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第342話 迫る軍勢6

エリーはメルティアを助けた。

 2国間和平交渉会議21日目早朝。(大陸統一歴1001年11月3日6時頃)


 ここは異世界、エルフ集落から東へ10キロほど離れた森林地帯上空。


 ワイバーンアニーは集落へ向けて飛行していた。背にはガロン、エリー、エリーに抱えられた女性ハイエルフ。


 女性ハイエルフはエリーの治癒で体のダメージは治癒したが、意識は醒めなかった。エリーはそのまま自分の着ていたローブで女性ハイエルフを包み集落へ帰っていたのである。


 女性ハイエルフの瞼が微かに動き、体をバタつかせる。エリーは慌ててそれを抑えた。


「気がついたのですね」

 エリーは優しく女性ハイエルフに声を掛けた。女性ハイエルフは目の前のセレーナの容姿のエリーを見て強張った表情をする。


「……あっ! ここは?」

 女性ハイエルフが声を上げる。エリーは女性ハイエルフの体をしっかり抱き止めて答える。


「……あなたが危なかったので、助けたのですが、勝手ながら治癒もさせて頂きました」


 女性ハイエルフメルティアはハット気づいた。先ほどまで全身が耐えられないほどの痛みを発していた事を、だが、今はそれは嘘のように感じない。そしてエリーの顔を見る。

(人種族? 魔族? 私の体を瞬時に癒すなんて、高位の魔法士Sランク相当なの……)


 女性ハイエルフメルティアは動揺した顔で、間近のエリーの顔を見つめる。


「あゝ、私はセレーナと申します。これも何かの縁です。どうぞよろしくお願いしますね」


「……!? はい、私は……」

 女性ハイエルフメルティアは一瞬迷って答える。


「申し遅れました。パルンディルと申します。セレーナ様、よろしくお願い致します」

 エリーは微笑み、女性ハイエルフメルティアを見つめて言う。


「パルンディル様ですね。パルンディル様はハイエルフですよね。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 エリーの言葉に女性ハイエルフメルティアは目を細める。


「……いえ、ハイエルフは世にいないはずですよね。いたとしても魔族に管理されていて自由は無い状態です。だからパルンディル様はどこから来られたのですか?」


 女性ハイエルフメルティアは目を逸らしてエリーに答える。

「……はい、おっしゃる通りです。私はゴロスネスの地下牢獄から……脱走して来たのです」


 エリーは女性ハイエルフメルティアの反応から少し怪訝そうな顔をする。

「そうですか。それは大変でしたね」

 エリーは直ぐに女性ハイエルフメルティアを疑う。魔族の厳重な何重にも防護障壁を巡られた地下牢獄をこの女性ハイエルフは脱走出来るものだろうかと。手引きした協力者が例えいたとしても、この女性ハイエルフが例え高位の魔法士だったとしても、治癒した時に魔力を通して弱体化した能力にも気づいていた。


(……このハイエルフは嘘をついている。魔族の手先なのでしょか? しかし、森での戦闘を見るとそんなことも無いのでしょか? 現に私が助けなかったら、魔物の餌になっていた。まあ、観察は必要ですね)


 エリーは女性ハイエルフメルティアを抱えながら間近のメルティアの瞳を見つめる。メルティアはエリーの赤い透き通る瞳に動揺したように視線を逸らした。そして女性ハイエルフメルティアは気づいた空を飛んでいる事を。


(……えっ! これは? ドラゴン!)

 空を飛ぶ両翼の大きさ、赤褐色の体、そして推定6mは優に超えるだろう巨体。驚くことに風圧や息苦しさも感じない。このドラゴンは上位竜で魔法スキルで騎乗者を保護している。そしてこの銀髪の美女は主人であろうと。このような伝説級の上位竜を従えさせる者とは、女性ハイエルフメルティアの思考はフル回転する。そして導き出した回答は。

(……魔王? もしくはそれに準ずる配下の者?)


 女性ハイエルフメルティアの体に震えが走る。そしていいしれぬ恐怖心が心の底から湧いて来る。一瞬で癒すことの出来る圧倒的な治癒スキル、そして上位竜を従えさせるほどの強力な魔力、かつてのメルティアでさえ持ち得なかった力、それを私を抱えている銀髪の美しい女性は持っている。事象については、ある程度の情報はギリドバから得ていたが、戦力、魔王の正体については全く不明だった。


「……あ、の、セレーナ様……、私はこれからどうなるのでしょう?」

 エリーは女性ハイエルフメルティアを見つめる。メルティアの不安そうな顔を見て察したように答えた。


「パルンディル様、大丈夫ですよ。国に突き出したりはしませんよ。エルフの村で保護しますので安心してください。パルンディル様は心身共に疲労が見られます。ですから、回復が優先ですね」


 ワイバーンアニーが速度を落として高度を下げる。眼下に集落が見えると体の向きを変え羽ばたき一気に着地した。直ぐに集落の広場にエルフ達が集まり深く頭を下げて敬意をしました。

 エリーは浮遊スキルを発動、女性ハイエルフメルティアを抱えて地面にゆっくり着地した。


「セレーナ様、ご無事でなによりです。朝食の準備をしております。ひと段落つきましたら、お運び致します」

 集落の長アルタスが駆け寄りエリーに言った。エリーは丁寧に一礼して微笑む。


「アルタス、ありがとう。この人を手当てしてから、また声を掛けます」


 集落の長アルタスはローブに包まれた女性ハイエルフメルティアを見て驚く。

「……これは、どこぞの生き残り」


 エリーは頷きアルタスに答える。

「……また、あとで説明しますから」


「はい、セレーナ様、出過ぎた真似を」

 集落の長アルタスは深く頭を下げて謝罪した。エリーは頷き、集落のエリーの居住する離れの一軒家へと歩き出した。エリーが移動するとエルフ達はエリーが通り過ぎるまでその場で止まり頭を下げたまま動かない。

