第349話 迫る軍勢13
エリーはメルティアと話す。
※修正しました。シエルがテレポートしていました。朝食配達 シエル→ハンジへ
2国間和平交渉会議22日目朝(大陸統一歴1001年11月4日7時頃)
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落、離れの一軒家。
エリーは朝起きると、とりあえず急拵えで作ったシャワー小屋でシャワーを浴びスッキリさせた。この集落には浴場設備が無い、とりあえず地下水をエリーの魔法で掘り起こし、水を引いた上で桶に組み上げ簡易シャワー施設を作ったのである。都市部には浴場はあるようだがこの集落は底辺の暮らしの貧しい村。そんなものがあるはずも無かった。
エリーは小屋の中で着替えると、直ぐにメルティアの元へと向かった。朝、集落の中を歩くとエルフ達はエリーに深く頭を下げて敬意を表す。エリーが通り過ぎるまで動かず頭を下げたままだった。この集落でのエリーは天空より降り立った女神様であり、守り神であると全員が崇めていた。それは時間が経過するともに更にエルフ達の信仰心を深める。次々にあり得ないことを簡単やってしまう女神セレーナ。
エリーは離れの一軒家に到着する。集落の位置関係ではカルヤのいる小屋の東西反対側にある。集落の家屋は周囲が500mほどの柵の中に集まっているのでゆっくり歩いても10分もあれば到着する。
エリーがドアをノックするとシエルの声で返事がする。
「どうぞ、お入りください!」
エリーはドアを開けて一礼する。
「シエル、おはようございます。問題は無いようですね」
シエルは深く頭を下げた。
「セレーナ様、おはようございます。はい、問題はございません。朝食を準備を」
シエルはそう言って部屋から出て行った。エリーは奥の椅子に座っているメルティアを見て一礼する。
「メルティア様、おはようございます。どうです体調は?」
メルティアは椅子から立ち上がりエリーに深々と頭を下げた。
「セレーナ様、おはようございます。問題ございません。セレーナ様こそ体調は問題ございませんか? 若干の揺らぎが見えます」
「……!? あゝ、大丈夫です」
エリーは確かにカルヤの魔法施術で若干であるが疲労を感じていた。エリーはメルティアには認識でいるのだと感心した。それにしても美しい顔立ち、エリーはメルティアの顔は美しい芸術品だと思った。エリーがマジマジとメルティアを見つめると、メルティアの透き通る様な白い肌が赤みを帯びて来る。
「メルティア様、熱でもあるのですか? それなら直ぐに治療します」
エリーはメルティアの顔を見てすぐに尋ねた。そして右手を額に当てるとメルティアの顔の赤みが増す。メルティアは抑えられない身体の反応に戸惑いながら言う。
「……大丈夫です。これはセレーナ様がいけないのです」
エリーは右手をを額から離すと、メルティアの顔を間近で見つめて頷く。
「……あゝ、緊張しているのですね。まあ、そうですよね。得体も知れぬ者に馴れ馴れしくされて、気分を害されのですね」
メルティアは慌てて顔をブンブンと横に振る。
「い、いえ、違います! そのような! むしろ逆です」
メルティアの顔は傍目から見ても真っ赤になっていた。シエルが横から口を挟む。
「セレーナ様はメルティア様にとって王子様なのではないですか?」
「……王子……?」
エリーが首を傾げる。エリーは不思議そうな顔をしてシエルの方へ振り返る。
「……あゝ、後ろから見ていて、なにかメルティア様が乙女のような反応だったので、つい、そのように思ってしまいました」
シエルは嬉しいそうな顔をしている。エリーは視線をメルティアに戻して尋ねる。
「そうなのですか? 違いますよね」
「……ち、違います……そのような、もちろんセレーナ様に敬意は抱いております。それに偉大なる女神様なのですから、私のような者が気軽に近づけるものでは御座いません」
メルティアは慌てたように言葉を発した。エリーは微笑み言う。
「メルティア様、緊張しなくても、私はメルティア様が思っているような者では有りません。確かに女神ですが全知全能の神では有りませんから、間違いも犯します。ですから多くの助けが必要なのです」
エリーは神眼でメルティアを視感する。メルティア精神体の高揚が見られ若干の興奮状態であると認識する。身体的には順調に回復している。エリーはメルティアの安定を待って女神の洗礼を行うつもりだった。女神の祝福、洗礼、紋章には各段階の器の許容範囲内で行わなければ、付与の施術が失敗し対象者が壊れるもしくは死亡しててしまう。適切に見極め行わねければならない。一旦、始めればもう中断は出来ない。対象者によって施術時間も異なる。
