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379話 迫る軍勢43

グリスダース皇帝直属青騎士隊が大森林へ侵攻を開始した。

 2国間和平交渉会議24日目午前(大陸統一歴1001年11月6日7時頃)


 ここは異世界、エリー達エルフ集落から東へ60キロ離れた大森林前の集落。


 軍馬50騎に騎乗した紺色の騎兵鎧を着用した集団が街道を2列進行している。検問詰所から慌ててゴロスネス守備兵数人が飛び出して槍を構える。


「これより先の通行は認められません! 統制官ベリアス様の許可証を!」

 ゴロスネス詰所の兵士長は見慣れない紺色の鎧と胸に入った意匠に怪訝そうに声を上げた。

 詰所の兵士達は、統制官ベリアスから指示を受けていた。先走る諸侯がいるかもしれない、混乱を招く恐れがあるから、進軍命令発動までは許可証なき者は、いかなる者も通してはならないと。


 先頭の騎兵が後ろの指揮官らしき人物に声を上げる。

「どう致しますか!」


 口髭を生やした長身金髪の40歳くらいの指揮官は、軍馬から直ぐに降りると軍馬を隣りの騎兵に任せる。地面に立ってその身長は190cmくらいはある。

 男は威圧感を漂わせて詰所の兵士長のそばによると一旦頭を軽く下げ会釈した。

「我々は皇帝直属青騎士隊! ベリアス殿へは許可は得ている。残念ながら急ぎのため許可証は無いが、通してもらえないだろうか? 無理に押し通る訳にもいかん」


 顔色が変わる兵士長、慌てて後ろの兵士に指示を出した。

「ベリアス様に急ぎ確認を!」


 青騎士隊の指揮官が声を上げる。

「待て! それには及ばぬ! 我々は皇帝直属青騎士隊! 報告する必要も無い。貴殿の務めは承知した」


 青騎士隊指揮官の長身の男はゴロスネス詰所の兵士長の前で手を振り翳す。

「理解出来たようだな! 通っても良いな」


「はい、どうぞ、お通りください」

 ゴロスネス詰所の兵士長は虚な顔をして青騎士隊の指揮官に答え頭を下げた。後ろにいた数名の詰所兵士達が槍を下げて道を開ける。青騎士隊指揮官は魔法幻惑スキルでゴロスネス詰所の兵士達の意識を奪ったのである。


「ご苦労! では行かせてもらう!」

 青騎士隊の長身の指揮官は軍馬へ騎乗すると、他の軍馬共々詰所横の門を通過して行く。


 軍馬の指揮官に横から直ぐ副官らしき人物が話し掛けた。

「バッカルス様、穏便に済ませましたね。強引に押し通ると思いましたが」


「まあ、相手がベリアス殿だ。皇太子とも親しい下手な事をする訳にもいかん。将来的に執行官辺りになるだろうから、心象は良くしておかないとな」


「ですね。で、今回はどのように?」

 副官が長身の指揮官に尋ねる。


「当初の予定通り、3班に分けて行く。お前の隊は前で頼む。今回は赤騎士隊、デルン騎兵団との合同作戦。皇帝陛下からの指示通りにする。面倒だが勝手な事は出来ない。我々は赤騎士隊の援護支援だ。あの用心深い黒騎士隊のボリスがやられたのだから、相手はかなりの猛者だ。我々単独ではかなり厳しいだろう」


 隣りの副官が怪訝な顔をする。

「……らしく有りませんね」


「いや、そうでは無い。今回は皇帝陛下の様子から……、ただならぬ状況と感じたからだ。前に出るのは危険と判断した。だから、赤騎士隊で様子を見る。やばい状況なら即時撤退だ。いくら相手にダメージを与えても壊滅したのでは意味が無い。我々は皇帝陛下に忠誠は誓っているが生き残ってこそだ」


 そう言って青騎士隊の指揮官バッカルスは副長へ鋭い視線を向ける。

「……ええ、承知しました。慎重なので少し驚きましたが。では交戦は極力避ける方向でよろしいですね」


「あゝ、それで良い。今回は生き残る事を優先する。我らは敵の情報収集を1番に考えればそれで良い。皇帝陛下へもそれが価値があると考える。相手はいつもの格下ではないと心得よ」

