380話 迫る軍勢44
いよいよエリー達に迫るグリスダースの手下。それをエリー達は万全の体制で迎え討つ。
2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日9時頃)
ここは異世界、ローゼ隠し砦から東へ7キロほどのエルフ集落。
エリーは転移帰還するとローゼ隠し砦施設で各部隊長と直ぐに打ち合わせを行い。30分ほど前に集落へ戻って来ていた。
すでに異世界派遣隊はグラン連邦国軍戦術ミサイル師団555連隊、外事局即応特務大隊、第2航空選抜派遣隊、ブラウン商会特殊部隊全てが揃い準備を整えていた。リサがローゼ隠し砦施設責任者として残り、エリー、メルティア、ボリス、ニコルがエルフ集落へ戻っていた。
集落周辺にはランディ指揮する獣人カルヤ隊が警戒にあたっている。
エリーは集落離れの一軒家に主なメンバーを集めた。エリー、メルティア、ボリス、シエル、ランディ、カルヤ、アオイ、がテーブルを囲んで座っている。
「戦力は整いました。あとは情報収集ですが、それも問題は無いようです。先ずはゴロスネスを制圧します」
エリーは派遣部隊森林迷彩戦闘服を着用して大魔導士ローラの偽装をしている。大テーブルでエリーの隣りに座るボリスがエリーを見つめて言う。
「ガーダ帝都からデルン騎兵団、赤騎士隊、青騎士隊がこちらへ向かったようです。対策を講じて置く方が良いかと」
エリーは微笑み美しいボリスの顔を見つめて言う。
「もう大森林へ侵入していますね。約200名ほどが二手に分かれて20キロ圏内へ入っています。すでにブラウン商会特殊作戦隊が捕捉して監視中です。私の遠視眼を避けることは困難ですからね」
エリーは微笑み伝心でイメージをボリスへ送った。
「……はい、イオーネ配下の赤騎士隊と思われます。隠蔽能力と戦闘力は高いです。私達黒騎士隊より個の能力は低いですが、数が多いので……もしかすると突破の恐れが……」
「大丈夫です。ビルド小隊がいますから、突破は、まず無理だと思います。ただ的になるだけだと思います」
エリーが何でもないように答えるとボリスが少し嫌な顔をする。
「ローラ様、確かに連れて来られた兵士達はお強いかもしれませんが。相手は皇帝直属の精鋭です。油断は禁物です」
エリーはボリスの顔を見て顔を引き締めると真剣な口調で言う。
「はい、もちろんです。油断などしません。相手の力量を見極めることは重要です。そして部下に被害を出す訳にはいきませんからね。万が一の備えも準備しています。慢心はしていませんよボリスさん。臨機応変に対応するよう訓練された者達です。安心してください。ビルドさん以下、ビルド小隊はトッドさんの修練カテゴリレベル2をクリアした者達です。なので無理はしなし万全の装備で対応します。格上の対応も心得ていますが。ただ、この世界のS級ですか、私達の世界で特級と呼ばれる者達を相手にするのは、荷が重いのでフォローは当然行いますけどね」
ボリスは、エリーの顔を見て椅子からゆっくり立ち上がと後ろに退がり貴族式の礼をする。
「……、ローラ様が慢心などされるはずが無いことは、承知しております。ですが、皇帝グリスダースは油断ならぬものです。……申し訳ございません。私ごときが……」
エリーは椅子から立ち上がりボリスを見つめて言う。
「ボリスさん、あなたが楽観的でないことはしょうがないです。過去のこともあるしね。だからこそあなたはメルティアさんのサポート役なのです。物事を思慮深く観察分析して裏を読み最善を選ぶ。そうやってあなたは生き残って来たのですから」
反対隣りに座っているメルティアが微笑みエリーとボリスを見つめて言う。
「はい、今の私では最良な選択は出来ないかもしれません……。女神セレーナ様のお導きに感謝致します。ボリスさんは本当に凄い方だと思います。ボリスさん、私の足りない部分を補ってくださいね」
メルティアの言葉を聞いてボリスは一瞬眉を顰めてから笑顔を作った。
「はい、メルティア様」
テーブルの反対側に座っているシエルが少し興奮してエリーに尋ねる。
「ローラ様、侵入者の撃退は我々も参加してもよろしいでしょうか?」
「……ええ、隊長格はお願いしようと思っています」
エリーが答えるとシエルは嬉しいそうな顔をした。
「ありがとうございます! まだこちらに来てから全力で戦ったことがないので、見極めるには丁度良いと思ったのです」
エリーは首を傾けて少し嫌な顔でシエルに言う。
「……シエルさん、極力命は奪わないようお願いします。まあ、被害が出そうなら許可しますが」
「ローラ様より賜った魔導ブレードを試したいのです。今まで私が使っていた剣よりかなり良いものです。正直に申し上げれば、うずうずしてたまらないのです。勘違いなきよう申し上げておきますが、私は戦闘狂では無いです」
エリーはシエルの顔をマジマジと見てから言う。
「はい、承知しています。シエルさんとランディさんは、私が指示した隊長格を潰してください。カルヤさんは部隊を指揮してビルド小隊と連携をとって敵を殲滅してください」
カルヤが不安そうな顔をしてエリーに言う。
