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第336話 ワイバーン騎兵連隊

精鋭部隊であるゴロスネス駐屯ワイバーン魔導騎兵連隊は意気揚々とエルフ集落を目指す。

 2国間和平交渉会議20日目夕方。(大陸統一歴1001年11月2日17時頃)


 ローゼの隠し砦から東へ30キロほど離れた上空500m。ゴロスネス駐屯ワイバーン魔導騎兵連隊長ヤルクはいつもと変わらず任務を遂行していた。ひとつのエルフ集落を攻撃するには過剰な戦力、油断していたとしても失敗などあり得ない。エルフ集落など1個小隊でも十分殲滅出来る連隊長ヤルクは思っていた。情報担当官ギリドバからの指示はエルフ集落を跡形もなくを完全殲滅せよと言うものだった。


 ワイバーン魔導騎兵連隊50騎を持ってすれば一撃で達成出来る簡単な任務そのはずだった。連隊長ヤルクの部隊とは別指揮系統の別動隊ガロン偵察魔導騎兵隊が行方不明になったと情報が入っていたが特に気にしていなかった。ヤルク魔導騎兵連隊はこの周辺では対抗手段のない圧倒的航空戦力、相手を蹂躙するだけの暴力装置と認識していたのである。現に、この戦力を持ってすれば小さな城塞都市であれば単独で攻め落とせる攻撃力を持っていたのである。ワイバーン魔導騎兵隊は10騎が横並びの5段で一定間隔を取り優雅に編隊飛行していた。

 

 連隊長ヤルクは、魔導通信機のスイッチを入れると指示を出す。

「これより、目標殲滅行動開始する。1番中隊射程内入り次第、火炎弾一斉射! 各隊続き斉射せよ! 以上だ!」


 5番中隊長から魔導通信が入る。

「ヤルク連隊長! そこまでやるのですか? 骨も残りませよ。一体そこには何があるのですか?」


「詳しいことは知らない。ただ、全戦力を持って殲滅せよとの指示だ。だから指示通り命令を遂行するのみ。指示通り全火力を持って殲滅せよ」

 連隊長ヤルクは実際、詳細な情報は知らなかった。もし魔王級、もしくは強力な敵が存在するとの情報を得いれば対応は変わったかもしれないが、連隊長ヤルクは通常通りの作戦攻撃を遂行しようとしていた。


 視界は良好、青空が広がり雲は遥か彼方にしか見えない、眼下には広大な森林が広がり問題は何もなかった。突然、編隊最前列、横に並び展開していた第1中隊10騎のワイバーン直下で爆発が発生する。上空から光の矢のようなものが次々とワイバーンに命中白い光をともなって爆散させた。無惨に飛散して失速墜落して行くワイバーンと騎乗の騎兵隊騎士達。

 連隊長ヤルクには何が起こっているのか理解できなかった。そして2列目の第2中隊が同じように光の矢を浴びて爆散墜落する。瞬く間に20騎のワイバーンがなす術なく撃墜された。

 気が動転した連隊長ヤルクは魔導通信機を使い叫び連呼する。


「散開! 散開! 敵襲! 敵襲!」


 連隊長ヤルクが指示を出す間もなく最後尾の第5中隊10騎が各々に離脱回避を行うが、光の矢のようなものはそれぞれを追尾してワイバーンに命中爆散する。ほんの10秒ほどでヤルク連隊は半数以上のワイバーンを失った。編隊の中盤にいた連隊長ヤルクはこの危機的状況に思考が追いつかない。隣りに飛んでいる副長シーダがワイバーンをまじかに寄せて何かを叫んでいる。連隊長ヤルクは反射的に騎乗ワイバーンを森林へ急降下させた。後ろを振り返ると紫色の50cmほどの球体が追いかけて来ている。


「なんなんだあーーあ! 魔力反応もない! この得体の知れないものは!」


 連隊長ヤルクは必死に振り切ろうとワイバーンを森林のギリギリでジグザグ飛行旋回するが、どんどん距離を詰められる。次の瞬間〈バキ、バッキ、バーーン〉連隊長ヤルクの視界が目まぐるしく変わる。低空を飛び過ぎた連隊長ヤルクのワイバーンは木に接触、その衝撃で森の中に突っ込んだのだった。連隊長ヤルク騎乗のワイバーンが木の間に挟まり、首があり得ない方向に曲がり断末魔の叫びを上げている。10年来の相棒ワイバーン、数々の戦勝を挙げてきた頼もしい相棒だった。それが今、目の前で瀕死の状態になっている。