 青騎士隊の指揮官バッカルスは右手を大きく上げる。一斉に後ろに続く軍馬騎兵達が歩みを止めた。そして指揮官バッカルスが手綱を引き軍馬の向きを変える。

「これより第1、第2、第3隊に別れて、作戦行動を開始する! 魔導無線機は重要連絡のみ許可する」


 副長が手を上げると各隊へ騎兵達が軍馬を巧みに操り整列した。

「武運を祈る!」

 指揮官バッカルスが声を上げる。


「では! 順次作戦行動を開始します!」


 青騎士各隊2番、3番隊リーダーが声を上げて軍馬騎兵が離れて行く。

 指揮官バッカルスが森林内の道をしばらく進むと傍から近寄る影が、バッカルスが軍馬の進行速度を落として近づいた者と合わせた。

 軍馬上のバッカルスが傍で歩く者に視線を向けた。

「どうであった? 何か収穫はあったか?」


 紺色のショート丈のローブを羽織る人物はフードを取り視線を馬上のバッカルスに向けた。

「はい、予想通りです。これといったものはございませんでした。ご命令に従い20キロ圏内へは近づきませんでしたのでご安心ください」


 黒髪ショートヘアの20代後半くらいの女性がバッカルスに報告した。

「……やはり、強い魔力反応は無かったのだな。ボリスの痕跡は確認出来たのか?」


 黒髪の女性は軍馬の隣りで歩きながら少し頷く。

「はい、僅かですが、ボリス様の通った痕跡は確認出来ました。それとゴロスネスのワイバーン騎兵団ヤルク隊の戦闘域の確認しましたが……。酷い状況でした。一方的に逃げる間もなく叩き落とされた感じでした。周辺の森林にワイバーンの肉片と騎兵の死体が散乱していました。短時間で同時攻撃を受けたようです。ワイバーン騎兵団は魔力防御障壁展開出来るはずですが、貫通してワイバーンを肉片にしてしまう強力な攻撃を受けたものと考えられます」


 バッカルスは手綱を引いて軍馬を止める。

「……皇帝陛下のデルン騎兵団はヤルク隊より強力だが、マズイかもしれん。奴らは自分達を最強だと自負してプライドは高いが……。今回の相手は……」

 バッカルスは軍馬から降りて右手を上げた。


「ここでしばらく休息だ!」

 バッカルスの声に従い10騎の青騎士騎兵達が軍馬から降りて道の脇に寄った。


 バッカルスが軍馬を引っ張り脇に寄せて黒髪の女性に尋ねる。

「リナ、お前はどう思う? 私の予想では作戦は失敗する。現状、敵の情報はほぼ無い。送り込まれた手練をことごとく殲滅撃退している。情報が無いのは打つ手が有るのか無いのかわからない。全滅か?」


 黒髪の女性はバッカルスの隣りに跪く。

「……はい、エルフ集落に近づくのは容易では無いと判断します。強力な攻撃魔法を操る魔法士、強力な防御魔法を展開出来る魔法士がいます。それも規格外の者達と思われます。あのボリス様率いる黒騎士隊を殲滅撃破するほどの能力を有している。私の分析では皇帝陛下は我々では勝てない事は理解しているでしょう。敵を引っ張り出すことが目的ではないかと考えます。私には大森林はあまりにも静寂過ぎます。かつての大賢者メルティアがこれほどの力を集結させるとは……、皇帝一族が必死でメルティアを探していた理由がわかった気がします」


 バッカルスは脇の岩の上に座る。

「では、我々は極力見つからないようにしないとな。で、リナ、雰囲気でどう感じる? 空間認識スキルでそうだった?」


 黒髪の女性はバッカルスを見つめて間を置き答えた。

「……余りにも、静か過ぎます。脅威となる波動すら全く感じないのです。ボリス様が油断したとは申しませんが……、かなりの魔法術者がいるものと考えられます。全てを覆い隠し魔力漏れすらさせない。私はボリス様を討ち倒した相手が潜んでいるのにです。とても恐ろしく感じました。メルティアが暗黒の大魔王手を結んだとしか考えられぬと……」


 バッカルスは目を閉じて言う。

「心配無い、皇帝陛下グリスダース様は大魔法士だ対処出来るであろう。我々はその先兵である。まずは相手を見極めることこそ大事だと思うが」


 黒髪の女性リナは軽く頷き言う。

「赤騎士隊はデルン騎兵団の攻撃に乗じてエルフ集落へ侵入攻撃、及びメルティアの殺害を予定していますが……、まず困難かと。赤騎士隊もかなりの実力者揃いですが、生きて脱出出来れば良いと思います。良くて1割帰還出来ればでしょうか」


 バッカルスが感情の無い顔で言う。

「……まあ、我々は退路確保と情報収集が出来れば良い。集落へは近付かん。リナ、お前はこれから我らと行動を共にせよ。周囲を警戒してくれればそれでよい」


「……しかし、私は馬が有りません」

 黒髪の女性リナが答えると、バッカルスは立ち上がり言う。


「一緒に乗れば良い。お前など軽い負荷にもならん」


「……はい、承知しました」

 軍馬の鞍にリナを押し上げるバッカルス。そしてバッカルスはリナの後ろへ騎乗する。


「では、出発!」

 バッカルスが声を上げると騎兵達が一斉に騎乗して再び進軍が始まった。



 


 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。


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