370話 迫る軍勢34
エリーは異世界攻略準備を始めた
2国間和平交渉会議23日目午後(大陸統一歴1001年11月5日14時頃)
ここはエルフの集落、離れの一軒家。
エリーは先ほどローゼの隠し砦からここへ戻って来ていた。エリーはリサとニコルを一緒に連れて来て、ここでの仲間を紹介擦るためだ。すでにベランドル帝国皇帝エランへはここでの状況報告を行い滞在延長の了承は得ている。この世界のマナエナジー鉱石と、魔法技術を手に入れ今後のアクセリアル方策を進めるためである。
20畳ほどの部屋の中にはエリー達、メルティア、ボリス、カルヤ、シエル、ランディの8人がテーブルを囲んで集まっていた。ニコルはランディを見て最初動揺していたが今は平静を装っている。エリーが微笑み最初に声を上げる。
「それではこの世界の早期安定化の方策をお伝えしますね。先ずは、この大陸は300年間外敵の脅威に晒される事なく、内政はどうあれ平和な時を貪って来ました。それもここ数年で終わりを迎えるはずです。間違い無く大陸間の戦争が勃発、そしてこの大陸は惨敗、他大陸の支配下となることでしょう。現状のままでは結果は大惨敗です。ですのでここでメルティアさんを頭に立てて現在の魔族支配層を打倒、新王国大陸政府を早期に樹立します。尚、収集した情報はかなりの確率で別大陸からの侵攻があるものと予想されます」
エリーの言葉を聞いてメルティアが直ぐに真剣な顔でエリーの顔を見て尋ねる。
「……侵攻は事実なのでしょうが、私などが上に立つなど……辞退は出来ないのですか?」
「ええ、それは出来ません。先頭に立って象徴になるのはメルティアさん以外にいません。これは使命です。セレーナに認められたあなたがなすべきことです」
エリーは椅子から立ち上がりメルティアの青い瞳を見つめた。
「……それはご命令でしょうか?」
メルティアは美しい青い瞳を大きく開いてエリーの朱色の瞳を見つめた。
「……? そうですね。そう言うことになりますね。この大陸の命運はメルティアさんに掛かっている。お願い致しますね」
そう言ってエリーはメルティアに微笑んだ。メルティアは顔を少し強張らせてエリーに答える。
「……はい、ご命令とあらば承知致しました。この身を挺して全身全霊にて完遂致します」
メルティアはエリーにその場で一歩退がり深く一礼する。
「で、ですね。大陸平定は1週間の予定で行います。皆さんは、その予定で動いてもらいます。よろしくお願い致します。詳しくはこれより説明します」
エリーが微笑み言葉を続けようとすると、ボリスが思わず声を上げた。
「……エリー様! 1週間……どうやってですか? 大魔法で敵を消し飛ばすおつもりですか?」
エリーはボリスの方を見て余裕の笑みを浮かべて言う。
「まあ、説明します。とりあえず話しを聞いてください」
「……!? はい、失礼致しました」
ボリスは赤い瞳を見開いてエリーに頭を下げると椅子に座った。
「作戦概要はすでに決まっています。ほとんど変更なく進行すると思います。先ずはゴロスネスを3日後に攻略、そして帝都を5日後攻略、皇帝を討ち取り、新王国樹立宣言を7日後に行う段取りとなっています。なお、増援部隊は作戦開始前日に揃う予定になっています」
エリーは一旦言葉を区切ってメンバーの顔を見渡す。リサ、ニコル以外は驚いた顔でエリーを見つめていた。メルティアが直ぐに立ち上がるとエリーに質問する。
「エリー様! 1週間とおっしゃいましたが、それは可能なのでしょうか? いくらセレーナ様のお力でも帝都までの進軍を考えると半年は掛かると思うのですが……」
エリーは頷き答える。
「大丈夫です。十分可能です。当然、戦力が全て揃っていればの話しですが、当然この3日間は忙しいです。グラン連邦より戦術ミサイル師団、特殊第3航空隊を呼ぶ準備を進めています。一気に帝都を攻略するだけの戦力は準備出来ますので。あとはベースの飛行場をゴロスネスの郊外に作る予定です」
「ゴロスネスから帝都まで2000キロほどありますが……それに転移魔法でも一回で送れる人数は50人ほどです。帝都には精鋭部隊2万と皇帝直属部隊1000がおります」
ボリスが慌てたように言った。それを見てエリーは言う。
「大丈夫です。兵力は多くても削れますから、あとは的確な情報収集と分析です。ボリスさんの配下、数名を帝都に明日送ってください」
