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第347話 迫る軍勢11

ユーリ達はエリーを救出するために全力を尽くす。

 2国間和平交渉会議21日目明け方。(大陸統一歴1001年11月3日21時頃)


 ヒイズル帝国南部島より南へ300キロ離れた孤島、南海の魔女封印地。


 周辺海域にはグラン連邦国第2巡洋艦隊10隻が展開、厳重な警備体制を敷いている。最新鋭ミサイル巡洋艦アテナ号はすでに単艦全力航行で1番に到着していた。そして艦長クレアは周辺海域の安全確保にため、水中作戦用重装機兵レンガリアンで、周辺海域に潜んでいた所属不明潜水艦を3艦撃破撃沈した。当然、警告通達を行い逃亡しようとしたので、やむなく撃沈したのである。現在、周辺海域100キロ圏はグラン連邦海軍、グラン派遣航空群により海域閉鎖された状態となっている。


 そして孤島には島嶼防衛部隊1000名が追加増援され、ミサイル作戦群1個中隊と合わせ過剰な戦力となっていた。孤島防衛作戦群司令官にはユーリが任命され、現在グラン連邦国軍准将相当官待遇となっている。


 防衛作戦本部にいるユーリの皇帝護衛隊の軍服の肩章には准将階級章が貼り付けられている。ユーリは到着後、対応に追われ一睡も出来ていない。顔に疲労の色が見える。ユーリの美しい顔には薄っらクマが見えた。


「……とりあえず、万が一の攻撃には対応出来ると、各部隊長へ通達! 第2戦闘戦闘配備へ移行! 通信士!」


 奥の通信士が直ぐに復唱して共通部隊無線で各部隊長へ通達した。

「ほんと……ハル局長も無茶苦茶です」

 ユーリは不満を漏らす。ハル外事局長が秘密保持にためユーリを孤島の作戦責任者に据えたのだ。

「……日頃のエリー様のご苦労が理解出来ますが、私はやはり下で自由に動ける方が」

 ユーリはふっと息を吐き呟いた。ユーリは直ぐに皇帝護衛隊連絡士官に尋ねる。


「リサさんは、どうですか? 回復しましたか?」

 皇帝護衛隊女性連絡士官はユーリのそばに駆け寄る。

「はい、疲労はまだ残っているようで、まだ、寝ておられます。ですが、ソアラさんが代行を務め復旧作業はほぼ予定通り工程は進んでいるとのことです」


「……そう、ソアラちゃんなかなかやってくれますね。伊達にローラ様付き魔道士では無かったのですね」

 ユーリは安心したように応えた。


 ソアラも派遣艦隊護衛3番艦で、アテナ号より5時間ほど遅れて到着していた。最初はリサのサポートを行い、リサが疲労で倒れた後は、前面に出て普及のための魔導回路調整を行っていた。


「ゲートの復旧は予定通り3日後ですか?」

 ユーリが皇帝護衛隊女性連絡士官に尋ねた。


「私にはお答え出来ません。 ソアラさんの見解では予定通りとのことでした」


「そう、まあしょうがないですね。焦ってもゲートが開かないことには何も出来ませんからね。とりあえず、救援隊の編成を急ぎます。ブラウン商会から特殊作戦隊20名を呼び寄せます。あとは皇帝護衛隊選抜メンバーと組み合わせて1個小隊編成で臨む予定です。本当は私も加わりたいのですが、却下されました。セリカさんが隊長になるようです。非常に残念ですが」

 ユーリは疲れた様子でそう言うと右手を軽く上げて言う。

「流石に疲れたので、少し仮眠をとります。もし訳ないが、問題があれば連絡を」


 ニコル隊副長ニーダがユーリのそばにより声を掛けた。

「はい、ゆっくりとは申しませんが、寝てください。その前にお風呂でも部下に遅らせます」


 ユーリは一瞬顔を緩めた。

「ありがとう、ニーダ。そうですね、お風呂に入ればましになるかもですね。それじゃあお願いします」


 ニーダが直ぐに車両を手配するよう部下に指示を出した。ニーダはいつもに無く疲労しているユーリを心配したのだ。

 ユーリは部下の下士官と共に防衛本部を出て行った。


 ◆◇◆


 ここは森林地帯のエリー達のいるエルフ集落。

 斥候部隊長カルヤを収容している家屋の一室。獣人女性カルヤは意識は戻らずベットで時々うなされ声を上げていた。ベットから2mほど離れて椅子に座っているランディがぼーっとそれを見ている。

「……」

 ランディはつまらなそうにカルヤを見てため息を吐く。


「……セレーナ様、冷たかった……ご指示通り達成したはずなのに」


「俺は失態を犯したのか? 」


「セレーナ様は判断を誤ったりはしない……、この獣人がそれほど重要なのか?」


 ランディは考えを巡らせながら獣人女性を見つめていると、ランプの薄明かりの部屋の中で獣人女性の瞳が開きランディと視線が合う。


「……? あっ……」

 獣人女性カルヤが小さく声を上げる。


「……気がついた?」

 ランディは椅子から立ち上がり無表情にカルヤを見つめた。カルヤはまだ、虚な顔をしている。


「……ここはどこですか? あなたは?」

 カルヤはランディを見つめて尋ねる。ランディは静かに言う。


「あっ、君は、覚えていないのか? 昼間のことを」

 

