第330話 異世界人との接触
エリー達はローゼの隠し砦から外へ
2国間和平交渉会議20日目朝。(大陸統一歴1001年11月2日9時頃)
ここは異世界ドリスデン隠し砦施設から3キロほど西に進ん森の中。
エリーは感知スキルを発動して周囲2キロほどの領域を監視している。小動物らしき気配は感じるが、脅威は確認出来ない。
「エリー様、ここはどんな世界なのでしょうか?」
唐突に金髪美女シエルが質問した。
「わかりません。400年前はアルカン大陸と大差ない文明文化レベルだったようですが…。あれから時間が経ってますからね。それと私達の世界には存在しない種族も存在していたようです。今も居るかどうかはわからないけど」
エリーはそう答えて、周囲を見渡す。森は鬱蒼と繁り人の手は入った気配が無い森の中、細い道がひらけて続いているのは多分ケモノ道だろう。
エリーは白い29cmほどの魔力の塊を形成する。そしてそれを空中へ浮かせ、上昇させると直ぐに見えなくなった。
シエルが少し驚いたように尋ねる。
「……一体何ですか? あれは?」
「遠視眼だよ。もう少し遠くを確認しないと状況がわからないでしょう。だから」
エリーは歩きながらシエルに何でも無いように普通に答えた。
「すごいですね! エリー様は何でも無いようにおっしゃりますが。私にはとても出来ません。私は身体強化と魔力波動を近距離に飛ばすくらいしか出来ませんよ。あとは周囲300mくらいの感知スキルくらいです」
シエルは規格外のエリーの魔力スキルに感動したように言った。エリーはシエルの横顔を見つめて言う。
「シエルさん、あなたは私の従者となったのですから、能力は向上しています。今まで以上に……、スキルだって付与出来ます。それは、様子を見てですが」
エリーは立ち止まり微笑む。
「……シエルさん、集落を見つけました。それでは急ぎましょう」
エリーが早足で森を抜けると道があった。それは轍から車輪の通った跡。轍の後から、馬車くらいのモノと判断出来た。
「エリー様、この道沿いに集落があるのですか?」
屈んで車輪の跡を確認していたシエルがエリーに尋ねる。
「ええ。そうです。ここから3キロほど先です。家屋建物が50ほどの集落です。生体反応は200個ほど有ります。多分人間だとは思いますが」
エリーは答えると、集落の方角へ歩きだす。シエルも慌ててエリーの後へ続いた。
「エリー様、気づかれていると思いますが……」
シエルがフードを深く被った顔をエリーの近くに寄せる。
「……ええ、マナエナジーですね。ここはどうも、異常です。アルカン大陸の20から30倍は有りそうですね。吸収しようとしなくても勝手に入って来る感じです。大地にも空気中にも溢れている。本来吸収、圧縮して貯蔵、解放するのですがその必要がないくらい。セレーナ体のままでも余裕で維持出来るほどです」
エリーは前を向いて歩きながら答えた。エリーが答えた通りこの周辺はマナエナジーが溢れていた。アルカン大陸では女神神殿内部以外、このようなことはない。エリーは、ローゼの隠し砦施設付近だからなのかとも思ったが、離れても均一に高いマナ濃度は変わらなかった。
「まあ、マナエナジー補給に困らないのは良いことなので、良しとしましょう。それよりシエルさん、情報の共有をしておきましょう。この世界の古い情報ですが。シエルさんにも」
エリーはそう言って隣りに歩くシエルの左手を握る。
「……へっ! エリー様!」
シエルが歩みを止め、驚いた顔をした。
「うん、まあ、驚かないで。これくらい普通だから」
エリーは情報イメージを一瞬でシエルの脳内へ転送したのだ。
「はい、主人様の底知れぬ力の一端を認識出来ました。私が戦おうとしたことが……、大変愚かなことだったと」
シエルは改めてエリーに敬意と尊敬の念を示した。エリーは元黒ずくめのシエルを見て思った。女神の紋章を刻んだだけで、こうも従順に心変わりするものかと、人の精神体とはそんなに脆弱なのかと。シエルは屈強な特殊作戦部隊長、改めてセリーナの女神としての力を理解した。
