第335話 魔王復活の噂
エリーは作戦を練る
2国間和平交渉会議20日目夕方。(大陸統一歴1001年11月2日17時頃)
ローゼの隠し砦から100キロほど離れた都市ゴロスネス。
都市の中心にある一際高い位置にある監督統制部の 置かれている8階建ての建物内。
最上階のガラス張りの部屋からは城塞都市の街並みが一望出来る。大陸西地区首席担当官、ベリアスは情報担当官ギリドバから報告を受けた内容について、魔導国最高顧問官ドリキスへ報告を魔導映像回線にて行っていた。魔王復活が事実なら一刻の猶予もなく対策を行わなければならないからだ。映像越しの最高顧問官ドリキスには緊張感は無い。裏腹に西地区首席担当官ベリアスは緊張した面持ちで報告を行い対策を進言していた。
『ベリアス、もう少し調査が進展してから報告してくれないか。これでは皇帝陛下の報告は出来ない。現状では魔王復活とは断言出来ない。初期報告では大賢者とのことで増援を求めたと聞いているが……。なぜ話が、急に魔王復活まで飛躍した? 私には理解し難い。確かに危機意識を持つのは良いが、魔王復活などと騒ぎ立てるのは、君の今後のためにならんと思うぞ』
ベリアスは目の前に魔導通信画像に映写される魔導国最高顧問官ドリキスを見据える。
「決して大袈裟なことを申し上げている訳では……、現状の事象を考慮した結果を申し上げているだけです。早急に手を打てば被害は最小限に抑えることが出来るのです。精鋭部隊の派遣を要請致します。速やかなご判断を」
魔導通信画像の魔導国最高顧問官ドリキスは呆れた面持ちで言う。
『ベリアス、先ずは確証を得よ。話はそれからだ。とりあえず申請にあった増援は送ろう。以上だ。進展があれば報告せよ。現状では10衆徒など出撃はさせれん』
魔導通信画像が消えた。ベリアスは強張った顔で魔導通信機の受話器を取る。
「ギリドバ! 至急きてくれ」
ベリアスは受話器を戻すと、テーブルを右手で叩いておさまらぬ感情を露わにした。
「もはや、厄災でしかない、魔王など! どうしてここに現れた! クッソ! ついてない!」
直ぐに部屋のドアがノックされた。ベリアスは機嫌の悪い声で返事する。
「入れ!」
ドアが開き情報担当官ギリドバが入室して一礼する。
「ベリアス様、派遣は聞き入れられなかったのですか?」
ギリドバはベリアスの表情を見て尋ねた。
「……あゝ、中央は情報が足りんと……、そう言うことだ。とりあえずは、我々で対処しなければならん。間違いである事を祈るしかないな」
ベリアスはギリドバを見て悲しい顔をした。
「ギリドバ、こちらの兵力全力を持って行う。都市の兵全てに通達を頼む。先発隊2000と準備が整い次第、後続隊2000も出す。ワイバーン騎兵隊50騎は先行してエルフの集落に攻撃を仕掛けるよう指示を頼む」
「……都市防衛は心許無いですが、よろしいので?」
ギリドバが念のため聞き返す。
「あゝ、周辺からの増援が来る。いつ到着するかわからんが……、魔王を優先しなければならない。魔王が復活しているのならこの戦力でも足りないくらいだよ。実際のところ、ここの戦力全てを投入したいが、治安維持もある。妥協したつもりだ」
「はい、承知しました。早速、各隊に指示致します。部隊の割り振りは私の判断でよろしいにですね」
ギリドバはベリアスに確認した。ベリアスは右手を挙げてギリドバを見る。
「あゝ、貴官が1番理解しているであろう。任せる」
「はい、では準備致します」
ギリドバはベリアスに一礼すると部屋から出て行った。
◆◇◆
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落。
エリー達は、ゴブリン討伐後集落に帰って来ていた。今、集落の代表者数名と集まり今後について話し合いを行なっている。とりあえずの大きな問題はゴロスネスのワイバーン騎兵隊を撃退したことだった。エリーはガロン隊長と騎乗ワイバーンを集落に連れて帰っていた。
