第364話 迫る軍勢28
エリー達はゴロスネスで行動を開始する。
2国間和平交渉会議23日目朝。(大陸統一歴1001年11月5日8時頃)
ここはエルフの集落から100キロほど離れた西部統制都市ゴロスネス。市街地は周囲10キロほど中心街は城壁で囲まれている。
ゴロスネス兵団駐屯本部、魔炎弾保管庫。
エリーはボリス、メルティアと魔炎弾の制御回路の調整を行なっていた。作業は20分ほどで終了して、今はエリーが制御シュミレートを行なっている。セレーナの魔導高速演算回路を使い魔炎弾の魔導制御回路を解析、魔導制御回路に刻まれた術式記号を書き換え管理権限をエリーに移行していた。
「全て、問題なく完了しました。これで魔炎弾は使用出来ません」
エリーはそばで見ていたボリス、メルティアに笑顔で言った。
「……こんな事、女神様にしか出来ません。私にも出来るかもしれませが、こんな短時間では不可能です……」
ボリスが感嘆の声を上げるとメルティアは微笑み声を上げる。
「さすが、我が主様! ボリスさんにはわからないのですか! セレーナ、いえ、エリー様に出来ない事はありません。それを理解せず従者など務まりませんよ」
「……!?」
エリーは困った顔をしてメルティアを見る。
(メルティアさん……美人で頭脳明晰、だけどなんか、何か足りない気がするんだよね。だからこそボリスさんが必要なんだね)
「では監獄施設へ向かいましょう。カルヤが暴れて警備が混乱しているはずです」
既に、ランディ、カルヤは二手に分かれて破壊工作活動を30分前より開始していた。まず、7か所ある城壁警備詰所を攻撃、被害を与て、直ぐに別の詰所分駐所を襲撃を短時間で繰り替えした。
市内警備に200名、兵団予備将兵が800名配備されていたが、襲撃箇所に順次投入され指揮系統が混乱状態になっていた。統制本部付近にある監獄施設には、常備警備が20名ほどで追加増員はされていない。駐屯兵団の注意は城壁周辺に向けられていた。魔炎弾保管庫が襲撃されたことさえ気づいていない。
「エリー様、急ぎましょう!」
メルティアがエリーの前に出る。エリーは慌てて隠蔽スキルを発動、メルティアとボリスを魔力障壁で包み込む。メルティアが先頭に兵団駐屯本部の建屋の間を抜けて、移動加速スキルを発動付与、猛スピード中央の大通りをひたすら8階建ての統制本部へと目指す。ゴロスネス市内の周辺城壁部では東西南北から煙が上がっているのが見える。
「ランディ達の陽動は上手くいっているようです。兵士の気配が市内中心にはほとんどありません。このまま一気に行きますね!」
エリーはメルティアの後ろについて声を上げる。そしてメルティアは統制本部を見上げ通りを左に曲がる。
「まともに正門から行くのですね。エリー様……」
ボリスが隣のエリーの嬉しそうな顔を見て言った。
「そうです。他に侵入ルートがありませんからね。正面突破です。警備はそれほどでもないようなので、問題はありません」
答えるエリーの顔が緩んでいるのが気に掛かるボリスであった。監獄施設堅牢な正門へ迫る。慌てたように警備兵士が門側から出てくる、その数10名ほど。
警備のリーダーらしき大男が声を上げた。身長は2m近くありそうでガタイも良い巨漢だ。
「これ以上、近づくな! 問答無用で打ち倒す!」
既に警備兵達は抜刀して大剣を構えて戦闘態勢に入っている。正門を守るように開いて展開している。全員がそれなりの実力者であることは構えと闘気を見れば分かった。
エリーはメルティアの前にゆっくり出ると腰の軍刀を鞘から抜き放つ。
「ここは私に任せてね。メルティアさんとボリスさんは見学でお願いします」
正門前に立つ大男は怪訝そうな顔をしてエリーを見る。
「……なんだ!? 女か? この数をやるつもりか? いや囮……後ろの2人を通すつもりか? 魔力は感じられんが、剣技だけで我らに対処は無理だぞ! そしてその細い剣はなんだ!」
