369話 迫る軍勢33
エリーはローゼの隠し砦へ
2国間和平交渉会議23日目午前。大陸統一歴1001年11月5日11時頃)
ここはエルフの集落。エリー達はゴロスネス襲撃作戦を終え1時間ほど前に帰って来ていた。
エリーは直ぐに連れ帰ったハイエルフヒストリア達3人の治癒を行い休ませる。そしてエリーは治癒が終わると直ぐにニコルと共にローゼの隠し砦へと戻った。
集落の離れの一軒家。残されたメルティアは寂しそうにボリスと話す。
「セレーナ様の使徒の皆様がやって来たと聞いたのですが」
「はい、セレーナ様のお仲間の方々と伺っております。直ぐに戻られると聞いておりますが……」
ボリスはテーブル上にある瓶を手に取る。
「これは疲労回復の飲み物だそうです。メルティアさんもどうぞ」
メルティアは寂しそうな顔をしてグラスをボリスの方へ差し出す。
「……ボリスさん、頂くわ」
「……何を心配されているのですか? 何か不安な事でも?」
ボリスがメルティアの潤んだ青い瞳を見つめる。
「……いえ、セレーナ様が帰って終われるのではないかと……、そんな思いが」
メルティアはグラスの液体を一気に飲み干した。
「それは無いかと、私もメルティアさんもセレーナ様の使徒です。放って行かれることがある訳ないでしょう。女神様は私達を導くために降臨されたのです。ですがあくまで主体は私達ではありますが」
「……? この世界を導く?」
メルティアは首を傾げる。その様子にボリスは赤い瞳でメルティアを見て尋ねる。
「……この世界を救うつもりはないのですか?」
「……そう……過去にはそう思っていた時期もありました。今は、そうは思いません。理想では理想でしかないと気付かされたのです。ただ、セレーナ様、エリー様にお仕えし忠義を尽くすのみと思っています」
メルティアは美しい瞳を少し潤ませ答えた。ボリスはテーブルから立ち上がり言う。
「メルティアさん、セレーナ様の望みを汲み取られていない様ですね。……心が晴れていないのですか?」
ボリスは少し怒り混じりの言葉を発した。
「……いいえ、違います。自分自身が良く見えたのです。愚かな自分が……」
メルティアは寂しそうな顔で厳しい顔で見つめるボリスに言った。
「私は、ハイエルフ。小さい王国の姫として育ち、魔法の才、容姿ににも恵まれ、周りの者も友や配下も優しかった。父の王国は戦乱で生き残れず一時流浪の民となりましたが、私はゾネリアンの王に仕え宰相となり、この大陸で大賢者と呼ばれるようになりました。ですが結局、友に裏切られ多くの仲間を失い国も失った。自惚れ周りを見れて無かった。今にして思えば復讐心で命を繋いでいただけです。多くの恥辱に耐え……、でも、セレーナ様の暖かい深い愛に接して気づいてしまったのです。もうどうでも良いと……いかに自分が愚かな存在であると、そして曇った目で周りを見れていたか。確かに以前より力は増しました。それを使うのは難しい。以前の私は知ったか振りの偽物賢者だったのですよ」
「……!? 何を……」
ボリスは戸惑った顔をする。ボリスはメルティアの素性は知っていたが、こんな風では無かった。これが素のメルティアなのかと思った。
(……メルティアさんは過去は、人々から崇拝された大魔法士であり、ゾネリアンの王帝に挿すほどの人物だったと、そして傲慢さもあったと聞いていたが……)
「……それは良い事です。謙虚に物事を考えることは……。しかし、私達の使命は大陸を立て直すことです。そのためにセレーナ様は力を与えてくださったのです。そしてメルティアさんは己を顧みて自覚された。上に立つべき資格はあると」
そう言ってボリスは瓶から液体を自分のグラスに注ぐ。
「……ボリスさん、あなたが先頭に立てば良いと思います。そうすれば魔族だって従うでしょう」
メルティアが金髪をかきあげてボリスを見て言った。ボリスは視線を少し逸らして答える。
「……それは遠慮させていただきます。私は多くの者を殺し過ぎました。善良な者も醜悪な者も関係無く……だから、メルティアさんを後ろで支えます。前に出るには私はやり過ぎたのです。あとあと治らなくなると思います。私はメルティアさんほどのカリスマ性も持っていませんからね」
ボリスはそう言ってメルティアを見つめるとメルティアは美しい顔を少し歪めて言う。
「……私は、もう嫌なのです。祭り上げられることも、それに応えようと演じることも……、高い崇高な信念を持つことは大変なことなのです。それに私は望まぬ多くの恥辱を受け、それに慣れて堕ちたのです。ボリスさんは多くの者を殺したとおしゃりましたが、私は多くの恥辱を受け……」
メルティアは悲しい顔をする。
「……それはもう癒されたのではないですか? 私はわかりますよ。メルティアさんは過去はもうどうでも良いと思っていますね。もっともらし言い訳を語っているだけですね。私は黒騎士隊を伊達にやってきた訳ては無いのです。仕草や内面の揺らぎを感じ取ることが出来るのです。そうやって生き残って来たのですから、でもまあよいでしょう。セレーナ様の意思は決まっています。メルティアさんは選ばれたのですから否応なく行動せざるおえなくなります」
そう言ってボリスはメルティアに軽く頭を下げて部屋から出て行く。
◆◇◆
ここはローゼの隠し砦3階層。
エリーは20畳ほどの部屋でリサとニコルの3人で今後について話していた。テーブルを囲み3人は向かい合わせで座っている。
「エリー様! 直ぐに帰還することが出来ないとは……一体どうするおつもりですか?」
リサの困惑した顔で溜め息吐く。エリーは椅子から立ち上がりリサの手を優しく握る。
「これはセレーナの意思なんだよ。対アクセリアルのためなんだよ」
エリーが微笑みリサの顔を見つめた。
「エリー様……ことは切迫しています。ヒイズル帝国の件だって解決していないのですよ。それに皆さんもとても心配しています」
リサは懇願するようにエリーに訴えた。
「……わかっているよ。でもね。これはローゼのやり残した事でもあるんだよ。そして今後のグラン連邦、ベランドル帝国に大きな恩恵を齎すことになるんです。1週間で片付くからね。許可は取るからね。エラン姉さんにもハリーさんにも」
エリーは朱色の瞳を輝かせてリサの顔を見つめた。そして少し間を置いてリサはハッと息を吐き言う。
「私はエリー様に指示を出せる立場ではございません。必要なのでしょう。私に申し上げることなどある訳がないじゃないですか。ご自分でお話しをなさってください。もうすぐ魔導通信も開通するはずです。ご自分でお願いします」
そう言ってリサは疲れた顔をしてエリーに一礼すると部屋から出て行く。
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