北部戦線35 国境侵攻6
北部戦線、エリー機動大隊現地配備、9日目夕方。
エリー達は帝国軍重装機兵部隊の急襲戦闘終了後、10時間ほど経過している。
エリー達は、特別第三機動連隊ベースキャンプ入口に立っていた。ジェーン連隊長、各大隊長、警戒任務以外の中隊長はここに集まってハル作戦部長の到着を待っているのである。
「もう来るぞ! 全員整列しろ!」
ジェーンが、全員に声をかける。エリーが一番隅っこについて並ぶとジェーンが大きい声で言う。
「エリー少佐! 私の隣に来い! ここではお前は私の下だ!」全員の視線がエリーに注がれる。
「ええーーっ、嫌です! 私はここで結構です」エリーが嫌な顔をして言った。すぐにジェーンが来て引っ張られる。
エリーは渋々ジェーンの隣に立つ。そして5台ほどの車列がやって来た。
士官用の車両が3台、装甲護衛車両が2台の編成で、中央付近の士官用車両が止まり前席の士官が降りて後席のドアを開ける。後席から金髪ショートヘアの女性将官が降りて来る。
整列している連隊士官が一斉に敬礼した。すると女性将官も立ち止まり敬礼する。カーキ色の第一種軍装軍服に襟には金色の刺繍飾り、左胸には参謀部章、右肩にはモールが付き、肩の階級章は銀色ベースに金色囲いで金色の星一つ入っている。参謀部少将、ハル作戦部長である。
見た目は30代半ばくらいに見えるが、実年齢は44才だ。すらっとした細身で小顔で美人に見える。
ハル少将はゆっくりと整列している士官達に近寄って来る。そしてエリーの前に来ると立ち止まりエリーの手をとる。
「エリーさん、お久しぶりですね。お誘いしても、こちらにいらっしゃらないのはなぜなのですか?」
整列している士官達は一瞬驚いた表情になる。エリーは少し動揺した顔になり言う。「任務があるので、お断りしただけです」
エリーはハル少将の顔は微笑んでいるが、目は笑っていないことに気付き更に言う。「せっかくのお誘いを、無下にしたことはお詫びいたします」
ハル少将はエリーの手を更に自分の方に引き寄せて言う。
「私はただ、ブラウン家とラッセル家の縁が深まれば良いと思っているだけなのですよ! ロイの事が嫌いでないのなら食事会くらい参加して下さいね」
エリーは顔を背けて言う。
「はい、時間が出来れば参加させていただきます。ロイさんは士官学校二年ですね、しばらくお会いしていませんがお元気ですか?」
ハル少将はエリーの肩を引っ張り寄せて言う。「ロイは元気にやってますが、でもエリーさんに会えなくて寂しがってます」
エリーはジェーン連隊長の方を見て助けを求め様とするがジェーンは顔を背ける。
エリーは諦めた様に言う。
「申し訳ありません、連隊の士官が待っておりますので、移動をお願いしたいのですが」
ハル少将は周囲に目をやり姿勢を正して言う。「お迎えご苦労様です。案内をお願いします」
5台の車両は先に連隊ベースキャンプ内に入って行った。後からハル少将とエリー達士官が歩いて移動して行く。
「エリーさん、帝国特殊部隊に襲撃を受けたと聞いた時は、心配ですぐにこちらに来ようとしたのですが、止められてしまって来れなくてごめんなさいね」
エリーは困った顔をして言う。
「お立場をお考え下さい! 参謀本部の作戦部長に動き回れたら周りが迷惑だと思います」
ハル少将はエリーを隣に歩きながら言う。
「エリーさんは、ここでも活躍されている様で良いのですが、出来れば後方で大人しくしていてくれた方が、私としては安心出来て良いのですがね」
エリーはハル少将の顔を見て言う。
「それは無理です。私は軍人です。そしてエースパイロットです!」
ハル少将は残念そうに言う。
「エリーさんは、連邦国軍の象徴みたいになっちゃて本当困ったものです」
