381話 迫る軍勢45
エリー達はいよいよガーダ帝国攻撃隊への攻撃を開始する。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日10時頃)
ここは異世界、ローゼ隠し砦から東へ7キロほどのエルフ集落。
集落の東に野営テントが3張り。そのひとつ20畳ほどの広さのテント内に通信探知分析機材が持ち込まれ本部が設置されている。テント内には特務大隊、第555連隊将兵、ブラウン商会特殊部隊員の派遣将兵が10名ほどおり、各隊との連絡指示を行っている。
エリーは奥のテーブルの椅子に座って情報端末モニターを眺めていた。テーブルを囲む椅子にはメルティア、ボリス、アオイが座っている。
あの後メルティアとアオイことドーラは30分ほど話し合いをした。アオイは過去の思いの感情をメルティアにぶつけた。そしてメルティアがひたすら謝罪をするとアオイは呆れ諦めたように黙り込み話し合いは終わった。2人の蟠りはまだ、しばらく続きそうだった。エリーは少し助言を行ったが、それくらいでは解消することは無いだろう。400年前のメルティアの失態をアオイは根に持っている。女神セレーナのスキルを使用すれば、それも無かったことには出来るが、エリーはそれではダメだと思った。メルティアが解決する問題であると判断した。それくらい出来ないとカルバル大陸の統治などで来るはずが無いと思ったからである。エリーは30インチの情報モニターを見ながらヘッドセットから各隊へ指示を出していた。
エリーはすでにガーダ帝国第1波の攻撃隊陣容は把握している。そしてローゼ隠し砦施設には移動式対空魔導レーダーを2基設置、すでに稼働中で周囲300キロ圏は索敵範囲内となっている。上空にはランカーⅡ5号機が旋回待機中で、ワイバーン騎兵団への攻撃体制を整えていた。
砦施設簡易飛行場では攻撃型垂直離着陸機【ベルーダ】12機がスクランブル体制で待機している。地上では集落東5キロ地点でシエル率いる元黒騎士隊メンバーを揃えたシエル隊が待機、南東5キロ地点にはランディとカルヤが率いるカルヤ隊が待機、赤騎士隊を待ち構えていた。そして森の各所にはビルド小隊が分隊単位で潜み待機している。
大森林の各所にはエリーの遠視眼及び魔導感知センサーが設置されており赤騎士隊の位置人員は正確に捕捉していた。そして後方にいる、青騎士隊騎兵隊も捕捉している。大森林内はすでにエリー達のテリトリー、敵への攻撃体制は整い、あとは戦闘開始の合図を待つばかりとなていた。
エリーはテント内70インチの総合情報モニターを見てボリスに尋ねる。
「ボリスさん、事前情報の通りの戦力展開ですね。何か気に掛かる点はありませんか?」
ボリスはモニターに表示される情報マーカーを見て頷く。
「はい、特には……、青騎士隊が散開して後方待機20キロ、これでは赤騎士隊との連動は無理でしょう。退路確保、あるいは情報収集目的でしょうか。隊長バッカルスはどちらかと言えば猛将タイプなのでちょっと意外です」
エリーはボリスの言葉を聞いて同じくモニターを見つめるメルティアに尋ねる。
「メルティアさん、何か気付いたことはありますか?」
「……はい、これがローラ様の戦争なのですね。リアルタイムに随時表示される敵味方の状況、適正に配置される味方部隊。私の経験した戦いとは大きく違います。そして各隊が情報デバイスで情報を共有し誤認等もほぼ無いに等しい状態で敵を殲滅する。私が逆の立場だったらとても恐ろしいことです。相手はこのような状況になっているなんて知る由もないのですから。敵の指揮官が可哀想に思います」
エリーはメルティアを見て優しく言葉を掛けた。
「メルティアさん、優しいですね。戦いはもっと広範囲を見極めることも重要です。例えば、後方のゴロスネスの状況、西部領内の諸侯の動向、そしてガーダ帝国帝都の状況です。大陸全体の状況も把握しておかなければ、局地的に勝利しても、大きな局面で敗れることになることだってありますからね。だから、メルティアさんは視野を広く持って感情的にならず冷静に判断するようにしてください」
メルティアは頷き少し微笑む。
「はい、承知しております。時には、大局を見据えればワザと負けることも必要であると」
「……ええ、そうです」
エリーはヘッドセットのマイクをずらして通信装置スイッチを共通通信帯に切り替えた。
「こちらレッドリーダー! 各員に達する! これより敵ワイバーン騎兵南北2個編隊に対して迎撃殲滅を行う! 予定通り設定空域に到達次第、迎撃ミサイルにて迎撃、ベルーダ第1、第2飛行隊は残党殲滅を行う! 予備機は上空待機にて万が一討ち漏らしがある場合の対処! 地上1番から3番隊は前面敵が所定1キロ圏内へ入り次第戦闘開始せよ! 後方控え部隊の対応は私が行う! 尚、指揮権は戦闘開始後、フォートレスリーダーへ委譲する! 各員奮闘を期待する! 以上!」
各部隊長からの返信が返って来るのを確認後、エリーは素早く無線装置を切り替えた。
「こちらレッドリーダー! フォートレスリーダーへ! これより戦闘開始する。 レッドリーダーよりフォートレスリーダーへ戦線指揮権を委譲する!」
テント内のスピーカーからリサの声が聞こえる。
『こちらフォートレスリーダー! 了解! 指揮権委譲確認! レッドリーダー健闘を祈ります! 以上!』
エリーはヘッドセットを頭から外すと棚に置かれた軍刀を掴みアオイと視線を合わせる。
「はい、それでは」
アオイは腰に素早く軍刀を装着した。エリーはボリスとメルティアに手を挙げて頷く。
「メルティアさん、ボリスさん留守番をよろしくお願いします。まず問題は無いと思いますが、問題が有れば対処してくださいね」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃませ」
メルティアとボリスが同時に頭を下げた。エリーとアオイは背中にバックパックを背負いヘルメットを被る。
エリーとアオイがテントを出ると騎兵ガロンがアーマプレートを装着した軍装で待っていた。
「ローラ様! いつでも行けます。アニーがまだか、まだかてうるさいです」
エリーは右手を挙げて敬礼するとガロンも敬礼を返す。
「アニーの調子はどうですか? まあ聞くまでも無く見ればわかりますが」
エリーは集落の中央広場で待っているアニーに視線をを向けた。
「万全です。アニーはローラ様を背中に乗せたくてたまらないにです」
巨大な褐色のドラゴンが翼を大きく開いて嬉しいそうな表情をエリーに向けた。
〈アニー、よろしくお願いしますね。調子はどうですか?〉
〈万全です。主様のお役に立てるよう頑張ります〉
アニーから伝心念話がエリーに返ってきた。エリーは両手でアニーの胴体に触れるて軽く撫でた。アニーにはすでに搭乗鞍が取り付けられている。この搭乗鞍には味方識別用ビーコンが内蔵されており味方から攻撃を受けることは無い。
エリーとアオイが足場フックに足を掛けて鞍に跨り落下防止アダプタを装着した。最後にガロンが鞍に這い上がって跨るとアニーが翼を大きく広げて羽ばたき土埃を巻き上げると空中に浮遊した。周辺にいたエルフ集落の住民達が手を振るとエリーは手を軽く挙げて答えた。
そしてアニーはさらに高度を上げると魔法障壁をエリー達周辺に展開、風圧を抑止する。
アニーは南東方向へ頭を向けると羽ばたき一気に加速、巨大なドラゴンは小さな点となりしばらくして見えなくなった。
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