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第333話 ゴブリンの洞窟

エリー達はゴブリン洞窟に突入した

 2国間和平交渉会議20日目昼。(大陸統一歴1001年11月2日13時頃)


 ここは異世界、ローゼの隠し砦から20キロほど離れた森林地帯。

 エリー達3人は、ゴブリンの巣の前で潜んでいた。内部の状況を確認をして連れ去られたエルフ達を救出するためだ。エルフ達の救出の必要がなければとっくにエリー達は突入して緑色の魔物ゴブリンを殲滅している。

 エリーは感知スキルで洞窟内部を探る。洞窟は深く構築されており、手前に居住警備担当のスペースがある。人間に近い知恵を持ち組織だっているようだ。ただ個体能力はそれほどでもないとエリーは判断する。一部に能力の高い戦士級、魔道士級も混ざっているが、エリーには脅威では無かった。ただ、囚われたエルフ達を無事に救出出来るかそれだけだ。


 洞窟の前の森に身を潜めるエリー達は、突入タイミングを図っていた。

「シエル、一気に行きます。私が先頭で間にステンを挟みあなたが後ろで」

 エリーがシエルに指示すると、シエルは難色を示した。


「セレーナ様、それは奥に到達するまでに、私達は置き去りで、狭い洞窟内で袋叩きになります」


 エリーはシエルの肩に手を添えて瞳を見つめる。

「洞窟の側面道は潰すから、安心して。エルフ達はまだ生きている。だから急いで奥の監禁場所は抑える。それが最も優先されることなの。それにステンだってそこそこやれるから」


「……はい、承知致しました」

 シエルは諦めたように返事を返した。討伐隊リーダーステンは緊張した面持ちで2人の会話を聞いている。討伐隊リーダーステンはこれからゴブリンの巣窟に突入すると思うと緊張は抑えきれない。美形の顔が悲壮感に包まれ死人のように生気が失われていく。


「……ステンどうしましたか? 不安でたまらないようですね」

 エリーはそう言って討伐隊リーダーステンの肩に触れ魔力を通した。ほのかな光がステンを包み込み表情が穏やかになる。


「セレーナ……様! 闘志がみなぎって参りました!」

 討伐隊リーダーステンの雰囲気が別人のように変わった。自信に満ち溢れ、歴戦の戦士のような面持ち。シエルがステンの変化に気づいて尋ねる。


「セレーナ様、何を?」


「感情制御スキルです。自信を与えて能力制限を解除しただけです。ただ効果は10分ほどですが、十分です。ステンは元々ポテンシャルは高い者です。活躍してくれるでしょう」

 エリーは微笑み答えるとホルダーから電撃棒を取り出し先端を伸ばした。


「準備は……、よいですね。では、行きますよ」

 エリーは隣に控えるシエルと討伐隊リーダーステンの顔見て頷いた。


「はい、いつでも」

 シエルが答える。そしてエリーは魔力量を増大させて木陰から飛び出すと電撃棒を振り下ろす。50m先にいた20体ほどのゴブリンが電撃を浴びて一瞬で黒焦げ炭化した。

 エリーが一気に駆け出すと遅れないようシエルと討伐隊ステンが慌てて飛び出し追随する。


 洞窟入口付近にいたゴブリンは一瞬にして倒された。そして襲撃に慌てて入口に出て来るゴブリン達はエリーの電撃斬撃により次々と倒される。たまらずゴブリン達は洞窟の奥へ撤退を始めた。エリーは2人に視線を送ると白い光を纏い洞窟に突入する。洞窟の内部は本道より枝分かれした枝道があるが、エリーは感知スキルに従い本道を進む。エリーは枝道があるたびに強烈な電撃斬撃を放ち、枝道のゴブリン達を潰していた。

 そしてエリーは洞窟の最深部へ到達手前で止まった。

「魔力結界……、この世界で初めてです。このような抵抗を受けたのは!」

 エリーが嬉しそうに笑みを浮かべた。魔力結界の奥に魔導着を着込んだゴブリン魔道士達がエリーを見据え対峙している。


「多少、他のゴブリンよりは、価値がありそうですね。確保してしもべにしますか」

 エリーは、そのまま前に出てゴブリン魔道士達が構築した魔力結界を簡単に破壊する。そして魅了スキルを発動、周辺に充満させた。

 ゴブリン魔道士達は抵抗せず、そのままだらけて動かなくなり、口から大量のヨダレ垂らし緩んだ顔になった。そしてエリーはゴブリン魔道士達の間を通り奥に進む。


 洞窟最奥部付近には、両側が拡張され柵がはられていた。そして連れ去られたエルフ達が確認出来た。数人の女性エルフは衣服を身につけていなかった。

 エリーはすぐさま電撃棒を振い、周辺にいたゴブリン10体ほどをあっという間に片付けた。エリーは周囲を確認して電撃棒を収縮するとローブの下のホルダーへ仕舞い込んだ。


「シエル! 大丈夫です!」

 エリーが声を上げると、シエルと討伐隊リーダーステンが後ろから直ぐに安心した顔をしてやって来た。


「セレーナ様、さすがです! 言葉も有りません」

 シエルは感嘆の声を上げる。エリーは柵を監禁用の木製の柵を手刀で破壊する。縄で手足を拘束されたエルフ達の様子を直ぐに確認する。暴行を受け衰弱しているが、命の危険がある者はいなかった。ひとまずエリーは安心したように言う。


