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第362話 迫る軍勢26

エリーはゴロスネスへの出発準備をする


 2国間和平交渉会議23日目朝。(大陸統一歴1001年11月5日6時頃)


 エルフの集落、中央広場。


 西の海岸方面から先ほど帰投したワイバーンアニーと元魔導騎士隊長ガロンがエリーに報告していた。ワイバーンアニーはセレーナと従属契約したことにより強化され、もはや見た目はレッドドラゴンにしか見えない。


 ガロンはエリーの指示により集落より西方面の情報収集を行なっていたのである。


「……セレーナ様、私も出撃はしなくても、よろしいのですか?」

 ガロンがエリーを見て少し寂しそうに言った。


「ええ、疲れているでしょう。ガロンとアニーは休息を、随分無理をしたのは見ればわかります。万が一、ここが攻撃を受けた場合は当然戦ってもらいますけどね」

 エリーはワイバーンアニーに近寄ると首筋を優しく撫でる。ワイバーンアニーは首を回して嬉しいそうに目を細めた。


「アニー、ご苦労様でした。お疲れでしょう」

 エリーがワイバーンアニーに声を掛けるとさらに嬉しそうにアニーが大きく翼を広げた。そして周囲に土埃が舞い上がる。エリーは慌ててワイバーンアニーをなだめる。


「嬉しいのですね。でも、もう少し静かに」


 ワイバーンアニーが伝心念話で直ぐに謝罪した。

〈セレーナ様、申し訳ありません! 嬉しくて……〉

 

  エリーはワイバーンアニーの胴体をポンポンと軽く叩いて微笑んだ。

「アニー、わかっています。今後は注意してくださいね」


 エリーから少し離れて立っていたボリスとメルティアが近寄って来た。


「……レッドドラゴンですよね?」

 ボリスが強張った顔でエリーに尋ねる。黒髪のセミロング、赤い瞳の美女、もう仮面は着けていない。見た目は20代前半だが実年齢は100歳を越えている。


「いえ、ワイバーンです」

 エリーはワイバーンアニーを撫でながら答えた。

「……セレーナ様、そんなはずはありません。そんな巨大なワイバーンなどいません。第一、膨大な魔力を持って念話でやり取り出来るワイバーンなど聞いたことがありません」


 エリーはボリスの方へ近寄り言う。

「アニーはワイバーンです。ただ違うとすれば私と従属の契約を結んだことくらいです。それでこうなっただけです」


 ボリスは納得した顔をしてエリーを眺める。

「それはそうでしょう。セレーナ様、もはやワイバーンでは有りません。これは新種のドラゴンです。見たところかなりの魔力と知能を持っています。S級魔法剣士何十人分にも匹敵するものと思いますが、もうこれは脅威的戦力です」


 ボリスの言葉を聞いてワイバーンアニーが口を開けてボリスを睨む様な動作をする。

〈そこの魔族の女、我を知った風に語るな、不愉快だ!〉


 ボリスがアニーからの伝心念話に驚く。

「……!? それは、失礼しました」


 ボリスがワイバーンアニーに一礼をするとエリーが笑いながらアニーを見て言う。


「アニー、ボリスさんは新しい仲間だよ。仲良くしてくださいね」


〈……はい、それはもちろんでです。ですがあの2人は私を仲間とは思っていないよです〉


 ワイバーンアニーが念話で答えるとエリーはアニーの胴体を撫でて言う。

「まあ、急には無理だけど、多分そのうち打ち解けられるよ。きっと」


 エリーは後ろに控えていたガロンを見て言う。

「今日は、任務はありません。明日に備えて休養してください」


「はい、承知致しました」

 ガロンはエリーに深く一礼するとワイバーンアニーに騎乗する。そしてエリーはボリスとメルティアを一緒に後ろへ下がらせると、ワイバーンアニーが羽ばたき飛び上がった。ワイバーンアニーは少し離れた待機場へと帰って行ったのである。


