第346話 迫る軍勢10
エリーはハイエルフメルティアから本当の事を打ち明けられる。
2国間和平交渉会議21日目夜。(大陸統一歴1001年11月3日20時頃)
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落、離れの一軒家。
エリー達がこの異世界に来てから30時間以上経過していた。エリーはこの世界の情報を圧倒的量で収集分析する中でアオイから得た情報と現在の現地人エルフや魔族、獣人達から得た情報から文明文化の進展がほぼ無いことに違和感を覚えていた。時間軸が元居た世界とズレていたとしてもコレはあり得ないのでは無いiか、そう考えるエリーだった。
セレーナとデーター共有を行い魔導演算術式を用いて超思考スキルを発動しても明確な解答は導き出せなかった。
(支配層の思惑、もしくはもっと大きな意思の介在……、正直この世界に大きく関わるつもりはないけど……、この世界にもローゼみたいな神が存在するのか? でも思いのままとは行かないのですね)
エリーが考えていると、部屋の奥でベットで横になっていたハイエルフメルティアが視線を向けている事に気づく。
「……パルンディル様、何か?」
エリーがメルティアと視線を合わせて微笑む。
「……いえ、実は……セレーナ様に嘘を……」
「嘘? なんでしょう」
エリーは優しくメルティアに尋ねる。メルティアはベットから起き上がると、エリーに語り出す。
「……私は、メルティア・アーレンと申します。ゴロスネスより送り込まれた者です」
「……メルティア•アーレン?」
エリーはアオイのこの世界の知識の中にあった名前だ。大賢者、大陸王国の宰相だった人物、ローゼに援助を求めたのもメルティアだったはずだった。同姓同名なのかだがハイエルフ自体早々存在しないのに、やはり同一人物かと考えた。そしてエリーはメルティアに尋ねる。
「カルン王国の宰相だった大賢者メルティア様……」
「……は、はい……、セレーナ様はなんでも、ご承知なのですね」
メルティアが少し驚いた表情を浮かべる。エリーはメルティアを眺めて尋ねた。
「それでゴロスネスに送り込まれたとは?」
メルティアはベットに腰掛けるとエリーと目線を合わせた。
「はい、私は長らく別人として囚われておりました。1番弟子であったパルンディルになりすましていたのです。私としては大賢者メルティアが行方知れずならば魔族達に抑止力になると考えたからです」
「ですが、メルティア様がそのまま死亡すれば意味が無いのでは無いですか?」
エリーはメルティアの隣りに座った。
「それはそれで良いと思いました。生死がはっきりしなければ、それなりの効果はあると思ったので」
「……でも、長い間よく我慢できましたね。私なら無理です」
エリーは悲しい顔でメルティアの顔を見た。
「ええ、精神を制御出来るので問題は有りませんでした。それに長寿ですから、機を待てばチャンスは訪れると思っていましたから」
メルティアが答えるとエリーはマジマジとメルティアの顔を見つめる。エリーはハイエルフとは本当に美しいのだと改めて思っていた。推定年齢からするかなりの超高齢。細胞の老化がとてもゆっくりなのか、もしくはなんらかの細胞を活性化する方法があるのか、エリーは考える。メルティアは人間での見た目年齢は20代前半くらいにしか見えない。しかもこの世にものとは思えない美しさ。
メルティアは容姿を変化させて本来の姿を表す。そしてエリーは微笑む。
「……これが本来の姿なのですね。見惚れてしまいます」
エリーがそう言うとメルティアは何故か透き通るような白い顔が赤みを帯びた。
「……な、なにをおっしゃるのですか……セレーナ様の気高きお姿には遠く及びません」
メルティアが戸惑った顔をして慌てたように言った。
エリーは微笑みながら考えていた。このメルティアはポテンシャルはかなり高い今後、色々使えそうだと。メルティアなら女神の洗礼か祝福を与えればかなりのレベルに達する。そうなればこの世界の支配さえ可能になるのではと考えていた。ただ気に掛かるのは、メルティアが長い投獄生活で飼い慣らされ従順になって他者に依存していないか、それが心配だった。まあそれも女神の祝福を与えれば、精神体に神格が形成され問題はなくなるはずだ。
