第359話 迫る軍勢23
ランディとトリナは戦闘する
2国間和平交渉会議22日目夜。(大陸統一歴1001年11月4日23時頃)
エルフ集落東側。
今、黒ローブ達と戦闘中であった。ランディは正面にいた黒ローブの華奢な少女がローブを脱ぎ捨て光に包まれマッチョな女性剣士に容姿が急激に変異したことに驚く。
「……うわっ! なんだ! 気持ち悪い! 魔法スキルか!」
最初は弱々しく見えたローブの少女がムキムキの筋肉女性剣士に変わり紫色の光を纏っている。大切な部分は隠して見えないが、伸縮性のある下着しか見に纏っていない。そして右手に剣を持ち構えている。
「お前、本気で俺とやるつもりだな」
ランディが肥大化した女性剣士に声を掛けると隣りにやって来たカルヤが前に出ようとする。
「待て! カルヤ! お前では手加減出来ない相手だ。俺がやる」
カルヤは一瞬不満そうな顔をしたが、頷き横に大人しく退がった。
「はい、お任せ致します」
カルヤの声は不満そうだ。ランディは身体強化レベルを一気に上げて白い光を体に纏った。
「お前、かなり無理をしてるようだな。体のあっちこっちで魔力の酷い揺らぎが見える。と言うか魔力暴走させて身体強化させているような感じだ。まあ、お前も主を守るために必死なのは理解した」
ランディは女剣士に叫んで、一気に距離を詰める。下着姿の女剣士はランディの斬撃を剣を振り抜き力任せに弾こうとする。
「ぐっーーう!」
ランディの斬撃を受け止めて唸る女剣士。弾こうとしたランディのショートソードが、方向を変え女剣士の腹部を掠める。ショートソードの剣先が隆起した腹筋の表層を切り裂く。
「ぎゃーーっああ!」
女剣士が短い悲鳴を上げて後ろへ下がる。だが、ランディは直ぐに距離を詰めてショートソードの凄まじい連続突きを放つ。女剣士は剣を両手で巧みに使い受け流すが、ランディの剣速に対応する一杯一杯の状況。
女剣士が肩で息しながらランディに声を上げる。
「お前は魔族だろ! なんなでエルフ側に付く! どう見ても上級魔族!」
「……!? 何を言っているかさっぱりわからん!」
ランディは女剣士を圧倒的剣技で攻め立て防戦一方にする。
「残念だが、お前の主は逃げれない! なぜならセレーナ様が逃がさないからだ」
ランディの言葉を聞いて女剣士はランディのショートソードを押し返しながら声を上げる。
「セレーナ! お前の主か! いや違う! メリッサ王女が裏にいるのか!」
ランディは直ぐにショートソードの付与魔力量を上げて斬撃を繰り返す。
「まあ、お前如きは私で十分相手出来る。そろそろセレーナ様もこちらに来られる。私の主は命を捨てるくらいなら逃げろとおっしゃるお方だ。必ず俺達を守るようなお方でのある」
女剣士は全身に纏った光が徐々に弱まり始める。ランディは敢えて力を抑えて女剣士をゆっくりと消耗させていた。
「ボリス様は帝国イチの魔法士! 負けるわけは無い!」
女剣士が疲労したような表情でランディを睨み言葉を絞り出す。
ランディは女剣士の言ったボリスと言う魔法士は未だに森に入れていない。シエルとアオイによって足止めされていた。魔法士は激しい攻撃魔法を発動しているがシエル達は互角にやり合っていた。
「……そろそろだな」
ランディは呟くと、さらにショートソードの魔力量を上げて女剣士を斬撃を繰り返す。女剣士の包む光は弱くなり剣撃の勢いも同じように弱まっていく。
「限界が近い! お前の主! まだ動けていないぞ! どうする」
ランディが声を上げると、女剣士は一瞬、魔法士の方へ目をやった。ランディは瞬時に女剣士の下に身を沈めて潜り込む。そしてショートソードの握りを返すと柄の先を女剣士の腹部へと突き入れた。
「ぐーーふっ!」
ランディは瞬間的に女剣士と目が合って、女剣士の瞳から戦意が消えた。女剣士は物凄い勢いで宙を舞い側方に10mほど飛ばされた。