「……あ、あ、ありえない……」


 連隊長ヤルクは2連装魔導銃に手を掛ける。あまりの状況に涙さえ出ない。慌てて倒れた木々の間から上空を見上げた。そして、上空をゆっくりと通過する1騎のワイバーン。


「……残ったのか?」


 連隊長ヤルクがそう思った瞬間、それは違うとすぐに気づいた。赤褐色の体、そして通常のワイバーンより二回りほど大きい巨体。ドラゴンかと見紛う威圧感。異質だった。旋回すると2人が騎乗しているとわかった。後ろに乗るロングヘアの女性が髪をたなびかせながら紫色の光を纏っている。そして、その女性の周りに先ほど追撃を受けた紫色の球体が無数に集まり飛んでいたのである。


「……一体!?」

 そして上空を見上げる連隊長ヤルクには、その女性が自分の部隊を全滅させた原因だと認識した。一気に湧き上がる恐怖心、連隊長ヤルクの体がガタガタと震え出す。頭では逃げなくてはいけないと思うのだが、体が震えて動かない。


◆◇◆


 時間は少し戻る。エリーはガロンと共にワイバーンアニーに騎乗して、こちらに向かっているゴロスネス駐屯ワイバーン魔導騎兵連隊50騎のサイドを大きく迂回して後方へ着こうとしていた。

 エリーは隠蔽スキルでワイバーンアニーの存在を隠し、気づかれる事なく後方へ回り込むことが出来た。ワイバーンアニーの飛行能力は通常のワイバーンを大きく上回り時速300kmに到達していた。エリーは周辺に魔力障壁を展開、空気圧と空気濃度を調整することで難なく飛行出来たのである。これにはガロンも驚いていた。

「さすがセレーナ様、この速度にも驚きましたが、これほど快適とは……」


 ガロンによれば高高度飛行する場合や、高速飛行する場合は通常、ゴーグルおよび空気ボンベ、空気マスクが必須装備だそうだ。エリーは魔力で空気を圧縮して障壁に蓄えることで難なく解決している。エリーが気になっていたのは撃墜された場合の脱出装置だった。それは腰に巻かれた布を広げて拡張、空中滑空が可能で地上に激突することはないとのこと。この布には浮遊の魔法術式が付与されていて広げた瞬間に発動するらしい。エリーはパラシュートのようなものだと理解した。


「……ガロン、仕掛けます!」

 エリーは前でワイバーンアニーを操っているガロンに声を掛けた。


「はい、セレーナ様! 承知!」

 ガロンが短く答えると、ワイバーンアニーが低空から一気に上昇する。すでにエリーの紫色の魔力球体20個はワイバーン騎兵連隊50騎の上空1000mで配置されていた。


「では、行きます!」

 セレーナの容姿のエリーが声を発すると、20個の球体は一気に目標に向かって降下、白い閃光を放った。そして綺麗に編隊を組んでいたワイバーン騎兵50騎の隊列が瞬時に乱れる。


 至るところで爆発と閃光が走る。無惨に失速して墜落するワイバーンと騎兵達、脱出装置を使う暇もないのだろう騎兵達は投げ出され森林の中へ自由落下で落ちて行く。あれでは助からないだろうとエリーは思った。

 爆散するワイバーンの肉片がパラパラと粉々に飛散して森へ落ちていった。エリーはこれは調整が必要と紫色の球体発射エネルギー体のエネルギーレベルを下方修正した。だが、調整する間もなくゴロスネス駐屯ワイバーン魔導騎兵連隊50騎は空中から姿を消した。1分掛からず全騎撃破である。


 ワイバーンアニーの背に乗るガロンは驚きと敬意を持って、背後に乗る銀髪の女性エリーに声を掛ける。

「……さすがです。セレーナ様! つくづく思います。セレーナ様の従者になれたことを幸運と……、それで、ワイバーンは全て落としました。生き残っている騎兵はいかがなさいますか?」


 ワイバーンアニーは撃破したワイバーン騎兵隊達の上空をゆっくりと旋回して地上の様子を確認している。ワイバーンアニーの知性は通常の人間と同等レベルとなっており指示を与えなくても自ら判断して行動出来る。念話でワイバーンアニーがエリーに尋ねて来た。

《いかが致しますか? 始末ならお任せを!》


(アニー、脅威じゃないから良いです。それにまともに動ける者もいないようだし。ワイバーンさえ片付ければいいでしょう。これで帰ります。ご苦労様でした)


《はい、セレーナ様がそうおっしゃるのなら従います。セレーナ様に手を出そうとした不届者ですから、死を持って償わせるべきと思ったのです。主様が慈悲深いお方だと認識致しました》

 アニーの念話を聞いてエリーは微笑み頷く。


「では、とりあえず帰りましょう!」


 エリーが声を上げると、ワイバーンアニーは反転してエルフ集落へと引き返した。


 そして、無残なワイバーンの散らばる森では震えるワイバーン騎兵連隊長ヤルクの姿があった。


 


 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

 

 これからも、どうぞよろしくお願いします。

 エリーは異世界にて魔王となるのでしょうか?


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