エリー達は周囲を警戒しながら移動して、30分ほどで集落の中へ侵入する。エリー達は隠蔽スキルを使用して集落に入り気づかれることは無かった。エリーは遠視眼スキルで上空200mほどから、集落の建物配置、人数を把握していた。生活水準はどうやらそれほど高く無く。アルカン大陸より遅れている。電気、電話等の設備は見受けられない。
エリーは集落の端の建物に影に身を隠している。
「シエルさん、住民と接触して情報を得ようと思いますが」
エリーは小声でシエルに言った。
「えっ……、もう少し状況確認した方が良いのでわ」
シエルは背中を押し丸めてエリーの耳に口を寄せて慌てて答えた。エリーは小声で言う。
「シエルさん、大丈夫です。どうも観察するにエルフとか言う種族のようですね。気付かれないようにしますから」
シエルも人間の集落でないことは気づいていた。身体的特徴からエルフと認識していた。白く透き通った肌に美しい容姿を持ち、長く尖った耳が特徴の人型種族。エリーはシエルに言った。
「あの、ひとりこちらへ歩いて来る者を」
黒髪のロングヘア、細身で体のボリューム感から女性と認識出来る。身につけている服は茶色っぽい上下一体のロング丈のスカート上のもの腰に帯状のものを巻いている。身長はエリーと同じくらいだろうか。小顔で二十歳前後に見える美しい女性のように見えた。ただ耳が尖っている。
エリーは隠蔽スキルで気配を消して、背後に周り込む。そして一気に接近すると右手でそのエルフの背中に触れた。すると触れられたエルフは一気に全身の力が抜けてバランスを崩して倒れ込む。エリーはエルフを両手で抱えて支えて引きずるようにシエルの隠れている場所まで移動した。
「……エリー様!?」
シエルが目の前に仰向けに寝かされたエルフの顔を見ながら少し驚いたように言った。エルフは力無く地面に寝かされている。
エリーは虚なエルフを見つめて、神眼で観察している。エルフの小さな開いた口からは涎が垂れている。そしてエルフから異臭がする。
「……あゝ、ちょっとやり過ぎました」
エリーが苦笑いして声を漏らした。エルフの下半身のスカートが濃ゆく変色していた。全身の筋肉が必要以上に弛緩させて粗相したようだ。
「魔力耐性がもう少しあるようだったので、申し訳無いことになりましたね」
エリーは意識朦朧なエルフに話し掛けた。エリー魅了スキルを発動してエルフの瞳を見つめる。エリーはエルフの上半身を抱えて起こして顔を近づけた。
「シエルさん、周囲の警戒をお願いします。この方から情報をもらいますので」
「……はい、承知致しました」
シエルは頷き周囲を警戒する。エリーはエルフの額に右手を当てて、精神体操作スキルを発動エルフに魔力を通して精神記憶領域へ干渉、イメージをまるままコピーする。エルフは一瞬痙攣したように震えた。
エリーはエルフから得た記憶イメージを凄まじい速度で認識すると、声を漏らした。
「……このあたりのことは、大体理解しました」
そう言って、エリーは抱き抱えていたエルフをゆっくりと地面に寝かせた。
「うーーん、どうしよう。このままじゃあマズイよね」
エリーはローブ大きめのポケットから布を取り出すと、唾液と鼻水で汚れた顔を優しく拭き取る。白く透き通った肌、美しい女性エルフ。
「寿命は1000から2000年……、年齢は60才くらいでこの見た目て、すごいよね」
エリーが呟きながらエルフの顔を拭き終わる。エリーは女性エルフの下半身を見て困った顔をする。
(……どうしよう? このままじゃあ……このエルフ可哀想なことに)
警戒していたシエルがエリーに声を掛けた。
「こちらへ、接近して来る者がいます。いかが致しますか?」
「……えっと、じゃあ隠蔽スキルで気配を」
エリーは直ぐにスキルを発動、3人を魔力隠蔽障壁で覆った。周辺の景色と一体化して3人の姿が認識出来なくなる。
「ハンジ! どこだ!」
20代くらいに見える男性エルフは周囲を見渡しながら首を傾げて、元の方向へ引き返していった。
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