「……はい、トリナを向かわせます」
ボリスは直ぐにエリーの意図を読み取り答えた。そしてエリーは今回の作戦の説明を続けた。メルティア達、ドリスデン世界の住人達にとって理解出来ないこともあったが、それも女神様のチカラであると驚き理解出来ないことも受け入れた。作戦概要はグラン連邦戦術ミサイル師団第555連隊による誘導魔導弾攻撃によりゴロスネスの無力化、グラン連邦第2戦略航空隊による残存兵力の掃討、グラン即応特殊大隊により制圧、そしてメルティア率いる新王国勢力の入場でゴロスネス市の奪還宣言を行うと言うものだ。その間に女神の降臨、大賢者メルティアが女神の洗礼を受け反乱勢力の長として決起したとの情報を大陸中に広める諜報工作を行う。それにより大陸魔族勢力に揺さぶりをかける。いまだに大賢者メルティアの名前の影響力はかなりあるので、それを利用する。ボリスの配下を数名を帝都への侵入情報収集に当たらせる。ゴロスネス市制圧後は、直ぐに帝都攻撃準備に入る予定だ。
エリーはメルティアを見て尋ねる。
「ゴロスネス情報担当官ギリドバさんと会いたいのですが、コンタクトをお願いできますか?」
「……!? ギリドバと……」
メルティアが戸惑った顔をする。
「味方になってくれると思います。ですから一度会ってお話ししたいのです」
エリーはメルティアの顔を見て微笑み言った。
「……はい、念話で伝えてみます。信用出来るかどうか……わかりませんが」
メルティアはエリーの顔を見て頷き答えた。そしてエリーは直ぐに全員を見渡して言う。
「それでは皆さんよろしくお願いします。作戦をやり遂げ、大陸に平安をもたらしましょう! 以上です。それでは各人それぞれの準備を進めてください」
エリーの言葉を聞き終わると部屋の全員が椅子から立ち上がる。そして深く一礼した。
◆◇◆
ここはベランドル帝国ドール城皇帝執務室。
エランは中央のテーブルでハリーと真剣な顔でこれからの対応について打ち合わせを行なっている。
「エリーが無事だったのは良かったですが、まさか、突然異世界で戦争を始めるとは……、正直驚きです」
エランは前に垂れた紫色の髪をかきあげながらハリーを見て言った。
「はい、そうですが、マナー鉱石がエリー様のおっしゃる通りなら、これは絶対に手中に収めなければなりません。来る時のために大いに役立つものです。これも女神様のお導きでしょう。我々は幸運です。大幅に勝率が向上しますから」
ハリーがいつものクールな雰囲気を崩して喜んでいる。エランはその顔を見て少し不安な顔をする。
「……全て上手く行けばですが……、そう上手くいくものでしょうか? 私には不安です。情報も少ない異世界で1週間で大陸を平定するなど」
ハリーは間をおいてからメガネの位置を修正して言う。
「もちろん完全平定は無理です。とりあえず政権を樹立して主導権を握ると言うことです」
エランはソファから立ち上がるとハリーを見て嫌そうな顔をする。
「長期的干渉が必要なのですね。兵站的にどうなのですか? 大きな戦争を始める前に異世界で泥沼化は避けねばなりません。そのあたりの見込みは立っているのですね」
ハリーは少し口元を緩めてエランを見つめた。
「はい、筋書きはエリー様、いえ、セレーナ様が問題無く……、分析を大方終わっているようです。セレーナ様は以前のお力を取り戻しつつようなので、心配はご無用でしょう」
エランはソファで足を組み直して息を吐く。
「……それで、転移陣をドールとべマンに構築するとのことですが……、それでエリーが戻って来ると、休息の暇さえ無いのですね」
ハリーはいつものクールな顔で言う。
「エラン陛下だって同じではないですか。エリー様がいない間、代理で飛び回っておられました」
「……それは当然です。やるべきことは山積みですからね。ハリーさんだって同じでしょう。ただここ最近のエリーの過密スケジュールは殺人的ですから、心配なのです」
エランはそう言いてソファから立ち上がり執務机の受話器を取った。
「ハル外事局長に繋いでください」
電話交換士へそう伝えるとエランは微笑みハリーを見て言う。
「ハリーさん、バックアップ頑張りましょうね」
ハリーは姿勢を正してエランに一礼する。
「はい、もちろん全力を尽くします」
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。