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第351話 迫る軍勢15

西地区首席担当官ベリアスはエルフ集落の攻撃準備を進める。

 2国間和平交渉会議22日目午前。(大陸統一歴1001年11月4日9時頃)


 ローゼの隠し砦から東へ60キロほど離れた街道沿いにゴロスネス軍勢4000が待機している。


 西地区主席担当官ベリアスは、野営テント内で主要メンバーと作戦会議を行なっていた。メンバーは情報担当官ギリドバ、ゴロスネス守備兵団長ゾリス、ゴロスネス守備兵団副官ヴェレンの4名。野営テント周辺には魔法障壁が張られて盗聴などを防止している。


 斥候部隊副長アルルからの新たな報告を受けた後の方針決定会議。

 敵の戦力は詳細は不明であるが、強力な魔法士、魔法剣士を有しレッドドラゴンも一体保有している。斥候部隊アルルの報告によれば隊長カルヤと数十人が囮となり、なんとか逃げ延びれたとの事であった。

 また、アルルによれば斥候部隊精鋭が全く相手にならなかったとの報告を受けた。

 ゴロスネス守備兵団副官ヴェレンは地図を指して言う。


「隊長カルヤは個人としての戦闘能力は勿論、小規模作戦においても指揮能力は優秀です。それが手も足も出ず一方的にやられたとは……かなりの敵であると……やはり大規模掃討戦しかないのでは」


 情報担当官ギリドバがヴェレンを目を細めて睨むように口を開く。

「……単純すぎますね。数で押し切る? どれ程の被害が出るかわからない状態で? 我が国でも精鋭と言われたワイバーン部隊が壊滅し、そして精鋭の獣人部隊が大損害を受けたのに、強引に敵地に踏み入るのですか? 今回の事象は魔王復活の兆し……いえ、すでに魔王が復活しているのかもしれません! その状況下で無策で数に頼って攻め込むとは……、頭が痛いですね」

 情報担当官ギリドバの物言いに、顔を歪める守備兵団副官ヴェレン。


「……! なら、どんな方策があると! お聞きしたいものです」


「ここはベリアス様に、中央軍団の派遣を要請していただくしかないと思いますが。いかが思われますか? ここで敵を刺激して表、大森林外へ出て来るような事になれば、それこそ我々の責任問題になります。しかし、中央軍団の援軍を得ての失敗ならまだ、面目を立つと思いますが」

 情報担当官ギリドバはメンバーに力説した。

「……うん、しかし……」

 ベリアスが渋った顔をする。


「ベリアス様、この状況で大森林へ侵攻を開始すれば、取り返しのつかない事になります。それは愚策……現在、調査中ですが。仮に詳細がわかったとしても、多分、我々では対応出来ないと思います。早急に中央軍団の派遣をしてもらわないと……」


 ゴロスネス守備兵団長ゾリスが怪訝な顔をして情報担当官ギリドバを見る。

「ギリドバ殿、このまま待機せよと……」


「はい、現状では進軍は認める訳には」

 情報担当官ギリドバが答えると、ゴロスネス守備兵団長ゾリスは機嫌の悪い顔をする。


「ベリアス殿、貴官に軍の統制権は無い! ベリアス様の指示なら従うが! 明らかな越権行為だ」


 ベリアスが慌てて声を上げる。

「何を揉める。ギリドバの言う事は正しい。ここは冷静に対処せねば。レッドドラゴンだっているのだぞ。ゾリス、無闇に進軍出来ん事は理解しているだろう」


「……はい、申し訳ありません。ですが、このまま手をこまねいている訳には」

 ゴロスネス守備兵団長ゾリスが口惜しそうに言った。


「ワイバーン部隊を大きく迂回させて侵入させて奇襲を掛けるのはいかがでしょうか?」

 守備兵団副官ヴェレンが思いついたように進言する。


 情報担当官ギリドバが呆れた顔をすると、ベリアスがハットした顔をして小声で言う。

「……それも良いかもしれんな。我々も何かしらの行動はせねばならぬ。ワイバーン部隊には申し訳ないが」


「……? なにをおっしゃっているのですか?」

 情報担当官ギリドバがベリアスに慌てて視線を向けた。


「有効策が見出せない現状では、何かしらの方策を……魔炎弾を使用する。ワイバーン部隊に魔炎弾を……」

 ベリアスが全員を見据えてそう言った。魔炎弾を使用すると。


「……ベリアス様、正気ですか? 魔炎弾を使用するなど」

 情報担当官ギリドバがベリアスに聞き返した。


「魔炎弾なら、こちらの被害も最小限で済む。そして相手は軽い被害では済まん。ワイバーンを撃破したところで、相手もかなりの痛手を負うからな」

 ベリアスは完全に魔炎弾を使用するつもりのようだ。魔炎弾とは魔法で特殊生成された高耐久容器へ高圧縮された魔力エネルギーを封じ込めた物。そして起動魔法を発動爆発させると、周囲10キロほどを高熱爆風で完全に焼き払う。ただ製造には1発10年ほどを要する。A級クラス以上の魔法士が何10人掛かりで手間暇掛けて10年でやっと作れる代物。だからおいそれと使用出来ない。そして、ベリアスにはその使用決定権があった。


