第377話 迫る軍勢41
エリー達は次なる目的地ベランドル帝国へ
2国間和平交渉会議24日目深夜大陸統一歴1001年11月6日2時頃)
ここはベランドル帝国領上空7000m。
現在エリー達の搭乗したランカーⅡ5号機はドール市へ向けて飛行している。キャビンの小さい窓から外を見つめるメルティア、隣りに座るエリーはメルティアの左肩に頭を寄せて可愛い寝息を立てている。
(……、エリー様、なんと神々しいお顔をされているのでしょう。お導きに感謝いたします。女神セレーナ様を内包された選ばれしお方……)
メルティアは左手の指先でエリーの頬にそっと触れて体温を感じる。
「……」
メルティアはエリーの顔に頬を近づけ接触させた。顔の感触を感じて薄目を開け目を覚ますエリー。
「……!?」
「……どうかこのまま、しばらく……このままで」
メルティアが小声で囁くとエリーはゆっくり目を閉じて優しく右手をメルティアの手に添えた。
「……メルティアさん」
エリーはメルティアがこれから起こであろう戦いに緊張しているのだろうと思っていた。メルティアの顔は緩み幸福感に包まれた表情でエリーの体を抱き寄せる。
「……私は、これだけで幸せなのです……」
メルティアの言葉に戸惑うエリー。
「……!?」
メルティアの顔を見るとなんとも緩んだ顔をしている。エリーはメルティアの不穏な雰囲気で体を寄せて来るメルティアを両手で押し返した。エリーはメルティアの精神体の揺らぎを感じる。
(……メルティアさん、まだまだ安定していない様です。流れを整えてあげないとダメな感じですね)
エリーに押し剥がされて悲しそうな顔のメルティア。
「……エリー様……私はタダ、愛しいだけなのです。胸の中がなんとも言えない気持ちなのです」
メルティアが瞳を潤ませてエリーを見つめる。エリーは呆れた顔をしてメルティアの肩に手を添えて言う。
「感情が不安定で高揚しているだけです。これから起こるであろう戦いに緊張しているだけです。ドールに着いたら魔力を通して調整しますからね。気持ちを落ち着かせて安らかにして下さい」
エリーは優しく宥めるように言った。
「……? エリー様、はい、おっしゃる事は理解しました。ですが……」
メルティアはエリーの言葉を聞いてためらったように答えるとシートに座り直しブランケット肩まで上げて目を閉じた。
「……? あと2時間ほどで着きます。仮眠をとってくださいね。私はコックピットへ行って来ます」
エリーは座席ベルトのバックルを外す。そして立ち上がると少し拗ねたようなメルティアを残して通路を進みコックピットへと向かった。
◆◇◆
ここはベランドル帝国帝都ドール市郊外の帝都防空航空隊基地。航空基地司令部建物3階応接室。
皇帝エランと皇帝護衛隊副長ビア、そして先ほど到着した特務大隊アンジェラ中尉、セーヌ大尉がテーブルを4人で囲んで談笑していた。
アンジェラとセーヌは現在、大陸の一部従わない地方軍閥等の勢力鎮圧作戦を展開中であった。エリーの要請により急遽こちらへやって来たのである。少し疲れた様子のアンジェラとセーヌに労いの言葉を掛けるエランであった。そして恐縮する2人であったが、エリーと似ている皇帝エランには親しみを感じていた。
「エラン陛下、お言葉に感謝致します。作戦詳細はまだ存じませんが……。私達が呼ばれるので有れば、厳しい作戦であると予想しています」
アンジェラがそう言って疲労の見える顔で無理に微笑んだ。
「……アンジェラさん、セーヌさん、申し訳有りません。着いたばかりなのに……、あと2時間ほどあります。シャワーでも浴びて休息して下さいませ」
エランは2人の少し薄汚れた軍服と疲れた顔を見て申し訳なさそうに言った。
「……いえ、エラン陛下のお言葉を頂き、疲労感も和らぎました」
セーヌがソファから立ち上がりエランに丁寧に一礼した。
「アンジェラさん、セーヌさん、私の事は気にせず準備をしてください」
エランは微笑みアンジェラとセーヌの顔を見つめる。
アンジェラはソファから立ち上がりエランに一礼してセーヌと視線を合わせる。
「それでは失礼致します」
2人は合わせて再度一礼すると応接室から出て行った。エランはドアが閉まるのを確認してビアに顔を顰めて言う。
「……私、お邪魔だった見たいね。疲れているのに」
ビアがエランの顔を見て呆れたように答えた。
「そうですよ。一旦帰った方が良いと申し上げたではないですか。陛下がおられるのに、ご挨拶しない訳にはいかないですから……」
エランはビアの言葉を聞いてほっぺたを少し膨らまして冗談ぽく言う。
「ビアさん、最近の物言いが雑になって来ましたね。皇帝に対してハッキリ言い過ぎです。そこはもっと違う言い方があるのでは。例えば……違いますよ、陛下のご配慮に感謝されていますとか、あるいは直々のお言葉に感動されているとか……色々あるはずです」
ビアが少し俯き笑いを堪えている。
「……!? なんですか? その反応」
