382話 緒戦
ついにエリー達異世界派遣部隊とガーダ帝国部隊との戦闘が始まる。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日10時頃)
ここは異世界、エルフ集落から南へ40キロほど離れた上空1000m付近。
優雅にV字2段編隊を組み飛行する黒いワイバーン騎兵51騎、そのさまは威風堂々、騎乗する騎士達の白銀色甲冑と相待って強者そのものに見える。
ここを飛行しているのはデルン騎兵団隊団長ファイアス率いる本隊50騎のワイバーンである。団長ファイアスが口元に固定されている魔法通信具に声を上げる。
「これより戦闘準備! 魔法防御障壁展開! まあ我々に届く攻撃など無いが用心のためだ。我らは赤騎士隊の陽動だ! 集落への直接攻撃は厳禁だからな。集落外れ東側へ数発撃ち込み、上空で待機し必要であれば赤騎士隊の援護を行う」
『了解です! 火球攻撃準備! 射程内到達にて前列5騎のみ射撃します』
「うむ、それで良い。高度このまま維持! 火球攻撃後、一度集落上空を通過、旋回、指定空域で待機する」
『了解です! 約25分後、攻撃位置到達予定! 今より防御障壁下部に集中展開します』
編隊隊長から魔法通信の応答が入った。デルン騎兵団本隊は高度を維持して飛行を続ける。団長ファイアスには、ゴロスネスのヤルクワイバーン騎兵団の壊滅情報は真実とは受け入れがたい事であった。いくらデルン騎兵団より劣るとはいえそれなりの実力はあったはずなのに、50騎のワイバーンが全騎壊滅するなどあり得ない。低空で侵入し地上から多数の魔法士からの魔法攻撃を喰らったと考えられが、防御障壁を展開する暇さえ与えない圧倒的な魔法攻撃。油断はできないが、あらかじめ強力な防御障壁を展開しておけば大丈夫。団長ファイアスはそう考え、高度をいつもより高目にとり魔法防御障壁を編隊下部に集中展開させた。これにより相手の攻撃はほぼ無効化出来ると考えていた。そして圧倒的火力を持って、敵魔法士を殲滅すれば1番手柄は我々のものとなると甘い考えを抱いていた。
◆◇◆
ここは同時刻ローゼの隠し砦施設。屋外広場、戦術ミサイル師団第555連隊司令指揮用大型車両内。
10数名の将兵オペレーター達が車両内両サイドを埋め尽くされた機器端末の操作を慌ただしく行っていた。
中央の一段高いシートに連隊長ユーゴ大佐が座り、正面のパネルを見つめている。
車内のスピーカーから女性の声で無線音声が流れた。
《こちらフォートレスリーダー! 迎撃は打合せ通りでお願いします。ワイバーン騎兵は出来る限り落としてください! 5割を切らない場合は追加2撃目をお願いします。 掃討はホーク1、ホーク2が行います。 以上!》
ローゼ隠し砦内司令室からのリサの指示だ。連隊長ユーゴ大佐は直ぐにマイクに答える。
「ウルフリーダー! 了解! これより戦闘開始します!」
連隊長ユーゴ大佐は直ぐに車内将兵に指示を出す。
「マーカー1、マーカー2、撃墜許可! 7番、8番発射!」
直ぐに発射管制士官が声を上げて復唱する。
「マーカー1、マーカー2、撃墜許可! 7番、8番発射! 撃ち方始め!」
管制発射オペレーターがそれに答えて声を上げると同時に、操作盤のロックセレクトスイッチを解除する。
「天候問題無し! 誘導システム異常無し! マーカー1! ロックオン確認! 発射!」
続けて隣りのオペレーターが声を上げ、操作盤のロックセレクトを解除、ミサイル発射ボタン押した。
「誘導システム異常無し! マーカー2! ロックオン確認! 発射!」
隠し砦広場に2台の発射装置を上に立てた車両発射装置から炎と煙が上がり、2基のずんぐりとした8mほどミサイルが青白い炎を噴射しながら空へ飛翔して行く。この発射されたミサイル弾頭は対空用ではなく対地攻撃用である。