「ベリアス様、魔炎弾とは……確かに破壊力は有りますが、魔王に通用するか不明です。もし失敗すれば、魔王は確実に我々を殲滅するでしょう」


 情報担当官ギリドバはメガネの奥の怒りの視線をベリアスに向けた。


「……ゴロスネスは2発保有している。1発をワイバーン部隊で運搬投下する。ワイバーン部隊が失敗した場合、もう1発を地上部隊で輸送、エルフ集落近くで爆発させる。まあ、交渉の余地があるのなら、その限りではないが。ギリドバの言う通りではなんの進展も無い、いたずらに時間の浪費では無いか?」


 情報担当官ギリドバは困惑した顔をして椅子から立ち上がる。

(ベリアス……もしかしてパルンディルいや、メルティア様ごと消し去るつもりか!)


「ギリドバ、一応交渉はしてみよう。だが、期限は明日の正午までとする。魔炎弾の準備は進める。それで良いな」


 ベリアスは吹っ切れたような顔をして笑みを浮かべた。情報担当官ギリドバは目を細めベリアスを目据えた。ここで進言したところでもう覆せないだろう、そう諦めて言う。


「はい、了承致しました。ただ、交渉の成った時は、即刻中止を」


「あゝ、勿論だ」

 ベリアスはそう言って、ゴロスネス守備兵団長ゾリスに魔炎弾の準備の指示を出した。


 これ以上の話し合いは不用とベリアスが声を上げた。

「以上で解散! 会議は新たな情報がない限り、明日午前とする」


 メンバー3人が一礼した。情報担当官ギリドバはゾリスとヴェレンがテントから出て行くとベリアスに尋ねた。


「パルンディル様の排除ですか? あなたの可愛い玩具を処分されるおつもりですか?」


 ベリアスはいやらしい顔をして情報担当官ギリドバを見る。

「それは無い。あのようなもの二度と手に入らんからな。距離を置くと愛おしくて……精神が焼き切れそうになる。もう既に手は打っている」


「……? 手を打っていると」

 情報担当官ギリドバは、ベリアスを常に監視して行動の全てを把握しているはずだった。だが、すでに、なんらかの行動を起こしている様子のベリアスに違和感を感じる。


「まさか、黒騎士隊を?」


「鋭いな、そうだ私の直属影の配下。私の命ずることは絶対に完遂する。忠実なしもべ達だ」

 ベリアスが笑み浮かべ情報担当官ギリドバを眺める。余裕の表情。


「……そうですか。ですが、魔王級相手にどうでしょうか?」

 情報担当官ギリドバはベリアス配下の影の配下黒騎士については情報を持ち得ない。調べても詳細が不明だったからだ。10人から20人ほどの構成で実力も未知数。ギリドバに利用価値が無いと判断されたなら真っ先に差し向けられるであろう黒騎士。ギリドバがベリアスの弱みを握っていたとしても、領内運営、経済活動、人事等、上手くこなして優秀な代えの効かない人材と思われているうちは大丈夫だと思っていた。ギリドバには決して表に出てくる事のない黒騎士隊を使うとは驚きだった。それほどまでにパルンディル、いや、メルティア様に侵食されているのだと思った。


「奴らの実力は数は少ないが、かなりのものだ。ワイバーン部隊や獣人部隊の比では無い。S級級以上の使い手もおる。永遠の命を与えられ隷属の契約で闇に沈んだ者達だ」


 情報担当官ギリドバは聞いたことがあった。とんでもない力を持つものが魔導帝国内に存在すると、過去の英雄、魔法使い、大剣士などの肉体を再生させ、悪魔とか言う者を闇から召喚して憑依一体化させる。だがそんな事が出来るはずが無いと思っていた。魔族の長であるグリスダース、現皇帝が術式を行えると噂は聞いた事があった。それが事実だった。にわかに信じられないギリドバはベリアスに尋ねた。


「その者達は、強いには理解しました。ですが暴走する事は無いのですか?」


「心配はいらない。この隷属の腕輪を持つ者の命令は絶対、逆らう事は出来ない」


 情報担当官ギリドバは次の方策を練るためベリアスに一礼するとテントから出て行った。

 

 

 

 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。

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