女剣士は受け身も取れず、ぞのまま地面を転がる。そして包み込む光が消失して肥大化していた体が縮小して元の華奢な少女の姿に戻った。ランディは直ぐに倒れている華奢な少女に近寄ると半裸状態の体に自分のローブを脱いで覆い被せた。
「魔力はかなり消耗しているが、命には別状なさそうだ」
ランディが呟くと横に直ぐに来たカルヤがボソッと言う。
「ランディさん、優しいですね。私の時とは大違いです」
「……!? いやそんなことより、残りを片付ける」
ランディはカルヤの言葉を気にせず、視線をシエル達とやり合っている魔法士へ向けた。
魔法士はシエルとアオイの連携した剣撃に動くことが出来ず足止めされていた。決死の覚悟で身体強化した女剣士の足掻きも虚しく全く役に立っていない。ランディとカルヤに気づいた魔法士は爆炎魔法を放って牽制する。
そこへ猛烈な速度で接近する者が割って入って来る。光に包まれた銀髪の美しい女性。
「セレーナ様!」
シエルが声を上げ一礼した。対峙する黒ローブの魔法士は仮面の下から見せる口を歪める。
エリーは今まで隠蔽していた魔力を周囲に圧倒的に放ち始める。魔力闘気それは濃い紫色の光を放ち迸る。周囲の者がとてつもない威圧感にその場か動くことが出来ない。
仮面の魔法士の横についていた魔法士と剣士はそれで気を失うほどの魔力闘気だった。
「あなたはボリス様ですね。無駄な抵抗はやめて私に従いなさい。悪いようにはしません。あなた達の呪い、いえ、隷属の契約も解いて自由にしてあげます。いかがです」
エリーは微笑み仮面の魔法士に優しく尋ねた。ただ魔力闘気で威圧感は半端無い、その威圧感に魔力量を上げて対応している仮面の魔法士。
エリーはすでにボリス達黒騎士隊の大方の情報は把握している。戦闘で確保した黒ローブの者達の表層記憶域からイメージを読み取り部隊構成各員の魔法スキル、戦闘能力等、そして隊長ボリスについても。かなりの魔法スキルを有した実力者であること。しかし、エリー達を脅かすほどでは無いと確信していた。
仮面の魔法士ボリスが動いて詠唱を始める。
「ギルナスの魔剣ですね。それを使うことは不可能です。だって魔剣の召喚は出来ませんよ。この強固な魔法障壁を如何なる魔力エネルギー体も通ることは出来ません。諦めてください」
エリーの言葉に仮面の魔法士ボリスは動揺を隠せない。こちらの奥に手をすでに知っていたからである。仮面の魔法士ボリスが詠唱を終えても何も起こらない。愕然とした様子の仮面の魔法士ボリスを見てエリーは魔力闘気を放ったまま美しい澄んだ声で呼び掛ける。
「私は天上界よりこの地へ降りた女神です。この地の乱れを正すためにやって来ました。大人しく従いなさい。仲間も全員無事です。決して悪いようには致しません」
エリーは天上界から来た女神と嘘を設定通り言い放った。それを聞いて仮面の魔法士ボリスは観念したように魔力障壁を解く。
「……はい、部下が無事ならば……従いましょう! 確かに女神様なら、この力納得出来ます。もう抵抗はいっさい致しません」
そう言って仮面の魔法士ボリスはその場に膝をついた。そして魔法の杖を地面に置いて手を離した。
セレーナの容姿のエリーは魔力量を下げると体を覆っていた光が消失する。
「ありがとうございます。ボリスさん、ここは安全です。従属の魔導具も効力を失っているはずです」
エリーはそう言って仮面の魔法士ボリスに近寄る。そして膝をついて顔を伏せている仮面の魔法士ボリスの顔を見ようとエリーは屈み視線を合わせた。
「……!?」
エリーは今まで周囲に放っていた威圧感は全く無くなり、穏やかな優しい表情をして仮面の魔法士ボリスの手を取る。
「……女神様のご慈悲に感謝致します」
仮面の魔法士ボリスはエリーの様子に少し戸惑いながら言った。
「はい、ではあの子の治療を致します」
ランディが抱えている華奢な少女の方を見てエリーが言うとボリスはコクリと頷く。
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