「それでは20分後に出発します。準備を整えてください」

 エリーはボリスとメルティアの2人を見て微笑んだ。メルティアは嬉しそうにエリーを見つめて一礼する。


「いよいよ、我らの力見せる時が来たのですね。セレーナ様、先鋒はわたくしにお任せください」


「いえ、先鋒はメルティアさんでわないですねカルヤに任せるつもりです。だいたいメルティアさんは指揮を執るべき立場です」

 エリーが少し嫌な顔をしてメルティアの顔を見る。そしてメルティアが悲しそうな顔をして気落ちした雰囲気になる。後ろからボリスが肩に手を添える。


「メルティアさん、そう気落ちしないでください。活躍は約束されています。私が全力でサポート致します。ご安心ください」

 メルティアはボリスの顔を見て不機嫌な顔をする。


「……ええ、ありがとう、でもね。私はセレーナ様には悪いけど、魔族は信用していないの。ボリスさんがセレーナ様の洗礼を受けたのは知っているけど。高位であればあるほどね」


 ボリスはメルティアの言葉を聞いて頷き言う。


「はい、それはごもっともメルティアさんがどれほどの恥辱を味わったか承知しております。すぐにとは言いません。信頼を勝ち得るよう尽力します」


 そう言うとボリスはメルティアの両手を握り締めた。エリーは2人のやり取りを見て言う。


「まあ、2人とも私の大切な仲間になったのだから、これからお互い理解を深めてくださいね。たぶん2人はベストマッチな2人だと思うのです。私の判断が間違いなんて多分ないと思いますが」

 エリーそう言うと2人の肩を交互に叩いた。メルティアとボリスエリーに対して深く丁寧に一礼する。


「はい、セレーナ様、身命を通してお仕えいたします」

 ボリスが言葉を発するとメルティアも続き跪いて。


「セレーナ様、わたくしはすべてを捧げます。私のすべてはセレーナ様のために」


「そう、でも命は捨てないでね。あなた達の命はあなた達のもの、私のものじゃあ無い。それに死んじゃったら私、生き返らせないから、最低生きて要れば、どんな重症だろうと治癒は出来るけど死んじゃったら魂、精神体は再生出来ないからね」



 ◆◇◆


 ヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。


 魔女封印施設最深部5階層。

 リサ、ソアラの懸命の昼夜を問わぬ作業により施設内の魔力は安定、魔道転移装置もコントロール出来るレベルに復旧した。

 5階層に立つのはブラウン商会特殊部隊精鋭50名、リサ、ソアラ、ニコルと魔道工兵将兵達。

 リサがソアラの肩を手を添えて声を掛ける。

「ソアラちゃん、留守番よろしくお願いします。エリー様は必ず連れて帰ります」


 そしてリサは一歩下がるとソアラと魔導工兵将兵達に敬礼した。

「それでは、定刻通り出発します! 任務は必ず完遂致します!」


 ソアラが敬礼を返して声を上げた。

「皆様のご武運を!」


 そうして奥の大きなゲートが横にゆっくり鈍い擦れる音を立てながら開放されていく。ゲートの奥には紫色の光が渦巻いていた。


 そしてリサとブラウン商会特殊部隊員達がゲート方向へ進み、ゲート内へ入って行く。

 リサは最後尾でゆっくり歩いてゲート前で振り返って微笑み手を振る。


「……頼みましたよ!」

 そう言ってリサはゲートの紫色の光の中に消えた。ソアラは確認すると手間の端末を操作する。ゲートが鈍い音を立ててゆっくり閉まっていく。

「……無事で全員帰って来てね」

 ソアラはそう呟くと壁際の電話の受話器を取った。


「ユーリ司令! 只今、無事出発致しました!」

 そしてソアラは受話器を戻す。

(セレーナが無事なのはわかっているけど、何やら厄介ごとをしている予感がします。リサさんが相互間通路を確保してくれれば念話も通じるはずだし、それからですね)

 ソアラは施設復旧作業で疲れていたが、休む暇など無かった。ヒイズル帝国の問題が解決していなかったからだ。エラン皇帝が動いてくれていたがエリーの代わりは出来ない。

 ソアラはため息を吐くと5階層の階段通路へと向かった。

 

 

 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!



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