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371話 迫る軍勢35

ドリスデン異世界派遣部隊は出撃準備を各隊進める。

 2国間和平交渉会議23日目午後(大陸統一歴1001年11月5日16時頃)


 ここはグラン連邦国首都べマン市、東部首都防衛隊基地内外事局特務対策課、別名エリー大隊本部。


 整備建屋内では整備将兵達が慌ただしく重装機兵の整備点検を行なっていた。建屋の前には出撃車両が並べられ指定兵装の装備装着を行なっている。

 整備責任者ボビー少佐が慌ただしく整備将兵へ指示を出していた。そこへアナ技術少尉が近づいて敬礼して声を掛けた。


「ボビー少佐、レンベルTYPEⅡは現地で整備調整とのことですが、大丈夫なのですか?」


 ボビーは端末のモニターを見ながら答える。

「大丈夫じゃなくてもやるんだよ。それが仕事だ。レンベルTYPEⅡの調整はアナ少尉に任せる。こっちはレンベルの飛行調整すら終わっていないのに使えるようにしろと言う命令だ。とりあえず最終確認は現地実戦だぞ! わかるか!」

 ボビーが疲労の溜まった顔でアナ少尉を見つめて声を上げた。


「……はい、承知しています。ですが敵はどこにいるのですか? 今回の任務は大陸のどこか教えてもらえないのですが。軍装装備から中央より南のようですが。ボビー少佐は聞いていますか?」


 ボビー少佐はアナ少尉を見て直ぐに言う。

「知らない、嬢ちゃんに直接聞いてくれ。それよりあと2時間でシステム調整を完了しなければならないんだ。集中したい! それとレンベルTYPEⅡ用追加装備の準備を急げよ。5時間後には出撃だ」


 アナ少尉は少し嬉しいそうな顔をしてボビー少佐に尋ねる。

「エリー中佐は来られるのですか?」


「……あゝ、嬢ちゃんは今日来る予定だ。到着時刻はわからんが」


 ボビー少佐はそう言ってモニターの方に視線を移してまた忙しく作業を再開した。アナ少尉は敬礼するとその場から嬉しそうな顔をして離れて行く。

 ボビー少佐の目の前にはシートで覆われ偽装された重装機兵があった。ブラウン重工業より改装を終え、昨日整備エリアへ戻って来たばかりの新生レンベルである。ブラウン重工業秘密工廠で飛行形態仕様に改修を終えて現在、ボビー少佐がシステムの調整を行なっているのである。


 ボビー少佐はモニターを見ながら考える。

(コイツは、アクセリアルとの決戦兵器、まだ、未知なる機能も解析出来ていないのに実戦投入とは……嬢ちゃん何を考えている? 本来秘匿兵器としてギリギリまで隠しておくんじゃなかったのか……。事情が変わったてことか? まあ考えても仕方ない。嬢ちゃんが使うて言うなら使えるようにするしか無い……、嬢ちゃんが来るまでに飛べるようにはしないとな)


 そうしてボビー少佐は飛行ユニットと操縦系統の連動システムの調整を進める。



 ◆◇◆



 ここはベランドル帝国帝都郊外の帝都防空航空隊基地。


 航空隊基地格納庫待機場周辺には、グラン連邦国軍第2戦略航空隊より選抜された特別編成第2航空部隊、攻撃型垂直離着陸機【ベルーダ】10機がすでに到着整備を行なっていた。

 その傍にはミサイル発射装置を装備した輸送車両が20両、グラン連邦国軍戦術ミサイル師団第555連隊である。


 戦闘指揮車両の前に立っているガッチリした連隊長の腕章を右腕に巻いた士官が女性士官と話をしている。

「シルファ中尉、今回の指揮は外事局エリー課長が担当するそうだ。作戦域は未だに不明のままだが、まずまずの規模のようだ。貴官も引き締めて掛かればならんな」


 シルファ中尉と呼ばれた女性士官は笑顔で答える。

「はっ! 心得ております。エリー課長とは士官学校の討論会で話したことがありますが。とんでもない人物とその時思いました。また、ご一緒出来ると思うと胸が高まります」


「……まあ、あまり接近するのは危険だと思うが……、気に入られれば良いが、万が一損ねる事あれば、シルファ中尉、貴官のキャリアは終わると思った方がよい。エリー課長のバックに大物が多数控えている。私の首など簡単に据え変えられる。本人の実力もあるのだろうが、中枢院も関わっていると噂がある。注意するに越したことはないぞ」


