軍人なら上からの命令ならしょうがない面もあるかもしれませんんが、あなたはそれを積極的に行った。本心からすれば助けたくはなかった。あんたの魂の色は権力や力に魅了され贖罪の意思は感じられない。でも、まあ心は改めればチャンスは……」
そう言って紫色の若い美しい女性はヘルメットを被るとファイアスから離れて行く。そして直ぐに、周囲に土埃が舞い上がりあの褐色の巨大なドラゴンが空中へ舞いがった。
団長ファイアスは体で動かすことが唯一出来る頭を動かしてそれを見送った。
(……レッドドラゴンを従える!? そして一瞬で治癒させる魔力……、相当の魔法士なのか? だがその気配を感じさせなかった? 一体何者のなか……)
団長ファイアスは今更ながら体の底から身震いするほどの恐怖を感じるのであった。
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