373話 迫る軍勢37
エリーは異世界侵攻準備を進めアーサー卿と面会する
2国間和平交渉会議23日目夜(大陸統一歴1001年11月5日20時頃)
ここはグラン連邦国首都べマン市、東部首都防衛隊基地内外事局特務対策課、エリー大隊本部。
整備ブロックエリア隣りの本部建屋3階の会議室内。20畳ほどの室内に長方形のテーブルがあり囲んで椅子10脚ほどあった。
1番奥の席にブロンズのショートヘア、切れ長の目にブルーの瞳の40歳くらいのイケメン男性が座っている。中枢院アーサー卿である。
アーサー卿は先ほど到着してこの部屋に通された。隣りには一緒に同行した執事が立っている。
しばらくして会議室のドアがノックされた。
「どうぞ!」
アーサー卿が答えるとドアが開きエリーが入室、丁寧に頭を下げる。
「アーサー様、ご足労お掛け申し訳ございません」
普段のエリーらしくないトーンの声と丁寧な口調で言った。アーサー卿は椅子から直ぐに立ち上がり深く一礼する。
「……エリー様、お元気そうで何よりです。忙しく各所を飛び回れておられるので心配しておりました」
「お気遣い感謝致します」
エリーは再び一礼すると後ろに視線を向けて言う。
「入ってください」
入口から4人が入室して揃って先ず一礼する。先頭は赤髪のニコル、後にフードを被った異世界の3人がいる。エリーの対応から直ぐに4人はアーサー卿が重要人物であると認識していた。
「フードを取ってください。ご紹介致します」
3人は深々と被っていたフードをそれぞれに取った。エリーの偽装隠蔽スキルはすでに解いてあり本来のメルティア、ボリス、カルヤの顔が姿を現した。
「……これは、エリー様……」
メルティア達の姿を見て驚くアーサー卿。
「はい、ドリスデン世界の方々です。今後国交を結んで友好関係を築きお互いに発展していく予定にしております。先ずは、アーサー様にと」
エリーはそう言ってハイエルフ、メルティアを見て言う。
「メルティアさん、今後支援をお願いするアーサー様です。この世界において多大な影響力をお持ちの方です」
エリーの言葉に少し戸惑うアーサー卿。
「……過分な評価、痛み要ります。ですが、エリー様の影響力に比べたら私などまだまだです」
「何をおしゃっているのですか。アーサー様には今までどれだけお世話になったか」
エリーは言葉を一旦切って言う。
「それでは今後についてお話ししたいと思います」
そう言ってエリーは魔力量を上げて部屋の周囲に魔力結界を形成する。
「この話は漏れてはマズイので念には念を入れておきます」
「先ずは今後、グラン連邦国はドレスデン世界と友好を結び相互間に支援を行います。ドレスデン世界の代表としてこちらのメルティアさん、副代表としてボリスさんに来て頂きました」
エリーは異世界3人組へは事情は簡単には説明している。グラン連邦国、ベランドル帝国の2国からの援助支援を受けること。そしてこちら側からは資源を供給することなどだ。
メルティアは美しい瞳でアーサー卿を見つめると再び一礼する。
「アーサー様、良しなにお願い致します」
一瞬メルティアに見惚れるアーサー卿。
「メルティア様……失礼かと思いますが……その耳はあなた方、種族の特徴なのですか?」
いつも冷静なアーサー卿にしては明らかに動揺が見られる。エリーは微笑みアーサー卿を見つめる。
「ご説明致します」
「……ええ、そうですね。エリー様申し訳有りません。気配から御三方は人ならざる者と思いましたので」
アーサー卿がいつもの平静さを取り戻し言った。
「……アーサー様こそ人外では有りませんか。ローゼの3使徒のひとり……」
エリーはそう言って異世界3人組を見て言う。
「メルティアさん、お願い致します。プランは説明した通りで」
「はい、承知しました。それではアーサー様、先ずはお席に座ってください」
メルティアは美しい容姿と相待って美しい女性の大陸共通語で言葉を発した。アーサー卿はメルティアの言葉に従い椅子に座る。ニコルは後ろに下がり壁際に控えるとエリー、ボリス、カルヤは椅子に座った。
「では、改めて、暫定ガーダ連邦国代表、メルティア•アーレンと申します。今後ともよろしくお願い申し上げます。現在ガーダ大陸西部においてエリー様のご協力頂き帝国打倒軍を立ち上げ準備中です。1週間以内に帝国政府打倒、新国家樹立宣言予定です。政府樹立後、正式な相互間条約締結を行う流れとなっております。戦力的に多くの支援が必要なのですが、我が方の保証対価として今後10年間、高純度のマナ鉱石をグラン連邦国、ベランドル帝国へ供給するとお約束させて頂きます」
アーサー卿の顔は少し曇らせてメルティアを見る。