エリーは思った。(ハル少将・・・・・・、ロイさんのお母様、お会いしたのは二年ほど前、それ以来めちゃくちゃ気に入られて本当困っている。周りの評判は切れ者だけど? 私はそうは思わない、思えない)
ハル少将がジェーン連隊長に近寄り言う。「連隊長室で話があります。主要メンバーだけ集めてもらえますか」
ジェーンは頷き離れて連隊本部へ向かった。
「エリーさん、諜報部のお二人を呼んでもらえますか」ハル少将がエリーを見て言った。
「はい、トッド中佐とユーリ少佐ですね」
そして、連隊長テントにハル少将、ジェーン連隊長、連隊副長、第一大隊長、エリー、トッド、ユーリが揃ってテーブルに向かい合わせに座った。
「トッドさんお久しぶりですね」
ハル少将がトッドの顔を見て言った。
「ええ・・・・・・、そうですね。随分と出世されて、お元気そうでなによりです」
ドットはハル少将の顔を見て微笑む。
ハル少将は視線をエリーに向けて言う。
「今回の作戦の発動前に、帝国軍の大規模移動が確認されました。帝国軍第三軍主戦力30個師団の後方への配置です。今回の目的は帝国軍主戦力の殲滅であります。目的地を帝国領内50キロから150キロ圏まで広げる必要性が出てきました。しかしながら我々の15師団と増援5個師団では150キロ圏への進出維持は困難です。
そして、後方地域での秘匿兵器の使用も民間人を多く巻き込む事から参謀本部内でもためらいが生じています。作戦前に帝国軍の動きを見る限り作戦情報が漏れたと考えられますが? どうなのでしょうね、その様な事があるのでしょうか?」
ハル少将は言い終わると、じっとエリーの瞳を見つめる。そしてエリーもハル少将の瞳を見つめ逸らさない。
「作戦情報が漏れる事は考えられません!」ジェーンが椅子から立ち上がりハル少将を見て言った。
ハル少将はジェーンに視線を移して言う。「結果から判断しているだけですよ、偶然かも知れませよね! 恐ろしく感の良い帝国軍司令官がいて気付いたのかもしれませんしね!」
ハル少将は椅子から立ち上がり言う。
「問題は、作戦情報が漏れたか漏れなかったでは無く! 今、帝国軍が後方地域に下がったということです! 連邦国上層部としてはこの戦争は早めに終わらせたいんですよ。停戦でも休戦でも良いから・・・・・・、意向としては帝国領内への進軍占領は出来るだけ避けたいのです。秘匿兵器を使い戦力の削減、戦意喪失が達成出来なくなった現状の選択肢は進軍占領しかなくなったということです」
ジェーンがハル少将に言う。
「後方地域での秘匿兵器使用は無いのですか?」
ハル少将は目を閉じて入口の方を向き言う。「ありません。民間人の犠牲者が多いと帝国との交渉及び、諸国との戦後処理で問題を生じる恐れが大いにあると思います。ヤルトの惨状を知れば安易に使えるものではないです」
エリーがハル少将を見て言う。
「進軍しないということはダメなのですか?」
ハル少将は少し悲しそうな顔をして言う。
「帝国側から仕掛られた戦争ですから、将兵の戦意、国民がどう思うかですかね。新聞等も情報を嗅ぎつけてどの様に報道するかも問題です」
ハル少将は全員を見渡して言う。
「今回の作戦内容は変更となりました。港湾戦域より3個師団を移動増援とし合計15師団でバレット市まで進出占領することになります」
「国境線には8個師団を残しておきます。順次状況確認で3個師団まで前面に追加増援予定です。そして特三機動連隊は先兵として先陣を切ってもらいます」
「私も同行しますので、よろしくお願いしますね」そう言ってハル少将はエリーの顔を見る。
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