「……ローラ様ですね。ええ、使い慣れない装備を使うのは……どうにも」
カルヤ達にはつい先ほどビルド小隊と同じ装備一式が渡されていた。エリーはカルヤ達には各人の記憶域へ装備知識、使用方法を伝心で送っている。装備は異世界派遣隊用、対魔導戦闘服、アーマープレート、戦闘ヘルメット、戦闘ゴーグル、通信ヘッドセット、対魔導アサートライフル、電撃棒。
「元の装備ではダメですか? 使い慣れない装備では十分な働きが出来ないと思うのです」
カルヤが大きな瞳を少し潤ませて嘆願する。
「カルヤさん、あなた達はセレーナの従者なのです。知識だけで無く体もすでにある程度装備を扱えるようになっています。試しにアサートライフルを使えばわかります。自然に体が動いて給弾、照準、射撃が出来るはずです。もちろん身体能力差によって戦闘力は異なりますが、扱いに困ることは無いはずです。アーマープレートも薄く軽いですが、カルヤさんが以前使っていたものと比べると強度は3倍は有りますよ。対魔法耐性も付与されていますからより生存率を向上させます」
カルヤは隣りのランディに睨まれと視線を逸らしてエリーに一礼する。
「……はい、ローラ様がそうおっしゃるなら……ですが、戦闘ヘルメットは……」
エリーはカルヤを見てから直ぐに理解した。
「あゝ、そうですよね。耳が圧迫されますよね。とりあえずヘッドギアタイプに変更して何とかしましょう」
「……ありがとうございます! ですが着慣れないこの服も違和感が……」
カルヤが戦闘服の袖を引っ張ってアピールするとランディが威圧的に言った。
「カルヤ! いい加減にしろ! これらはお前達のために準備してくださったんだ」
「はい……理解しています」
カルヤはそう言って上目遣いでランディを見つめた。
「……カルヤ、あとで模擬戦で確認してやるから」
ランディがカルヤを引っ張りエリーを見て一礼する。
「エリー……ローラ様! 少しカルヤをシゴいて来ます!」
エリーは呆れた顔をしてランディを見て言う。
「ええ、良いですけど。情報は伝心で送るから」
「申し訳ありません! 至らない弟子で」
そう言ってランディはカルヤを押し出すように部屋を出て行った。
エリーは部屋に残ったメンバーを見渡して言う。
「では、話の続きですが。ゴロスネスからワイバーン騎兵団がもう直ぐこちらへ飛来します。情報ではガーダ帝都ワイバーン騎兵団精鋭100騎、そして赤騎士隊200、後方に青騎士隊50が展開しています。目的はこの集落の攻撃殲滅と考えられます。これはガーダ帝国皇帝手持ちの最強戦力です。予想される相手の作戦はワイバーン騎兵団でこちらの防御態勢を崩し、その隙に赤騎士隊で集落を攻撃、後詰めの青騎士隊が支援攻撃と言う感じでしょうか? ゴロスネスの兵力は今回は出る様子が無いようです。ガーダ帝国から、西部領周辺に10万の諸侯動員令が発令され1週間以内に兵力をゴロスネスに集結させるようです。まあ、1週間では手遅れですけどね。我々は2日後にはゴロスネスを制圧しますから」
メルティアが嬉しいそうな顔をして口を開く。
「ローラ様、敵の作戦が手に取るようにわかるのですね。さすがです。私はまだまだだと」
エリーはメルティアを見て少し呆れた顔をする。
「情報はいかなる戦いにおいてとても重要です。正しい情報を得て正しく分析してこそです。そして相手の欺瞞情報に惑わされないことが重要です。その辺はボリスさんは長けていますから、今回は元黒騎士隊、ゴロスネス駐屯兵団の間者諜報員から得た情報です。情報も無しに闇雲に行動しては無駄が多くそして敗北を招きます。そして何と言っても戦いは、人心のコントロールが重要です。それはメルティアさんが行うものですからね。あなたはこれからカルバル大陸人民の希望の光、象徴になるですから、覚悟を決めてくださいね」
メルティアはエリーの言葉を聞いてゆっくり跪き視線をエリーに向ける。
「はい、もとより覚悟はしております。最良な結果を得られるよう尽力致します」
エリーはメルティアの手を取り言う。
「はい、よろしくお願いします」
エリーは再びメンバー全員を見渡して言う。
「では、これよりガーダ帝国第1波攻撃を撃退します。全体の指揮は私が行います。各隊は所定の位置で待機してください! 以上!」
エリーが声を上げると全員が合わせたように一斉に一礼する。
そして、シエルが部屋から出て行った。端で大人しく見つめていたアオイがメルティアの前によるとメルティアを金色の瞳で見上げた。
「お久しぶりです。メルティア殿。ドーラです」
メルティアは首を傾げてアオイを見つめる。
「……アオイ様にをおっしゃっているのですか? ドーラ!? ハッテ……?」
アオイは呆れた顔をして2歩ほど下がると紫色の光が全身を覆う。そして身長が10cmほど伸び髪がロングヘアに変わり、幼いヒイルズ系の顔からアルカン西部系の20代前半の美女の顔に変化した。そしてメルティアを見据える。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! 今年最後の投稿となります。これからも、どうぞよろしくお願いします。