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第355話 迫る軍勢19

 2国間和平交渉会議22日目夜。(大陸統一歴1001年11月4日22時頃)


 ここは異世界、エリー達のいるエルフ集落から2キロほど離れた森の中。


 黒いローブを羽織った集団が木々の影に10数人ほどが集まっていた。1人の大きな魔法使い杖を持った女性が全員へ言葉を発する。

「行方知れずになった王族系魔族の姫が村にいるとの報告をベリアス様にお伝えしたが、問題無いとのことだ。皆、すでにある程度は承知しているとは思うが、ベリアス様は第1皇子と懇意の間柄、是非も無いと言う事だ。この事は秘密裏に処理せよ」


 大きい魔法使いの杖を持った女性の隣りにいる女性ダークエルフの剣士がかなり嫌そうな顔をして言う。

「任務のハードルが大きく上がった。ボリス様大丈夫なのか? ハイエルフの救出、皇女の始末、得体の知れない魔法士の相手。かなりの確率で被害が出る……頭を信用しているが、これは厳しいと思うが」


 大きい魔法使いの杖を持った女性が、キツイ目つきで、女性ダークエルフの剣士を睨んで言う。

「……ドーキ、これは達成せねばならない任務。我々が全員死のうとも関係無い。契約に縛られた我らに選択肢など無いのだから」


 女性ダークエルフ剣士が隊長ボリスを睨み返して尋ねる。

「で、勝算は? 当然あるのだろう」


「……わからない、私の予知が全く感知出来ない。だが、やるしかない」


 黒騎士隊長ボリスの言葉に一同が強張った顔をする。今まで隊長ボリスの予知スキルに見通せない事などほぼ無かった。それが今回は全く感知が働かない。魔法士ボリスは元々は高位な魔族、名門家系の出身、闇系上級魔法の使い手であった。ボリスの家系一族は、今の帝国支配層の勢力争いに敗れ潰された。強制的に戦闘系従属奴隷にされた身だった。ボリスは捕まった際、容姿を醜く偽装して女性従属奴隷契約を回避、魔法能力が高かったため帝国の闇組織に送られた。それから実践を認められ、ひとつの闇の組織の隊長となったのである。ボリス率いる隊はここ10年間作戦失敗も犠牲者も出していなかった。それは、隊長ボリスの感知能力、作戦指揮能力の高さによるところが大きかった。

 だが、今回は全くボリスの予知感知能力で先が見通せない、ボリスは魔力障害が発生していることには気づいていたが、自分達の隊ならハイエルフの救出は問題無く出来ると考えていた。姫の始末に失敗しても魔炎弾の攻撃で始末出来る。だからハイエルフの救出へ全力を投入すれば良いと思っていた。


「持ち場は予定通りに。1班がハイエルフの救出、2班が揺動撹乱、3班が援護支援を行う。開始予定通り各班持ち場で待機! 以上!」

 ボリスが指示を与えると黒ローブを羽織った者達が森の中へ散って行く。


 ボリスはローブのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。

「……、あと30分か」


 ボリスが呟くと、後ろにいた小柄な魔族の女性が尋ねる。


「……ボリス様、あのエルフの村からただならぬ気配を感じるのですが、大丈夫でしょうか?」

 ボリスは懐中時計をポケットにしまい込むと、微笑み魔族の小柄な女性を見て言った。

「トリナ、心配しなくてもよい、まともに戦う訳ではないしハイエルフを1人救出するだけ。確保すれば転移で一気に撤退です。問題無い」

 ボリスはそう言って小柄な魔族の女性の肩に優しく手を添える。そうボリスは大陸でも3人しかいない転移魔法を個人で発動出来るうちのひとりたっだ。だからボリスの黒騎士隊は各個人の実力もさることながら、転移魔法が使えることにより帝国内でも屈指の実績誇る部隊となっていた。


「……はい、そうですね。いつものように我々は大丈夫ですよね」

 魔族の小柄な女性は無理に笑顔を作ってボリスに返した:。


「では行こうか、トリナ」

 そしてボリスと4人の黒のローブを羽織った者達は所定の場所へ移動を開始した。


 ◆◇◆


 同時刻、エルフの集落。

 エリー達は打ち合わせを済ませて、相手に気づかれないように戦闘体制を整えていた。


 エリーは今回、ワイバーン部隊、獣人部隊の攻撃襲来時とは違い、多くの魔法に長けた者がいることを察知して対策を練っていた。出来れば全員生け取りにしたいが、手加減出来るかどうかが問題だ。中途半端なことをしてこちらに被害が出たのでは元も子もない。

 エリーは離れの一軒家にシエルとメルティアと共にいた。

 エリーは偽装スキルを解き今はエリーの容姿で椅子に座っていた。メルティアがそれを嬉しそうな顔で見つめていた。


「……セレーナ様、そのお姿も可愛いくて素敵です。紫色の髪色も綺麗で美しさを引き立てます」

 メルティアが顔を緩めて右手でエリーの髪に触れる。


「……ありがとうございます」

 エリーは少し顔を顰めてメルティアから顔を逸らす。


「……私を、お嫌いですか……」

 エリーの身を引く反応にメルティアが戸惑い瞳が潤む。


「……いえ、ただ、ちょっと、メルティアさんが緊張感が無いから」


 エリーが少し嫌味ぽく言うとメルティアはハットした顔をして申し訳なさそうな顔をした。


「……あっ! すみません」


 エリーはメルティアを見て呆れた顔をする。

(このメルティアさん、昔は国を率いて宰相だったんだよね。そして魔族からも大賢者として、いまだに恐れられる存在なんだよね? まあ確かに魔法能力も高いし頭も良いんだろうけど……今はダメだね。ブランクが長かったせいかな? たぶん)


 エリーは過去の片鱗を見せていないメルティアに少し苛立ちを感じていた。メルティアは確かに記憶域からの情報では大人物だったことは確かなのだが、今はそうは見えない。ただの綺麗なお嬢さん的なハイエルフだ。


 エリーの配置していた遠視眼から情報が入る。

(……、ローブの者達が動き出したようですね)


「敵が動き出しました。こちらも」

 エリーが言うとシエルが立ち上がり視線を合わせて頷く。そして棚に置いていたショートブレード腰に装着した。


「それでは私はアオイ様のところへ」

 シエルは一礼すると部屋から出て行く。エリーは黒ローブの者達の目的が何であるか掴みきれていなかった。明日には特殊兵器で攻撃しようと言うのに、わざわざ襲撃するのも理解出来ない。あるとすれば特殊兵器の使用制約上の何か、こちらの戦力の弱体化、情報収集、あるいはゴロスネスの部隊とは全く関係の無い別な敵の存在。エリーは魔導球、及び遠視眼で黒ローブの者達の数をほぼ把握している。巧みに魔力を隠蔽し隠密系のスキルで気配を消している。それぞれの個人技量も高そうだ。数は少ないが統制の良く取れた、かなりの場数を踏んだ集団。エリーは黒ローブの行動から指揮官が誰かも特定していた。

〈私は全体の状況把握、指揮を取ります。敵が範囲内に侵入したら、集落周辺に魔力障壁を展開します。皆さんは予定通りの行動をお願いします〉

 エリーが伝心念話で指示を出した。目の前のメルティアは頷き答える。そしてエリーは意識を深層へ沈め、直ぐに白い光に包まれた。

 エリーの紫色の髪が輝く銀髪に変わり、顔立ちが精悍な美しいセレーナの顔に変化した。

 その様子に見惚れるメルティア、そしてエリー立てかけてあった軍刀を取り腰に付けた。





 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。

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