第352話 迫る軍勢16
迫る黒騎士隊
2国間和平交渉会議22日目昼。(大陸統一歴1001年11月4日12時頃)
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落。
エリーは午前中にメルティアの治癒を行い、魔力体の改善を図った。メルティアのハイエルフの遺伝子は伊達ではない、エリーはポテンシャルの高さに驚き施術を楽しんでいた。
(これは、この世界特有なのでしょうか? メルティアさんは上手くすれば準女神級まで行けそうですね。まずは、元のスペックまで戻し、上書きですね)
ベットの上に半裸で横たわるメルティアを眺めるエリー。ほぼ2時間この離れの一軒家に閉じこもていった。エリーは丁寧に細胞単位でメルティアのメンテナンスを行う。いくら、セレーナの脅威的な演算速度を誇る魔導演算術式スキルを使用しても1時間を要した。ただ、この世界に溢れるマナエナジーのお陰で回復は脅威的に早い。疲労を認識する前に全快していた。
そしてエリーはメルティアの記憶領域からコピー吸い上げた知識経験も自分の中に取り入れ解析分析して自分のものとしていた。
「……メルティアさん、なかなか大変だったようですね。私はそこまで割り切れるませんね。でも、変な領域が形成されて……セレーナで満たされています。これは……」
エリーはそれ以上は危険と判断、認識するのをやめた。そしてセレーナ側へデーターを割り振る、意識精神体の強度耐性はセレーナは圧倒的だ、というより何も感じない、ただ事象を認識するだけ。人間並みの精神強度しか持ち合わせていないエリーにはセレーナの防御機能が働くと事象を認識出来なくなる。
「……ふっ、何か不穏な……」
エリーはそう漏らすと、寒気を感じる。ベットで仰向けに寝ているメルティアの肩を揺する。
「……ああーーっ」
メルティアが声を漏らして薄めを開けた。エリーはメルティアの顔を見て微笑む。それにしても何度見てもメルティアは美しい。エリーが普通の男性なら多分虜になっているだろうと思った。
「……セレーナ、様……」
メルティアが顔を横に向けてエリーを見つめ、なんとも言えない甘い顔をする。まるで男に媚びるような顔、メルティアの清廉可憐なイメージには合わない。
「どうしました? 気分でも悪いのですか?」
エリーは眉を顰めてメルティアを見つめる。
「……え、……えっ……セレーナ様の魔力を……もっと欲しいです!」
メルティアはベットの上で体をくねらせた。エリーはそれを見て言う。
「はい、お昼ですから、昼食を挟みましょう。それから1時間ほど予定しています」
エリーはなんとも言えない違和感を感じる。エリーはメルティアを視感して精神体の状態確認をする。魔力酔いの中毒症状のようなものが見られる。メルティアは本来耐性はかなり高いはずなのに、それがこの状況。
(私が、施術を誤った。いえ、それはない状況確認しながら慎重に行った。それに微量を流しながら量を調整した。ミスはあり得ない。……ならどうして? もしかして……いえ、そんな事)
メルティアはエリーの魔力を体に通すことで性的興奮を得ていたのだ。メルティアは自ら受け入れ興奮状態を作り出していた。エリーは目を疑った。ハイエルフメルティア、かつて大賢者と呼ばれ一国の宰相として手腕を振るた大魔法士それが、エリーは悲しい顔して言う。
「メルティアさん、とりあえず食事をしましょう」
そう言ってメルティアから離れた。そしてエリーは部屋から出て行く。
エリーは部屋から出ると、直ぐにメルティアを洗礼しなればならないと思ったのだった。
エリーは誤解していた。メルティアは決して投獄生活で堕ちておかしくなった訳ではなかった。それまでは強靭な自我を保っていた。それがセレーナと出会ってタガが外れておかしくなった事に。
◆◇◆
ここはエルフ集落から30キロ離れた大森林の中。一定の間隔を保て動く集団があった。
「レッドオーク! 確認!」
先頭の黒いローブを羽織った小柄な人物が声を上げた。後ろの数人も同じような黒のローブを羽織っている。中央にいた魔法使いの大きな杖を持った人物が杖を振り上げる。一気に頭上に金属の矢尻のような物を形成する。
「認識した! 5体! 強度Aランク」
その大きな杖を振り下げる。一本の金属の矢尻はゆっくり前に出ると、一気加速して森の中に消えた。そして爆発音、無数の悲鳴のようなものが聞こえ直ぐに静かになった。
「レッドオーク! 反応消えました」
先頭の小柄ローブの人物が後方の仲間達に報告した。その声は少女のような声だった。
「周囲の魔物はいません」
小柄な少女のよな人物が声を上げると、先ほどの金属の矢尻を放った人物が声を上げた。成人女性の声だ。
「周囲を警戒せよ! 我々は監視されている!」
黒いローブ姿をした全員が周囲に魔力検知を放つ。魔法使いの杖を持った女性の後ろの槍を背中に担いだローブの男性が声を掛けた。
「……気にし過ぎです。ボリス様」
「いや、確かに何か……? 全員、警戒しながら進め! 気を緩めるな。相手はワイバーン50体を一瞬で屠るほどの力を持っている」
木々の間からセレーナの遠視眼が浮遊してこの集団を捉えていた。セレーナの遠視眼は隠蔽、魔力検知防御処置がなされS級魔法士でも気配を感知する事は出来ない。その様子は直ぐにエリーに伝達され、周辺に展開する魔力観測球が移動ルート上に配置される。
黒いローブ集団の長らしき人物は、遠視眼の存在に気づいた訳ではなく、森の中で僅かな魔力の揺らぎに違和感を覚えただけだった。遠視眼のほんのわずかな通信時の魔力の揺らぎを感じて反応した。しかし、その魔法士の女性以外気づく者はいなかった。
◆◇◆
ここはエリー達のいるエルフ集落。
エリーは上機嫌なメルティアと機嫌を直して食事をしていた。
「……! また!」
エリーは声を上げる。テーブルの反対側に座っていたメルティアがビックリした顔をする。
「セレーナ様!」
「……あゝ、侵入者です」
エリーは直ぐに椅子から立ち上がるとシエルに言う。
「シエル! 予想では多分、今夜、夜襲があります。備えを! かなりの者達のようです」
シエルは椅子から直ぐに立ち上がりエリーの顔を見る。
「はい、武器を配布するのですね。我々だけでは厳しいと」
「いえ、そこまでは、用心するに越した事は有りません。この世界の全てを把握している訳では有りませんからね。イレギュラーが起こったら困りますから、万全を期するだけです。それとアオイさんもこちらへ呼んでください」
「はっ! 承知致しました!」
シエルは食事を中断して慌てて部屋から出て行った。エリーは直ぐにメルティアを見て言う。
「メルティアさん、食事を片付けたら、洗礼を致します。メルティアさんは心が乱れています。平安を取り戻しましょう」
メルティアは嬉しそうな顔をして答える。
「はい、ありがとうございます」
エリーはテーブルの食器をバスケットに片付ける。エリーはバスケットを部屋の隅に移動すると、メルティアはすでにベットに横になり準備を整えていた。
エリーはドアの施錠を掛けて再び結界障壁を展開させた。エリーは左手の腕時計を見る。
「……1時間てところか。まあ、戦力は拡充しないとね」
そしてエリーはベットのメルティアのそばによると屈んでメルティアの右手に手を添えた。
「では、始めますね」
エリーは紫色の光に包まれた。そしてその光は拡大してメルティアを包み込む。メルティアは瞳を閉じてエリーの魔力を受け入れた。
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