「とりあえず、大丈夫のようです。ステン、これで全員ですか?」

 エリーが尋ねると、討伐隊リーダーステンは慌ててエルフ達を確認する。


「……は、はい、3名ほど私達の集落で無い者がいますが……、全員確認出来ました」


 この国ではエルフ達の移動範囲は法律により厳しく制限されている。他集落との交流も許可を得なければならない。許可を得ず勝手に他集落と接触を行えば、厳罰に処せられる。過去に密かに交流を行おうとし、その者は厳罰とされ、つまり死罪に処せられ見せしめとされた。魔族統制下で徹底的にエルフは締め付けられ弱体化されていたのである。ただ、エルフ達を死滅させず残しているのには何かしらの理由があるのだろうが、エリーには理由はわからなかった。


「ゴブリンには自由が有って、エルフには自由がないなんて……、まさか!? 家畜……」

 エリーは呟きこの考えに至った。しかし、それだけだったら、エルフを生かして置く理由は弱い。他にもあるはずだと考える。しかし思いつかない。急にランディから伝心念話が入る。


《イバラキさんが意識を回復しました。フレッドさんはまだですが……。いつ頃戻られますか?》


〈帰れるのは夕方くらいだと思う……、こちらの要件が終わってからまた連絡します〉


《はい、承知しました。こちらは問題は有りませんので、要件を片付けてください》

 ランディからの伝心念話が切れた。エリーはシエルと討伐隊リーダーステンを見て指示を出す。


「それでは、急いで運び出しましょう!」


「……はい、ですが、全員を運ぶのは無理かと」

 シエルが少し困った顔をする。エリーは洗脳スキルを発動、生かしておいたゴブリン魔道士達10体に命じた。

「命ずる! この者達を入口まで運べ!」


 ゴブリン魔道士達は杖を振い、エリーに命じられ魔法を展開してエルフ達を1mほど浮遊させると、洞窟出口に向かって進み始めた。


「……あゝ、それでこの者達を残したのですね」

 シエルが理解したように言った。エリーは頷き微笑む。


「利用出来るものは、敵だろうと利用する。そうでしょう。この魔道士達からこの世界の魔法技術も手に入れることが出来たのは幸いでした。ゴブリンといえど侮れませんよ」


 エリーはそう言いながら、裸の女性エルフに布を広げて羽織らせると両手で抱えて持ち上げる。

(洞窟上空に不穏な飛行体……?)

 エリーは警戒のため周囲に遠視眼を展開していた。エリーは遠視眼を操り、飛行体を確認する。

(エルフの記憶領域情報によると、魔族のワイバーン飛行騎士……、5騎確認。戦闘能力はどのくらいあるのか、今の情報では不足してわからない。ゴブリン魔道士の記憶領域内にも情報が無い)


 エリーは前を歩いているシエルに声を上げる。

「洞窟出口にワイバーンがいます! とりあえず出口前で待機警戒!」


「……ワイバーン!? 一体? はい、了解しました!」

 シエルが振り返り戸惑った顔をする。エリーは気にせず、全員を一気に追い越し前に出ると洞窟出口を目指した。


 ◆◇◆


 統制都市ゴロスネスから先発出撃したワイバーン騎士隊は、魔導反応を感知してゴブリン洞窟上空を旋回していた。


「ガロン隊長! 下方洞窟! 魔導反応強! 間違いなくここにいます」

 ワイバーン魔導騎士隊副官が魔導通信でガロン隊長へ呼びかけた。ガロン隊長騎乗のワイバーンは羽ばたき上空でホバーリングする。


「あゝ、間違いない。ここだな。だがこの魔導反応は……何か異質……? 賢者の使う魔力と言うより……、いや、まず確認だ」


 ガロン隊長騎乗のワイバーンが降下してゴブリン洞窟の入口前に着地した。残りのワイバーンは上空で旋回待機している。

(何か……、嫌な感じがするが……、気のせいか)


 ワイバーン魔導騎士隊ガロン隊長は、洞窟出口付近に多数転がっているゴブリンの黒焦げ死体を見て嫌な感じになった。

 

 

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