帰投時、ワイバーンがエルフ集落へ降下して来る時はエルフ達が驚き、逃げ回って大変だった。事前連絡をしなかったエリー達の不手際であったが、事情を説明してとりあえずは集落は落ち着きを取り戻したが、問題はこの集落への攻撃が予想されることだった。当然タダでは済むはずがない。それが全員一致の結論だった。
エルフ集落の長アルタスがエリーに決意を表明する。
「もはや、我らの命は、セレーナ様に預けております。いかような決定をされようが従います。遅かれ早かれ私達はゴブリンによって死に絶える運命だったのです。セレーナ様が戦うと申されればそれに従い、死ねと申されれば、我々は私を選びましょう」
「……あゝ、承知しました。心配せずとも、私がなんとかします。みなさんは私の指示通りにお願いしますね」
エリーはそう言ってエルフの代表達に微笑む。エルフ達には集落の外へはでないよう指示を出している。そして女神の紋章を刻み、従属の契約を結んだガロンは従順な部下のひとりとなりこちら側の戦力となった。ガロン騎乗のワイバーンもセレーナの女神の紋章を刻み、能力向上を図っている。灰褐色の肌の色は赤みを帯び赤褐色に変わり体長が1.3倍ほどに巨大化した。魔力耐性、魔力量も上がり、口から放射する魔導火炎弾の威力は約3倍に向上、飛行速度も1.5倍に、そして人間と同程度の知能向上により念話による会話が行える。この世界ではセレーナの魔力スキルはとんでもなく効果が向上している。そのため魔力攻撃等、いつも通り使用するととんでもない事になるのである。エリーはワイバーンには名付けを行い、メスだったのでアニーと名付けた。
ワイバーン、アニーは嬉しそうにエリーに首を曲げて頬擦りする。エリーが頭を撫でるとさらに嬉しいそうな表情をした。それを見てガロンはエリーに畏敬の念を抱いた。もはやガロンの中には新しい主人であるエリー(セレーナ)しか見えていなかった。
「……!?」
エリーがはっとして東の空を見つめる。周辺に警戒用に配置している遠視眼に反応があったのである。ワイバーン魔導騎兵隊その数50騎。
エリーの意識が深層から上がって来て、セレーナに問いかける。
(セレーナ……50騎大丈夫なの? さっきは高度が低くて簡単だったけど、今度は離れているからどうするの?)
(エリー、大丈夫。手はある。まあ、安心して見ておけ)
セレーナはエリーの意識に応えて、魔力量を上げる。エリーの体が紫色の光に包まれた。
シエルが気づいて慌ててエリーに近寄る。
「セレーナ様! 何かあったのですか?」
「ええ、シエル、ワイバーンの集団が接近中です。目的地はここのようなので対処を」
シエルはエリーに近づこうとするが、ワイバーンのアニーがいるので一瞬ギョッとした顔して距離を置く。
「あと20分くらいで攻撃範囲なので、それまでに処理します」
そう言って、エリーは魔力を圧縮した紫色の光の球を大量に構築して周囲に浮かせる。
「セレーナ様、これは一体?」
シエルとガロンが驚いた顔をして尋ねた。
「あゝ、これは、遠隔攻撃ポッドみたいなものです。ある程度自動化も出来る優れものです。遠視眼で得た情報を認識させて攻撃目標として追尾させる事も可能です」
エリーは50cmほどの大きさの紫色の球体を20個ほど生成すると10mほど浮かせて待機させた。
「ガロン、行きますよ。アニーに乗ってください。先手を打ちます」
エリーは簡易のベルトを腰に巻き付けるとワイバーンアニーの固定紐に結び込む。慌ててガロンがワイバーンの固定乗騎の鞍へ跨り、エリーをアニーの背に引き上げた。
「シエル、それじゃ、時間もないので行ってきます。集落はお願いします。地上からの襲撃もあるかもですから」
エリーがそう言うまもなく、ワイバーンアニーはガロンの手綱捌きに従いはばたくと直ぐ上昇した。
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