「……? 何を? ですか?」


「……?」

 ランディはしばらく沈黙して尋ねる。


「君の名前は?」


 カルヤはランディの顔を見て戸惑った顔をして言う。

「……うっ、名前? 名前? 名前ですよね……」


「どうした?」

 ランディは優しく尋ねる。


「……そ、れが……名前! 出てこない……」

 カルヤはベットの上で動揺したように頭を抱える。ランディは直ぐに声を掛けた。


「あゝ、無理をしなくていい」


 ランディは直ぐに。エリーに伝心念話を送る。

〈セレーナ様! カルヤが目覚めました! しかし様子がおかしいので直ぐに来て頂けますか〉


 エリーが直ぐに応答して来た。

《はい、直ぐに行きます! どんな問題ですか?》


〈それが自分の名前が思い出せないと動揺しているのです〉


《はい、急いで向かいます!》


 エリーの念話が来れる。ランディは優しくカルヤの肩に手を添える。


「セレーナ様が来てくださる。心配しなくて良い」

 カルヤの肩を優しく摩り落ち着かせる。


「……はい、大丈夫です。私が……」

 カルヤはベットの上顔をランディに向けるが昼間の精悍な自信に満ち溢れた目つきではない、不安に苛まれたか弱い少女の様だった。実際の年齢を知らないが、獣人女性の見た目はランディから見てどう見ても10代後半くらいにしか見えなかった。ランディは呵責の念に苛まれる。あの時、自分は圧倒的強者だった。余す力を保持してこの獣人女性を弄んだだけだったのかもしれない。やりようはもっとあったのかもしれない、そうランディが思っているとドアノックされた。ランディは直ぐに応答する。


「……ランディ! どうですか?」

 ドアが開きエリーが奥のベットに駆け寄って来た。


「……はい、どうやら記憶を失っている様です」

 ランディは横に来たエリーを見て悲しい顔で答えた。エリーは察したようにランディに言う。

「どうやら理解したようですね。私の命じた事が、私は殺さず生かせと指示しました。それをあなたは理解していなかった……。あなたは私の指示を守れなかった。まあ、理解したのなら良いでしょう。今後は主人の命令を汲み取りちゃんと理解してくださいね。対峙する相手の変化を観察理解してやり方を変えるそれは大事です。今回は良い勉強になったでしょう。肉体、精神両面を観察して相手により調整が必要な事を理解してくれたことは良かったです。あなたは強者なのです。相手から見れば弄んでいるようにしか感じないでしょう。時には悲しい顔をして相手を思いやることも大事です。今回の失敗は許して上げます」

 エリーは微笑みランディの背中に手を添えた。


「……はい、セレーナ様、理解致しました。配慮に欠けたこと自分の浅はかさを理解致しました……。申し訳ございませんでした」

 ランディは今までの傲慢だった自分の態度に気づきエリーに謝罪した。


 エリーは直ぐに獣人女性カルヤの方を見る。カルヤは2人のやり取りに戸惑った顔をしている。セレーナの容姿のエリーは優しい穏やかな顔をしてカルヤを見つめる。


「怖かたですね。もう大丈夫ですよ」

 エリーは優しくカルヤに声を掛けた。ベッドの上に横になっているカルヤはエリーとランディを見て呟く。

「おふたりはご夫婦なのですか? このような美しい男女を見たことはありません」


「……!?」

 ランディが慌てて否定する。

「セレーナ様と私が! そんな訳があるか!」


「ランディ、嫌なのですか? まあ確かにランディはかなりのイケメンですが、夫にするには役不足ですね」


「……?」

 エリーの言葉にランディが気落ちする。エリーは横になるカルヤの顔に手を添える。

「カルヤさん、あなたは怖い目にあって記憶障害を起こしています。私がそれを今から治療します。体の力を抜いて私に身を委ねてください」

 獣人女性カルヤの全身から力が抜ける。そしてエリーは横にいるランディに声を掛けた。

「カルヤさんの治癒を行います。30分ほど部屋を出て行ってもらえますか」


「……はい、ですが……心の治癒は出来ないと」


「あゝ、申し訳ありません。嘘をつきました。ランディへの戒めです。今回はなんとか出来ますがいつも出来るとは限りませんからね」

 エリーはそう言ってランディに微笑んだ。


「……はい、承知しました」

 ランディは理解した。エリーがわざわざ失態を理解させるために芝居をしてくれたことに、そして、自分は大切に思われていることに。

 ランディは部屋を出て行く、少し感動したような高揚した顔をして。

 

 

 

 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 これからも、どうぞよろしくお願いします。


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