 シルファ中尉は微笑み連隊長の顔を見て言う。

「エリー課長は権力を振りかざすような方ではありません。ユーゴ連隊長は誤解されています! 確かに任務には厳しかもしれませんが、甘やかさらたお嬢様などでは無く……。多くの知識を持って思慮深く賢明な判断を下せるお方でした。私も最初は良い噂しか聞かないので色眼鏡で見ていましたが、お話しして直ぐに気付きました。この方は天より選ばれた方なのだと。エリー課長が士官学校時代に書かれた軍事論文を読まれた事がありますか? 内容はとても先進的で無駄が無く、とても合理的なものでした。陸海空軍の編成、運用、人心掌握、戦術戦略指揮権限の分権等、とても士官学校学生が書いたものとは思えない内容でした。そして現実にその論文に基づいてグラン連邦国軍が再編、指揮権限の規定改定等がなされているのです。私は自分が優秀だと思っていました。エリー課長に会うまでは……でも、とても努力しても敵わない人が世には存在するのだと……そして年齢など関係無く、若くても優れた者は存在するのだと」


 ユーゴ連隊長は恍惚とした表情で語ったシルファ中尉を見て少し呆れたように言う。

「シルファ中尉……貴官はエリー課長の信者だな。あまり相手を神格化すると良い事は無いと思うぞ。シルファ中尉だって士官学校主席だろう。貴官も働きを見れば十分優秀な士官だ」


「……お褒め頂き、ありがとうございます。でも、エリー課長とは次元が違いますから、張り合うどころか、ライバルですら有りません。私は、ただ、お役に立てれば良いのです」

 シルファ中尉が微笑み答えるとユーゴ連隊長は両手を軽く上げて戯けた顔をした。


「……まあ、そうだな。シルファ中尉は若手では期待の星だからな。部隊内で改善点があれば直ぐに言ってくれ」


 シルファ中尉が表情を変えてユーゴ連隊長に尋ねる。

「……お答え出来ないのならよいのですが」

 シルファ中尉は前置きして。


「今回の新型弾頭……前回のものよりかなり強力なもののようですが……殲滅戦なのですか? そのような敵は大陸にはいないはずですが」


 ユーゴ連隊長は首を振って答える。

「……私も、まだ、知らない。ハル閣下からここに集合準備せよとの命令のみだ。だが作戦域がどこなのかは関係無い、ここから大陸の主要都市はほ射程内だから……、どこを目標設定するかだけだからな」


 シルファ中尉はユーゴ連隊長の言葉を聞いて少し嫌な顔をする。

「そうですね。我々は敵の悲鳴を聞くことも、死体も見ることは有りませんから……」


「今回は戦略級の弾頭を使うことだけは間違いない、それだけは確かだ」

 ユーゴ連隊長はそう言ってインカムから各部隊長に指示を出す。

「こちら連隊長! 各隊に達する! 兵装準備完了した隊から早めに夕食を摂っておけ、いつ攻撃命令が発令されるかわからんからな」


 シルファ中尉がユーゴ連隊長に敬礼する。

「我が隊も夕食を摂らせます。それでは!」


 シルファ中尉はユーゴ連隊長から離れ自分の隊へと戻って行った。


 ◆◇◆


 ここはグラン連邦国東側国境より10キロほど入った高度7000m付近。


 エリー達が搭乗したランカーⅡ5号機はグラン連邦国首都べマン市を目指して飛行していた。あの後エリー達は直ぐにローゼの隠し砦から転移、魔女の孤島に戻ると責任者ユーリと軽く打ち合わせを行い出発していた。


 今回、異世界ドリスデンより同行したメンバーはエリー、メルティア、ボリス、カルヤ、そして護衛のニコルである。異世界組はローブのフードを深く被り顔を見せないようにしている。当然エリーは隠蔽偽装スキルを3人に付与して人族に見えるようにしているが、万が一要らぬ情報が外に漏れるよう、用心したのである。3人には出発前に注意事項は説明して目立たぬように言含めている。3人は見慣れない機器に驚き、遠距離支援垂直離着陸機ランカーⅡに驚いた。ブラックドラゴンより大きく空を飛ぶ箱と驚愕してうるさかったのでエリーは黙らせた。

 ランカーⅡのキャビンでエリーの隣のシートに座るメルティアが高揚した顔で尋ねる。

「エリー様、この世界はセレーナ様が作られた世界なのですね。私にはまだ十分に理解出来ませんが……素晴らしい世界なのでしょう……」


 女神セレーナはメルティア達にはこの世界の記憶イメージは与えていない。不要な混乱を避けるため。そして科学技術が異世界ドリスデン世界のバランスを大きく崩す恐れがあったからだ。


「そうですね。素晴らしい世界かどうかはわかりませんが、私には住み心地の良い世界です」

 エリーは余計な事は答えず、メルティアに微笑んだ。


 ランカーⅡ5号機は全力飛行でべマン市を目指す。

 

 


 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。

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