第331話 異世界人との接触2
エリー達はエルフ達と接触する
2国間和平交渉会議20日目朝。(大陸統一歴1001年11月2日10時頃)
ここは異世界、ローゼの隠し砦から7キロほど離れた森林地帯のエルフ集落。
エリーは女性エルフの意識を回復させて、記憶操作を行なっていた。エリー達は使われていない納屋の影に潜んでいたが、集落内が騒がしくなっている。シエルがエリーに声を掛けた。
「エリー様、そろそろ限界です。この者を探しているようです」
「……だね。この子、村長の娘だからね」
「村長の……」
「ええ、有益な情報は持っていたよ。ここら辺には住人も少ない地域らしい。400年前は50キロほど先に要塞都市があったんだけど……それはもう無いみたい」
エリーはそう言って女性エルフを目覚めさせる。女性エルフはエリーの瞳を虚な顔で見つめる。
「ハンジさん、どうですか?」
「……」
エリーは女性エルフを見て困った顔をする。
「なんか、調整が上手く行かなかった感じですか……」
エリーは、はーっと息を吐く。エリーの意識にセレーナが上がって来る。
(エリー、ここは私に任せろ! 上手く収めてやるから)
(……? そうだね。逃げるのも面倒だし食料も確保しなきゃならないし……、セレーナに任せるよ)
そして直ぐに、セレーナと入れ替わる。髪色が輝く銀髪に変化して、瞳の色が透き通る赤色に変わり顔つきが精悍になる。そして体の部分が変化して隆起した。
シエルが声を漏らした。
「セレーナ……様」
「シエル、この村を掌握する!」
セレーナの容姿のエリーが声を上げた。
「へっ!」
思わず声をシエルが漏らした。シエルにはエリーの言っている事が理解出来なかったのである。続けてエリーはシエルの顔を見て微笑みながら言う。
「伝承を上手く利用する。神の降臨だ。まあ、私は、女神なのだから問題は無いと思うが」
シエルはますます混乱したが、エリーはシエルの様子を無視したようにローブの被っていたフードを頭から外す。そして女性エルフを両手で担ぎ上げお姫様抱っこのようになる。
「では、行きますよ」
エリーはそのまま集落の家屋の密集箇所へと歩きだした。シエルも慌てて後ろへ追随した。
エリーは魔力量を上げて、体の周囲に白い光を纏う。そして集落のエルフ達がエリー達に気付き騒ぎ始めた。周囲には警戒したエルフ達が10数人集まり、ひとりの男性エルフがエリーの前に出て声を上げた。
「ハンジ! 無事か! あなた方は何者だ!?」
男性エルフは腰に帯刀し柄に右手を掛け、緊迫した顔でエリーを見据える。
エリーはさらに魔力量を上げて、体を覆う白いが迸り始める。周囲のエルフ達からどよめきが一気に起こった。それを見てエリーは微笑みいつもより、よく通る美しい声を発する。
「私は女神セレーナ! あなた方の願いに応えてここへ降りて来ました。なのに、この対応は残念です。このハンジさんは倒れているところを助けてあげたのですよ。何か誤解しているようですが! 残念です」
そう言ってエリーは安寧と魅惑のスキルを周囲に容赦なく発動する。エリーから柔な白い光が拡散して集落全体を包み込んだ。
年配者のような男性エルフがエリーのそばに駆け寄りひれ伏す。
「おーーおっ! 女神様ああああ!」
「言い伝えは誠で……、こころが……」
それぞれに声を上げて、集落のエルフ達がエリーの周りに集まり敬意を表す姿勢をとった。
エリーの隣りに立っていたシエルは驚いた表情で見ている。
(……さすが……主人であるが……、これは大丈夫なのでしょうか)
シエルはこの状況に不安を覚える。集落のエルフは集落中心のひらけた場所に集まり歓喜の声を上げている。盛り上がるエルフ達。そしてエリーは声を発する。美しい声で。
「皆のこれまでの苦労、承知しています! 私がその苦労を少しでも取り除きましょう! 先ずは、周辺の脅威である魔物、そうあの醜悪なゴブリンを!」
〈おおおおーー! 女神様あああああ!〉
一斉に周囲から声が上がった。エリーの魅了スキルを浴びたエルフ達は極度の興奮状態にあった。横のシエルが耳打ちする。
「セレーナ様……これは大丈夫なのでしょうか?」
セレーナの容姿のエリーは微笑み頷き視線をシエルと合わせた。そして呟く。
「……予想以上だ……、スキル効果が、私の予想を超えている。まあ、問題無い」
エリーはそう言ってエルフ達の長らしき人物へ女性エルフハンジを抱えたまま近づき声を掛ける。
「今からゴブリン退治に出向きます。ハンジをお願いします」
エリーはゆっくりとハンジを立たせてエルフの長らしき人物へ預ける。女性エルフハンジはまだ虚な顔でエリーを見つめていた。
エリーはハンジの記憶領域からここの集落に状況を把握していた。過去のアオイの400年前の情報と現在の情報をすり合わせ、繋いで状況を認識して行動を導き出していたのだ。
この世界で400年前エルフは一大勢力築いていた。人間と共存して他の種族を脅かしていた。大魔導士や官僚を多く輩出して大陸国家の要職にも食い込んでいた。そんな中、魔族系種族と争いになり、人間種族を取り込んだ勢力により親エルフ派だった人間種族は蹂躙されこの大陸から姿を消す。そして生き残ったエルフ種族は500才以上の魔導士クラス、高い叡智を持った者は処刑され、まだ若いエルフは都市から追い出され辺境の地方へ、また200から300人程度の集落単位に小分けされ、まとまる事や、自由な地域移動は許されなかった。そうした政策により弱体化したエルフ種族。住まう地域も魔物により常に脅かされていたのである。エリーはこの施策に感心していた。よく考えたものだと、徐々に力を奪い破滅させる。集落のエルフの中にはスパイもいる。そして、集落の長には恐怖を与え思考停止させて反抗の芽を摘んでいた。エリーはここに集まるエルフ達から膨大な記憶情報を読み取り大陸施策情報まで把握した。
エリーは再び集落のエルフ達に声を上げる。
「この従者! シエルはとても優秀な剣士です。ゴブリンの100や200瞬殺です! どうぞ今夜は安心して眠れるはずです!」
シエルはエリーの言葉に驚き二度見した。
「セレーナ様! 私は魔物の戦闘経験など有りませんよ……」
エリーは微笑みシエルを見る。
「ええ、私も有りません。ですが、アオイの古い情報ですが、対処は出来るはずです」
セレーナの容姿のエリーはなんでも無いように言った。
「本気……ですか?」
「はい、大丈夫!」
エリーはシエルの肩を軽く叩く。セレーナの容姿の時は身長はシエルとほぼ同じ、金髪のシエルと銀髪のセレーナが並び美女2人が輝いて見える。周りの美男美女が多いエルフ達が神々しい2人を見てさらに敬意を示す。
エリーはエルフの長へ近づき声を掛ける。
「とりあえず、先発隊の支援をします。負傷者が出る前になんとします」
「はい、女神様、よろしくおねがいします」
エルフ集落の長は深々と頭を下げた。
エリーはエルフ達に手を上げて声を上げる。
「では! 行って来ますね」
エリーはシエルに視線を送る。シエルはそれに応え頷き歩きだした。隣りに並ぶエリー。
「どうだ。上手く行っただろう」
「ええ、セレーナ様はとてもお芝居がお上手なのに驚きました」
シエルはエリーに皮肉を言った。
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