第354話 迫る軍勢18
エリー達は放った密偵からベリアスの計画の一部を知る
2国間和平交渉会議22日目夕方。(大陸統一歴1001年11月4日18時頃)
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落。
エリー達の滞在する離れの一軒家。今は夕食を4人で摂っていた。4人掛けのテーブルにエリーの隣りにアオイが座り、向かい合わせにメルティアとシエルが座っている。
夕食はキノコ類の煮込みスープと、豚のような獣の肉らしい薄切りの炙り肉、そしてパンのようなもの。口の肥えたエリーには味は決して美味しくは無いが、集落のエルフ達が精一杯頑張って準備してくれたもの、感謝して有り難く頂く。
メルティアがアオイに視線を向けて尋ねる。
「アオイ様は、どのくらい魔法を使えるのですか?」
アオイは無愛想に答える。
「普通には使えると思います。以前ほどではありませんが……」
アオイはエリーから正体は明かさず、誤解させたままで良いと言われていた。だから、ハッキリ答えず曖昧に答えた。
「……普通ですか? 私には良くわかりませんが、高貴な姫様ならS級相当と思って良いのですね」
メルティアがアオイの態度に少し気分を害したような冷たい感じで言った。アオイは相変わらず無愛想な感じでメルティアに接している。
「……S級相当? あゝ、この世界のレベル等級ですね。そうですね。S級オールラウンダーと言ったところでしょうか」
アオイは無表情に答えた。
「……オールラウンダー? なんです?」
メルティアはアオイの顔を見て首を傾げる。エリーが慌てて口の食材を飲み込む。
「アオイさん、違うでしょう。アオイさんは火系、闇系魔法が扱えるのでしょう。まあ弱いけど全属性を扱えるのでしょう」
エリーが慌ててフォローすると、アオイは少し慌てた顔をして言う。
「ええ、そうです。全属性を扱えますが。まあ、2属性以外はC級レベルですね」
アオイが答えると、メルティアが少しほっとしたような顔をする。この世界には魔法属性として火、水、風、光、闇の5種類がある。それぞれ、火は風に強く水に弱い、水は火に強く風に弱い、風は水に強く火に弱い、光闇は互いに弱点同士、という相性関係になっている。ただ、エリー達の魔法はこの世界の秩序ルールには則っていない。魔法を発動するためにはマナエナジーは同じく必要なのだが変換過程、から魔法発動過程が全く違う。それはエリーには分析してすでにわかっている。
「魔族で有りながら光属性も扱えると……、相反する属性を扱えるなど、聞いたことが有りませんが……? ……いえ、以前にいましたね。ですがその者達は、もういないはず……。あゝ、私は、火、水、光がメインで、風が若干使えるのですが、闇系は全く使えません」
メルティアが答えると、アオイが言う。
「では、闇系を習得しますか? 私が指導しますよ」
メルティアはすぐに嫌な顔をして答える。
「いえ、遠慮します」
「どうしてですか?」
アオイは少し意地悪い顔をしてメルティアに聞き返す。
「だって、魔族がメインで使用する魔法です。私は使いたくありません。それに、基本的に同じ体で光属性と闇属性は扱え無いのです」
メルティアは少し苛立った顔で答えた。
「いえ、それは方法が有ります。同レベルでは扱えないかもしれませんが。扱えるのです。闇系を使えれば、余裕が生まれます。魔族にだって対応しやすくなると思いますよ」
アオイは少し笑みを浮かべ、エリーを見て言う。
「セレーナ様は全属性をお使いになられます。それも1番高いレベルで」
メルティアは少し驚いた顔をしてエリーを見る。
「……あゝ、でも、女神様なら……それも」
メルティアは一瞬口ごもる。
「確かに、セレーナ様のお役に立てるなら、それもやぶさかではありません」
メルティアはそう言ってエリーを微笑み見つめた。
「……うん、もう基礎的なことは心配しなくても、すぐに出来ますよ」