エリーはメルティアに微笑み言う。
「朝食を食べましょう。ハンジがそろそろ届けてくれるはずです」
エリーは4人掛けのテーブルの椅子を引く。
「どうぞ、メルティア様」
「……あっ! はい」
メルティアは慌てた様子で椅子に座った。
「セレーナ様、メルティアと呼び捨てで結構です。そちらの方が気が落ち着きます」
「……そうですか、ですが、はい、承知しました。メルティアとお呼びします。それなら私もセレーナとお呼びください」
「いえ、そう言う訳にはいきません。セレーナ様にはお立場がおありです。他の者が聞いたら、私は不遜な人物に見られます。ですのでご容赦ください」
メルティアは頭を丁寧に下げた。エリーからすれば呼び方などそんなに気にしていないが、メルティアの印象が悪くなるのは避けなければならない。
「承知しました。では今後、メルティアさんとお呼びしますね」
部屋のドアがノックされた。外からハンジの声がする。
「どうぞ!」
エリーがドアに駆け寄りノブを掴みドアを開ける。ハンジがバスケットを持って立っていた。
「ハンジ、ご苦労様です」
ハンジはバスケットを抱えテーブルの横に置いた。
「お父様が、少し無理をして下さったようです」
そしてハンジは一礼すると部屋から出て行った。シエルがテーブルにバスケットから食材を出して並べる。パンとチーズのような塊、そしてヤギのような動物のミルク。集落の住民は通常この量の半分以下だそうだ。
「これでも……贅沢なのですね」
エリーは呟き、手を合わせてる。
「それでは、みなさま、感謝していただきましょう」
エリーはそう言ってトレーに乗ったパンへ手を伸ばす。
メルティアとシエルも食事を始めた。エリーはあまり美味しくは無いが贅沢は言えないと、ミグモグとパンを齧り交互にミルクを口に含み喉に押し込んだ。
「このあたりは畑も魔獣に荒らされるようですね。家畜もヤギみたいなのが少しいるだけ……。あとは木の実とかキノコ類を季節に応じて収穫しているようです。ニワトリが居れば卵が手に入るのですけどね」
エリーが集落の現状を語ると、メルティアが悲しそうに言う。
「エルフには富ませない政策を敷いていますから、家畜も作物も制限を受けています。ギリギリ生活出来るレベルに抑えられているのです。まあ他の種族も制限を受けていますが、エルフ種族ほど酷くはないです。移動制限もかなり厳しいです。生まれたところから基本的に転居が認められませんから、ひどいものです」
「……はい、知っています。集落の長アルタスさんから聞きました。エルフ隔離政策ですね。ただそれも大賢者メルティアさんを誘き出すための方策だと言うことですよ。もし、メルティアさんが直ぐに捕まっていれば、もしかしたらエルフ種族は死滅していたかもしれませんね。だから、メルティアさんの行動は間違っていなかったことになりますね」
エリーはそう言ってチーズのような塊を口に押し込んだ。
部屋のドアがノックされた。外からランディの声がする。
「セレーナ様! よろしいでしょうか!」
「はい! どうぞ!」
エリーが答えるとドアが開きランディが入って来た。ランディは直ぐに一礼すると言葉を発する。
「……セレーナ様、カルヤから修練を申し込まれたにですが、いかが致しましょう?」
エリーはランディに視線を向けて微笑む。
「ランディ、おはようございます。構いませんよ。体調も問題ありませんから、思い切り鍛えて上げてください」
ランディは直ぐに困惑した顔をする。
「……えっ! 昨日の今日ですよ。流石にそれは?」
「まあ、直ぐにわかります。カルヤがどのくらい強くなったか。腕試ししたいのでしょう。たぶん」
エリーは立ち上がりランディのそばによる。
「昨日、色々しましたからね。私も立会います。少し待ってください」
エリーは慌ててテーブルに戻ると残りのパンを口に押し込むとメルティアに声を掛ける。
「ちょっと行って来ます。終わったら戻って来ますので」
メルティアは寂しそうな顔をしてエリーを見る。
「……はい、お待ちしております」
そしてエリーは待っているランディと一緒に部屋を出て行った。寂しそうな顔でメルティアはシエルを見て小声で言う。
「シエルさん、朝食の続きを致しましょう」
「……ええ、セレーナ様は忙しい方なのでしょうがないですね」
そしてシエルはパンを千切って口に運んだ。
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