「いえ、エラン陛下がそのようなお言葉を望んでいない事は存じております。ですので……」
赤毛のショートヘアをかきあげてビアは微笑んだ。
「ビアさんが私に尽くしてくれている事は承知しています。このように気軽にハッキリも言うのもエリーとビアさんくらいですよ」
エランは呆れた表情をして言った。
「話は変わりますが、セリカさん、元気にやってますかね。エリーの抜けた分ヒイルズ帝国交渉の外交団主要メンバーに任命されましたからね。真面目な方ですから大変でしょう……。エリーくらいゆるくやってくれれば良いのですが。こちらの条件をのんでくれれば直ぐに仮協定締結までいけるにですが」
エランが心配そうに言うとビアは瞳を開いてエランを見つめる。
「セリカ様は、ああ見えて抜くとこは抜きます。しっかりこなされていますよ。多分」
ビアはそう言ってソファから立ち上がりエランに一礼する。
「エラン陛下、それでは将兵に激励のお言葉を掛けておきますか」
「……エリーと一緒にと思ったのですが……」
エランがビアの瞳を見つめて言った。ビアは少し躊躇ったように言う。
「……陛下、出発前は何かと忙しいと思います。エリー様とお話しの時間が取れなくなりますよ」
エランはソファからゆっくり立ち上がり、眠そうな顔をする。
「……そうですね。そうしましょうか。頑張ってくれている者達の顔を見に行きましょう」
ビアが直ぐに移動してドアを開け頭を下げた。
「エラン陛下! どうぞ!」
「……! ええ……」
エランは少し機嫌の悪い顔をして応接室から出て行く。そしてエランに続くビアであった。
◆◇◆
ここは異世界ローゼ隠し砦施設。屋外の広場に5機の重装機兵が跪き並べられている。
ボビー少佐達整備将兵達は、忙しく周辺で動き回っている。
アナ技術少尉はレンベルのコックピット内でシステムチェックを行っていた。レンベルの足元で機器端末を見ているボビー少佐がインカムでアナ技術少尉に指示を出す。
「アナ、魔導融合炉システム起動準備する。各システムエラーチェック問題無いな?」
『はい、全てのセンサーアクセスエラーチェックOKです。リミット値も異常ありません。新規飛行システムシーケンスはどうしますか? シーケンスは問題ありませんが、展開飛行モードは現在使用不可です。アクセス権はエリー中佐しか与えられていません』
「……あゝ、嬢ちゃんが着いてからだな。今はとりあえず、通常モードで動けるようにすれば良いだろう。とりあえず起動してチェックする。アナ、起動スタンバイ!」
それを聞いて、アナ技術少尉が接続端末を操作する。するとコックピット内の警告ランプが点灯して機体のスピーカーから女性の声でアナウンスが流れる。〈起動シーケンススタンバイクリア! 起動シーケンス、スタートして下さい!〉
アナ技術少尉はシステム起動スタンバイボタンを押す。コックピット内の警告ランプが点灯して機体のスピーカーから女性の声でアナウンスが流れる。〈レンベル起動シーケンススタンバイクリア! 起動シーケンス、スタートして下さい!〉
アナ技術少尉がコックピット正面パネルを見て確認呼称する。「起動異常アラーム無し! オールグリーンランプ確認! 起動シーケンス、スタート!」そしてセーフティーロックを解除、起動スイッチを押した。
重装機兵の融合炉が起動、高周波モーターの様な音が鳴り始める。
アナ技術少尉はモニターを見て各関節稼働部コア、ジェネレータ出力数値を確認する。
『ボビー少佐! 魔導融合炉出力問題無し! 各出力入力値正常! アラーム有りません!』
アナ技術少尉の報告をインカム越しに聞いてボビー少佐が接続モニターを見ながら指示を出す。
「了解! 外部監視センサー値も異常無し! 本体モニタリング継続! このまま30分連続起動を行う」
『了解しました! 兵装システムシーケンスチェックへ移行します!』
アナ技術少尉が正面のパネルを素早く操作すると、シートの手前にある左右のスペースに手を入れた。
レンベルのシステムアナウンスが流れる。
〈機体パイロット認証システム作動! 整備限定システムモード認証しました! アナ•ミナミ確認! パイロットシステムに移行確認! 兵装システムロックオール解除!
魔導増幅システムリミット解除! バックパックバイパスシステムロック解除! 魔導融合炉出力バイパス回路接続! テストモードのみ作動許可!〉
アナ技術少尉はインカム越しにボビー少佐に言葉を発する。
「これより、コックピットシールドモニター及びジャイロシステムチェックします」
『アナ、了解! ケーブル分離確認OKだ。シールド閉めてくれ』
「ボビー少佐! 了解! コックピットシールド閉めます」
アナ技術少尉はシールド安全装置を外しシールド開閉ボタンを押した。コックピット内にアラームが鳴り響きレッドランプが激しく点滅、シールドがゆっくり閉まっていく。
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