エリーは煮込みスープをスプーンで掬って口に運ぶ。メルティアはすでに女神の洗礼を受け、内部に魔導回路が構築されており、いかなる魔法でも使える準備は出来ていた。ただ、メルティアが使えると認識していないだけだ。
メルティアはエリーを見て瞳を輝かせる。エリーは煮込みスープをスプーンで口に運びながら気づかない振りをした。
エリーは情報収集から得た知識から、こちらの世界とエリーの世界とでは、魔法の発動原理自体が異なることを知っていた。こちらでは何やら怪しげな精霊の加護とやらが必要らしい。それが無ければ各属性の魔法自体使用出来ない。そして修得した術式手順に従い魔力を乗せて魔法を発動する。森の中でエリーは異質で微弱な魔力波動を感じていた。それがもしかしたら精霊と呼ばれるものなのかと思った。エリーの世界では魔力適正は遺伝的に受け継がれ、新たな力を得るためには女神の加護を受ける必要がある。そして魔導回路の書換え調整を行えるのは特級魔導士以上の技量を必要としていた。
エリーの世界では特級魔導士クラスは現在、数十人しかいない。エリーは現地人との接触で多くの情報を得ていたが、まだまだ情報は不足している。エリーはもっと多くの者と接触して情報得なければならないと思っていた。特に魔族との接触を望んでいる。
この世界の魔法はマナエナジーを必要とすることは同じのようだが、精霊の祝福加護が必要なこと、そして各属性を持っていなければ、その系統の魔法を使えない。エリーの世界では体内に構築した魔導回路を使ってあらゆる種類の魔法が発動可能で、レベルの差はあるが魔導士はオールラウンダーだ。防御も攻撃もそれぞれ使用可能。この世界は不便だとエリーは思った。
エリーはメルティアの洗礼後に気づいたが、大きな力の違和感はメルティアの精霊加護だったのではないかと、精霊は精神に影響を与えていたはず、メリティアの状況は経過観察するしかないと思ている。現在セレーナの精神意識体内では超高速魔導演算術式でメルティアからコピーした記憶情報を分析解析中である。メルティアはさすが大賢者と呼ばれただけあって、膨大な経験知識を持っていた。
「……はい、セレーナ様」
メルティアは答えてアオイを見て微笑む。
「……?」
アオイは顔を逸らして食事を続けた。そしてエリーにランディからの伝心念話が入った。
《セレーナ様、送り込んだ獣人のアルルから重要な知らせがありました》
〈ランディ、急ぎですね。内容は?〉
エリーは食事を中断して席を立つと壁際へ移動する。
《知らせでは、軍勢は侵攻せず、特殊兵器を使用するようです。その兵器はとてつもない破壊力を有する物だそうです。使用予定は明日の昼頃とのこと。いかがなさいますか?》
エリーは少し間を置いて答える。
〈その兵器の詳細は? 魔法系? それとも科学物理系?〉
《魔法系兵器と思われます。製造には多くの魔法士が必要で手間と時間を要するとのことでした。予定は2発使用予定となっていると》
ランディの念話からは緊張感が伝わって来る。エリーはまた少し間を置いて答える。
〈……そうですね。特殊兵器の対処は必要ですが、まずは、新手が接近していますので、そちらから片付けなければなりません〉
《……えっ! 新手、私は聞いていませんが》
〈ランディ! カルヤを連れてこちらへ来てください。段取りの話しをします〉
《はっ! 承知!》
そしてランディの念話が切れた。エリーはテーブルに戻るとシエルの顔を見て言う。
「敵が動き出しました。ランディが来たら作戦計画をお話しします」
それを聞いてアオイとメルティアがエリーの顔を見て立ち上がる。
「……まずは夜襲ですね」
アオイが真剣な顔で言った。そして直ぐに部屋のドアがノックされる。
「ランディです! 参りました!」
「そうぞ」
エリーが返事をするとドアが直ぐに開いてランディとカルヤが入って来る。まずエリーに2人は丁寧に一礼した。
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