 女性ハイエルフメルティアはその光景を見て驚く、そしてエルフ達の感情気配を読み取った。

(……これは、畏敬、敬愛……住民達は決して力で支配されいる訳では無い)


 女性ハイエルフメルティアは、抱き抱えて運ぶ銀髪の美しい女性セレーナを見つめる。視線に気づいたエリーが微笑み返すとメルティアは戸惑った顔をする。


「……大丈夫、心配しなくても」

 エリーは離れの一軒家の前に着くとメルティアを地面に下ろして体を支える。そしてドアを開けた。家の中ではシエルが待っていた。


「セレーナ様、お帰りなさいませ!」

 シエルが頭深く下げて一礼した。体を支えられる女性ハイエルフメルティアはシエルを見て困惑する。シエルがメルティアに明らかに敵意を向けているからだ。


「……そのエルフが助けた者ですか?」

 シエルは不機嫌にエリーに尋ねる。エリーは頷きメルティアを再び抱き抱えてベットに移動した。メルティアをベットに仰向けに寝かせてからシエルを見て言う。


「シエル! 下着と衣服を取って来てもらえませんか。パルンディル様、ゴブリンに全部奪われたんで全裸なんですよ。だから急いでお願いします」


 不満そうな顔をするシエルを見て、エリーは近寄り声を掛ける。

「シエル……お願い、頼りにしているから」

 シエルはエリーの瞳を見つめて寂しい顔をした。エリーはシエルの肩に手を添えて軽く手を動かす。

「……はい、申し訳有りません。不遜な態度を取りました。少し悲しかっただけです」


 シエルは一礼して一軒家から出て行った。そして女性ハイエルフメルティアは自分が着ているローブをめくりその下を改めて確認した。確かに下着や衣類の感触は無かった。メルティアはショックを受ける。もし、セレーナが助けてくれなかったら自分はゴブリン達の慰みものになっていたのだと、体はまだ自由に動かないがベットの上で首を回してエリーの方を見る。


「セレーナ様! 本当に感謝致します。もし、セレーナ様が助けてくださらなかったと思うと……今頃、ゴブリンの巣窟で恥辱を……」


 エリーはメルティアに近づきメルティアの顔に優しく手を添える。

「パルンディル様、気にしないでください。それより回復を致しましょう」


 エリーは魔力量を上げ解放し白い光に包まれた。そして右手でメルティアの体に触れる。


「パルンディル様が高位な魔法士であることは承知しています。本来なら今日の相手程度なら苦戦を強いられることも無いと、原因は長い投獄生活であるのですよね。直ぐには体に負担が掛かるので元通りとはいきませんが。徐々になら改善が可能です。では始めますね」


 エリーは優しく言うと魔力をメルティアの体内に通して循環させていく。メルティアはなんとも言えない幸福感に包まれか美しい顔が緩み恍惚の表情を浮かべる。メルティアは今まで味わったことにない心地良く、暖かいホワホワとした満たされた気分になる。もうこれ以上望むもの無い満たされた気分、これがあればもう何も要らないそんな気持ちだった。メルティアは甘い声でエリーに甘えるように尋ねる。


「……せ、せ、セレーナ……様……あ、あなた様、は」

 メルティアは上手く言葉が出せない。そしてセレーナの声が頭ので聞こえる。

(……えっ! セレーナ様!)


(念話です。どうしたにですか?)


(セレーナ様は、一体何者なのですか? 以上に高い魔力量、圧倒的魔力操作技量、魔族なのですか?)


(……、天空より降りた女神です。ここのエルフ達の願いに応えて降りて来ました)

 セレーナがそう答えると、メルティアはしばらく沈黙する。


(……神と……おしゃるのですね。私は昔、大陸に実在した白竜、竜の化身を存じております。ですが、地上へ降りて民と行動などあり得ないことでした。……神が地上に降りて来られる。そんなことが……)

 メルティアは自身の精神体がセレーナの魔力治癒スキルにより、どんどん気持ち良くなり思考が停止、もうセレーナが誰だろうと関係無くなっていた。だだ、セレーナから与えられる治癒魔力が体と精神を満たして、これ以上ない幸福感と満足感に満たされて、これが永遠に続けば良いと思い始める。メルティアの口が緩みヨダレが垂れ始めた。

 エリーはそれを見て魔力を通すのをやめた。


「パルンディル様! 大丈夫ですか?」

 エリーは肩を軽く揺する。メルティアはゆっくり顔をエリーに向けて辿々しく口を開く。


「せ、せ、セレーナ……さ、ま、きもち、よ、す……」

 そう言ってメルティアは意識を失った。


「……! 思ったより、魔力耐性が低かったようです。次回はもっと抑えないと」

 エリーはメルティアの頭に手を当て、しばらく考える。


(……やめときますか。下手して精神体壊したらマズイものね)

 エリーは一瞬メルティアの記憶領域を読み取ろうとしたが考え直して頭から手を離した。


 

 

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます! これからも、どうぞよろしくお願いします。

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