エリーはすでに神眼で前に立つ警備将兵達の実力を把握していた。巨漢の大男は剣士S級、残りはA級、B級が混ざっている。さすがに重要施設だから上位者が揃っているようだ。
「へえ――っと! じゃあ実力を見せてもらいましょう!」
エリーは少しイラとしながらヒイズル刀を比喩した巨漢の男に声を上げた。すぐさま軍刀を右斜め下段に構えると、右足を蹴りだし猛烈なスピードで飛び出し巨漢の男の前に瞬間移動したかのように現れると下から牽制の斬撃を放った。巨漢の男はそれに反応が遅れ後ろへ僅かに下がるのが精一杯だった。周囲の空気が一瞬にして変わる。警備将兵達は何が起こったか理解出来ず驚愕の表情を浮かべた。
「き、き、貴様……何者、中央から送り込まれたS級暗殺者か!」
巨漢の男は動揺の表情を何とか抑えるように一歩下がり間合いを取ったエリーを見て言った。巨漢の男はエリーの動きが全く認識出来なかったことに恐ろしく動揺していた。そしてエリーまだ体外に漏れないレベルの魔力量を僅かに使用しているだけに過ぎない。巨漢の男にはエリーの魔力が認識出来ない事に更に動揺を抑えられないでいた。エリーを得体の知れない相手と認識したのだ。
「中央? 何のことですか? まあ、どうでもいいです。ヒイズル刀を馬鹿にした報いは受けてもらいます!」
エリーの両サイドから一斉に警備兵士が大剣を振り下ろし襲い掛かって来る。良く訓練された連携の取れた剣撃だった。だがエリーはなんでもないかの様に空中に飛び上がる。
再び驚愕の表情を浮かべる警備兵士達、彼らは決して弱くない、どちらかと言えば強者だ。それが剣撃をかわされ右往左往している。エリーは着地すると魔力量を一気に2段階上げて、体外に魔力を開放する白色の光に包まれる体と軍刀。それを見て巨漢の男が顔を強張らせる。
「やはり、貴様らは中央系の暗殺者集団、バームエルキネスだな!」
「えっ! なに? 知らないけど」
えりーは巨漢の男に真面目に答えた。エリーは一旦警備兵達と距離を取る。
後ろを振り返りボリスの方を見て伝心念話で尋ねる。
〈ボリスさん、バームエルキネス知っていますか?〉
《はい、皇帝直属の組織です。私達の黒騎士みたいなものですね》
エリーは前を向いて巨漢の男を見据える、もう巨漢の男にエリーを舐めたような雰囲気は無く、警戒したように全開で魔力を発動して身体強化をしている。
エリーは笑みを浮かべると上体を沈める、そして巨漢の男へ飛翔した。直ぐに軍刀を振り上げて巨漢の男に振り下ろした。その瞬間、周囲に光と轟音が広がる。
巨漢の男は大剣を前に足を広げてエリーの軍刀の刀身を受けていた。巨漢の男は大剣の柄を両手で握り締め辛うじて支えていた。エリーの一撃の重さに何とか耐えたそんな感じだった。
(……なんという、重い……だが、この女、いやまだ10代の少女がこの剣撃とは……。しかも、まだ、全力ではない……とんでもない奴がいるものだ! バームエルキネスには、魔族、エルフか知らんが)
そして巨漢の男の大剣に亀裂が走り砕け散った。警備兵達が再び驚愕の顔を浮かべて後退りする。一番驚いたのは巨漢の男だった。
「この大剣は魔法付与された大剣だぞ、S級相当の大剣を砕くとは……お前は弩級戦士だな! とすると後ろに控えている2人も同等以上か!」
巨漢の男は悲鳴に似た声を上げると腰に付けていたショートソードを抜き放つ。エリーは魔力量を一段階下げる。
軍刀を包む光が迸り始めた。そしてエリー美しい通る声で言う。
「大剣は砕かせて貰いました! ヒイズル刀を舐めた代償です! あなた達に降伏を勧告します! 受け入れるなら無事は保証致しましょう」
「……舐めたことを! 我らが受けいれる、ハズがあるまい!」
巨漢の男はショートソードを振り上げるとエリーに突進して来る。
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異世界で力を増していくエリーとセレーナ。セレーナは成長型の女神様なのです。