ローラから対空誘導弾では弾数的に効率が悪ので対地用拡散弾頭を使用するよう指示されていた。指定空域上空で弾頭が拡散広範囲に小爆弾をばら撒き魔導熱反応燃焼し周囲に猛烈な熱と爆風の嵐を巻き起こす。通常は地上付近で炸裂されるが、今回は高度1500mに設定してある。今回発射されたミサイルは音速付近まで加速して高度5000mまで上昇、指定空域上空で弾頭を切り離し落下指定高度で弾頭を開放拡散させて爆発燃焼させる。本来はこんな近距離で発射運用はしない代物である。
監視オペレーターが声を上げる。
「1番! 2番! 発射異常無し! 着弾まで100秒!」
連隊長ユーゴ大佐が情報モニターを見て言う。
「効果はあると思うが、1発で全部落とせるかどうか……」
隣りの30歳くらいの管制士官がユーゴ大佐の顔を見て緊張した顔で言う。
「あれは特殊弾頭です。魔都に使用したものより強力です。対魔法兵器ですから効果はあると思います」
ユーゴ大佐は管制士官に視線を向ける。
「君は、どう思う。この戦いの変化に、私は心が追いつかないのだよ。急激な戦略、戦術の変化、私は今でも戸惑う……。士官学校を出て直ぐの頃と、今ではまるで別物の戦い方。そして兵器の破壊力は比べようもない」
「……ほとんどがブラウン重工業が革新的技術を次々と実用化したと聞いています。そして軍の再編運用に関しては、今の外事局課長エリー中佐が草案を立案したと、士官学校時にはすでに上層部では軍事の天才と呼ばれて、実戦へ出ればグランの英雄ですからね。ですがこの状況を創り出した仕掛け人はベランドル帝国のローラ様だとの噂ですが、真実はわからないです。私のような下級士官ではわからない事ばかりですが。上に立つローラ様は遥か先を見ておられるのでしょう」
管制士官がそう言うと、連隊長ユーゴ大佐は少し嫌な顔で言う。
「まあ、私は変化は嫌では無い、だが急激な変化は……、組織や人間に歪を生む。確かにローラ様は優れたお方だと思うが、近くで見る雰囲気は若い美しい聡明な女性にしか見えない。しかし……」
監視オペレーターが声を上げる。
「2番カウント入ります! 着弾10秒前!」
「1番カウント入ります! 着弾10秒前!」
車両内のスピーカーから男性の声が響く。
『こちらイーグル1! 2番確認!』
戦域上空に監視警戒のためいるランカーⅡ5号機から無線が入った。続けて監視オペレーターが報告の声を上げる。
「2番着弾!」
「1番着弾!」
監視オペレーターが一瞬、炸裂爆発で乱れたレーダーモニターの回復を待っている。そしてレーダーモニターを慎重に確認して報告した。
「マーカー1! 残有り! 数……3!」
そしてもう一度確認した監視オペレーターが報告する。
「マーカー2! 残有り! 数5!」
それを聞いて管制士官が声を上げる。
「ホーク1! ホーク2! 各隊へ追撃要請!」
通信士が直ぐ無線回線をベルーダ飛行隊へ繋ぎ要請を行う。
「こちらウルフリーダー! 直ちにマーカー1、マーカー2を追撃されたし! こちらは作戦クリア! 以上!」
『ホーク1リーダー! 了解!』
『ホーク2リーダー! 了解!』
そして砦上空ですでにホバリング状態待機していたベルーダ10機が一気に可変翼角度を変更、目標ターゲットへ向かい次々と上昇加速して行った。マーカー1は数51騎デルン騎兵団本隊である。南から北上集落へ接近していた。そしてマーカー2は北より南下していたデルン騎兵団別動隊50騎であった。レーダー上ではほとんどが空中に残っていない状況。基本的に壊滅が5割の被害、今回のデルン騎兵団の状況は全滅状態の被害を出していた。ほんの10秒前まで勇壮に翼を広げ飛行していたワイバーン騎兵達は、ほとんどが空中に残っていない。残ったワイバーンもダメージを受けかろうじて飛行している状態であった。
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