「……つまり、まだ、何も確定していないと……、エリー様が何やら密かに画策されているのは把握しております。メルティア様もまだ何も達成していない。嘘では無いことは承知しております。ですが、ローゼ様が400年前に諦めた遺恨の世界……、確かにマナ鉱石が手に入れば、こらからの準備は随分楽になるでしょうが……」
エリーは微笑みアーサー卿の顔見つめる。
「アーサー様、心配はご無用です。必ずガーダの平定は成します。私の全身全霊を持って行います。過去の失敗は繰り返しませんから、万全を期してやり遂げます。だから全面支援をお約束くださいませ」
アーサー卿はエリーの顔を見て呆れた顔をする。
「……はい、これもローゼ様の御心なのですね。承知しました。ですが全面支援と言っても」
「はい、とりあえずは情報統制をお願い致します。ドリスデン世界の存在、マナ鉱石の出所ですね。隠蔽工作をお願い致します。やり方はお任せします。アーサー様のお力ならばコントロール出来ると思うのです」
「はい、エリー様、了承致しました。異世界のことマナ鉱石のこと絶対に漏れないよう致します。ですが、再三申し訳有りません。平定は成るのですか? しかも1週間とは」
アーサー卿は口元を緩めて言った。エリーはそれに応えて微笑みを返す。
「ガーダの魔族には申し訳有りませんが。この戦いは魔導新兵器の実験場として試作、運用前の兵器を投入する予定です。もうアルカン大陸にはそんな大規模兵器を使う場所がありませんからね。多分、降伏勧告を受け入れず徹底抗戦するはずですから、それにそのようになるように工作活動も行っています。戦いは1週間で終わります。必ずです」
エリーはそう言って隣のメルティアを見つめる。
「……はい、承知しております。エリー様のご協力に感謝しております。私は達成出来るよう尽力致します」
メルティアはそう言って瞳を輝かせる。
「今日はとりあえず顔繋ぎなので、これで要件は終わりです」
エリーはアーサー卿に一礼する。
「……エリー様、少しよろしいでしょうか」
アーサー卿が席を立てエリーの顔を見て言った。
「アーサー様、少しの時間なら、それにお呼び立てて帰れとは申しません。お時間は作るつもりでしたから」
エリーは椅子から立ち上がりアーサー卿に丁寧に頭を下げた。メルティアとボリスが立ち上がり一礼した。
「アーサー様、今後ともよろしくお願い致します!」
黙っていたボリスが声を上げた。
「ボリス様、よろしくお願い致します。私が正しいければかなりの魔道士ですね。それも目的達成のためなら手段を選ばないタイプの……、あゝ、失礼、私はついつい見た印象を……あゝ、すみません。メルティア様を支えてください。よろしくお願いします」
「……はい、承知しております。アーサー様こそ、いえ、よろしくお願い致します」
ボリスは赤い瞳でアーサー卿を見て微笑み一礼した。
「ニコルさん、3人をお願い」
ニコルが視線をエリーと合わせると頷く。
「はい、メルティアさん、ボリスさん、参りましょう」
ニコルが一礼すると異世界3人組も一礼してローブのフードを再び深く被り会議室から出て行った。アーサー卿は執事に視線を向ける。
「はい、アーサー様」
執事は深く頭を下げて会議室から出て行く。アーサー卿はドアが閉まるのを確認して口を開く。
「エリー様、今回の件、ローゼ様は関わっておられるのですね。タイミングがあまりにも良すぎます」
エリーはアーサー卿を見て再び微笑む。
「……ローゼは関与していません。現在のところは……。まあ、意向には沿っているとは思いますが」
「……エリー様、セレーナ様の伝心念話ならローゼ様と会話は可能なはずですよね」
アーサー卿が真剣な顔で尋ねる。
「……はい、確かにローゼとはコンタクトは取れるはずです。……時が来れば連絡はあるはずです。それまで待つしか無いと思います。今はやるべき事をお願い致します」
エリーはそう言って答えをはぐらかす。
「そうですか……承知しました。ですが、今回の件。大規模戦力で異世界侵攻を行うとのお話です。影響は無いのでしょうか?」
「はい、大丈夫です。ローゼのようなヘマはしません。徹底的に叩きます。容赦無く。私は慈悲はローゼのように有りませんから」
アーサー卿は少し安心した顔をしてエリーのそばに寄り両手を握る。
「お気をつけて、私は秘密保持に尽力致しますのでご安心を」
「はい、アーサー様よろしくお願いします」
エリーはそう言ってアーサー卿の手を握り返した。
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