メルティアは緩んだ甘い顔でエリーを見つめている。エリーは思わず見惚れてしまった。
(……やっぱり、美しい……、セレーナも確かに美しいが、それとは違う美しさ……例えるならセレーナは精悍な力強いシャープな美しいさなら、メルティアさんは柔らかいなんとも言えないソフトな美しいさ……)
お互いにしばらく見つめ合いなんとも言えない雰囲気になる。メルティアが先に目を逸らし顔を下げる。
「……セレーナ様は雰囲気が大きく変わられる時があるのですが。……別人のように」
メルティアが自信無さそうに尋ねた。
「……あゝ、またその事はいずれお話し致します」
エリーは今は、セレーナで無くエリーだ。容姿はセレーナだが、精神体意識はエリーが受け持っている。エリーはメルティアに言われて気づくのかと感心した。かつての大賢者は伊達ではないと思った。
メルティアはここに来た事情について話し始めた。包み隠さず洗いざらいだ。エリーはこれが全て真実なのかどうなのか、感応スキルでメルティアを観察してても嘘を言っているようでは無かった。だが、完全に信用する訳にもいかない。大賢者だ、どんなスキルを持っているかわからない。
メルティアはペラペラよく喋る。本当に、自分の持っている情報を感情を交えながら、私が派遣するならこんな諜報員は選ばない。そう思えるレベルだ。私が女神の紋章、女神の洗礼を行い従者に取り込んだのなら理解出来るが、まだ、治癒スキルで魔力を通した状態でこれではどうなのかと思った。お人好しなのか、ちょっとネジが飛んでいるのかと。
だがメルティアからすれば、ただセレーナに心酔し役に立ちたい、気に入られたいの一心だった。エリーに悪印象を持たれているなど思いもしなかった。
かつてメルティアは尊敬や畏敬の念、憧れの対象であり敬われていた。メルティアは頂点であり憧れ対処などいなかった。長年の投獄で弱体化したといえ、自信はあった。だがセレーナに見せつけられた圧倒的力、存在感、戦闘力、治癒力。決定的にメルティアを虜にしたのはセレーナの魔力が体を通った時の感覚だった。今まで味わったことのない幸福感、絶頂感、満たされた心、永遠にこうしていたいそう思える依存中毒性があった。投獄中に魔族達に投与されたどんな媚薬やどんな精神魔力よりメルティアを虜にしたのだ。
メルティアは気づいていた。パルンディルとパルカンの息子ギリドバから打ち明けられて真実を聞いた時、嫉妬していた。自分が耐え凌いでいるのにパルンディルは魔族のパルカンと恋仲になり子供まで作っていた。自分はただ高潔で思慮深い大賢者を演じていただけで、自己犠牲に酔いしれていただけだと、そしてセレーナの体を流れる魔力を感じた時、自分はなんと傲慢な時を過ごして来たのかと悟った。身を委ねるとこんなに気持ち良く、心地が良い。長い投獄生活で知らぬ間に弱った精神も満たされたのだった。メルティアは絶対に女神セレーナの心を欲しいと思った。
「……メルティア様、もうお休みになられた方がよろしいですね」
エリーが恍惚とした表情のメルティアに声をかけたら。メルティアはハット我に返る。
「……セレーナ様……私は……この巡り合わせに感謝致します。どうか、わたくしを見捨てないでください」
メルティアは弱々しくエリーの左手を掴み言った。
「ええ、大丈夫です。私は一度助けたら見捨てたりしません。安心してお休みください」
エリーはメルティアの手を優しく剥がすとベットから立ち上がる。
「では、明日、念のためシエルを来させますから」
エリーがドアから出て行くとメルティアは直ぐに横になった。メルティアは高揚感で満たされ心臓の高鳴りを感じる。かつてのメルティアなら精神体と意識を分離して客観的に自分を冷静に見れていただろう。だが今は、分離せずその感情の赴くままにそれを楽しみ興奮していた。それは初恋にトキメク乙女のようだった。
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